14-龍の教え
異世界語録
「龍神」・・・唯一神
「龍神石」・・・龍神の与える幸福(天福)をもたらすための触媒
「龍石」・・・龍神石の略称
「神格者」・・・(現在では)龍神石に干渉できる者
「龍造人形」・・・神格者の手によって造られた人工物
「収録」・・・龍造人形に意図した内容をインプットする行為
14-龍の教え
ひかめく光がコロシアムにいる全ての龍造人形から放たれたことで、ルークは収録削除の成功を確信し安堵のため息をついた。
(もうこれでこちら側から攻撃しない限り襲われることもなくなった。あとはロックとフリージアさんの3人で各個撃破していけばいい)
ルークは自分のもとへ走って来るふたりに手を振り笑顔で歓迎したが、ロックは眉をひそめ思案するように片手で口を覆った。
「ルーク、桟敷席を見てみろ。いまさっきグレン殿下がグラスを投げ飛ばしているところを見たが・・・たいそうご立腹のご様子だ。原因はおそらく、さっきの光のせいで神格者が戦士に紛れていることがバレちまったからだ」
「龍神の力を行使した?」
フリージアは一瞬ロックを非難がましく見つめたが、ルークもロックの言葉に同意するように深刻そうに真面目な顔で頷く姿を見て龍神の力を行使することは仕方がなかったのだと私見を変えて、ルークのために思考を巡らせた。そして良い解決策を思いついたと手をポンと叩きロックに説明した。
「ですがロック、今回龍造人形が相手だなんてそんな通知ありませんでしたわ。グレン殿下も当然驚かれたに違いありません!人相手なら龍神の力を行使しなかったと我々がきちんと説明すれば慈悲深い徳王のご子息であられるグレン殿下なら許してくださるわ」
「論外だ」
ロックはかぶりを振りながら言った。ルークはその声に少しばかり憎しみが含まれていることを感じとり、その感情が誰に向けてのものなのか考えないようにした。
「フリージアさん落ち着いて考えてみろ、お忍びで南端にあるサラマンド地方のコロシアムまでわざわざ足を運んだ日が偶然にもサラマンド地方初の龍造人形と戦わせるコロシアムお披露目パーティーと重なったんだぜ。匂わないのかよ?」
ロックはフリージアに考えさせるために数秒待ち、ルークの眼をしっかり捉えながら公然と言った。
「グレン殿下が龍造人形の件に一枚噛んでるのは火を見るより明らかだ」
「そんな!」
フリージアは頬を打たれたような顔をしながら訂正を求めるように声を張り上げた。
「龍造人形と戦闘した経験から言って、対等に戦えるまでには相当の訓練が必要になります。平民の方たちにもやるべきお仕事はたくさんあって訓練に割く時間も限られていますわ!それを承知の上でグレン殿下は龍造人形を送り出したとおっしゃりたいの?そんな非道徳的な行為・・・私は信じられませんわ」
フリージアは”龍の教え”を思い出していた。
この地はかつて民族の異なる人々の間で領土をめぐる醜い争いが蔓延り、血を血で洗う暴力こそがこの世の全てだった。
天上におわす龍神様はこの現状を憂い、初代ロゴス王となるこの世で最も徳のある人格者に龍の血が入った血瓶を授け
「汝、信頼を寄せる従者らにこの血を与えよ。この地をすばらしき世にすることが汝の使命である」
と、告げた。
この世で最も徳のある初代ロゴス王は龍神様のお告げを忠実に守り、従者の神格者たちを引き連れて異なる部族らを王の美しき徳をもってまとめ上げると、彼らと共にロゴス帝国を建国した。
天上におわす龍神様は初代ロゴス王の善行に大変満足し、初代王の子孫も同様に徳をもって統治することを望み、初代王の徳を子孫らが継承してゆけるように龍神様は愛を与えた。
「他国が100年も経たず滅びていく中、ロゴス帝国が500年以上も続く理由を考えたことはあるのかしら?それわねロック!龍の教えの通り、龍神様の愛によって初代ロゴス王の徳が継承されているからに違いありません。ロックあなたは間違っています!」
フリージアは顔を真っ赤にしながらロックの顔を鋭く見つめた。
ロックは憤るフリージアを冷めた目で眺めて耳をかきながら話した。
「信じる必要はないさ。それでも、俺たちがこの場にいなかったらどうなっていたかは想像できるだろ?」
ルークはふたりの言い争いよりも切り落とされた腕を抱き寄せながら苦痛に呻く戦士の方が気がかりだった。
(どうにかして治療できたらいいんだけど、ここでやると目立ってしまう・・・早く残りの龍造人形を倒して地下でやろう)
ルークは喧嘩するふたりに声をかけようと口を開きかけた時にアナウンスが入った。
「戦士たちはすぐに中央にある銅板まで集まりなさい!走って!」
アナウンスの声は焦りと緊張で声がうわずっており、戦士たちは次にどんなことが起こるのか不安になりながらも全速力で銅板までかけて行った。
「ロック!フリージアさん!早く銅板まで走って、さぁ!」
ルークは喧嘩するふたりの背を押して中央まで走ることを指示し、うずくまる片腕を失った戦士に肩を貸して「大丈夫ですよ」と声をかけながら銅板まで引き連れていった。
♦︎♢♦︎
銅板がガタガタと音を立てて地下まで降りていく中でもロックとフリージアさんは互いの見解を「間違っている!」と指摘し合い、最後には人格までも否定し合う聞くに耐えない会話となっていった。
「そうやってニヒルを気取っていればいいわ。いつも人を見下して本当にいい性格してるわ」
「俺は筋道を立てて丁寧に教えてやっているのにお前は理解しようとせず、すぐに否定するからだろうが!」
「なんですって?それはロックあなたもでしょう?あー、違いましたわ。高貴な高貴なお方ラインハート様♡」
「なんだと?頭のわる・・・・」
ルークはふたりの喧嘩を無視し片腕を失った戦士を地下ホールのわきに連れてそっと壁に背をもたせかけた。苦痛にうめく戦士をルークは励ましながら、切り落とされた腕を「返してくれ」と、懇願する戦士から奪うように取り上げると指輪をかざし腕の再接着を開始した。
「今から腕をくっつける施術をやります。少し痛いですが我慢してくださいね」
龍神の力は万物を創造し、無から有を産み出すことができる。しかし、それは神格者の天賦の才、成功に達するまでの弛まぬ努力、そして龍石に含まれる龍素含有量が大きく関わってくる。
治療は幼少の頃から使用人の傷口を癒すことはやっていたが、接着は初見だった。
(何かを接着、接合するような・・・・類似する出来事はなかっただろうか?あれば感覚を参考にできるんだけど)
ルークは頭を捻った。そうだ!
最近マールの枝木を誤って折ってしまう出来事を思い出した。それを使用人にバレないように龍神の力でくっつけたあの感覚・・・あとは自分を信じて記憶を頼りにやるだけだ。
地下の薄暗いホールの脇から突然まばゆいひかめく光が放たれ、ルーク以外の戦士たちは眩しさに目をつぶった。
「もう大丈夫だと思うのですが、どうですか?」
ルークは接着した腕に自分の手で軽く握り尋ねた。
「切り落とされたはずの腕に感覚がある・・・」
戦士は手を広げ閉じる動きを繰り返しながら口をぽっかり開けながら唖然と言った。
数秒の光の洪水が止んだあと、光源がどこからだったのか辺りを見渡し首を傾げている戦士たちをルークはこっそり観察し、どうやらバレてなさそうだとため息をついた。
が、その時、聞き慣れた心にストンと入るような落ち着いた声がルークの背から聞こえた。
「ルーク様、ご友人も一緒に素早く学院に戻られるようにお手伝いします」
後ろを慌てて振り返ると、にっこりと微笑むサルウィン(ルークの世話役兼教育係)がその場で立っていた。
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