13-罪咎の子
異世界語録
「龍神」・・・唯一神
「龍神石」・・・龍神の与える幸福(天福)をもたらすための触媒
「龍石」・・・龍神石の略称
「神格者」・・・(現在では)龍神石に干渉できる者
「龍造人形」・・・神格者の手によって造られた人工物
「収録」・・・龍造人形に意図した内容をインプットする行為
13-罪咎の子
第13部
パウロ・S・バロバロッサ辺境伯・・・ルークの父
「無煙龍石が盗まれただと?」
帝国第1王子グレン・C・ワイスバッハはドスの効いた声でパウロの従者を脅すように叫んだ。
対してパウロ・S・バロバロッサ辺境伯は硬直した従者の肩に手を置き、人懐っこそうな愛嬌のある笑みを湛えながらグレン殿下に声をかけた。
「どうかご安心ください。聖火教会にある無煙龍石は完全に龍素が尽きて・・・」
「それは神格者どもの意見だろが!」
グレンはパウロの話を遮るように金のゴブレットグラスをパウロの手前に投げつけ、血色の悪い顔を高揚させ怒鳴った。
神経質になん度も目を瞬かせるグレン殿下をパウロは真剣な眼差しで見つめ、慎ましやかにワインで濡れた地面に跪き、グレン殿下に希求するように厳かに話す。
「龍神様の血を宿す我々神格者の使命・・・最高の名誉は、龍神様の寵愛を一身に受けられる徳王を守護し、このすばらしきロゴスの栄華を永遠のものとする一助となること。グレン殿下、我々の変わることのない永久の忠誠・・・ここにお疑いを抱かれることは絶対にないと固く信じております」
言い終えパウロは頭を下げた。
(この老狸め、お前たち辺境伯どもが他国と密貿易し利益を吸い上げていることぐらいわかっている、恥知らずで厚かましいなんと面の皮の厚い醜男だ・・・クソ、俺にもっと力があれば・・・)
グレンは憎たらしい気持ちを腹に思いっきり力を入れて抑制すると、パウロにニッコリ笑いかけ皮肉たっぷりの猫撫で声で尋ねる。
「では神格者のあなた(パウロ)にお伺いしましょう?なぜ龍神の力を持つ神格者様が残りかすもないボタ石をわざわざお盗みになられたのか、もちろん理由は存じ上げておりましょう?」
パウロは思案げに手を顎に当て「おそらく」と、口を開き続けた。
「私は龍の教えに背く”罪咎の子”の仕業と睨んでおります」
「罪咎の子・・・」
痛いところをつかれた、グレンはこめかみの真ん中に深い縦線ができたことを意識しながらも不快感を隠せないでいた。
”罪咎の子”、龍の教えには龍神の力をもつ者は必ず徳王を守護する役割を担う貴族から現れると記されている。貴族以外からの赤子に龍神の力が現れれば、それは産まれながらに罪を負った大罪人であり、即刻龍神様の供物として天に返さねばならない。罪咎の子とは龍神の力を持つことを許されない第三身分に突如として現れる忌み子である。
1年前にも同様の事件が帝都にも起こったばかりだ。罪咎の子率いる暴徒が商人の屋敷を襲撃し貯蔵してあった食料を盗む暴動があった。しかし例外的に華王騎士団がその任にあたり小1時間で解決した。
パウロは持論を続けた。
「罪咎の子は”国滅の秘宝”の異名をもつ無煙龍石を盗みよからぬ謀を考えていたのでしょうが・・・その者はガッカリしたでしょうね。聖火教会にある無煙龍石はなんの価値もないただの石ころだったのですから」
パウロは跪いた状態から立ち上がり、唇を噛んでいるグレン殿下に頭を下げて願い出た。
「グレン殿下、至急罪咎の子を捉えねばなりません。そのため私は席を外させていただきます」
グレンは掠れた声で「わかった」といい、拳を強く握りしめながらパウロが退出する後ろ姿を見ていた。
(国境線・・・あいつら辺境伯どもにだけ守らせてたまるか!ビートを用いた龍造人形の大量製造を急がねばならない。王も王の取り巻き連中も辺境に住む田舎どもを甘く見過ぎだ。帝都に唯一存在する無煙龍石、この切り札のせいで我々は安楽に耽り、危機意識が全くない。
北端『無垢の辺境伯』、東端『薫風の辺境伯』、西端『豊穣の辺境伯』、そしてここ南端『火の辺境伯』、奴らが結託し反乱を起こせば1枚の切り札だけでは勝てはしない)
「力がいる」
グレンは赤い目を見開き天を見上げた。
グレンは冷徹な目を向け眉唾を飲み込んでいる自分の従者に口を開いた。
「俺たちも帝都に帰るぞ」
すかさず従者は「はい!」と、返事し先ほど部下から渡された羊皮紙に目線を移した。
「飛行獣の龍造人形を手配しております。あと、コロシアムのために用意した龍造人形の件ですが確認しましたところ、やはり神格者が収録のアンチコードを入力した痕跡がありました。調査なさいますか?」
グレンはため息をつきながら侮蔑を含んだ冷ややかな声で答える。
「以前にもバカが観客席でコソコソと収録を解除した事件があっただろう。やつがアンチコードを打った理由覚えておるか?『可哀想だったからやりました』と、平然とのたまいやがった。可哀想だと?あはははっ!!
お前たちが享受している全てがコロシアムにいるような平民の犠牲で成り上がっているのにもかかわらず、当然のことのようにアイツらは言ってのける。力のある無知な偽善者ほど気味悪いものはない」
グレンは心情を吐露しすぎたと口を歪め、注意するかのようにあたりを見回し、もう一度口を開いた。
「時間の無駄だ。化け物を牢へ放り込むのにどれだけの労力を必要とするかお前も知っているだろう」
「戦士はどうなさいます?」
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