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蛍火(けいか)<辺境伯の息子と異世界転移者>  作者: 柴崎りょう
1章:ルーク編(辺境伯の息子)
13/33

12-龍神の力(後半)

『異世界語録』


龍神・・・唯一神

龍神石・・・天福(龍神の与える幸福)をもたらすための触媒

龍石・・・龍神石の略称

神格者・・・(現在では)龍神石に干渉できる者

龍造人形・・・神格者の手によって造られた人工物

収録・・・龍造人形に意図した内容をインプットする行為

    12-龍神の力(後半)

第12部

*龍造竜=通称名ワイバーン *龍造犬=通称名シェパード *龍造岩=通称名ゴーレム


「過去最高の一日にしてやるよ」


息を吸い込むと、空を飛ぶ複数のワイバーンを背にしてロックはひとり走りだした。

その途端、観客席は嵐のような歓声を上げて、ロック目掛けて急降下するワイバーンに皆が釘付けになった。


ロックの全長を優に超えるワイバーンらは警告色の真っ赤な目をギラつかせロックの背後からその体を貫こうと鋭利な爪を前に出した時、ロックはその場で一回転スピンした。

その瞬間、ワイバーンらは何もない空で羊皮紙が横に裂かれたように胴が二つに千切れる。

龍造人形が紛い物なんじゃないかと文句を垂れる観客をよそに、ロックは投げ出した()()()糸で繋がれた片方の短剣を引き戻しながら、龍神の力を解除するために指を鳴らし、自分の右腕にその糸を絡み付けた。


「この糸は鋼鉄であろうが大抵の物は真っ二つだ、ざまぁみやがれ」

ロックは再生しようとひかめく光を発するワイバーンを再び立ち上がらせないようになん度も切り刻みながら龍造人形の心臓を探した。


「これだな、シェパード同様ワイバーンの心臓も腰部に隠してあったか」

鉱石のルビーのように美しく強力な赤い色を示す球体に短剣を突き刺した。


「さて、もう一走りするか」

ボロボロに崩れ落ちていくワイバーンを見下ろしながら、ロックは再び右腕に巻きつけてあった糸を垂らし犀利な武器になるように願い、唱える。

『犀』

ロックは飛んでいるワイバーンに背を向けながら走り出した。


 ♦︎♢♦︎


一方のフリージアは龍神の力を行使することなど全く念頭にない様子で大斧を構えながら大きな大木のようなどっしりとした体躯をもつゴーレム(龍造岩)と対峙していた。

「やはり門を守護するために造られた防衛兵器。お伽話に出てくるゴーレムさながらの堅牢さ・・・」

(・・・お伽話?もしかして、わたくし・・・)

フリージアは胸がだんだん熱くなるの肌身で感じながら目を輝かせていた。

「今!あの大英雄ガルバートと同じ苦難に立ち向かっているんだわ!」


それからのフリージアは夢心地だった。覚えているわ・・・ガルバートはちょうど私と同じ16歳で邪龍の王を倒すため、『聖なる秘宝』を集める旅に出るのよ。ゴーレムは秘宝を守護する最初の強敵として登場する。


フリージアはゴーレムの打撃を髪の毛一本ほどのわずかな隙でかわすとアキレス腱から足部を切り落とそうとしたが、刃は途中で止まり、再度打撃を加えてくるゴーレムの攻撃をかわすために大斧を手放さなければならなかった。


ガルバートでも強敵のゴーレムには全く刃が通らなかった。それでも、彼は困難な状況であればあるほどその精悍な顔つきから笑みを綻ばせ、どんな逆風でも追い風に変えることのできる勇気があったわ。


「私も大英雄ガルバートのように!」

フリージアは表情筋全ての筋肉を使って満面の笑みを作った。おそらく今のフリージアの笑顔を他人が見れば狂気を孕んだゾッとする異様な笑みだったろう。

しかし彼女は真剣そのものだった。

満面の笑みのままフリージアは強敵ゴーレムに武器もなしに突っ込んだ。

さっきより遅く感じるゴーレムの右腕の強力な打撃をかわすとフリージアはゴーレムの腕に一心不乱がむしゃらにしがみついた。


ゴーレムは右腕にしがみつく狂気の笑みを浮かべる女を振り解こうと思いっきり右腕を上下に揺り動かしたがぴくりとも動かない。そのためゴーレムは女がしがみつく右腕を前に出し、左拳にありったけの力を込めて女めがけて振り下ろした。


フリージアはその時を待っていたかのように目を光らせ、しがみついていたゴーレムの腕を力一杯蹴って両手で着地した。その結果、ゴーレムの振り下ろされた左拳は自身の右腕を打ち砕き、更にその反動によってバランスを失ったゴーレムは前方にうつ伏せになって倒れた。フリージアは急ぎゴーレムの足部に挟まっている大斧を声を張り上げながらやっとのことで引き抜き、右腕を失い立ち上がることに苦戦しているゴーレムの前に出ると、骨盤付近にあると思われる核を狙ってひたすら大斧を振り下ろした。

「理想的な騎士の振る舞いではありませんがどうか許してくださいね」


灰となって消えていくゴーレムを見ながらフリージアは自嘲気味に呟いた。

「大英雄ガルバートはゴーレムとの戦いの後、一人と一体はお互い認め合い友情を築いたというのに・・・私とは大違いね」


 ♦︎♢♦︎


龍造人形を恐れ逃げ出した戦士らを守るためにロックが彼らの場所に向かい到着したことを確認すると、ルークは近くで立ち止まっている戦士らに紛れ龍造人形の収録『背を向けて逃げ出したものを殺せ』を解除するためのアンチコードに取り掛かった。


「まず可能性は低いが帝国が編纂した理論体系コードのアンチ入力からだな」

ルークは龍石の指輪をはめた方の手を前に突き出した。その際に浮かび上がるスクリーンの透明度を最大に調整し、スクリーンが誰にも見えないように弱力した。ルークは息を吐くと慣れた手つきで見えないはずのスクリーンに両手を置き打鍵(キーを打つ)を始めた。ものの数秒でコードを作成し入力ボタンを押したが反応はない。


「そう簡単にはいかないよな、でも大丈夫。収録内容はわかっているんだ!パターンは限られてくる。時間の問題だ」

ルークはすぐに思いつく基本的なコードを手当たり次第入力していった。

(カンマーの法則の引用・・・違う!、リ・ボルチートの理論コード・・・違う!、『動物本能の構造』ビルダ著・・・違う!!・・・・・・・・)


「おぉーーー!」

観客の騒ぎが大きくなるのを感じとったルークは何が起こったのか辺りを見渡した。するとどうしたことかロックとフリージアさん両方ともが龍造人形とやり合っているではないか。しかし戦士を守っている様子はない・・・どうやら彼らが自発的に行動したようだ。

「じっとしてろって言ったのに、あいつら何考えてるんだ!」


ルークは憤然とした態度で口を一文字に結んだが、目に見えないスクリーンに再び手を戻し急ぎアンチコード入力に意識を集中させた。

基本的なコードで収録されたに違いないんだ。理由は大きく2つ、一つは龍素含有量5%にも満たないビート(草泥龍石)が用いられていること。2つ目はこれらが大量製造されたものであることだ。

龍神石には未だ解明されていない部分が数多ある。その中でも特筆すべきことは龍神石ひとつひとつに性格のようなコードを選り好みする個性が備わっている。ビートで心臓部を作れば残りの収録キャパ(容量)は限られてくる・・・複雑なコードで作り上げれば確かに収録師に解除される可能性は低くなる。だがそれは性格に適したコードでないとキャパ(容量)は限界を超え壊れてしまう。だからひとつひとつ丁寧に造りあげる必要がある・・・大量製造には向かないんだ。

よって、基本的なコードつまり十人十色ある龍神石の性格に適応する近似値を入力するしかない。


(ヒューボルトの法則・・・)

アンチコード入力ボタンを押したと同時にコロシアム中の龍造人形にひかめく光が放たれ、ロックの背中めがけて襲ってくるワイバーンの警告色の真っ赤な目が琥珀色に変わり動きが止まった。


「成功だ」

ルークはアンチコードに成功した際に放たれる光を目視し、ガッツポーズをした。


 ♦︎♢♦︎


全ての龍造人形に閃光が走ったことで桟敷席で座っていたグレン殿下が立ち上がった。

「あの光また神格者か?」


そしてこの時偶然にも別の知らせが入った。

汗を滴らせながら走ってきたパウロ・S・バロバロッサ辺境伯の従者が不安を隠しきれない取り乱した声で言った。

「パウロ様!緊急のご報告がございます!」

パウロはグレン殿下に頭を下げ指示をまった。


「構わん、話せ」

グレンはこめかみをピクピクさせながら言った。


「聖火教会にて展示されていた国宝無煙龍石が龍神の力を持つひとりの銀髪の男に盗まれたとフクロウ(龍造梟)より連絡が!!」




ご愛読ありがとうございます!!

今年度中に龍神の力(後半)を書き終えてホッとしています(笑)


ついにあと1〜2話で1章ルーク編を終えて、2章ヒカリ編 異世界転移者の視点に変わります。

どうか楽しみにお待ちください!!

これからもよろしくお願いします。

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