11-龍神の力
『異世界語録』
龍神・・・唯一神
龍神石・・・天福(龍神の与える幸福)をもたらすための触媒
龍石・・・龍神石の略称
神格者・・・(現在では)龍神石に干渉できる者
龍造人形・・・神格者の手によって造られた人工物
収録・・・龍造人形に意図した内容をインプットする行為
龍神の力
第11部
*龍造竜・・・通称名ワイバーン
「なぜでしょう?奴ら皆、立ち止まりました」
誰に言うでもなく桟敷席で座っている従者がポツリとつぶやいた。
「貧民の中にも龍造人形の知識がある者がいてもおかしくはない。現に、人形の大量製造に従事させた多くの人間は最下層の賎民ではないか。やかましい愚客のせいで聞き取れなかったが金髪の男、あいつが合図を送った途端に皆が一斉に止まった」
グレン・C・ワイスバッハはルークに指を向けると従者に振り向き、心のこもっていない笑みを浮かべながら尋ねた。
「携わった者全員、きちんと暇を出したのだろうな?」
「はい、確実に」
従者はグレンの目を見ながら答えた。
「能無し連中に耐え忍ぶことなどできるはずもない。見ておけ」
♦︎♢♦︎
ロックは龍造人形に怯え逃げ出した集団まで小走りに駆け寄り、身を強張らせてながら立っている戦士に加わると、短剣の柄頭にある丸い小さな穴に靴から取り出した一本の細い糸で二刀をつなぎ合わせる。
(龍神の力を使えば、クソ眩しい光が放出されてそこに神格者がいるってことがバレちまう。収録するにも龍神の力を使うだろうから、上手く弱力しないと大変なことになる・・・ちゃんと理解してんのかな?あいつ頭は良いんだが、色々抜けてるとこあるからな・・・正直心配だ。言っとけばよかったぜ)
「後悔先に立たずか、」
ロックは服の下に隠してある龍石のネックレスに意識を集中させる。
光が強く放出しない龍神の力10%にも満たない弱力に調整しながら、二刀の短剣に繋ぎ合わせた糸に視線を向けて、その糸が鋭利な刃となるようにイメージし、強く願った。
『犀』
唱えた瞬間光は放出されたが、それは微かな弱々しい光であり、そばにいた戦士にすら気付かれることはなかった。
ロックは確かめるように一本の細い糸にそっと人差し指で触れると、薄い紙で切ったような一線の切り傷ができており、そこから血が滲み出ていた。
(よし、問題ないな)
恐怖に見開かれた目で飛翔するワイバーンを見つめる小柄な赤毛の戦士に、ロックは肩を叩いて尋ねる。
「お前、歳はいくつなんだ」
肩を跳ね上がらせロックの方を見ると、訝しみながらではあるが早口で答えた。
「今年で11になります。今回は出場するだけで金貨1枚(=銀貨20枚=銅貨600枚)の大金が貰えるって」
ロックは仮面で素顔を隠してはいたが「はっー」と、ため息をつきながら目を細めたことで、この男も自分のことを馬鹿する人間に違いないと確信し、その考えを訂正させるために怒りのこもった声で出場理由を話した。
「もちろん、死ぬほど危険なことくらいわかってましたよ。それでも弟のために金が必要なんです。馬鹿にしないでください」
「そうか、じゃあ、馬鹿ではないって証明しろ。死にたくないのならここから一歩も動くなよ」
頷く赤毛の戦士の頭をロックは笑いながら撫でた。
(今回出場を決意した連中は本当に金に困った貧困者だと想像していたが、案外子供が多い。あの酔っ払い武勇に優れた連中ではなく、あえて若い子供を採用してるんだな・・・。
今回は龍造人形に蹂躙される様子を愉しむ嗜虐的な遊びに違いない。だから腕のある奴よりも若くて純粋な子供たちが陵辱される方が楽しめるってわけだ)
ロックは「はっー」と息を吐き、醜い顔で戦士を罵倒する観客を見上げると唇を舐めた。
「過去最高の一日にしてやるよ」
ご愛読ありがとうございます。
龍神の力(後編)は再来週中に投稿します。
来週中を目指していましたが遅れます。申し訳ございません。
感想、評価どうかよろしくお願いいたします。