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第二魔法

 この【深紅の騎士】が俺の第二魔法なのか?

 どうやって操ればいいかまったくわからず俺は深紅の全身甲冑を眺める。すると、


「ちょ、ちょっと待てっ!? なんだこの姿はっ!?」


 なぜか騎士甲冑の中からエクセリオンの声がした。


「なんで俺が甲冑に憑依しているんだよっ!? なにをしたんだマスターっ!?」

「俺が知るか。ただ第二魔法っぽいものを発現したらこうなったんだよっ!?」

「ちっ、マスターは特別ってことか。しかしまあよりにもよってこの姿とは、女神のふざけた真似をしてくれるじゃねえかっ!?」


 そうつぶやくと、深紅の全身甲冑の騎士は騎士剣を抜き、その切っ先をゲオルナッヘのほうに向ける。


「やれるのかエクセリオン?」

「当たり前だろ。この姿はちと気に入らねえが、他はまあいいぜ。俺はこういう争いごとは好きだからよ」


 そう言って【深紅の騎士】がまるで爆発したかのような勢いで地を蹴り弾丸のような速sさでゲオルナッヘのほうに向かっていく。


「きゃあっ!?」


 ちょうど疲弊したところを突かれたファナさんに【暗き闇より出づる者】の鎌が振り下ろされようとしていたとき、【深紅の騎士】が手にした騎士剣で鎌を斬り上げ、続く剣撃で【暗き闇より出づる者】を真っ二つにする。

 注目するべきは有無を言わせぬその速度だろう。俺も剣聖の動きを模倣できるが、模倣はあくまで模倣であり、再現性は俺の魔法で強化した身体能力の域を超えることはない。しかし【深紅の騎士】は剣聖とは異なる動きで、そのさらに上を行っている。


「どうしたよ、お前の第二魔法はまさかこの程度のしょぼいことしかできねえのか」

「くっくっくっ、ついさっき発現されたばかりの第二魔法の分際でまさか喋るとは生意気ですね。でもまあいいでしょう、ちゃんと絶望というものを教えて差しあげますよ」


 そう言って黒い靄が実体化して出てきた【暗き闇より出づる者】は十二体いた。


「これが邪神様から授かった力とわたしの力を合わせた、わたしの第二魔法の究極の姿です」

「ほう、やっぱそういう類の第二魔法だったか」


 口ぶりから察するにエクセリオンはゲオルナッヘの第二魔法の性質を看破していたらしい。


「はったりなど無駄ですよ。わたしの第二魔法の手の内をあなたが知るわけないでしょう。この手の魔法を知るのは古の戦いで生き残ることができる者だけです」

「はったりなんかじゃないねえよ。俺はその手の第二魔法を何度か破ったことがあるしな」

「はんっ、そんなコケ脅しがこのわたしに通用するわけないだろうが」


 エクセリオンを前世持ちのようだから本当に知っていてもおかしくはない。だからこそ破り方も知っているはずだ。


「怨敵を狂い殺せ、【闇人の円卓ダークマン・ラウンズ】っ!」


 目の前から十二人の影人が俺たちに向かって襲い掛かってくる。それぞれが手に剣やら槍やらの闇の輝きを放つを携え武芸の達人みたいな雰囲気を醸し出している。

 相手の魔法が奥義を解放した以上、俺たちも同様に対処する必要があった。


「マスター」

「ああ、任せろっ!」


 俺の第二魔法【深紅の騎士】は初見で、これから初めて奥義の解放を行うのだが、不思議と不安はなかった。


「神威を示せ、【英雄からの一撃ヒーローズ・ブロー】っ!」


 【紅の騎士】が手にする深紅の剣が眩いばかりの輝きを放った。


「【我が武勇を以って、この世遍く全ての者に、我の矜持と渇望を示さんっ! 人よ笑え、人よ唄え、我はこの世全てから嘲られし者、されど我はこの世全ての理を知り、道理を捻じ曲げる者なりっ!)】」


 俺が奥義を解放するだけでなく、エクセリオンが俺の魔力を利用してさらにアレンジを加えたらしい。

 騎士剣に宿る輝きがさらに眩さを増した。そしてエクセリオンは容赦なく騎士剣を振り下ろす。


「くたばれっ!」


 眩く輝く白き光の奔流と、十二の闇色の光が激しくぶつかり合う。

 白き光の奔流に対抗するが如く十二の闇色の光が互いに密集し合い強さを増していく。

 そして白き光の奔流と、闇色の光の奔流が均衡状態に陥ってしまう。


「ふっふっふっ、【闇人の円卓ダークマン・ラウンズ】と互角なのは驚きですが、わたしの【暗き闇より出づる者】は不壊属性を備えた不滅の戦士です。持久戦になれば有利なのはこちらのほうですよ」


 俺の目には、それを聞いた【紅の騎士】がにやりと笑ったように見えた。


「不滅の戦士だと、笑わせるな。久しぶりに魔法を使うから、周りを壊さねえように配慮してやれば調子に乗りやがって。少しは本気を出してやるよ」

「ふっ、そのようなはったりを――」


 途中まで言いかけたが、ゲオルナッヘはそれ以上言葉を繋ぐことができなかった。

 実際に、すでに力の均衡状態は崩れてしまっていたからだ。


「はんっ、俺は大賢者で名剣だぞ。そのはなっから力の差に気づけていねえ時点でお前はもう詰んでいるんだよっ!」


 白く眩い光の奔流が勢いを増し、最も近くにいた【暗き闇より出づる者】を呑みこんだ。それを皮切りに闇色の光の奔流の勢いが明らかに弱くなり、次々と次々と次々と【暗き闇より出づる者】を呑みこんでいく。


「ま、まさか、ほ、本当に、今まで手加減でもしていたとでもいうのかっ!?」


 絶句するゲオルナッヘのすぐ傍を白く眩い光が駆け抜けていった。【英雄からの一撃】は闘技場の観戦席を龍の爪痕のようにド派手に抉り取り、彼方の空へ駆け抜けていく。


「ちっ、狙いのつけ方が甘かったか。それとも攻撃を受けたせいで角度が狂わされたのか?」


 不本意な結果に終わったことでエクセリオンが一人でつぶやいている。


「馬鹿なっ!? わたしの第二魔法に打ち勝ったというのかっ!?」


 黒い靄が完全に消失してしまったことを悟ったゲオルナッヘが狂ったように目を瞠っていた。「わたしの第二魔法は邪神様の加護を得ているものだぞ。それを劣等種である人族の第二魔法如きに破られるとは……。それこそその人族が女神の加護でもない限り不可能なはず。貴様、いったい何者だっ!?」


『マスター、ゲオルナッヘとかいう三下はマスターが神の使徒で邪神に対する特攻があると疑っているようだ。そいつは事実だがどうする? ここで全部発覚ばらすか? そうすりゃ人族も多少は目を置かれると思うぜ』


 それは魅力的な提案だな。だが、断る。


『理由を教えてもらえるか?』


 たしかにここで俺が使徒として邪神の眷属を倒せば一目は置かれるだろうが、イブ先輩やソフィア先輩の強さを目の当たりにしちまったからな。あの二人と比較すると俺はずっと弱い。そうするとだ、あとになってから人族は使徒も弱いなんて侮られることになるだろ。

俺が使徒を名乗るのは、この魔法学院で『最強』になってからだ。そこで使徒って名乗れば誰も文句を言えないだろ。


『へっ、そいつは悪くねえな。ぐうの音も上げられねえ子供ガキどもの姿が目に浮かぶようだぜ。ならよ、この場はどうするつもりだ?』


 はんっ、そんなもの決まってんだろ。

 俺はちらっとエクセリオンを見たあとゲオルナッヘに剣を向ける。


「なにを勘違いしているか知らないが、お前はべつに使徒じゃなくても倒せる程度の小物だったってことだろ」

「なっ!?」


 驚くゲオルナッヘに、俺たちは同時に間合いを詰める。


「結局のところお前さ、邪神の使徒って名乗っているだけで実力は」

「大したことが」

「「無いんだよっ!」」


 俺と【紅の騎士】と化したエクセリオンが同時にゲオルナッヘを斬り裂いた。邪神の使徒とかした影響か、斬られたゲオルナッヘは一瞬で黒い塵のようになると大気に溶けるようにして存在を焼失した。


「ふぅ、どうやらなんとか勝てたようだな」


 全力を使い切った俺は周囲が安全になったのを確認すると、力尽きたので倒れるようにしてその場で仰向けの大の字になった。




        ※※※




「ほう、まさか人族が単独であれを殲滅するとはな」


 シモノの一連の戦いぶりを見ていたフューゼシカは自分でも気づかぬうちに口元に笑みを浮かべていた。


「そちらはどうだったかね?」

「三人とも眷属の使い魔を仕留め終えました。犠牲者はいません」


 サラからの報告を聞き、アストレアたちが無事に務めを果たしたことを知ったフューゼシカは最高の結果に満足そうに頷く。


「ふむ、これだけの騒ぎで犠牲者なしというのは僥倖といっていいだろうね」

「それであれに対する処遇はどのように判断しますか?」

「魔族に対する戦力としては有能なことは確かだろう。ゲオルナッヘとやらが本当に邪神の眷属であったかどうかは不明だが、危険な相手であったことは違いない。あれを倒せるのであればシモノ・セカイという駒を有効利用しない手はないな」


 どれだけ強くとも所詮は子供だ、大人であり影響力がある自分になら御せるという自信がフューゼシカにはあった。


「しかし、調べたところではシモノ・セカイは秩序側の勢力にも混沌側の勢力にも属していません。特定のイデオロギーを持っているようにも見受けられませんでしたし、まったく新しい勢力として何を以って懐柔するのか疑問が残ります」

「たしかにその通りだが、シモノ・セカイの力のために、今後の七種族連合では人族の影響力が増すことが大いに考えられるだろう。それを予期した布石をいまのうちに打っておけば当人の意思とは関係なく利用することはできるよ。とはいえ、イデオロギーの観点から言えば人族最強はアリス・スカーレットのほうが都合がよかったんだがね」

「では、いまこの場で処分しますか?」

「まさか。邪神の使徒を倒すほどの人族だぞ。上手く御すことさえできれば想像できないほど有能な駒になるものを、その程度のことで消してしまった手はもったいないじゃないかね。あれは今後わたしの用意した舞台で踊ってもらうことにする。だから処分しなくていい」

「承知しました」


 その後、幾つかの事後対応について指示をした後、フューゼシカは闘技場を離れた。


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