ホームシック気味の俺がチートでも何でも駆使して異世界から帰還する!!
「帰ったら何を食べようかな?」と少し前まで考えていた。しかしこの後あんなことに巻き込まれるとは...
「新千歳空港には後40分程で到着致します...」
「やっぱり飛行機だと早いな~」
一年ぶりの帰省に心躍りまくっているからかめちゃめちゃ独り言が増えている。
「帰ったらまず空港でラーメン食べようかな?それともお気に入りのソフトクリームとか...」
そうしていると突然眠気が襲ってきた。
「あー何か眠いなぁ...夜勤明けでそのまま空港来たからなぁ...」
幸い新千歳に着くまで時間が有るから...
「ちょっと寝るか...着いたら起こしてくれるだろうし...」
そう言っている途中で寝てしまった。
誰かに起こされた気がして、目を覚ますと辺り一面真っ白な空間に私は居た。
流石に困惑して言葉も出なかったが、まあ夢だろうと思ってその場に寝転がっていた。
すると、「もしもし」と明らかに知らない人の声が聞こえてきた。声の方を振り返るとドレスのような綺麗に装飾された服を着た中性的な人がいた。
だが人かと思ったそれには後光と言うかオーラとでも言うべきものが見えるし、見間違いで無ければ真っ白な翼の様なものが見える。
私はこの時生まれて一番思考を巡らせたと思う。
何で飛行機に乗っていた自分がこんなところに居るのか、今目の前に居る人らしきものは何者なのか、色々考えても私の拙い人生経験ではいくら考えても堂々巡りに陥るだけだった。
明らかに動揺している私を見つめて彼の存在が口を開いた。
「驚かせてしまって申し訳無い。私は...そうだな君たちが言うところの神に当たる存在だよ」
その言葉でより一層驚いているのだが...
「もしかしたら気付いているかもしれないが君はこれから異世界に転移する。」
「!!」
正直もしやとは思っていた...だが余りにも馬鹿馬鹿しい考えだと思い半ば現実逃避の様に考えないようにしていた。
私は色々な小説を読むのが趣味だったので、こういう異世界に転生・転移する小説も何冊か読んだことが有る。しかし、まさか自分がその当事者になるだなんて誰が想像できただろう。
少し時間を使って今自分が置かれた状況を理解した、無理矢理理解しようとしたと言うのが正しいのかもしれない。
ただ理解した瞬間にとてつもない絶望と怒りが込み上げて来た。
何故なら私が読んだ小説では異世界に転生・転移された者は勇者として召喚され、魔王を討伐する為の兵士として数多の苦難や試練を受けるような役割を担っていた。それだけなら良いがそれに加え異世界転生者・転移者関わらず[元の世界に戻ることが出来ない]と言うのが通例、お約束だったからである。
この状況を俯瞰的に第三者の視点から視れるなら「現実と小説が同じな訳ねーだろ!」とか色々突っ込んだり出来るかもしれない、ただ当事者の私はただの人間で、偉大でもなければ何かに秀でてる訳ではない極々普通の人間なのだ。
全く害の無い暗闇にでさえ怯え震え上がってしまうくらいの小さな存在なのだ。
故にこの常識では計れない状況に行き場の無い絶望、焦燥、怒りが沸き上がってしまうのはどうか許して頂きたい。と誰に弁明してるのかすら曖昧な思考を巡らせないと正気では居られなかった。
落ち着くまでしばらく時間を使ったと思う、気持ちを落ち着かせて今はただ目の前の存在と会話をしなければと思った。
「異世界とはどういう場所なのでしょうか?」
「君が行く異世界はエレーンと呼ばれる世界だ。」
「エレーン...」
「君の居た世界と違い科学よりも魔法が発展している世界で人間以外の高度な知性を持つ生物、異形のモンスター等が居る...君の居た世界風に言うならゲームの世界、おとぎ話の世界の様なものだ。」
正直予想していた通りの世界だったので驚きこそしなかったが、向こうで何をするかの予測もついてしまった。だが聞かない訳にはいかない。
「私はその世界で何をすれば良いのでしょうか?」
「少し長くなるが良いか?」
「構いません。」
それから神様はエレーンについて話してくれた。
エレーンは私達が元居た世界と同じくらいの歴史が有る。しかし魔法を頼りに発展を続けているため魔法の才が有る者のみが恩恵を賜る魔法至上主義とも言える世界で、魔法の才が無いものは生物ではないと言われる程の差別があったりする。
人間以外の知性の有る種族はまとめて魔族と呼ばれている。
一見名前から悪い存在だと思うだろうが人間と魔族は非常に良好な関係でお互いを良き隣人として居ると言う。
ただモンスター、これが両種族共通の敵として認識されている者であり、十数年に一度モンスターの親玉「龍王」と呼ばれるが出現する際は一丸となって戦うようだ。
その時に必要となるのが異世界から召喚される勇者の存在である。
異世界から召喚される者には何らかのスキルや才能が付与される事が殆どで龍王を倒す際には必要不可欠だそうだ。
「では私はその龍王を倒すために異世界へ行くと?」
「いや、違う。」
「...?では私は何をすれば良いのです?」
てっきりそういうことだと思った私は首を傾げた。
「君には...エレーンでの勇者召喚の魔法の調査、そして逆転魔法の開発、そしてさ迷える転生者の解放をしてほしい。」
「...申し訳無いのですが理解できませんでした。」
大分私の想像してた事とかけ離れていたので本当に理解できなかった。てかさ迷える転生者って何?
「すまない、私の説明不足だったようだ。」
「まず魔法の調査についてだが、これはエレーンで行われる召喚魔法...これがそもそもどういう魔法なのかを調べて欲しいのだ。」
どういうことだ?魔法なんてこの神様が生み出したんじゃ無いのか?人間独自の技術なのか?
「えー...その...魔法は神様が生み出されたものでは無いのですか?」
「オービスだ」
「え?」
「私の名前だよ。人間の様にあだ名が有る訳じゃないからそのまま呼んでくれて良いぞ。」
「分かりましたオービス様」
「様も付けなくて...まあ、良い。先の質問の答えだがその通りだ、エレーンに有る魔法の全ては私が生み出したものだ。」
「であれば召喚の魔法を調べずともお分かりになるのでは?」
「それなら楽だったんだが...少し話は変わるが君は召喚魔法をどういうものだと思っている?」
「魔法と言うものを実際に見たことがないので憶測ですが、別世界の人間を自分の世界に呼び出す魔法と思っています。」
「大体正解だ。だからこそ問題なのだ。」
「と言いますと?」
「そもそも魔法とは火や水等を魔力で操る技術のようなものだ。実際にその世界に有るものを魔力で再現したりすることを言う。」
「それは何となく分かります。」
「魔力が膨大な者ならより大規模な魔法も使えるし魔力を用いて人や動物を従える事も出来る。」
「だが勇者召喚魔法はそのどれにも当てはまらない。」
「そうでしょうか?この世界にも召喚術くらいは有りそうなものですが。」
「確かに存在はするが、あくまであれは自分の魔力を他の生物に見せかけただけの人形のの様なもので血を流すことも無ければ意思もない。」
「例外として神獣や悪魔を召喚することも有るが、あれは自らの魔力を贄として実在するものを召喚しているに過ぎない。」
じゃあ異世界人を召喚するのも似たような理屈ではないのだろうかと思ったが。
「それとは違い異世界の人々を呼び出すと言うのは明らかに魔法の範疇を逸している。」
「であればオービス様がその魔法を使えないようにしてしまえば良いのでは?」
「それが出来ないのだ。そもそもあの魔法は私が生み出したものでは無からな。」
「だから私がその仕組みを調べてオービス様にお教えすれば良いと。」
「その通り、そして二つ目の逆転魔法についてだが、これは君が元の世界に戻るためには必須になる。」
「分かりました。」
「そして三つ目の...」
「申し訳ありませんが質問しても宜しいでしょうか?」
「構わない、何でも聞いてくれ。」
「今までの話を聞く限りだと、もうこれ以上エレーンで召喚魔法を使わせないと言う認識でよろしいですか?」
「あぁその通りだ。」
「ですがエレーンには龍王と言うバケモノが居るのでしょう?召喚魔法を禁じられた場合世界が滅んでしまうのでは?」
「それの答えは三つ目の依頼の説明をしながら答えようか。」
「分かりました。」
「三つ目の依頼は何だったか覚えているか?」
「はい。さ迷える転生者の解放と」
「その通り。さ迷える転生者とは異世界に行って死んだ者の霊魂だ。」
「霊魂を解放と言いますと成仏でもさせるのですか?」
「当たらずとも遠からずだな。まず、異世界人が元の世界で死ねなかった場合通常の輪廻の輪から外れてしまうからか成仏が出来ない。」
「だから私が逆転魔法を作って霊魂を元の世界に返してあげる必要が有るのですね。」
「そうだ。」
「やることは理解できました。ですがそれとエレーンの召喚魔法を禁止することの繋がりは何なのでしょう?」
「理由としては三つ有る。」
「まずは龍王の存在だ。そもそもエレーンには龍王は居なかった。」
「モンスターの親玉ではないのですか?」
「あくまでその強さと残虐性からそう言われているに過ぎない。」
「では龍王の正体は何なのですか?」
「さ迷える転生者の集合体とでも言うべきかな。」
「集合体...」
「そもそも召喚された者は無条件にモンスターとの戦闘に参加させられる上に、もう二度と元の世界には帰る事が出来ない地獄のような環境に置かれていたのだ。」
「エレーンで大成して幸せになった者も居るだろうが、そんなのはほんの一握りで大半は自らの境遇を呪い恨みを募らせ死んだものだ。」
まあ、当然かな...
「その怨念の塊が集まって龍王が生まれたと言うことですか。」
「その通りだ。龍王が初めて出現したのは一千年前しかもそこからが本当の地獄になった。」
「何となく予想はつきますが...」
「まあ、そうだろうな。十数年周期で現れる龍王は現れる度に強くなった。時が経てば霊魂の量は絶対的に増えるからな。」
「そうなればその後は...」
「王国は召喚する勇者の数を増やすようになった。五人で敵わなければ十人、百人と」
「一番最近は何人召喚したのですか?」
「八年前に六千人だ。」
「そんなに...」
「ここまで来て流石の私も我慢ならぬと思った。だが神が直接干渉することは出来ない、だから」
「私に白羽の矢が立ったのですね。」
「あぁ、そんな地獄に送り込むのは忍びなかったが誰かがやらなきゃならんのでな。」
「ですが何故私だったのです?別に私は戦闘の心得が有るわけでは無いですが。」
「正直私のわがままに付き合わせる事にためらいが有ったのだろう、だから全人類の中でランダムに選ばせてもらった。」
「運が良いのやら悪いのやら...」
「運が悪かったと思ってくれ、だがこんな依頼をする以上私から出来る限りの事はする。」
「と言いますと?」
「いわゆるスキルや才能の付与だな何でも好きなだけ言ってくれ。」
ここまで親切にされるとは思っていなかったが、そこまで言ってくれるので有れば遠慮なくお言葉に甘えよう。
結局私は思い付く限りのスキル、アイテム、魔法や武術の才能を頼んだ。流石に何か言われるかと思ったが抵抗もなくそれらを与えてくれたから少し怖かった。
「うむ、これで向こうで死ぬことは無いだろうな。他に何か有るか?」
「ではあと三つだけ」
「結構欲張るな。」
「まずエレーンに居た間は元の世界の時間も進んじゃいます?」
「あぁ、進むな。」
「ならそれを止めて下さい。戻ったときはまた飛行機の中で寝ている状態にしてください。」
「分かった」
「次に依頼を終わらせた後、エレーンに自由に立ち入れるようにしてください。」
「それは良いが...余り良いところじゃ無いぞ?」
「そうかもしれないですけど、何だかんだ愛着湧いちゃうかも知れないですし。」
「分かった。最後は?」
「元の世界の記憶を何が有っても忘れないようにして頂きたいです。」
「やはりそれは必要か。」
「えぇ、あくまで私には向こうでの生活が有りますし、両親も居ます。それを忘れてしまったら私には生きている意味が余り有りませんから。」
「分かった。しかと承った。」
「向こうでの常識や魔法の使い方も教えて頂きましたし...準備万端ですね。」
「あぁ、そろそろ行くか?」
「最後に一つだけ。」
「何だ?」
「私は余り良い人間では有りません。おとぎ話の英雄みたいに正義感に溢れてもいなければ度胸も無い卑怯者です。」
「うむ。」
「正直、目的の為なら殺しも盗みも平気で働くと思いますがそれでも宜しいですか?」
「あぁ!許す!...だが殺しは程々にして欲しいな。」
「ありがとうございます。では行って参ります。」
「また会おうな...えーと名前何だっけ?」
「悠馬、楠悠馬と申します。」
「じゃ、また会おうな悠馬!」
「えぇ、また会いましょう...オービス!」
「最後の最後で呼び捨てかよ...ま、良いや」
こうして私の長い旅の始まりと相成ったのでございます。