第5話 茶々林 金之助
あたしが連れてこられた場所はこの城のロビー的なところで、カウンターが一つに、ソファーとテーブルが二セットあった。
豪奢な装飾によって、ヨーロッパの国会議事堂的雰囲気が醸し出されている。
おばあちゃんは、美代子さんの紹介だと言っていたが、一体下宿代はどうなっているんだろう。頭の中で諭吉が踊り出したので、あたしは考えるのを放棄した。
「じゃ、ひとまず部屋へご案内しますね。ついでに、荷物も運び込みましょう」
立ち止まった髭男が我が者顔でそういう。あの群勢は、まだトラックに待機しているようだ。あたしは眉をしかめた。
「あの、すみません。ここの管理人の方って一体……」
「わたしですよ」
目を見開いたあたしを、男はしたり顔で、ニタリと笑った。
「わたしがカササギ荘の管理人者兼オーナー、茶々林金之介にございます」
かの夏目漱石の本名と同じ名を持つ目の前の男は、慇懃無礼に言うと、ここに来た時と同じように、あたしを引きずってエレベーターに乗せた。エレベーターは思ったより滑らかに、上っていく。
「あんたの部屋は三階ですよ。もう一人の入居者の方も、同じ階です。あ、先に挨拶しますか?」
ケラケラと笑う男を後目に、あたしは結構悩んだ。だって普通に、緊張する。
けれど後から行くより、今行った方が失礼にならないかもしれない。でも今、菓子より持ってないしな……
「お菓子とかは、必要ないと思いますよ」
まるで心を読まれるようにして言われ、あたしは顔をしかめた。それを見て男が、猫みたいだ。あの変な、顔しかめてるやつ、と言って笑う。
まあでもそれなら、今行った方がいいか。
「案内お願いします」
「承りました」
男は、至極愉快そうに言った。