第11話 これからの毎日
ドアを開けた瞬間、玄関からすぐリビングにつながっていて、リビングにある大きな窓からは日光が差し込み、ドアの手前まで届いていた。
窓からは、海も見える。
「いい部屋でしょう」
茶々林がうんうんと頷く。
なるほど確かに、これはいい部屋だ。
「いい部屋です」
振り返ったあたしを見て、茶々林はおや? とでも言いたげな顔をした。一体なんなんだ。顔に何かついてたんだろうか、なんて古典的なことを考える。
「あんた、意外に素直に笑うんだね」
「あたしも人間ですからね」
茶々林は、それくらいこの部屋が良い部屋だということですね、と笑うと、携帯を取り出しどこかに連絡をかけた。
五分としない間に、茶々林の分身みたいな奴らが、荷物をかかえて運んで来てくれた。ここまで、家から荷物を持ってきてくれた人達だ。
荷物の場所を指示しつつ、あたしはこの先の毎日に思いを馳せた。案外いい日々になるかもしれない。おばあちゃんのことは心配だが、まぁ、大丈夫だろう。あの人なら。
荷物を運び終わった茶々林達にお礼を言って、あたしはベランダから海を眺めた。
水平線の向こう隠れていく夕陽に照らされて、あたしの影は長く伸びる。
木々羅の変態じみた部屋は心配だが、今は気にする必要もない。特に、何かされたわけではないし。
そうやって感慨に浸っていると、玄関のドアをどんどんと叩く音がした。
茶々林かもしれない。不審者が入ってくる可能性もないし、開けても大丈夫だろう。
そう考えたあたしは、危機管理能力に問題があるのかもしれない。
ドアの目の前にいたのは、木々羅だったのだから。
無言で睨みつけると、彼は手の平を掲げて、どうどう、と呟いた。あたしは牛か。
「その、家事分担表。予定聞かないと、埋められなくて」
木々羅はああ見えても、かなり真面目だ。むしろ今日まで、彼は模範的な人間なのだと思っていた。
あたしは、何も言わずにさっき設置してもらった机から手帳を取り出すと、開いた。
「今のところは、とくに予定ないけど」
そう言うと、木々羅は持ってきていたノートと手帳に何やら書き込んだ。表紙には、『カササギ荘家事分担表』の文字。やはり彼はかなり真面目だ。
「それじゃ、これ」
ノートを渡される。
「書いといたから」
中には、食事担当や、洗濯担当などの日付が書かれていた。というか、木々羅、料理作れるんだ。
木々羅は、ニコニコと笑うと、そそくさと部屋を出ていこうとした。一応、気にかけてくれてはいるらしい。
あ、そういえば……
「木々羅、ありがとう。でも、洗濯物は分けてね」
木々羅は、目を見開いたあと、くすくすと笑い、分かったよ、と言って、今度こそ部屋を出ていった。そんなに、おかしかっただろうか。
まぁ、木々羅は、変わってるから。
あたしは、完全に落ちた夕陽の欠片を眺めながら、そんなことを独りごちた。