第1話 嫌いなあいつ
よくさ、少年漫画の主人公とかって、磨けば光る才能を持ってて、それを権威のある人に見つけてもらって、そっからすっごく努力して強くなったりするじゃん?
あたしは昔からそういう人が嫌い。そういう、ちゃんとした人が嫌い。
だって、あたしはそんなに、頑張れない。あたしはそんなに、やる気がない。
強くならなきゃ死ぬような世界に身を置いたこともないし、目につくような才能もないけど、だからこそ昔から、そんな少年漫画の主人公みたいな人が嫌いだった。
「深澤さん、おはよう」
だからあたしは、こいつのことも嫌い。
木々羅 早都。この学校ーー桜島高校の生徒会長であり、成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗、性格良し、の四拍子揃ったクラスの人気者。しかも努力家で、モテて、いつも爽やかで、最早後光が見えそう。
それに、いつも手伝いや行事など積極的に参加している。
運動会では大きく掛け声を出しクラスの士気を上げ、文化祭では中心となって準備して、明るくてポジティブでクラスでの人望も厚い。
「おはよ」
ぶっきらぼうに返すと、木々羅は苦笑いして、あたしの席から去っていった。
木々羅はちゃんとした人だから、あたしみたいなクラスの嫌われ者にも、毎日挨拶してくる。クラスの皆は、大抵無視をするか、さりげなくゴミなんかを置いていくのに。
そんなところも、あたしは嫌い。
けれど一番、そうやって僻んでいるばっかりの、自分が嫌いだ。