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ふつうの愛がわからない  作者: こまつなぎ
6/6

憧れの窓辺の君5

小一時間話しただろうか。

注文したアイスコーヒーはすっかりそこをついて、ガラスからは水滴がこぼれ始めている。

ロールケーキももう今はお腹の中だ。


ブブー机が揺れる。ふと画面をみるとサキちゃんからだった。


(そろそろ抜けない?ダルくなってきた。)


ダルくなってきたって...。さきちゃんは確かにこうやって深い話をするのは苦手かもしれない。


「大丈夫?」


ずっと画面をのぞいていたからか、あおいさんがそう声をかけてくれた。


「...あ、あの。長い時間すみません。ありがとうございます。私たちそろそろ用事あるので、抜けたいと思います。」


「そう。こちらこそありがとう。楽しかった。あ、そうだ次からは写真、気をつけてね。あと外暑いから、熱中症気をつけて。」


あおいさんは私たちにそう優しく声をかけてくれた。

素敵な女性だったな。この人も私とは住む世界が違う人だ。


食器を片付けて、お会計を済ませてから私たちはもう一度、二人に向かってお辞儀をした。


ちあきさんはちょこんと会釈をして、あおいさんは手を振ってくれた。

初めの方よりも柔らかくなった日差しにふたりは照らされて、同じ雰囲気を纏った二人は美しかった。

パッとみた印象は正反対なのに何故かしっくりくる二人だな。まるで出会うべくして出会ったような。

そんな一面に出会ったような、そんな気がした。


※※※

「はあ。マジで今日はやらかしたわ〜〜。でもあんなイケメンと話せてラッキーだったね。後半ちょっと話の内容がダルかったけど。」


喫茶店から出てしばらく歩きながら さきちゃんが発した言葉にスッとお腹が冷えた感覚がした。

後半の話は全然ダルくなかった。あおいさんとちあきさんは私たちにも声をかけてくれていたし、

話の内容だって”なんでそう思うのか”を少し深く聞いたり言っているだけだったし、何より私にとってはとても楽しい時間だった。


ああ。きっとさきちゃんの世界には”自分”しかいないんだろうな。

彼女にとって世界は共に動いていくものじゃない。なんでそうなるのかとか考えたことがないのだろう。

自分がいて、それに合わせて世界が動いていく。まるで舞台セットのように自分が中心で回っている。

だから嫌な出来事に出会ったら、自分に非があるんじゃないかなんて考えないんだろう。

悪いことをしても、悪いことをしたとは思わない。”やらかした”とは思ってもきっと反省をしないで、その場その場で処理しながら乗り切る。そういうタイプの子なんだ。


「でも楽しい時間を過ごさせてもらったよね。あおいさんも素敵な人だったな」


あ〜そうだね〜、なんてさきちゃんは対して興味がないようで、さっきまでのことはまるで忘れたかのように歩きながらSNSをみていた。


どうやらもう先ほどのことはどうでも良いらしい。


言葉も少なく二人で歩きながら駅までついて、そしてさきちゃんと別れた。

電車の中でSNSをひらくとさきちゃんが新しく更新をしている。

どきっとして内容を見る。


『やばい(笑)ハムちゃんと、超イケメンと喫茶店で話したんだけど、うちらバカだから全然話ついてけなかった笑』


写真は喫茶店のものではなく帰り道のアスファルトを移したもので、そんなコメントを添えて動画を投稿している。

気が抜けた。なんだそれ。しかも”うちら”って。後半からすっかり黙ってしまったさきちゃんを気にしてあまり言葉を発さなかった自分が馬鹿みたいだ。

やっぱり彼女にとってはあの瞬間も”コンテンツ”でしかないのだろう。


私、こんなんじゃ本当に馬鹿になっちゃう。

自分のこと大切にしなきゃ。

こんな嫌われることが怖くて人に合わせてばっかじゃ、本当に大切なものを守れない。

さきちゃんとも当分距離を取った方が良いのかもしれない。

喫茶店にもいくのを少し控えよう。


そんなことを心に抱きながら、電車の外を流れていく景色を私はずっと眺めていた。


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