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ふつうの愛がわからない  作者: こまつなぎ
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憧れの窓辺の君4

彼女は気まずさを取り払うように、朗らかな艶のある声で声をかけてくれる。

お互い軽く名乗り合いながら、彼の名前は『ちあき』さん、そして女の人の名前は『あおい』さんであることがわかった。


「公子ちゃんとさきちゃんは、彼が気になっていたの?」


「ははは、実は公子ちゃん...私はハムちゃんって呼んでるんですけど、ハムちゃんがちあきさんのことスケッチしてて。でそれを見せてもらったら、こんなかっこいい人がいる喫茶店いってみたいって私が言って連れてきてもらったんです」


ちょっと、さきちゃん!さらっとなんてことを言ってくれるんだ。

さりげなく爆弾を投下してくれる。さっきまであれだけ縮こまっていたのに。


「へえ。」


「いや、あの、あ、確かにスケッチさせていただいておりました。すごく窓辺がお似合いで美しくて...。」


「ハムちゃん、窓辺の君ってちあきさんのこと名付けてたんですよ」


ちょっと、さきちゃん!!さっきからなんてことを言ってくれるんだ。

あたふたしていると、前方から堪えきれないものを一気に出したような笑い声がした。


ー 窓辺の君の笑った顔が見れた。こんなくしゃっとした顔で笑うんだ。


「窓辺の君か。それ似たようなこと高校生の時も言われたな。僕そんな高尚な存在じゃないよ。そうだ、スケッチ見てみたいな」


やっぱり、みんな同じことを思うんだ。

”そんな高尚な存在じゃないよ”ってそんな無邪気な顔で言われたら、顔が見れない。

スケッチを見せるなんてそんな恥ずかしいことできるわけがない。幸にも今日は書かないだろうとスケッチブックは置いてきていた。


「持ってきてないのか。それは残念。実は同じようにスケッチしてる人がいるなって思ってて何書いてるか少し気になってたんだ。僕のこと書いてくれてたんだね。」


窓辺の君も私と同じことを思っていたなんて。


「ちあきさんも、スケッチ書かれてましたよね。私も実は気になっていて...」


ああ、と言いながら彼は閉じていたスケッチブックを開いた。

そこには美しいたくさんの人物のスケッチが載っていた。


「うわ〜、すごい!綺麗。これよくファッションデザイナーが描くやつですよね?もしかしてファッションデザイナーなんですか?」


さきちゃんが思わずと言った声色でそう尋ねる。


「いや、いずれ独立したいとは思っているけれど...。今はとあるブランドのパタンナーをしているんだ。」


さきちゃんはすっかり自分のペースを取り戻して、すごいですね〜ちあきさんの服着てみた〜いなんて言っている。

すごい。やっぱりすごい人だったんだ。別世界の人だなあ。


「パタンナーだから、自分でデザインをつくってるわけじゃないんだけど、仕事で自分で作ってなくても、こうやってイメージを膨らませていないと腐っちゃうからね」


「へえ!素敵!どんなイメージを膨らませているの?」


今まで穏やかに見守っていたあおいさんが、まるで少女のようにキラキラした目でちあきさんに話しかけた。

その目は、純粋に自らの知らない世界を知りたい、そんな瞳だ。

彼女の歳を詳しくは知らないけれど、私はあんなにキラキラした目をした年上の女性を知らない。


「うーん。うまく言えないけど、この世の今を捉えようとしてたという感じです。”自立した人間”ってどんな人間だろう。みたいな。その人と服の関係はなんだろう。とか、どんな服を纏ってるんだろう。みたいな...」


「へえ!奇遇ですね。私もそれを最近考えてたんですよ。”自分を許さない服”それが今の私の服を選ぶコンセプトなんですけど、服って不思議と人に力を与えてくれますよね。」


「”自分を許さない服”か。それはどんな服なんですか?気になるな。」


...彼らはとても瑞々しく話を広げていった。

服についてそんなこと考えたこともなかったし、私にとって服は最低限変にみられないように着ているものだった。

あおいさんは私たちにも話を振ってくれた。そんな大したこと思っていないと伝えると、

思っていることに上も下もないよ。公子ちゃんがどう思ってるかを知りたい。

と言ってくれたし、思い切って伝えてみると大きく頷きながら、すごい。そういう視点があるんだね。と受け止めてくれた。


こんなふうに人と話したことなんて初めてだ。

否定をしたりマウントを取らないで、なぜそう思うのかを聞いてくれる。そこから話が広がる。

人と話をすることって苦手だと思っていたけど、すごく心地よいと思った。


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