憧れの窓辺の君2
「やばい やばい やばい」
一瞬の間に、店内にいた幾人かのお客さんがこちらを向いた。
(ちょっと、さきちゃん静かに!)
私の願いも虚しく、窓辺の君はいつもの定位置にいた。
輝くような日差しに照らされながら彼はスケッチブックに筆を走らせている。
「え、まって。マジでイケメンじゃん。てかここのお店、店員さんも可愛いし。ハムちゃんなんで教えてくれなかったの?!」
やっぱり連れてくるんじゃなかった。面食いのさきちゃんは興奮しているし、明らかにこの場の雰囲気と合っていない。
申し訳なくなって店内を見回す。まだ窓辺の君は気がついていないようだけど、チラッと店員さんを見たら目があってしまった。
さきちゃんも言っていたけれど、ここはお店の人もどこか世間離れした美しさを持っている。
特にいつもいる女のウエイトレスさんは、透き通るような肌と色素の薄いふんわりとした髪の毛が綺麗で、
物腰も柔らかい清廉な雰囲気を持つ美しい人だ。
余計悪いことをしたような気持ちになって彼女と合った目をそっと逸らす。
ぐるぐると辺りを見回していると、頼んだアイスコーヒーとロールケーキがやってくる。
さきちゃんはおいしそ〜と言いながらカメラを取り出してパシャパシャ撮りはじめた。
場違いな呑気な音が喫茶店に響く。途端に恥ずかしくなって、やってきたロールケーキから目線を離せない。
はやくこの時間が過ぎれば良いのに。
コーヒーにミルクを入れいそいそとかき混ぜながら私は視線をあげることができなかった。
「あ、窓辺の君も撮っちゃお。」
え?と思ったのも束の間。さきちゃんは持っていたスマホをあろうことか窓辺の君に向けた。
カシャという音がして彼女は窓辺の君にスマホを向け出す。
「ちょっと、さきちゃん!それはダメだよ!!」
焦って出した声が響く。焦って彼女の手をつかんだせいで、さきちゃんは手を滑らせカメラを連写してしまった。
長いシャッター音が空くあたりにこだまする。
彼が気がついていないか後ろを振り返った瞬間....
彼と目があってしまった。
...ああ、こんな形で目を合わせたくなかった。こんな形でこちらを向いて欲しくなかった。
初めて見たその両方の瞳は何も映していなかった。でも諦め、侮蔑、冷笑、そんな感情が伝わってくるような底冷えする目をしていた。