表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で王位継承争いに巻き込まれた  作者: しゃもじ
最終章 アレクシスの婚約者と王位継承争い
49/52

第九話 魔の森の戦い(前編)

 翌日の午前。


 俺達は森の入口付近に到着した。

 王太子殿下以下、王族全員が来ている。

 同行しているのは、近衛騎士が十名、騎士が五十名、ブリスト伯爵領軍が百名だ。

 残りの騎士は東西に分かれて、溢れた魔物の討伐に向った。

 折角来たので、一度くらいは討伐に行こうということらしい。


 トーマスさん以下の近衛騎士十名は、森の中を探っている。

 森の浅い位置にドラゴンの反応はないが、念のためだそうだ。


「それじゃあ、始めようか」


 王太子殿下の指示で、討伐が開始される。

 部隊編成は、騎士を十名ずつに分けて、王太子殿下、父上、オーウェン殿下、カール殿下、ベンジャミンに付ける。

 近衛騎士は、ベンジャミン以外に二名ずつだ。

 ベンジャミンが近衛騎士は不要と主張し、父上が許可を出した。

 許可というより、呆れて放置した感じだったが……


 残った俺達には、ベティさんを含む近衛騎士が二名と、ブリスト伯爵領軍百名だ。

 マックス達は信用されているのだろう。



 ◇



「アルフ殿下、探知魔法で魔物を捉えられますか?」

「はい! こちらの方向にいます」


 ベティさんが質問し、アルフ殿下が指を差して答える。

 正解だ。アルフ殿下は正しく探知魔法が使えている。

 ベティさんは優しい笑顔で頷き、「では行きましょう」と移動を始める。


「凄いですわね」

「アルフ殿下は優秀よ」


 アルフ殿下が探知魔法で捉えた魔物は、かなり距離があった。

 貴族学園に入学したころのアンジェリカでは、探知出来ない距離だ。

 セラの言う通り、アルフ殿下はかなり優秀なのだ。

 二人の会話を聞いているリアの顔は、とても嬉しそうだ。


 歩くこと数分。魔物の姿を視界に捉えた。


「スモールチキンですね。クチバシで攻撃してきます」


 ベティさんが、アルフ殿下に教えるように話す。

 勿論、事前に教えているのだが、念のためなのだろう。

 スモールチキンもこちらの姿を捉えたようで、走って向かって来る。


「最初は接近戦禁止です。魔法を使って攻撃してください。近づきすぎたら私が処理します」

「はい!」


 アルフ殿下は素直に頷き、スモールチキンに掌を向ける。


「土弾!」


 直径五十センチメートルほどの土弾が、スモールチキンに向かう。

 しかし、衝突前に回避されてしまう。

 アルフ殿下は追撃を放つが、これもスモールチキンは回避。

 しかし、アルフ殿下は土弾を操作し、スモールチキンの斜め後方から衝突させる。

 スモールチキンが転倒した。


「よしっ」


 アルフ殿下の戦いを見て、リアが声を零す。

 周囲からは微笑ましい視線を向けられているが、気付いていないようだ。


 スモールチキンは立ち上がろうとするが、さらに土弾をくらい沈黙した。

 アルフ殿下の初討伐だ。


「やった!」


 アルフ殿下が喜び、ベティさんが微笑ましそうにその姿を見る。

 他の皆も同じような表情だ。

 ベティさんは、アルフ殿下に見えるように魔石を取り出し、アルフ殿下はそれを興味深そうに見ている。

 良い勉強になっているのだろう。


 折角の獲物なので、マックスの部下が解体し、持ち帰ることにした。



 ◇



 二時間も経つと、俺の探知範囲に魔物が現れることはなくなった。

 この辺りは大体討伐し終えたということだろう。

 王太子殿下達もそろそろ戻ってくる時間だ。

 合流地点の高台で待っていると、王太子殿下の部隊が見えた。

 よく見ると父上の部隊もいる。


「父上ー」


 アルフ殿下が王太子殿下に手を振る。

 それからすぐに、王太子殿下達が到着した。


「父上、何体魔物を倒しましたか? 私達はスモールチキンを五体倒したのです」


 アルフ殿下が嬉しそうに報告する。


「中々やるね。でも私達は六体だ」


 王太子殿下が自慢げに話すと、アルフ殿下が悔しそうな表情をする。

 リアは「大人気ない」とでも言いたそうな表情だ。

 アルフ殿下は、今度は到着したばかりの父上に顔を向ける。


「叔父上達は何体倒しましたか?」

「二体だ」


 父上が答えると、アルフ殿下が嬉しそうな表情に変わる。

 王太子殿下との会話を聞いていたのだろう。父上の顔も綻んでいる。

 そうこうしているうちに、オーウェン殿下とカール殿下の部隊が見えて来た。

 一緒にいる所を見ると、途中で合流したのだろう。


「オーウェン殿下達も戻ってきま――」


 言葉の途中で咆哮が鳴り響いた。

 この声を聞くのも三度目なので慌てたりはしない。


「王太子殿下、撤退しましょう。ドラゴンの咆哮です」


 俺が間髪入れずに進言すると、咆哮に驚いていた皆がこちらを向く。

 王太子殿下は一瞬固まった後、すぐに撤退指示を出す。


「撤退――」

「スカイドラゴン!」


 王太子殿下の指示を遮るように、騎士から声が上がり、一斉に空を見る。

 位置的には北西の森の上空。

 オーウェン殿下達の後方上空にドラゴンの姿が見える。

 昨日聞いた方向とは違うが、あのシルエットは間違いない。

 スカイドラゴンだ。


「……近づいて来ている?」


 セラが呟く。


「そう見えるな」


 返事をする。


 スカイドラゴンはこちらに向かって来ているように見える。

 俺は王太子殿下に視線を向ける。

 危険が近づいているとも言えるが、討伐する絶好の機会とも言える。

 王太子殿下は一瞬考え、指示を下す。


「近衛騎士はベティを除き、直ちに迎撃に迎え。オーウェンとカールの護衛の近衛騎士も合流させよ。以後の判断は任せる」

『了解!』


 近衛騎士は躊躇せず走り出す。

 スカイドラゴンを仕留めるチャンスだ。

 それに、スカイドラゴンに近づかれたら、護衛は難しい。


「……他の魔物も来るだろうな」


 父上が厳しい顔で言う。

 ドラゴンの咆哮が鳴り響いた以上、他の魔物が、再度森から溢れて来ることが予想される。


「どうする?」


 父上が王太子殿下に尋ねる。


「オーウェン、カール、ベンジャミンが戻り次第撤退だ」


 王太子殿下は合流を選択したようだ。

 父上は一瞬顔を顰めたが、すぐに頷きを返す。

 個別に撤退すべきと思ったのかもしれない。

 あるいは、姿が見えないベンジャミンを無視するか……



 ◇



 オーウェン殿下とカール殿下を待つこと数分、ベティさんから声が掛かる。


「オーウェン殿下達の後ろから、魔物の群れが来ています」


 ベティさんの言葉を聞いてそちらを見る。

 オーウェン殿下達の後ろに、魔物の群れが迫っているのが見える。


「キングチキンがいますね。追いつかれるかもしれません」


 群れの中に、一際大きいのが一体いる。


「あっ! 殿下達が止まりましたわ!」

「迎撃するつもり!?」


 アンジェリカとセラが声を上げる。

 追いつかれると判断したのだろう。

 オーウェン殿下達は迎撃の構えを見せる。

 近衛騎士の足を考えると、既に別れた後だろう。

 戦力的には厳しい。


「無茶な……救援に向かう!」

「ベンジャミン様の部隊です!」

「何!?」


 王太子殿下が救援の指示を下すと同時に、ベンジャミンの部隊が戻ってくるのが確認された。

 ベンジャミンの部隊は北の方向からやって来ている。


「魔物の群れに追われているな」


 父上の言うように、ベンジャミン達の後ろにも、魔物の群れが付いて来ている。

 キングチキンはいなさそうだが、ビッグチキンは数体いる。

 ベンジャミン達に迎撃する様子はなく、一目散に逃げている。


「兄上達の方に向っています!」


 アルフ殿下の言う通り、ベンジャミンの部隊は、オーウェン殿下達の方に逃げている。このままだと、前方と側面の二方向から攻撃を受けることになる。


「アレク、ベティ、後を頼む。我々は救援に向かう。騎士団、続け!」

『応!』


 王太子殿下が駆け出す。

 父上と騎士団も後を追いかけていく。


「アレク様。どうされますか?」


 ベティさんが俺に聞く。

 残されたのは、俺、リア、セラ、アンジェリカ、アルフ殿下、ベティさん、マックス以下のブリスト伯爵領軍百名だ。

 指揮官は俺になる。


 リア達やアルフ殿下がいる以上、救援に向かうのはなしだ。

 バミンガム侯爵領の時と同じように、遠距離からの援護が出来れば良いが、少々距離が遠い。

 ベンジャミンを追っている群れなら、俺とベティさんの魔法でぎりぎり届くか?


「ベティさん。ここから兄上達を追っている群れを狙えますか?」

「細かい制御は難しいですが、高低差もありますので、当てることは可能だと思います」


 当てることが出来れば十分だ。


「ここから援護します。目標はベンジャミン小隊、後方の群れ。射程に入り次第魔法で攻撃します。二面攻撃を防げば何とかなるでしょう」

「了解しました」


 ベティさんは異議を唱えずに従ってくれた。

 ベンジャミン小隊との距離が近づく。

 そろそろ射程範囲だ。


「「火弾!」」


 俺とベティさんが同時に火弾を放つ。

 火弾は合計ニ十発で、半分は大きさが違う。

 ベティさんの火魔法の方が強力だ。

 火弾はベンジャミン達の上空を越え、魔物の上空から襲いかかる。


 連続で爆発音が鳴り響く。

 先頭集団に直撃したはずだ。


 土煙が止むと、群れが再び走り出すのが見えた。

 だが、群れの進行方向は変わった。

 こちらに向かってくる。


「各自、射程に入り次第攻撃を開始! 火弾か土弾を使え!」

『応!』


 ブリスト伯爵領軍の兵士が散開する。

 俺とベティさんは即座に魔法攻撃を再開する。

 俺達に続き、リアとセラが群れを射程に捉える。


「「火弾!」」


 二人は複数個の火弾を同時に群れに放つ。

 その後は、アンジェリカ、アルフ殿下、マックス達ブリスト伯爵領軍も、次々に攻撃を開始。

 総勢百名以上による、絨毯爆撃が群れを襲う。


 大量の魔物の群れではあったが、こちらはそれ以上だ。

 猛烈な爆撃音が響き渡り、ほどなく殲滅が完了した。


 俺はベンジャミンの部隊に視線を移す。

 このまま殿下達の正面の敵に向えば、こちらが二面攻撃する形だ。

 しかし、ベンジャミンは思いもよらぬ行動をしていた。


「……あいつ」


 罵倒の言葉が口から出そうになった。

 ベンジャミン達は殿下達を無視し、その後方を駆け抜けて行ったのだ。


「アレク様、王太子殿下達の救援はどうされますか?」


 ベティさんの言葉で意識を切り替える。

 そうだ。殿下達はまだ戦っている。


「ベティさんの探知魔法で、他の群れを捉えていますか?」

「いえ。個別には確認出来ますが、群れはいません」


 俺の探知魔法にも群れの反応はなく、視界に見える範囲にも群れはいない。

 ベティさんに頷きを返し指示を出す。


「マックス、半数を連れて救援に向かえ」

「了解しました!」


 マックスを救援に向かわせる。

 残りの領兵には待機を命じ、殿下達の戦いを遠目で見つめる。

 すると、隣から声が掛かる。


「お見事でした」


 視線を向けると、隣に立つベティさんが笑みを浮かべて見ている。

 俺は気恥ずかしくなり、視線を殿下達に戻す。


「ベティさんのおかげですよ」


 視線の先では、キングチキンが崩れ落ちる様子が確認された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
押してくれると、勝手にランキングで本作の順位が上がります

ツギクルバナー

cont_access.php?citi_cont_id=347373343&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ