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異世界で王位継承争いに巻き込まれた  作者: しゃもじ
第四章 アンジェリカの希望とバミンガム侯爵家が求める婿
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第九話 討伐戦完了後

 森の外に出て来た魔物を討伐し終え、侯爵は撤退の合図を鳴らした。

 同時に人員の確認と、怪我人の治療が開始された。

 今日の討伐は終了したが、元々の目的であるサーペントの討伐が残っている。

 今後の方針を決める必要があった。


 侯爵達の無事な姿を確認し、アンジェリカとクラリスは、目に涙を浮かべ、安堵の表情を見せた。

 突然の咆哮から、ドラゴンの出現、サーペントの乱入と立て続けに起きた。

 不安、混乱、恐怖、全てが入り混じった感情だったのだろうと推測出来る。


 撤退の合図から一時間掛からず、全ての班が戻ってきた。

 人員の確認が終わると、驚いたことに死者が一人もいなかった。

 あの状況下で死者が出なかったのは、奇跡と言って良いだろう。

 討伐軍は喜びに包まれた。


 明日以降は、怪我人以外で討伐を進める方針となり、その日は終了となった。

 アンジェリカとクラリスは、十分に役目を果たしたと判断され、明日以降の討伐戦には参加させないことになった。

 学生組も明日以降は不参加と決まり、近隣の町に一泊した後、王都に戻ることに決まった。

 例外は、俺、ローレンスさん、アンジェリカの三人で、バミンガムの侯爵邸に招かれることになった。



 ◇



 夜に侯爵邸に到着。

 侯爵夫人に挨拶をして、その日は就寝した。


 翌日。

 今日は侯爵邸でゆっくりと過ごすことになっている。

 侯爵が帰ってくるまではこのまま待機だろう。

 リビングでは、ローレンスさん、クラリス、侯爵夫人が会話を楽しんでいる。

 俺とアンジェリカは、その様子を少し離れた位置から見ていた。


「上手くいきそうですわね」

「俺はアンジェリカに聞きたいことがある」

「森の中で言っていたことですわね」


 アンジェリカがとても楽しそうな顔をしている。


「そういえば、そんな話をしていましたね」


 俺の護衛で来ているトーマスさんも話に加わる。

 こちらも楽しそう。


「ええ。俺はいつから騙されていたのでしょう?」


 不満顔でそう言うと、二人が笑い声を零す。


「騙すとは人聞きの悪い。アレクが勝手に勘違いしたのですわ」

「最初に会った時、『縁談の申し込みを受けた』と言っていたのを覚えているぞ」

「『わたくしが』とは言っておりません。縁談の申し込みを受けたのはクラリスですから」

「明らかに騙しているだろう」

「その時は騙しているつもりなどありませんでしたわ」

「……その時は?」

「あらっ」


 アンジェリカが、わざとらしく口元を手で押さえる仕草をする。


「いつからだ?」

「アレクが勘違いしていると気づいたのは……実はその会話のすぐ後です」


 ほとんど同時だった。


「寮の部屋に戻る途中で、皆に縁談の話を聞かれたのですわ。それで話をしたら、多分アレクは勘違いしていると、セラフィナに指摘されたのです」

「皆知っていたのか?」

「女性だけですけれど。ローレンス様が筋肉痛で食堂に来た時を覚えていますか?」

「ああ。ローレンスさんがトーマスさんの訓練を受けた翌日だ」

「あの時、セラフィナが言っていたでしょう。『アンジェリカの言っている意味が本当に分かっているのか?』って。あれはそういう意味です」

「教えろよ」

「女性の中で、アレクはいつ気付くかと楽しんでいましたから。オフィーリア殿下は楽しそうだったでしょう?」

「……そうだった気がする」


 俺が肩を落とすと、トーマスさんが話し始める。


「そういうことだったのですね。最初に相談された時に、『ローレンスがアンジェリカ様に縁談を申し込んだ』と言っておられたので、おかしいなとは思いました」

「トーマスさんは、縁談の相手がクラリスだと知っていたということですね」

「はい。私の勘違いかと思い、口には出しませんでしたが」


 言ってくれと思う。


「……ということは、城で侯爵と話をした時も、会話が噛み合っていなかったわけだ」

「ええ。不思議と会話が成立していましたけど」


 アンジェリカもトーマスさんも笑っている。

 あの時点では、トーマスさんも勘違いに気付いていたのだろう。


「何だろうな、この気持ち……」


 アンジェリカは満面の笑顔で笑っている。



 ◇



 夜になり、侯爵が帰って来た。

 本日で討伐は終了したらしく、詳しい話は夕食時にしてくれるそうだ。


 そして夕食。


 夕食は全員で取ることになった。

 長方形のテーブルの上座に侯爵が座る。

 左側が、侯爵夫人、クラリス、ローレンスさん。

 右側が、アンジェリカ、俺、トーマスさんだ。

 身分順というよりは、話の内容に合わせてだろう。


 夕食を取りつつ、侯爵が説明をする。


「今日の討伐では、予定していた範囲で魔物の駆逐に成功した。被害はなしだ」


 被害なしという言葉にホッとする。


「討伐したサーペントは、昨日も含め六体だ」

「予想よりも少ないですね」

「森の奥に戻ったのかも知れん。ドラゴンがいなくなったからな」


 なるほど。

 それはあるかも知れない。


「ポイズンスネークやフォレストスネークも相当数討伐したので、当分は安心だろう。以降の管理は町の冒険者ギルドに任せて、軍は帰還させた」


 侯爵はトーマスさんに顔を向ける。


「騎士団は明朝にバミンガム侯爵領を出発するそうだ。王都から来た冒険者達は、各々行動することになった。町に滞在する者もいると思う」

「了解です」


 侯爵は頷きを返し、俺達を見回す。


「改めて討伐への協力に感謝する。三人がいなければ大きな被害が出ていただろう」


 俺は笑みを浮かべる。

 ローレンスさんも誇らしそうな表情だ。

 俺達の表情を見て、侯爵も頬を緩ませる。


「討伐の話は以上だ。次の話に移って良いか?」


 俺達は頷く。

 侯爵はローレンスさんに顔を向ける。


「ローレンスの戦いぶりを見せて貰った。予想を遥かに超える成長だ。クラリスの婚約者として不足はない」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます、お父様」


 ローレンスさんとクラリスがお礼を述べる。

 二人の表情が喜びに溢れている。

 隣の夫人もとても嬉しそうだ。


 侯爵が俺に顔を向ける。


「アレクは本当にアンジェリカの婿に来る気はないのか?」

「申し訳ありません」

「ローレンスとクラリスの婚約は認める。アレクが婿に来てもそれは変わらない。ローレンスなら近衛騎士にもなれるだろう」

「そうでしょうね」

「オフィーリア殿下のことが理由か?」


 侯爵の質問には答えず、笑みを返す。

 侯爵は俺の目をじっと見つめた後、諦めたように息を吐いた。


「分かった。アンジェリカはそれで良いのだな?」

「勿論ですわ」


 アンジェリカがはっきりと答える。

 侯爵は頷き、クラリスに顔を向ける。


「クラリス。ローレンスを婿に迎え、バミンガム侯爵家を継ぐ覚悟はあるか?」

「はい、お父様。お姉さまの代わりを立派に勤めて見せます」


 クラリスが答え、侯爵が頷く。


「分かった。バミンガム侯爵家はクラリスに継がせる」


 侯爵の決定に、俺達は笑みを浮かべた。

 一番良い結果だろう。


 改めて侯爵はアンジェリカに顔を向ける。


「それで、アンジェリカはどうするつもりだ?」

「勿論、自分の選んだ殿方に嫁ぎますわ」


 そう言って俺に視線を向ける。

 侯爵は訝しむ目で、俺とアンジェリカを見る。


「だが――」

「わたくしは第二夫人でも第三夫人でも構いませんわ。他の婚約者とも上手くやっていけます」

「!?」


 侯爵が驚愕の表情でアンジェリカを見る。


「もう他の婚約者方とも話は済んでいますわ」

「アンジェリカ!?」


 慌てて止めると、アンジェリカが悪戯な笑みを見せる。


「大丈夫ですわ。お父様に話すことは、オフィーリア殿下にもセラフィナにも許可を貰っています」


 アンジェリカがはっきりと口にする。


「そうなのか?」

「はい。もう隠しておいても意味がないだろうということで」

「どういうことだ?」

「今のアレクは、オフィーリア殿下との婚約があろうとなかろうと、王位継承争いに巻き込まれるのは変わらないということです。その気になれば、王位を取れる位置にいますから」


 断言するアンジェリカに俺は何も言えない。

 場が静まり返る。


「まあ、その気があればという話です。アレクにその気はないのでしょう?」

「ああ。ない」

「では、四人で逃げ切りましょう」


 俺がアンジェリカを妻にする前提だな。

 妻に貰う覚悟はしていたので構わないが、妙な信頼感に少し笑みがこぼれる。

 アンジェリカが嘘を吐いているとは思えないし、二人が納得しているのも事実だろう。


 表情を引き締め、アンジェリカから侯爵に向き直る。


「侯爵。突然で申し訳ありませんが、アンジェリカを嫁にください」


 侯爵は一瞬言葉に詰まっていたが、一息吐いて答えをくれる。


「アンジェリカが納得しているならそれで良い。アレクが相手ならば構わない」

「ありがとうございます」

「だが……詳しく説明してくれ」


 侯爵に頷き説明をする。

 リアとセラとも結婚の約束をしていること。

 王太子殿下、父上、サザーランド伯爵に、報告はしていないこと。

 その理由は、婚約の話が漏れると、ウェルズ侯爵周辺が騒ぎそうだからということ。


「アンジェリカは婚約発表しても変わらないと言いましたが、多分変わります」

「そうですか? オフィーリア殿下もセラフィナも、大して変わらないと言っていましたわ。わたくしもそう思います」


 アンジェリカが自信のある表情で話す。


「変わるだろう? ウェルズ侯爵が俺を推すのは、リアと婚約することが前提だ。だからこそ婚約を隠しているんだから」


 婚約発表するまでは、ウェルズ侯爵は静かだ。


「現状だと少し違いますわ。二人の婚約を待っていたのは、二人ならオーウェン殿下に対抗出来るからでした。でも、今のアレクは一人でも対抗出来る候補ですから」


 そうなのか?

 ミスリルや勲章のせいか?


「……百歩譲って対抗出来たとしても、リアとの婚約なしに俺を推さないだろう?」

「推しますわ。アレクのお婆様のカミラ様はウェルズ侯爵家の出身で、お母様のローラ様はバミンガム侯爵家の出身ですもの。マンチェス侯爵家の影響を排除出来ると考えますわ」


 アンジェリカは断言する。


「う~ん、実際にそうなるとは……」

「実際にそうなっているのですわ」

「えっ?」


 アンジェリカは侯爵に視線を向ける。


「お父様は御存知では?」

「最近アレクを王位にという声は多く聞くな。一番騒いでいるのはカミラ様だが」


 お婆様はともかく、ウェルズ侯爵の動向が気になる。


「ウェルズ侯爵もですか?」

「ウェルズ侯爵自身ではないが、そういう話も聞く」


 それは知らなかった。

 トーマスさんに顔を向ける。

 トーマスさんは笑みを浮かべて黙っている。

 近衛騎士に聞くべきではないか……


「セラフィナが色々情報を手に入れてきますから、オフィーリア殿下も御存知です。だったら婚約を発表した上で、改めてお二人が、王位に就く気がないことを公言した方が、まだ良いだろうということです」

「知らなかったな」

「アレクは訓練で忙しかったですから」


 気を使ってくれたのは何となく分かる。


「リア個人に関してなら、今の状況のままの方が良いんじゃないか? 城に戻っても静かに過ごせそうだけど」

「城に戻ったら、アレクとの婚約について聞かれますわ。その方が尚良いのですから。それに、オフィーリア殿下が、アレクにだけ面倒を押し付けると思いますか?」

「しないな」


 元々リアが王太子殿下達に本音を言わなかったのは、俺に気を使ってのことだ。


「分かった」


 改めて侯爵に向き直る。


「王都に戻って皆と相談してからですが、王太子殿下、サザーランド伯爵、それと、父上に報告することになると思います。婚約発表するかはまだ断言できませんが、それまでは秘密にしておいてください」


 侯爵を始め、婦人、クラリス、ローレンスさんが頷く。


「私も今回の討伐の件で、王都に報告に向かうことになる。王太子殿下達への報告の際に時間が合えば、私も呼んでほしい」

「分かりました」


 侯爵と約束する。

 トーマスさんに顔を向ける。

 トーマスさんは相変わらずの微笑を浮かべて聞いている。


「報告されますか?」

「それも含めて仕事ですから」

「分かりました。相談を終えたら面会の依頼を出します」

「お伝えしておきます」


 笑顔で了承するトーマスさん。

 皆、薄々は分かっているのだろうし、公にする時が来ただけだ。


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