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異世界で王位継承争いに巻き込まれた  作者: しゃもじ
第四章 アンジェリカの希望とバミンガム侯爵家が求める婿
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第八話 Aランク魔獣

 俺達はトーマスさんと別れ、森を脱出した。

 すぐに隊長に報告をし、迎撃の依頼をする。

 森の外まで声は聞こえていたらしく、警戒は既におこなっていた。

 隊長は魔物が森の外に出るのを想定し、迎撃の用意を始める。


 俺達は森から距離を取る。

 森から少し離れると地面は岩場に変わる。

 岩場を進んだ場所が高台になっており、森の手前の広場を見渡せる。

 俺の魔法がぎりぎり届く距離だ。


 アンジェリカとクラリスが、心配そうに森を見ている。

 魔物の声が断続的に森から聞こえて来る。

 恐らくトーマスさんは既に戦闘に入っている。


 叫び声が急速に近づいて来ている。

 戦闘音も混じっている。

 かなり近い。


「そろそろ出てくるぞ」


 二人に告げる。


 ――来た。


 豪快な音を響かせ、森から魔獣が出て来た。

 キングボアを更に倍にしたような巨体の魔獣。

 一目でそれが何か分かった。


 Aランク魔獣――ドラゴンだ。


 ドラゴンは、小さな子供でも知っている最強の魔物だ。

 確認されている全て魔物の中で、唯一のAランク。

 近衛騎士が複数人で挑むレベルの魔物だ。


「「お父様!」」


 二人が叫ぶ。

 ドラゴンと一緒に出て来たのは、トーマスさんだけでなく侯爵の班もいた。

 恐らく侯爵達が先にドラゴンと遭遇し、トーマスさんが後から合流したのだろう。


 ドラゴンの正面にトーマスさんが立ち、周囲を侯爵達が囲んでいる。

 ドラゴンは激しく暴れまわり、碌に近づくことも出来ていない。

 魔法攻撃もしているようだが、効いているようには見えない。


「あっ、ローレンス様」


 クラリスがローレンスさんの姿を見つけたようだ。

 侯爵達と一緒にドラゴンを囲んで戦っている。

 侯爵の班はドラゴン相手でも一応戦えている。

 さすがはバミンガム侯爵領軍の精鋭部隊という所だろう。


「他の魔物も出て来ましたわ」


 アンジェリカが森から出て来た魔物を見つけた。

 ドラゴンに巻き込まれたのだろう。

 フォレストスネークやポイズンスネークが出てきて、戦闘となっている。

 対応しているのは、迎撃準備を整えていた騎士団だ。


 まずいな……ドラゴンを囲む人数が足りていない。

 このままでは崩れる。


「「あっ!」」


 二人が叫ぶ。

 森から一際大きい魔物が飛び出してきた。

 サーペント――Bランクの魔物だ。

 サーペントは、ドラゴンと戦っている侯爵の方に向かっている。


「「お父様!」」

「火弾!」


 二人が叫び声を上げる横で、俺は火魔法を行使した。

 直径五十センチメートルほどの火弾を――十個だ。


 火弾は広場の上空を進み、侯爵に襲い掛かろうとするサーペントの頭上に向かう。

 大きな爆発音を立て、サーペントに衝突した。


「火弾!」


 すぐさま新たな火弾を十個、サーペントの上空に放つ。

 土煙が薄くなり状況が確認出来る。

 サーペントは健在だ。

 表面に火弾の痕跡は見えるが、重傷を負ったようには見えない。


 だが――


「助かった!」


 侯爵の声が聞こえた。

 サーペントから距離を取っている。

 離脱出来たようだ。


「ローレンス! サーペントをやれ!」

「はい!」


 トーマスさんがローレンスさんに迎撃を指示する。

 何て無茶を……いや、俺の援護が前提か。


 上空に待機させていた火弾を、サーペントの視界に入るように周囲に飛ばす。

 サーペントが火弾に視線を向けているのが分かる。

 俺の役目は注意を引き付けることだ。

 サーペントは致命的な毒を持っている。

 一度たりとも、ローレンスさんに攻撃を向かわせるわけにはいかない。


 サーペントが火弾を追って首を動かす。

 ローレンスさんがサーペントに攻撃を仕掛ける。

 俺はサーペントの視界にローレンスさんを入れないように火弾を操作する。


 ――斬った。


 ローレンスさんの斬撃が、サーペントの胴体を切り裂く。

 サーペントが悲鳴を上げる。

 傷は、胴体の三分の一程度の深さに達している。

 サーペントはローレンスさんの方へ首を動かす。


「向かせるか!」


 火弾を三個、サーペントの頭部にぶち当てる。

 爆発音が響き、サーペントの動きが鈍る。

 その隙を見逃さず、ローレンスさんの斬撃が再びサーペントを襲う。

 サーペントが再び悲鳴を上げる。


 サーペントの動きが遅くなり――大きな音を立てて倒れた。


「やった!」


 クラリスが歓喜の声を上げる。

 戦いは終わっていない。

 ローレンスさんはすぐさまドラゴンへ向かう。


 トーマスさんは、サーペント乱入の前と変わらず、ドラゴンの正面に位置取る。

 侯爵以下の面々は周囲を囲み、ドラゴンの注意を分散させることに注力している。

 有効打はいまだ入っていない。


 俺はサーペントの時と同様に、火弾で注意を逸らす。

 ドラゴンの後方から火弾三個を向かわせ、顔の正面に回り込むように移動させる。

 ドラゴンが一瞬だけ硬直し、そのまま顔面にぶち当てた。


 爆発音が響くと同時に、トーマスさんの斬撃が首に入る。

 ドラゴンが叫び声を上げる。

 初めての有効打だ。


 続けざまに、残りの火弾を顔面にぶち当てる。

 トーマスさんは隙を見逃さない。

 再び斬撃が入った。

 いける――そう思った瞬間、ドラゴンの目が俺を見据えた。


 ――まずい。気付かれた!


 ドラゴンは尻尾を振り回し周囲を攻撃。

 トーマスさん達はそれを回避する。

 その隙にドラゴンはこちらに走り出した。

 俺はすぐに指示をだす。


「領軍はこの場を離脱! 二人を連れて逃げろ!」


 領軍の兵士達が戸惑いの表情を見せる。

 迷っている暇はない。

 ドラゴンの足ならこの程度の距離はすぐだ。


「行け!」

「……了解」


 悔しそうな表情で、領軍の小隊長が俺の指示を呑み込む。

 驚き硬直する二人を、領軍の兵士が抱えて走り出す。

『領軍は』の意味が分かったのだろう。

 領兵は悔しそうな表情で走り、騎士は残る。

 俺は――このまま戦う。


 ドラゴンの後をトーマスさん達が追いかけて来る。


「すまない! この場で食い止める!」

『承知!』


 騎士達が俺の指示に応える。

 近衛騎士がいない状況なので、彼らは俺を守らないといけない立場だ。

 俺の意思を汲んでくれたことに感謝する。

 ドラゴンが岩場に入った。


「全員水弾を足元に集中させろ!」


 ドラゴンの足元に水弾を連続で放つ。

 岩場の表面が水で満たされる。

 ドラゴンが進むのは表面の平らな岩場だ。

 このまま水弾を打ち続ければ――


「滑った!」


 ドラゴンが豪快な音を立てて派手に転倒した。

 少し前のローレンスさんのようだ。

 後ろからトーマスさんとローレンスさんが追いついた。


 トーマスさんの斬撃が尻尾を切り裂く。

 ドラゴンは叫び声を上げ、その巨体を転がす。

 ドラゴンが仰向けになった瞬間、ローレンスさんは足に斬撃を入れる。

 右足首を深く切り裂いた。


「全員距離を取って囲め!」


 トーマスさんは指示を出しつつ、ドラゴンの首を斬り裂き離脱。

 ローレンスさんも離脱した。

 追ってきた侯爵達も、ドラゴンを囲うように陣取る。

 既にドラゴンは瀕死だ。


「火弾を集中させろ」


 トーマスさんの指示で、火弾の集中砲火が始まる。

 俺と騎士達も全力で火弾を放つ。

 ドラゴンは足を切られた上に満身創痍だ。

 避けることは出来ず、二人が斬り裂いた傷跡から、体の内部にダメージを与える。


 三十秒ほど攻撃を続けただろうか。

 トーマスさんから、「止め!」と言う声が掛かる。

 火弾が止んだ後、ドラゴンの動きはなかった。


 トーマスさんがドラゴンに近づき確認する。


「……討伐完了だ」


 俺達は一斉に歓喜の声を上げた。

 皆の顔が喜びに満ち溢れる。

 高揚感に包まれる中、侯爵が新たな指示をだす。


「このまま残りの魔物の討伐に向かう。もう暫く頑張ってくれ!」


 侯爵の指示で、ローレンスさん達が森の方に戻っていく。

 トーマスさんは俺に近づいてきた。


「無茶をしましたね」

「すみません」

『申し訳ございません』


 トーマスさんの視線が、俺と一緒に謝った騎士達に向く。


「あの……トーマスさん。命令を下したのは俺ですから」

「分かっています」


 一呼吸置いて、トーマスさんが話し始める。


「騎士隊長には私からも話をしておきます。訓告処分で済ませますよ」

『ありがとうございます』

「アレク様には私が付きますので、皆さんも行ってください」

『はっ』


 騎士達は侯爵達の後を追って行った。

 俺はトーマスさんと視線を合わせる。


「ありがとうございました」

「本来アレク様を守るのは私の役目です。それに、彼らの行動によってドラゴンを倒せたのも事実ですから」


 ホッと胸を撫でおろす。


「それよりもアレク様です。キングボアの時のお説教は聞いていなかったのですか?」


 ブリスト伯爵領での一件が終わった後、俺はしっかりと説教を受けた。

 あの場合、村への被害が出たとしても立ち向かうべきではない。

 俺はそういう立場である。そういう内容だ。

 村民の避難のために行動するのは良い。

 その気概がなければ王族や貴族とは言えない。

 でも、明らかに自分より格上の、キングボア相手に立ち向かうのは駄目だ。

 矛盾しているようだが、それが俺の立場だ。

 理解はしているつもりなので、素直に説教を受けた。


「今回の場合は逃げても意味がないでしょう? 目標は俺でしたから」


 俺が目標じゃなくても戦ったけど……


「水弾で滑らせるという作戦は良かったですが、騎士に任せて逃げるべきでした」

「接近戦はともかく、攻撃魔法は俺の方がずっと強いですから」

「それでもです」


 トーマスさんがため息を吐く。


「言っても無駄かも知れませんが……」


 その通りです。

 俺の心の声を読んだのか、半眼で俺を見てくる。


「は~……まあ良いです。あの作戦は考えていたのですか?」

「ここに陣取ってからですけど、万一の場合はそういう手もありかな……と」

「そうですか……」


 アンジェリカやクラリス達が戻って来るのが見えた。

 こちらの様子を確認出来る位置にいたのだろう。

 俺とトーマスさんが二人を見つめる。


「よく頑張りましたね」

「……はい!」


 トーマスさんが俺を褒める声は柔らかい。

 二人の無事な姿を見て、俺の心は安心感と達成感で満たされた。


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