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異世界で王位継承争いに巻き込まれた  作者: しゃもじ
第四章 アンジェリカの希望とバミンガム侯爵家が求める婿
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第五話 魔法薬とローレンスの訓練

「それって、馬の薬ですよね?」


 トーマスさんに聞く。

 コリーもダミアンもローレンスさんも分かっていないようだ。

 ベティさんは「あーなるほど」と言って、納得している。

 何がなるほどなのか。


 トーマスさんは頷き、説明を始める。


「アレク様は御存知ですが、これは魔法薬と言います。この魔法薬を馬に飲ませると、馬が身体強化魔法を使ったのと同じ状態になります」

「馬が魔法を使えるようになるのですか!?」


 コリーが驚きの声を上げる。

 トーマスさんは顔を横に振り否定する。


「魔法を使えるようになるのではなく、無理やり身体強化魔法を使った状態にすることが出来るのです。同時に体内に魔力を生み出しますので、半日以上は身体強化状態を維持出来ます」


 コリーだけでなく、ダミアンも驚きと感心の表情を見せる。

 ローレンスさんは真剣に聞いている。


「まあ、これは薬剤師にお願いして、人間用に分量を少なくしたものです。普通、人間が使うことはありませんから」

「そうなんですか?」


 コリーが不思議そうに尋ねる。


「はい。別に強くなるわけではないですし、常に身体強化状態だと後が大変ですから」


 コリーの疑問に答えるトーマスさん。

 大変というのは筋肉痛のことだろう。


 トーマスさんはローレンスさんに視線を向ける。


「ですが、ローレンスの場合は別です。身体強化魔法が使えていませんので」


 ローレンスさんが頷く。


「この薬で無理やり身体強化状態にします。その間に、魔力が流れる感覚をつかみます。おそらく一度流れるようになれば、徐々に使えるようになるでしょう」


 トーマスさんは魔法薬をローレンスさんに渡す。


「ローレンス、これを飲みなさい」

「はい」


 ローレンスさん、は躊躇いもせず魔法薬を飲み込んだ。

 ローレンスさんの表情が変わり、自分の体を見つめる。


「えっ、これ……」

「問題なさそうだな。それが身体強化魔法を使ったときの感覚だ」

「これが……」


 傍目からではよく分からない。


「まずは、ゆっくり歩き始めろ」

「はい」


 ローレンスさんは返事をし、一歩目を踏み出す。


「うわっ」


 一歩目から躓きそうになる。

 身体強化状態の感覚は普段とかなり違う。

 ましてや、ローレンスさんは魔力が異常だ。

 慣れるまでは大変だろう。


「訓練場の内周をひたすら歩き続けろ。ゆっくり歩けるようになれば、普通に歩く速さに変更。その後はゆっくり走り始めて徐々に速度を上げていく。最後は全力疾走だ」

「は、はい!」


 ローレンスさんが歩いて行った。

 トーマスさんがこちらを向く。


「では、私はローレンスの後を追いますので、三人はベティさんと訓練を始めてください。三対一で、ベティさんから一本とるのが目標です」

「よろしくお願いしますね」

「「「はい」」」


 トーマスさんはローレンスさんの後を追いかけて行った。

 俺達は余裕の笑顔を見せるベティさんに、木剣を構える。



 ◇



「今日の訓練は終了です」

「あ、ありがとうございました……」


 座り込んだままベティさんにお礼を述べる。

 結局ベティさんから一本取ることは出来なかった。

 ダミアンとコリーも、木剣で打たれたり、足払いで転ばされたりして、ぼろぼろになって倒れている。

 トーマスさんより厳しいかも……


 そこにトーマスさんが歩いてくる。


「今日の訓練は終了ですか?」

「はい。終わりです」

「お疲れ様でした。ではこちらを貴族学園に届けていただけますか?」


 返事をすると、手紙を渡される。


「これは?」

「ローレンスは多分筋肉痛で明日は休むことになりますので、その連絡です」


 ああ、なるほど。

 遠くにいるローレンスさんを見ると、今はジョギングをしているようだ。

 ジョギングとは思えない速度で走っているが――あ、転んだ。

 良く見ると、体はぼろぼろで服は至る所が汚れている。


「ローレンスさんどうですか?」

「順調だと思いますよ。本人も必死に頑張っているようなので、もう少し面倒を見ます」

「よろしくお願いします」

「一応、叔父ですから」


 トーマスさんは笑みを浮かべて話す。

 俺達は手紙を受け取り、寮へと帰宅した。



 ◇



 翌日の夕食時。

 いつもの顔ぶれで夕食を食べていると、食堂にローレンスさんが入ってきた。

 学生の注目を一身に集めている。


「うわ……」

「相当だな」


 コリーとダミアンがローレンスさんを見て言う。

 ローレンスさんは見るからに重度の筋肉痛だ。

 ゆっくりと歩いているが、凄く辛そうだ。


 そんなローレンスさんは、俺達を見つけて歩いて来た――ゆっくりと。


「お食事中失礼します。アレクシス様、お礼を言いに来ました」

「それは良いのですが……大丈夫ですか?」


 ローレンスさんは微笑を浮かべる。


「見ての通りですが、二、三日すれば治るそうなので大丈夫です」

「今帰ってきたのですか?」

「ええ。昨日は日が落ちるまで走っていて、今日は朝から酷い筋肉痛で全く動けませんでした。今は多少歩けるようになりましたけど」


 そう話すローレンスさんは嬉しそうだ。


「成果はありましたか?」

「はい!」


 その顔には充実感が漲っている。

 その表情に俺は頬を緩ませ、ダミアンとコリーも微笑んでいる。


「それはそうと、急遽休んでしまいましたが大丈夫ですか?」

「ええ。成績は元々下の方ですし、御存知のとおり、学園を何日休もうと罰則はないですから」

「えっ、何日休んでも罰則がないのですか?」


 進級や卒業に影響すると思うが、本当だろうか。

 疑問の表情を浮かべる俺を見て、リアが説明する。


「ないわよ。どれだけ休んでも必ず進級出来るし、卒業も出来るわ」

「それって……良いのか?」

「成績には影響するし、実際にそんなことをする人はいないけど、制度上は問題ないわ。貴族の子弟の場合、用事で何日も休むこともなくはないから」


 知らなかった。

 俺が感心していると、アンジェリカがローレンスさんに話しかける。


「ローレンス様、お久しぶりですわ」

「ご無沙汰しております、アンジェリカ様」


 二人は普通に会話をする。


「アレク達と訓練しているという話は聞いています。先程の会話からすると、魔法が使えるようになったのですか?」

「いえ。まだ使えるようになったわけではないのですが、――近いうちに必ず使えるようになって見せます」


 ローレンスさんが自信を持って答える。

 アンジェリカも意外だったのか、少し驚きの表情を見せる。

 その後、頬を緩ませ返事をする。


「そうですか……ローレンス様次第ですけれど、何か結果を出せば、お父様の考えも変わるかも知れませんわね」

「!?」


 アンジェリカの発言に、今度はローレンスさんが驚きの表情になる。

 ここで婚約を示唆する発言をするとは、正直俺も驚いた。

 ローレンスさんの表情が決意の籠ったものに変わる。


「精一杯努力します」

「頑張ってくださいませ」


 ローレンスさんは、最後に俺達に挨拶して去って行く……ゆっくりと。

 俺はアンジェリカに顔を向ける。


「お眼鏡に叶いそうか?」

「今のところは何とも言えませんが、結果を示せばわたくしからお父様に話しますよ」


 アンジェリカは意味深な笑みを見せる。

 思いのほか、前向きの様だ。


「アンジェリカの言っている意味、本当に分かっている?」


 セラが俺に聞いてくる。

 何やら呆れた表情だ。


「侯爵家の求めるレベルが高いのは分かっている。それでも、ローレンスさんなら何とかなると思っている」

「ええ。頑張ってほしいですわね」


 アンジェリカが笑みを見せる。

 セラは何も分かっていないと言いたげな表情で、首を横に振る。

 リアは相変わらずの微笑みで、どことなく楽しそうだ。

 レイチェルとモニカは複雑そうな顔をしている。


 皆は色々思うところがあるのだろうが、俺はローレンスさんに協力する。

 ローレンスさんに才能があるのは間違いないので、侯爵を納得させることは出来るだろう。

 そして――最終的に決めるのはアンジェリカだ。

 無理強いするつもりもないし、最終的に俺の妻になるというならそれでも良い。


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