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異世界で王位継承争いに巻き込まれた  作者: しゃもじ
第四章 アンジェリカの希望とバミンガム侯爵家が求める婿
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第三話 ウォルバー伯爵家次男ローレンス

 お茶会の翌日から、後期の授業が始まった。

 講義の内容は前期の続きで、目新しいものはない。

 俺達はこれまでと特に変わらない学園生活を送っている。


 一方、他の学生の雰囲気は随分変った。

 熱心に実技訓練を行なう学生が大勢増えた。

 放課後に自主訓練を行なう学生の姿も、多数見られるようになった。


 雰囲気が変わった理由は俺達だ。


 俺、ダミアン、コリーの三人は、前期の終わりに岩ゴーレムの討伐に挑んだ。

 討伐自体が目的だったのだが、結果として岩ゴーレムからミスリルが取れることを発見した。

 このことに刺激を受けた学生が多数いたのだ。

 立て続けに起きたのが、夏季休暇の魔物の氾濫だ。

 ダミアンが功績を挙げたことは良く知られているし、俺に至っては勲章まで受けている。


 俺達に刺激を受け、「自分も」という気持ちで頑張っているらしい。

 学園側も喜んでいる。


 これは一年生に限った話ではなく、二年生、三年生も同様だ。

 俺達は上級生に誘われ、何度か放課後一緒に訓練をした。


 休日の午前中は、騎士団の訓練場で、稽古をつけて貰う約束をしている。

 講師は、トーマスさんを始めとする近衛騎士の皆さん。

 毎週は難しいらしいが、可能な限り訓練をしてくれるそうだ。

 理由は、俺がキングボアを相手に無茶をしたから。

 理由はともかく、近衛騎士に稽古をつけて貰えるのはありがたい。



 ◇



 今日は後期に入って最初の休日で、早速トーマスさんの稽古を受けた。

 トーマスさんから、ダミアンやコリーを誘っても構わないとのお言葉を頂いた。

 次の訓練に誘ってみようと思う。


 訓練を終え学園に戻ると、休日も訓練をしている学生の姿がある。

 前期よりも多い印象を受ける。

 放課後に一緒に訓練をした上級生も何人かいる。


 その中に、目当ての先輩を発見した。


「こんにちは、ローレンスさん」

「ああ、こんにちは、アレクシス様」


 彼はウォルバー伯爵家次男のローレンスさん。現在二年生。

 十四才とは思えない恵まれた肉体と、精悍な顔が印象的だ。

 そして、転生前に神様が出してくれた候補の、一番手にいた人物でもある。

 全ての魔法の才能に優れ、身体能力も文句なし。

 無属性魔法は特に優秀だった。


「休日も訓練されているのですね」

「ええ。私もアレク様のご活躍に感化されまして」

「それは嬉しいですね」


 本当は恥ずかしい。

 多分、キングボアの話だろうから。


「アレク様も訓練の帰りでは? 騎士団の訓練を受けていると聞きましたが」

「はい。有難いことに近衛騎士に稽古をつけていただきました」

「それは羨ましい」


 今日が初めての稽古だけど、夏季休暇前にも訓練に行っていたからな。

 そう思うのも当然か。


「もうすぐ昼になりますが、ローレンスさんはまだ稽古を?」

「ええ。もう少しやっていこうと思います」

「では、一勝負如何でしょうか?」


 訓練場に置いてある木剣を手に取り、ローレンスさんに勝負を持ち掛ける。

 ローレンスさんは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに真面目な顔で木剣を構える。


「よろしくお願いします」


 俺も木剣を構える。


「では、開始です」


 開始を宣言すると、ローレンスさんが俺に接近し、横薙ぎに木剣を振る。

 それをステップで後ろに避け、反動で突きを放つ。

 ローレンスさんは、小さな動作で俺の木剣を打ち払う。

 俺達は切り合いを続ける。


 素の身体能力はローレンスさんの方が上。

 剣技もローレンスさんの方が上。

 でも――


「身体強化魔法を使いますね」


 俺が身体強化魔法を使うと、途端に優勢になる。


「ローレンスさんも身体強化魔法を使ってください」

「……くっ」


 ローレンスさんの動きに変化が見られない。

 そして――


「うわっ!」


 唐突に横方向に大きく飛び、ローレンスさんは派手に転倒した。

 目の前にいたローレンスさんが、今は五メートル以上離れた位置で倒れている。


 ローレンスさんは悔しそうな表情で立ち上がる。


「訓練をご一緒した時に気が付きましたが、身体強化魔法が苦手なのですね」

「……はい」


 ローレンスさんは身体強化魔法が苦手なのだ。

 身体強化魔法は無属性だ。

 才能は間違いなくあるのは分かっている。

 何故なら知っているから。

 それに、ローレンスさんの場合――


「身体強化魔法に限らず、魔法がまるで使えないのです」


 魔法全般が駄目なのだ。



 ◇



 訓練を終え、ローレンスさんと食堂にやって来た。

 俺の目の前で昼食を取るローレンスさんは、落ち込んでいるというより諦めに近い雰囲気が漂う。


「魔法が使えないという話ですが、全く使えないのですか?」

「はい。小さい頃から全く使えません。才能がないのでしょう」


 ローレンスさんは自虐的な笑みを浮かべる。


「ですが、先程も身体強化魔法を使っていましたよね? その……一瞬だけ」


 最後の「一瞬だけ」という言葉に、ローレンスさんは苦笑を浮かべる。


「無理やり使おうとするとああなります。制御出来ていないので、使えないのと同じです」


 ローレンスさんは俯く。

 多分、魔力が上手く動かせていないのだろう。


「魔法が使えないので、剣の訓練を頑張ってきましたが――身体強化魔法を使われれば、簡単に負けてしまいます」

「それは……まあ」


 事実なので否定は難しい。

 何と言ったものか悩む。

 ローレンスさんは顔を上げ、作り笑いを浮かべる。


「お気になさらず。魔法が使えなくても、ウルフくらいなら何とかなりますから」


 ウルフは最下級のEランクだ。

 それでも、身体強化魔法なしで戦えるのは凄いのだが……


「地道に剣を磨いて、冒険者になろうと思います。今日はありがとうございました」


 ローレンスさんは手早く食事を終え、足早に食堂を出ていった。

 その背中を見つつ、ローレンスさんが魔法を使えるようになる方法を考える。


 才能は間違いないので、使えるようになれば一気に成長する。

 あれだけの剣の腕と、鍛え上げられた肉体を持っているのだ。

 接近戦なら、多分近衛騎士の平均を越える。


 頭を悩ます俺の元に声が掛かる。


「もしかして、ローレンス様を候補に考えていますの?」

「アンジェリカ?」


 声をかけて来たのはアンジェリカだ。

 後ろにはリアとセラ、レイチェルとモニカもいる。

 一緒に食事を取っていたようだ。


「ローレンスさんを知っているのか?」

「ええ。ウォルバー伯爵家とバミンガム侯爵家は領地が近いですから。何度も会ったことがあります」


 そういえば地理で習った。

 バミンガム侯爵領は王都の北、馬車で二日くらいの距離にあり、侯爵家の中では最も王都の近くに領地を持っている。

 ウォルバー伯爵領はその近郊にあったはずだ。


「一応言っておきますが、ローレンス様ではバミンガム侯爵家の婿以前に、娘の婚約者として認めませんよ、お父様は」

「それは、魔法が理由で?」

「はい。厳しい言い方になりますが、ローレンス様は一般的な貴族のレベルに達していませんから、騎士にはなれません。お父様はそういう相手に娘を嫁がせませんわ」


 嫁に出すのも駄目なら、婿としては論外なのだろうな。


「実際、縁談の申し込みを一蹴していましたから」

「えっ? 縁談の申し込みがあったのか?」

「ええ。わたくしが入学する、少し前くらいだったと思います」


 一度断られているのか……厳しいな。


 俺が悩んでいると、アンジェリカが悪戯な笑みで顔を近づける。


「わたくしはローレンス様より、アレクの妻の方が嬉しいですわ」

「!?」


 驚いて顔を離す。

 アンジェリカはクスクスと笑っている。


「アンジェリカ、顔近づけすぎ」

「あら、良いではありませんか?」

「公共の場所では少し問題かしらね」

「なら、お茶会の席まで我慢しますわ」


 半眼で注意するセラと、普段通りの微笑を浮かべるリア。

 二人と楽しそうに会話するアンジェリカ。

 もう、全員お嫁さんでも良いかな……


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