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異世界で王位継承争いに巻き込まれた  作者: しゃもじ
第三章 レイチェルの不安とメア子爵領の問題
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第十話 決着とその後

 キングボアの討伐後暫くして、マックスの部下達が村に到着した。

 村民は安堵の表情を見せ、何度も何度もお礼を言われた。

 怪我人や老人子供を馬車に乗せ、村民全員で町まで避難する。


 俺、トーマスさん、マックスの三人は近隣の村に向かうことになった。

 この村の状況を見て、可能な限り急いだ方が良いという判断だ。

 今日は次の村に泊まる。

 避難組は街に戻って一泊し、明日の朝に次の村で待ち合わせの予定だ。


「アレク様、行きましょう」

「トーマスさんが倒したことを説明――」

「マックス行くぞ!」

「はい!」


 トーマスさんはマックスを呼ぶ。

 くっ、説明する機会がなかった。



 ◇



 次の村も周辺に多数ボアがいたが、侵入はされていなかった。

 トーマスさんがあっと言う間にボアを駆逐する。

 村民に感謝され、マックスは俺が王族であることをばらし、村民達が跪く。


 そのサイクルが翌日も続いた。

 幸いなことに死者は確認されなかった。

 溢れた魔物の大半は、森の近辺で留まっているのだろう。

 村が森から離れていたことが幸いしたようだ。


 さらに翌日。

 ついに騎士団が到着し、大規模な討伐が始まった。

 ブリスト伯爵の軍も動員され、マックス達の辞職はなかったことになり戻っていった。

 別れ際に凄く感謝された。


 俺とトーマスさんはお役御免だ。

 騎士団長に挨拶をして王都に戻った。


 王都に戻った俺は、公爵邸で過ごすことになった。

 父上からの謹慎処分の意味合いもある。

 今回は素直に従い、公爵邸で大人しくしていた。


 王都で過ごす間に、外部の情報も続々届いた。


 サザーランドは素早い対応が功を奏したようで、一切の被害がなかったそうだ。

 サザーランドや近隣の村に近づいた魔物は、サザーランド領兵と冒険者が討伐したそうだ。


 心配だったメア子爵領も、死者は確認されていない。

 俺達と分かれた後、バートさん達は近隣の村に急行。

 レイチェルの指示で、即時避難が開始されたそうだ。

 その後、ダミアンとレイチェルの二人は騎士団に避難を任せ、メアに急行し子爵に連絡。

 子爵は近隣の領地へ応援要請を出し、他の村の避難活動を始めたそうだ。

 ダミアンも避難活動に参加したらしい。

 戦闘も発生したが、軽傷で済んだと聞いている。


 近々、リア達はサザーランド伯爵と共に、王都に戻ってくるらしい。

 夏季休暇も半分以上過ぎている。

 リア、セラ、アンジェリカにとっては、予定よりかなり長い滞在となった。



 ◇



 夏季休暇も終わりに差し掛かった頃、父上の執務室に呼ばれた。


「次の闇の日に、今回の討伐戦の慰労会が行われる。お前も参加だ」

「慰労会ですか?」


 溢れた魔物の討伐が大体終わったらしく、今回の件に尽力した人達を労うのだそうだ。

 俺も序盤に参加したので、出席する必要があるらしい。


「お前達の扱いは先遣隊ということになった」

「先遣隊? 冒険者扱いではないのですか?」

「お前とトーマスは身分を名乗った上で村民の避難を行なっている。冒険者とは言えない」

「なるほど」


 まあ、そうかも知れない。


「お前達には勲章が送られることになった」

「勲章ですか?」


 父上は軽くため息を吐き、説明を始める。


「氾濫の情報を迅速に王都まで伝え、騎士団よりも早く避難活動を行なった。お前達に勲章を与えないなら、他の誰にも与えられん。諦めて受け取れ」

「……分かりました」


 これもまあ仕方ない。


「それから、慰労会で話すことではないのでこの場で伝えておく」

「なんでしょう?」

「ブリスト伯爵と伯爵の弟の兵士長の二人は処刑。嫡子は貴族籍剥奪の上、数年間の強制労働だ」

「……処刑ですか?」


 眉を顰める。


「そうだ。魔物領域の放置の罪もあるが、村民の避難を放棄したのが一番の問題だ」

「嫡子も罪に問われるのですか?」

「嫡子も積極的とまでは言わないが、伯爵や兵士長の方針に同調していた。罪は免れない」


 嫡子も同じタイプの人間だったようだ。


「……他の伯爵の家族は?」


 連座は嫌だな……


「嫡子以外は未成年ということもあり、罪には問われない。但し、貴族籍は剥奪。伯爵には三人の妻と嫡子以外に四人の子供がいるが、各々妻の実家に戻ることになった」


 ホッと胸を撫でおろす。

 俺の様子を見た父上が頬を緩ます。

 父上も連座での重い処罰は望んでいないのが分かる。


「ブリスト伯爵領には代官を送り、当面は王家が管理することになる」


 妥当な判断だろう。


「話は以上だ。出席の準備を整えておくように」

「承知しました」


 父上の執務室を後にした。



 ◇



 慰労会当日。

 正装をして父上と共に登城した。

 城の中庭には既に大勢の人が集まっていた。

 今回は騎士団の大半、人数にして千人近い軍勢を動員した。

 それに加えて、各領地の兵や冒険者が多数参加している。


 この席に招かれているのは主に騎士団。

 仕事で出席出来ない者も多いが、それでも五百人は超えている。

 次に、サザーランド伯爵を始めとする、討伐に協力した一部の領地貴族。

 あとは裏方の文官達や、協力に応じた冒険者ギルドの関係者等々。


 とにかく大勢の人だ。

 よく中庭に入ると思う。


 時間になり、陛下が挨拶を始めた。


「ブリスト伯爵領における魔物の氾濫は収束した。皆の尽力に感謝する」


 陛下が会場全体を見ながら挨拶を続ける。


「幸いにも魔物の氾濫による死者は確認されていない。皆の尽力の賜物である」


 会場から驚きの声が聞こえる。

 サザーランドの被害がなかったことは知っていたが、ブリスト伯爵領やメア子爵領でも死人が出なかったようだ。


「今回の討伐戦では多くの者に功績があるが、その中でも際立った功績を挙げた者にこの場で勲章を与えたいと思う。名前を呼ばれた者は前へ」


 陛下の言葉の後、文官が前に出て名前を呼ぶ。

 最初は騎士団長と王太子殿下、父上の三人が呼ばれた。

 三人は今回の討伐戦の実質的な指揮官だ。


 次にオーウェン殿下、カール殿下と続く。

 二人は優秀な騎士でもある。功績を挙げるのも不思議はない。

 その後、何人かの騎士が呼ばれる。個人の武勇が大きかった者達だ。

 ベンジャミンの名前は出てこなかった。


 サザーランド伯爵や、領地の復興のためここにはいないメア子爵も、勲章を与えられた。

 突然の氾濫に的確に対処し、被害を最小限に抑えたことが理由だ。


 同じく戻ってきていないが、バートさん達も勲章を得た。

 メア子爵領に迅速な連絡を入れ、真っ先に村民の避難に尽力したのが理由だ。


「最後に――近衛騎士トーマス殿! ウィリアム公爵子、アレクシス殿下!」


 文官に呼ばれ前に出る。

 トーマスさんの隣で陛下に跪く。

 陛下が言葉を述べ始める。


「トーマス、アレクシスの両名は、正午頃に起きた氾濫の情報を当日中にサザーランドに伝達。翌日の夕刻には王都に伝達。これらの迅速な情報伝達が、今回の結果をもたらした大きな要因であることは間違いない」


 ここまでは、バートさん達と同じような内容だ。


「更に翌日には、先遣隊としてブリスト伯爵領に急行。ブリスト伯爵家の兵や冒険者を指揮し、村民の避難活動に尽力した。二人の行動がなければ、ブリスト伯爵領の村民に被害が出ていたことは想像に難くない」


 まあ……事実かな。


「それに加えて、避難活動中に現れたBランク魔獣、キングボアと戦闘。ブリスト伯爵家の兵を指揮し、最後はアレクシスの火魔法でこれを討伐した」

「!?」


 会場がどよめく。

 ちょっと待て!

 倒したのはトーマスさんだ。


「そういうことになりました」


 トーマスさんが小声で囁く。

 俺は叫びそうになるのを堪える。


「この功績を称え、二人に勲章を贈る」


 トーマスさんは小声で「行きますよ」と言って立ち上がる。

 俺も同じように立ち上がり、陛下の前に進み再び跪く。


 陛下はトーマスさんに勲章を与え、次に俺に向く。


「文句を言わずに受け取れ」


 陛下は面白がるような顔で、小声で囁く。

 くっ、知っていてあんなことを言ったな、

 ここで文句も言えない。


「……光栄に存じます」


 俺は勲章を受け取った。



 ◇



 慰労会が始まった。

 大勢の騎士や貴族から賞賛を受けた。

 今更キングボアを倒したのは俺じゃないとも言えず、張り付いた笑顔で対応した。

 一部の貴族から王位に関する話をされたが、その気はないと言っておいた。


 サザーランド伯爵からも改めてお礼を言われたので、こちらもお礼を返した。

 リア、セラ、アンジェリカの三人は王都に戻ってきているが、今日は欠席だ。


 オーウェン殿下とカール殿下からも、お褒めの言葉を頂いた。

 一応二人にも「王位に就く気はないのでお願いします」と、念を推しておいた。

 二人とも微笑を浮かべて頷いていた。

 二人はちゃんと分かってくれているので、大丈夫そうだ。


 ベンジャミンは近づいて来なかったが、睨むような視線は向けられた。

 正直どうでも良い。


 慰労会も終盤になる頃、トーマスさんがやって来た。

 笑顔のトーマスさんを半眼で睨む。


「さっきの陛下の言葉は何ですか?」

「そういう噂がブリスト伯爵領に広まっているのですよ」

「はい?」


 噂?


「最初に救出に向かった村の村民やマックス達が色々な人に話したらしく、他の町や村だけでなく、騎士や冒険者にまで広がっています。今更否定しても意味がありません」

「なんでそんなことに……」

「それはまあ、アレク様が王族でしかも未成年ですから。民衆にとっては分かりやすい英雄というわけです」

「英雄って……」

「実際、今のブリスト伯爵領で、アレク様はそういう扱いですよ」


 トーマスさんの言葉に愕然とする。

 俺の様子を見て、トーマスさんが笑い声を零す。


「あの時も言いましたが、アレク様がキングボアに止めを刺したのはおそらく事実です。嘘ではないのですから問題ありません」

「実際にBランク魔獣を倒せる力は持っていないですよ……」

「これから力を付ければ良いのですよ。引き続き頑張りましょう」


 トーマスさんは笑顔で去って行く。

 何とも納得いかない気持ちで一杯だ。


 慰労会はそのまま滞りなく終了した。


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