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異世界で王位継承争いに巻き込まれた  作者: しゃもじ
第一章 セラフィナの心配とオフィーリアの本音
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第三話 アレクシスの状況とオフィーリアの状況

 俺には面倒事が一つある。


 俺の正式な名前は、アレクシス=ランドール。

 ランドール姓を持つ王族の一員だ。

 そして、この国の王位継承権を持っている。


 先程セラが言ったように、俺は王位継承争いに巻き込まれる立場にある。

 彼女の言う王位継承争いとは、次代の王位ではない。

 次代は俺達が生まれる前に、既に王太子が決定している。

 俺が巻き込まれているのは、その次だ。


 今の王は、俺、セラ、リアの、共通の祖父だ。

 次代の王はリアの父である王太子殿下だ。

 俺とセラから見て叔父になる。


 王太子の指名は、慣例により王の即位後に行なわれる。

 現在の本命は、王太子殿下の長男のオーウェン殿下だ。

 オーウェン殿下は現在十八才。

 既に成人して結婚もしている。

 殿下の結婚相手は、セラの姉のクリスティーナ様だ。


 オーウェン殿下の評価は、次期王太子として申し分ない。

 能力的にも人柄的にも何の問題なく、多くの貴族から支持されている。

 俺もセラもオーウェン殿下を支持している。


 では、対抗馬になり得る人物がいるかというと、実は二人いる。

 俺とリアだ。


 次々代の王位継承権を持つものは七名。

 王太子殿下の子供である三人の男子と一人の女子――リアだ。

 加えて、公爵である俺の父と公爵子の兄、最後が俺だ。


 公爵子に継承権があるのは、王に子供がいない場合の予備だ。

 王子がいれば本来は争いになどならない。

 俺は末端の候補なのだ。


 では、何故俺が対抗馬になり得るのかと言えば、魔法の実力とリアの存在だ。


 王族や貴族にとって、魔法というのはかなり重要だ。

 貴族は魔物の脅威に対し立ち向かわなければならない。

 しかし、魔法の実力が足りなければそれも難しい。


 俺は子供の頃から夢中になって魔法の訓練をした。

 世代屈指の才能を持つ肉体と大人の頭脳、加えて公爵子という恵まれた環境。

 それらが合わさって、他に類を見ない速さで成長した。


 周囲からは天才扱いされており、その実力は国中の貴族に知られている。

 俺やセラと一緒に訓練したリアも、俺と同じような見方をされている。

 王位継承権を持つ者の中では、明らかに突出した才能を見せている。


 加えて俺とリアは仲が良い。

 俺とリアが結婚して、どちらかが王になるのが良い――と考える人が出てくる。

 実際にそういう話を何度もされている。

 主に、陛下の第二夫人であるお婆様からなのだが……


 俺とリア、それぞれ一人だけなら、オーウェン殿下の方が有力だ。

 王太子殿下の第一夫人の長子で、男という立場が強い。

 リアは女だし、俺は本来予備の公爵子だからだ。

 しかし、俺達が結婚するとその状況が覆りかねない。

 リアとの結婚が嫌なのではなく、王になりたくないのだ。


 俺が貴族学園への入学を避けたい理由は、王位継承争いから逃れたいからだ。

 貴族学園は貴族の子弟が通う学園だ。

 十三才になる年から、三年間の教育課程になっている。

 学園には跡継ぎも多く通い、領地運営についても学ぶ。

 如何に魔法が得意でも、貴族学園を卒業していない者を後継者には出来ない。

 俺は貴族学園の入学を回避することで、王位継承争いから逃げる算段なのだ。


「アレクの考えは分かるけど……リアはどう思っているのかな?」

「あいつの立場だと、入学は避けられないからな」


 リアも王位を望んでいない。

 でも、王女なので俺のように逃げることも出来ない。

 本来は俺も入学回避出来る立場ではないのだが、そこは大人の頭脳を駆使して無理を通した。

 成人したら冒険者になり爵位も受けないことを、王太子殿下と父上に宣言している。


「俺が入学しなければ、リアも本気で巻き込まれることはないと思うぞ」

「本当に大丈夫? ベンジャミンの馬鹿がリアを狙ってるって聞いたんだけど?」

「馬鹿って……一応俺の兄なんだが?」

「アレクの兄でも、あんなのは馬鹿で良いのよ」


 セラが嫌悪感を表情に出し、辛辣なことを言う。

 ベンジャミンは俺の兄で現在十六才。

 無能ではないが、王族基準だと有能とも言えない。

 そして、人間的に少々問題がある。

 嫉妬深く、身分が下の者に対して高圧的なのだ。


 俺への劣等感もあるようで、ベンジャミンにはかなり嫌われている。

 そんなベンジャミンだが、最近リアとの婚約を狙っているという話がある。

 リアと婚約すれば、オーウェン殿下に勝てると思っているようだ。

 無理だと思うが……


「リアと婚約出来たとしても、オーウェン殿下の対抗馬にはなり得ないし、父上も母上も反対している。さすがにあり得ないと思うぞ?」

「でも、カミラ様やミュラ様は乗り気って話を聞いたよ。……本当はアレクの方が良いみたいだけど」

「お婆様はそうだろうな……」


 カミラとは、国王陛下の第二夫人で、俺の祖母にあたる人だ。

 ミュラ様は王太子殿下の第二夫人でリアの母親だ。


 お婆様は王位への執着が強い。

 今の陛下が即位し王太子を決める際、お婆様は自分の子である父上を王太子に推したらしい。だが父上は王太子にはならなかった。

 能力的には父上の方が僅かに上なのだが、王太子殿下自身の能力も充分に高い。

 順番を覆すほどの差はなく、正室の子である今の王太子殿下が後継者に決まった。

 加えて、父上自身が王になる気がなかったというのが致命的な理由だ。


 お婆様は相当不満だったらしく、父上は当時かなり文句を言われたそうだ。

 それでも年月と共に徐々に落ち着いてきたらしいが、俺が生まれたことで王位への執着が再燃した。


 俺に魔法の才能があると分かると、お婆様は頻繁に俺に会いに来た。

 最初の内は「アレクは天才だ」「アレクは陛下の孫の中で最も優れている」という純粋な誉め言葉だったのだが、次第に「王は最も能力の高いものがなるべきだ!」「アレクなら王になれる。王を目指せ!」といった露骨な内容に変わっていった。


 俺は王位に興味がない。王になりたくない。お婆様にそう言い続けた。

 最後の方は「何故目指さない!」「私の孫なら王位を目指せ!」と罵倒に近い言葉に変わっていった。

 それでも俺の気持ちは変わらないし、父上も母上も俺の気持ちを尊重すると言ってくれて、最近ようやく諦めてくれたのだ。

 これが丁度一年前くらいだ。


 だが、お婆様の王位への執着が消えたわけではなかったようだ。

 半年くらい前だろうか?

 今度は兄ベンジャミンに対象を変えた。

 リアを娶れば、ベンジャミンでも対抗馬になると考えたようだ。

 お婆様の実家のウェルズ侯爵家にも、後援を依頼しているらしい。

 リアの母親であるミュラ様の実家も同じ侯爵家で、叔母と姪の間柄だ。


 しかし、オーウェン殿下の対抗馬にはなりえないだろう。


「リアが断ればそれで御仕舞のはず……なんだけどな」


 婚姻というのは当人同士の意思が尊重される。

 リアが断れば、それ以上はどうにもならないはずなのだ。

 しかし、何故か婚約の話が消えない。


「ウェルズ侯爵かミュラ様に、無理強いされているのかも知れない」


 セラが心配そうに言う。


「王太子殿下は、リアの気持ちを分かっていないのかもな」

「どうだろうね……最近は私にも本音を隠しているし」


 俺やセラは基本的に本音しか言わないが、リアは本音と建前を使い分ける。

 王族や貴族としては普通だ。

 それでも、俺やセラとは本音を言い合える仲だと思っているのだが……


「でも、リアの本音は聞かなくても分かるわ」

「兄上と婚約したくないのは明らかだな」


 リアがベンジャミンを嫌っているのは、見ていれば誰でも分かる。


「それだけじゃないわ。リアが結婚したいのはアレクに決まっているもの」

「子供の頃はそう言っていたな」

「今も同じよ」

「リアがそう言ったのか?」

「聞くまでもないわ」


 セラは胸を張って言い切る。

 そうかなと思わなくはないが、言い切れるだけの自信もない。


「リアとは正々堂々と戦ってアレクを勝ち取るの。不戦勝では納得出来ないわ」


 セラが握りこぶしを作って、とても男らしいことを言う。

 その後、ハッとした表情をして俺を上目遣いで見つめる。


「その……二人とも貰ってくれても良いのよ?」


 そんな、かわいらしい表情に、俺は顔を綻ばせる。


「前向きに検討するよ」


 二人で貴族らしからぬ会話をしていると、一人の騎士が近づいてきた。

 俺もセラも知っている人だ。

 近衛騎士の一人で、名前はトーマスさん。確か今年で三十才だ。

 魔法と剣術を何度か教えて貰ったことがある。

 普段は陛下に付いていることが多い。


「訓練中に失礼します。アレク様に登城命令が出ております」

「今からですか?」

「はい。申し訳ありませんがご同行願います」

「トーマスさんが来られたということは陛下ですか?」

「王太子殿下とウィリアム公爵、オーウェン殿下も御一緒です」


 何か嫌な予感がする。

 セラも同じなのか小声で話しかけてきた。


「何だろうね。リアとベンジャミンの婚約が成立したとかないよね?」

「流石にないと思うが……不安になってきたな」

「絶対駄目だからね。何としても止めてきてよ。最悪三人で駆け落ちもありだから!」

「……とりあえず行ってくるよ」


 俺はトーマスさんに了承の返事をし、一緒に城に向うことにした。


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