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異世界で王位継承争いに巻き込まれた  作者: しゃもじ
第三章 レイチェルの不安とメア子爵領の問題
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第六話 魔物の氾濫

 咆哮の轟いた方を見る。

 魔物領域の方向だ。


「査察は中止です。魔物が森から溢れます」


 その声に俺達は一斉に顔を向ける。

 トーマスさんの表情が真剣なものに変わっている。

 場が一気に緊張の度合いを増す。


「二手に分かれましょう。このまま進んでメア子爵領に状況を伝える部隊と、戻ってサザーランドに伝える部隊です」


 トーマスさんは説明を続ける。


「先程の咆哮はおそらくBランク以上の魔物でしょう。格上の魔物を恐れて、Cランク以下の魔物が大量に逃げ出すことが予想されます」


 トーマスさんの説明に息をのむ。


「村は大丈夫でしょうか?」


 レイチェルが心配そうな声で質問する。

 魔物領域に最も近い人里は、今日宿泊予定だったメア子爵領の村のはずだ。

 彼女の質問に、トーマスさんは首を横に振る。


「危険です。すぐにでも避難を開始した方が良い」

「そんなっ!」


 レイチェルが悲痛な声を上げる。

 バートさんは考えをまとめ顔を上げる。


「老人や子供もいるでしょうから、村民の避難には馬車が必要です。トーマスさん。身体強化魔法だけで戻れますか?」

「可能です。私がサザーランドに戻りましょう」


 トーマスさんは即答し、バートさんは頷きを返す。

 バートさんは俺に視線を向ける。


「アレク様はどうしましょう? 本来ならトーマスさんから離すべきではありませんが、状況的には――」

「いえ、アレク様は私が連れて行きます」


 トーマスさんはバートさんにそう告げると、俺に顔を向ける。

 その顔は俺を試すかの表情だ。


「走れますね?」


 不思議と気分が高揚する。


「勿論です!」


 俺が返事をすると、トーマスさんは満足そうに頷く。


「よろしい。いざとなれば私が担いでいくので、問題はないでしょう」


 大丈夫と言ったのに、荷物扱いも想定されているようだ。

 俺は苦笑いしつつも、手早く準備を整える。


「では行動開始です。ご武運を」


 バートさんに頷きを返し、馬車を降りる。

 そこで、ダミアンと視線を合わせる。


「アレク。気を付けろよ」

「そっちもな。レイチェルに怪我させるなよ」

「任せろ。レイチェルも村民も守って見せる」


 ダミアンの表情に、強い決意が見て取れる。

 これなら大丈夫だろう。

 トーマスさんと一度視線を合わせ、サザーランドへ向けて走り出した。



 ◇



 身体強化魔法を駆使して、トーマスさんについて行く。

 馬車の倍近い速さで走っているが、無理な速さではない。

 とはいえ、このまま走り続けても到着は夜になるだろう。

 魔力と体力が持つかどうか。

 鎧も武器も置いてきた。

 トーマスさんの指示だ。

 トーマスさん自身は装備をつけたままで走っている。


「道中の魔物は全て無視です。進路上にいる魔物は私が排除しますから、アレク様は私の後ろをついてくることだけに集中してください」

「はい!」


 トーマスさんは走りながら、後ろを向かずに指示を出す。

 今は指示に従えばそれで良い。


 トーマスさんが魔法を放つのが分かった。

 視界の端で、ボアが一体飛んで行くのが見えた。


 ……


 何時間走っただろう。

 途中の休憩は一度だけ取った。

 水魔法で水分を取り、僅かな休憩で走り出す。

 少し前に日は暮れた。

 辺りは既に暗闇の中だ。

 俺は背中を見失わないように走り続ける。


「見えました」


 トーマスさんの声にハッとする。

 視界が広がり、街明かりが見えた。


 サザーランドだ。


 俺は気合を入れ直し走り続ける。

 そして――城門に到着した。



 ◇



「アレク様!」


 兵士が慌てて近づいてくる。

 俺は地面に座り込む。


「伯爵に緊急の連絡を。ブリスト伯爵領の魔物領域で、魔物の氾濫の兆候を確認しました。念のため防衛の準備をお願いします」

「!? ……りょ、了解しました!」

「あと、アレク様が限界の様ですから、馬車の用意もお願いします」

「かしこまりました! すぐに連絡を入れます」


 トーマスさんの説明の声と、兵士の慌てた声が聞こえる。

 顔を上げる元気もない。



 ◇



「「「アレク!」」」


 馬車に乗せられ伯爵邸に辿り着いた俺を、リア、セラ、アンジェリカの三人が迎えてくれた。

 三人共少し動揺している様子だ。


「ただいま」


 馬車に乗って伯爵邸に戻るまでの間に、少し落ち着いた。

 三人の他にも、伯爵を始め大勢の人が集まっている。


「アレク様。入浴は出来そうですか?」

「何とか」

「では、軽く入浴をしてから食事を取ってください。伯爵への説明は私がしておきます」

「分かりました」


 トーマスさんに指示され、浴室へ向かう。

 伯爵家のメイドさんだけでなく、三人まで付いて来ようとする。


「俺は大丈夫だから、説明を聞いておいてくれ」


 三人は不承不承頷いた。

 浴室について来られても困る。


 俺は十年近くぶりに、風呂でメイドさんのお世話を受けた。

 一人で大丈夫と言ったのだが、聞いてもらえなかった。

 しかし、体を洗う気力はなかったので、正直助かった。

 メイドさんは俺を気遣いながらも、淡々と洗ってくれた。

 まだ十三才だし、気にしていないのだろう。



 ◇



 風呂から上がり、メイドさんに連れられ食堂に移動した。


 食堂には誰もいない。

 時間的に夕食は終わっているかも知れない。

 まだ説明を聞いている可能性もある。


「普通に食べられますか?」

「出来れば軽食でお願いします」


 メイドさんにお願いする。

 すぐにサンドイッチが運ばれて来た。

 入浴中に用意してくれていたのだろう。

 ありがたく頂く。


 俺が食事をしていると、トーマスさんが食堂に入って来た。

 リア、セラ、アンジェリカの三人も一緒だ。


「私にも同じ物をお願いします」


 トーマスさんはそう言って俺の正面の席に座る。

 三人は俺の左にアンジェリカ、右にリア、その向こうにセラが座る。


「説明は聞いた?」

「ええ。大変なことになったわね」


 リアが答える。

 その表情は真剣だ。


「アレク大丈夫なの?」

「百キロ以上走ったと聞きましたわ」


 セラとアンジェリカが俺を心配する。

 そうか……確かに百キロ以上は余裕で走っているな。


「大丈夫だ」


 俺は安心させるように言う。


 メイドさんがトーマスさんのサンドイッチと飲み物を運んできた。

 トーマスさんは飲み物を一口飲むと、俺を見て話し始める。


「伯爵は防衛の準備を始めました。サザーランドまで魔物が来るとすれば、明日の早朝くらいでしょう」


 相当距離があるので可能性は低いと思うが、準備の必要はある。

 俺は頷きを返す。


「オフィーリア殿下はこのままサザーランドに待機です。セラ様とアンジェリカ様も一緒ですね」

「サザーランドなら安心ですからね」


 サザーランドは城壁で囲まれている。

 守備兵もいるし、近衛騎士も付いている。

 間違いなく安全だろう。


「私は明日王都に戻ります。ブリストにも魔物が向かっているでしょうから、騎士団が出る必要があるでしょう」


 俺は頷く。

 魔物狩りを怠るような家だ。

 おそらく氾濫に対応出来ないだろう。

 どう考えても騎士団が出撃する必要がある。


「アレク様はこのままサザーランドに待機――」

「俺も行きます」


 トーマスさんが言い切る前に宣言する。

 トーマスさんは困った表情を見せるが、すぐに諦めたように息を吐く。

 俺の性格が分かっているからだ。


「分かりました。明日は伯爵から馬を借りて騎乗で行きます」

「了解です」

「指示には従ってくださいね」

「勿論です」


 トーマスさんは俺の返答に微笑を浮かべる。

 三人は心配していたが、大丈夫と言い聞かせた。

 食後すぐに眠くなったので、部屋に戻り就寝した。


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