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異世界で王位継承争いに巻き込まれた  作者: しゃもじ
第三章 レイチェルの不安とメア子爵領の問題
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第二話 夏季休暇の始まりとサザーランドへの出立

 夏季休暇が始まった。

 学生の多くは、帰省に乗り合い馬車を利用する。

 学生一人の帰省のために、わざわざ馬車を用意する家は少ない。

 侯爵家や伯爵家くらいだ。

 そして、乗り合い馬車は朝早くに出発する。

 貴族学園の寮では、朝早くから大勢の学生が帰省のため出発した。


「それじゃあ皆、また後期に」

「皆さんも旅行、楽しんで来てくださいね」


 コリーとモニカも出発して行った。

 二人には、サザーランドへ遊びに行くと言ってある。

 大変だろうから、余計な心配をさせる必要はない。


 俺達が二人を見送り、学生が疎らになり始めた頃、四台の馬車が到着した。

 最も高価そうな馬車には、王家の紋章が刻印されている。リアの乗車用だろう。

 一台は何度も見たことがある。騎士団の馬車だ。

 もう二台には、サザーランド伯爵家の紋章が刻印されている。

 周囲には近衛騎士が十数名と、サザーランド伯爵の私兵が数名いる。

 騎士団の中から、トーマスさんとベティさんが出て来た。


「お迎えに上がりました。オフィーリア殿下、アレク様」


 トーマスさんの挨拶に合わせ、近衛騎士達が敬礼する。


「ご苦労様。ベティも来たのね?」

「私は基本的に、オフィーリア殿下付きですから」

「ミスリルの方は良いの?」

「パトリックさんが火魔法の使い手を集めていますので、問題ありません」


 ベティさんが微笑みながらリアに答える。

 この短期間で、あのレベルの火魔法の使い手を集められるのか……

 感心しながら聞いていると、トーマスさんが話しかけてくる。


「アレク様もご参加されるそうですね」


 査察のことを言っているのだろう。


「ご指導よろしくお願いします」


 俺が敬礼すると、トーマスさんがニコリと笑みを浮かべる。

 隣では、ダミアンも俺と同様に緊張の面持ちで敬礼している。


「サザーランドまでは、馬車で寛いでくださって結構ですよ」


 トーマスさんは笑顔でそう言うと、アンジェリカ、セラ、レイチェルの順に挨拶をする。

 セラはトーマスさんと挨拶した後、サザーランドの私兵に声をかけに行った。


「それでは皆様、馬車にお乗りになってください」


 挨拶が一通り終わり、トーマスさんに促され馬車に乗り込む。

 俺達は全員、王家の紋章が刻印されている馬車に乗り込んだ。

 サザーランド伯爵家の馬車の一台には、使用人が数名乗り込む。

 残りの二台は、近衛騎士と伯爵家の私兵が、護衛を交代しながら使うようだ。


 馬車が動き出す。

 サザーランドへは馬車で二日、貴族の領地の中では割と近い。

 単身で馬を使えば、一日で行けないこともない。

 馬がなくても、近衛騎士なら身体強化魔法で馬以上のことが出来る。

 俺だと、どうだろう?

 出来なくもないとは思うが……


 馬車の外の近衛騎士に目を向ける。

 近衛騎士は精鋭中の精鋭だ。

 能力の高い騎士が、必ずしも近衛騎士になるわけではない。

 しかし、能力がなければ近衛騎士にはなれない。


「リアの護衛のために、近衛騎士が十名以上か……」


 近衛騎士はそれほど多くない。

 今は確か五十名前後のはずだ。

 リア一人に十名以上というのは、些かやりすぎだろう。


「近衛騎士は私を含めて五名だけです。他は普通の騎士ですよ」


 馬車の横で護衛をしていたトーマスさんが教えてくれる。

 トーマスさんに顔を向ける。


「そうなんですか? リアの護衛なのに?」

「サザーランドまでの街道は安全ですから。近衛騎士が数名いれば、オフィーリア殿下の護衛は万全です。今回はサザーランドの私兵もおりますから」

「そうすると彼らは……あっ、査察官ですか?」

「そうです。道中の護衛はしてもらいますが、オフィーリア殿下の護衛は近衛騎士の四名だけです」


 よく考えれば、査察官に近衛騎士を使うわけがないな。

 自分で納得し頷く。


「アレク様が査察に参加するので、私だけは同行しますけどね」

「それは……ご迷惑をおかけします」


 俺がそう言うと、トーマスさんは笑みを浮かべた。

 俺はそっと目を反らす。



 ◇



 馬車の中では女性陣が会話に花を咲かせる一方で、俺の正面に座るダミアンは黙って外を見ている。


「今更だけど、ダミアンは帰省しなくて良かったのか?」

「問題ない。元々夏季休暇は、訓練に費やすつもりでいた。実家には帰省しないと伝えてある」


 ダミアンは笑みを浮かべる。


「自分の成長が実感出来ているからな。今は訓練が面白い」


 そう言ってもらえるのは素直に嬉しい。思わず頬が緩む。


「ダミアンもコリーもどんどん強くなっているよね。短期間で追い抜かれた気分」

「そうね。三人の訓練の様子を見ていると、敵う気がしないわ」


 セラとリアが会話に混ざる。

 アンジェリカとレイチェルもこちらを見ている。


「接近戦に重点を置いていたからな。身体強化以外の魔法は、まだ二人の方が上だ」

「まだ……ね」


 セラが言葉尻を捕らえる。


「そういう意味じゃないぞ」

「最近、訓練不足かしらね」


 リアまでそんなことを言う。


「訓練不足ですか? 相当訓練していると思うのですけど?」


 アンジェリカが、リアの言葉に疑問を呈す。

 レイチェルも頷いている。同じ気持ちのようだ。

 俺達が訓練している間、彼女達も訓練していた。

 探知魔法から始まり、それ以外の魔法も練習していたらしい。


「そうだけど……三人と比べるとね」


 リアの言葉に、俺とダミアンが微笑を浮かべる。

 入学から数ヶ月。俺達の訓練の量はかなり異常だった。

 毎日授業で訓練し、放課後も数時間自主訓練をした。

 休日は騎士団の訓練場で、トーマスさん相手に猛特訓。

 しかも接近戦特化だ。

 強くもなる。


「コリーの頑張りに感化されたな」

「恋は男を変えるよね」


 セラの言葉に皆、声を出して笑った。



 ◇



 途中の村で一泊して、翌日も朝から馬車を進めた。

 馬車は順調に進み、昼過ぎ頃に小高い山の頂上で一旦休憩となった。

 俺達は馬車を降りる。


「あれがサザーランドだよ」


 セラが指さす先には、大きな街が見えた。

 王都以南で最大の街、サザーランドだ。

 眼下に見下ろす街は広大で、王都にも負けていない。

 その先には海が広がっている。

 サザーランドは港町でもあるのだ。


「綺麗な街……」


 レイチェルが呟く。

 隣に立つダミアンも静かに街を見ている。


「伯爵領とは思えませんわ……」


 アンジェリカも驚いている。


 領地貴族の最高位は侯爵家で、その次が伯爵家だ。

 しかし、サザーランドは普通の伯爵家とは違う。

 海上貿易で大きな利益を上げており、はっきり言って侯爵家にも負けていない。


「メア子爵領にも海があればね……」

「海上輸送が使えたな」


 レイチェルとダミアンの会話が聞こえる。

 メア子爵領の南は陸地で、海まではかなりの距離がある。

 川も通ってはいるが、輸送に使うのは難しい。


 二人の会話に触れることなく休憩に入る。

 今日はここで昼食を取り、日が落ちる前にサザーランドに入る予定だ。


「順調ですね」


 査察官として同行している騎士に声をかける。

 彼は査察官の代表で、明日以降は俺の上官になる。

 名前はバートさん。


「サザーランドとの間は、人通りも多くて安全ですから」


 バートさんは答える。


「問題は明日以降ですか……」

「街道の状況次第ですね」

「バートさん達は査察官ですけど、戦闘も平気なんですか?」

「一応騎士ですから。トーマスさん達のようにはいきませんがね」

「近衛騎士の強さは、少し異常ですから」


 俺とバートさんは微笑を浮かべて会話する。


「アレク様も同じようなものでしょう?」


 トーマスさんが笑みを浮かべて会話に入ってきた。

 俺の強さは近衛騎士には程遠いと思う。


「近衛騎士には全然敵いませんよ」

「十三才という年齢を考えれば異常です。私の十三才の頃と比べれば、アレク様の方が多分強いですよ」

「本当ですか?」

「ええ。もしかしたら、ダミアン君やコリー君も私より上かも知れません」


 本当かな?

 嬉しさと訝しさが半々くらいだ。

 バートさんが感心している。


「アレク様とダミアン君も、戦力に数えて良いかも知れませんね」


 バートさんがそう言うと、周りの騎士からも同意する声が聞こえる。

 元よりそのつもりだ。


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