第七話 まさかの大発見
無事、全員が討伐に成功したが、岩ゴーレムはまだまだいる。
俺達は喜びを分かち合う暇もなく、次々やって来る岩ゴーレムを倒し続けた。
少しずつ討伐にも慣れ、岩ゴーレム討伐が単純作業に変わっていく。
次第に集中力が切れていくのだが、すぐにトーマスさんからの叱責が入り、集中力を取り戻す。
そんなこんなで、午前中一杯岩ゴーレムを狩り続けた。
◇
「疲れた……」
「何体倒したんだ?」
「分からん」
コリー、俺、ダミアンは、周囲の岩ゴーレムの残骸を見回す。
やって来る岩ゴーレムを倒し続けた結果、周囲は岩ゴーレムの残骸だらけになっている。
「五十弱くらいですかね。今日はこのくらいで良いでしょう」
トーマスさんが終了を宣言する。
とりあえず、探知範囲にはいない。
「これだけ倒しても、一銭にもならないんだよね」
コリーが岩ゴーレムの残骸を拳で叩きながら言う。
アルハロ男爵領のことを言っているのだろう。
「まあ、頑張れ」
俺がそう言うと、コリーは微笑みを浮かべる。
決心はついたのだろうか?
「せめて魔石でも取れればな」
「首を切り落とすくらいしか手がないな」
ダミアンの言う通り、魔石でも取れれば多少は金になるのだが、討伐の過程でどうしても砕くことになってしまう。
「火魔法で岩だけ溶かせないかな?」
コリーは冗談めかした言い方で、砕けた頭部に指を向ける。
指先からバーナーの様に、青い炎を出す。
あそこまで収束させるのは凄い。
コリーは火魔法の才能に秀でており、元々得意ではあったのだが、入学時よりも随分上達しているようだ。
「あ、溶けてきた」
コリーの言う通り本当に溶けてきている。
凄いな……岩って何度で溶けるんだっけ?
「あれっ?」
「どうした?」
コリーが岩を溶かしながら不思議な顔をしている。
コリーに近づくと、少し熱さを感じる。
火は小さいのだが、温度は相当に高そうだ。
本人には影響がないのが不思議だ。
「なんだろう? 溶けた岩の表面に何か出てきている」
溶けた岩の表面を見る。
確かに溶け落ちる岩の表面に、砂粒のようなものが浮かんでいる。
火魔法では溶けていないようだ。
トーマスさんとダミアンも近づいて覗き込む。
「溶けてないように見えるな」
ダミアンが言う。
岩が溶けるほど、その砂粒が表面に浮かんでくる。
「……ミスリル?」
「「「えっ!?」」」
トーマスさんの呟きに俺達は驚く。
「これ、ミスリルなんですか!?」
「分かりません。ですが、岩ゴーレムが溶ける温度で溶けないとなると……」
他に思い浮かばないということか。
「とりあえず一旦冷やして固めましょう」
トーマスさんの指示通り、コリーは火魔法を止める。
全員距離を取ってから、トーマスさんが水魔法を使う。
一気に水蒸気が上がる。
トーマスさんは水蒸気が収まるまで水魔法を使い続ける。
岩は固まったようだ。
トーマスさんは慎重に岩を手に取り、表面を観察する。
「……ミスリルだと思います」
「「「……」」」
俺達は絶句する。
大発見だ。
「……どうしましょう?」
「鑑定に出す必要がありますが、とりあえず他からも取れるか確認してみましょう」
俺達は頷き、各々動き出す。
しかし、問題が発生する。
「溶けないな……」
「俺もほとんど溶けない」
岩ゴーレムはダミアンの火魔法では全く溶けなかった。
俺の火魔法でもほとんど解けない。
「私も無理ですね」
トーマスさんが首を振る。
「コリーだけか……」
コリーだけは順調に溶かしている。
「コリー君、魔力の方は大丈夫でしょうか?」
「そうですね……少し厳しいかも知れません」
コリーも厳しいようだ。
トーマスさんが考える。
「……頭部を優先しましょう。他の部位も確認したいですが、それは後回しです」
コリーが頷く。
岩ゴーレムを溶かすコリーを見ながら、トーマスさんに話しかける。
「大発見ですよね?」
「ええ。ミスリルは本当に少ないですから。岩ゴーレムの価値が大きく変わります」
トーマスさんの言葉に気持ちが高揚する。
視線の先では、コリーが別の岩ゴーレムの欠片を溶かし終えた。
先程と同様に冷やし固めて確認すると、表面にミスリルが確認される。
トーマスさんが考え込む。
俺達は黙ってトーマスさんの言葉を待つ。
「他の部位を砕いて持ち帰りましょう。持てるだけで結構です。コリー君には申し訳ないですが、明日以降の放課後の時間に、ご協力をお願いします」
「は、はい!」
トーマスさんの依頼にコリーが返事をする。
「今日溶かした分は城で鑑定します。おそらく間違いないと思いますが」
そう言うと、真面目な顔をしていたトーマスさんの顔が笑顔に変わる。
「ミスリルだと確認されれば、勲章物の功績ですよ」
それは、そうなのだろうな。
でもこの功績は――
「コリーの功績で良いですよね?」
「えっ、僕!?」
コリーの功績に間違いないだろう。
「そうだな。俺もそう思う」
ダミアンも同意する。
意味あり気な笑みを浮かべている。
「……モニカも喜ぶぞ?」
「なっ!?」
ダミアンの言葉に、コリーは顔を赤くする。
「アルハロ男爵も大喜びだろうな」
俺もコリーを揶揄かう。
コリーは顔を真っ赤に染めて何も言えない。
「では、報告書にはコリー君の発見と記載しましょう。我々三人は共同発見者とします」
トーマスさんが笑顔でそう言う。
俺とダミアンは笑って頷く。
コリーはおろおろしていたが、最後には納得して頷いた。