第六話 岩ゴーレム撃破
リアとのお茶会の翌週から、俺、コリー、ダミアンの三人は、騎士訓練場でトーマスさんの指導を受けるようになった。
訓練は岩ゴーレム対策に特化したものだ。
岩ゴーレムの腕が届かない距離を維持し、長柄の戦槌を頭部に当てる方法を、ひたすら訓練で学ぶ。
トーマスさんが岩ゴーレム役だ。
両手にゴーレムの腕を模した棒を持ち、背中には一本の棒を立てる。
その棒の先、丁度高さが三メートルの位置に、ゴーレムの頭を模した的が付いている。
両手の棒による攻撃を躱しながら、頭を模した的に一撃を加える訓練だ。
足を狙う方法もあるらしいが、最初から頭狙いで問題ないらしい。
俺達は毎週休日になると、朝から夕方まで訓練に明け暮れた。
そのため、恒例となっていた女性陣とのお茶会は休止となった。
正確に言うと、俺が参加するお茶会は休止だ。
俺達が岩ゴーレム対策の訓練している間、女性陣は探知魔法の訓練をしていたらしい。
リアは、俺の頼みを受け入れてくれたようだ。
その成果は、前回から一月空けた二回目の実地訓練で確認出来た。
彼女達の探知魔法は、コリーやダミアンと遜色のないレベルに成長していた。
そして、五月の三週目の休日。
ついに岩ゴーレム狩りの日となった。
◇
今日は訓練場に赴き、トーマスさんと合流してから岩ゴーレム狩りに向かう。
メンバーは予定通り、俺、コリー、ダミアン、それにトーマスさんを加えた四人だ。
学園を出る俺達を、女性陣が見送りに来てくれた。
「無理はしないようにね」
「接近戦だし、少し心配だね」
リアとセラは少しだけ心配そうな表情をしている。
「トーマスさんも一緒だから」
二人を安心させるように言う。
トーマスさんとの訓練で、岩ゴーレムを倒せるだけの力は間違いなく付いている。
その上トーマスさんが一緒なのだから、万に一つも危険はないだろう。
「アレクなら大丈夫ですわ」
アンジェリカの言葉からは、不安の欠片も感じない。
「そうだな」
アンジェリカに微笑みを返す。
俺の横では、モニカが心配そうな顔でコリーと話している。
「本当に無理しないでくださいね」
「大丈夫だよ。ちゃんと訓練は積んだから」
コリーは優しい笑顔で答える。
どう見ても恋人同士にしか見えない。
上手くいってほしいものだ。
そのためにも、今日の狩りを成功させる必要がある。
コリーの向こう側では、ダミアンとレイチェルが話している。
二人も仲の良い関係に見える。
レイチェルが俺に縁談を申し込んでいる理由が、いまだに分からない。
セラが理由を探ってくれているはずだが、何か分かったのだろうか?
小声でセラに話しかける。
「レイチェルの縁談のことは、何か分かったのか?」
「話はしているよ。もう少し待っていて」
レイチェルと話は出来ているようだ。
ならば、任せたままで良いだろう。
俺はセラに頷く。
「ダミアン、アレク、そろそろ行こうか」
「分かった」
「そうだな。トーマスさんを待たせるのも悪いし」
俺達は女性陣に見送られて、学園の寮を出発した。
◇
騎士訓練場でトーマスさんと合流した俺達は、馬車で魔物領域に到着した。
実地訓練で使う森に隣接する、岩場の多い山が今日の狩場だ。
「ここが岩ゴーレムの住処か」
「数はそれほど多くないですけどね」
俺の呟きに、トーマスさんが答えてくれる。
「ですが、冒険者も少ない……というよりいないので、定期的に騎士団が討伐に来ています」
トーマスさんが教えてくれる。
岩ゴーレムは金にならないから、冒険者も来ない。
アルハロ男爵家が、自分達で対応しているのと同じだ。
「ですから、今日は頑張って倒してくださいね」
「え!? 騎士団の仕事では?」
「訓練に付き合ったのですから、その分は働いてください」
「まあ、良いですけど」
爽やかな笑顔でトーマスさんが言う。
冗談半分だろうけど、折角なので頑張ろう。
コリーとダミアンも呆れ混じりの笑みを浮かべているが、不満はなさそうだ。
「それでは行きましょうか」
トーマスさんの後について行く。
◇
五分も歩かずに岩ゴーレムに遭遇した――というより探知魔法の範囲内に複数いる。
「……どこが少ないんですか」
「普段は月初めに討伐に来るのですが、今日の予定がありましたから」
今月の討伐は省いたということだろう。
トーマスさんが悪びれることなく言う。
どうやら、一、二体倒すくらいでは済まなそうだ。
「とりあえずお手本です」
トーマスさんは戦槌を構えて岩ゴーレムに向かう。
岩ゴーレムが右手を振りかぶる。
トーマスさんはその攻撃を難なく躱すと、攻撃してきた右側に回りこむように移動しながら、戦槌を振る。
戦槌は狙い通りに岩ゴーレムの頭を捉える。
岩ゴーレムの頭は実地訓練の時と同様にあっさり砕け、活動を停止した。
「こんな感じですね」
トーマスさんの言葉に俺達は頷く。
すると、道の先から岩ゴーレムが近づいてくる。
「誰からやりますか?」
「俺から行きます」
トーマスさんに聞かれ、俺が答える。
コリーとダミアンも異存はないようだ。
戦槌を構え、身体強化魔法を発動する。
岩ゴーレムが近づいてくる。
真っすぐに駆け出すと、岩ゴーレムが右手を構えるのが見えた。
俺の接近に合わせて攻撃を仕掛けてくる。
俺は岩ゴーレムの攻撃範囲の外側で攻撃を回避する。
トーマスさんのお手本の通りだ。
頭を目掛けて戦槌を振る。
戦槌は狙い通り直撃し、頭が砕けた。
攻撃後すぐに離脱する。
目の前で、岩ゴーレムが大きな音を立てて倒れた。
「倒した……よな?」
「はい。討伐完了です」
トーマスさんが答えてくれた。
俺はホッと一息つく。
「おおっ!」
「凄い!」
ダミアンとコリーの声が聞こえた。
俺は二人の方を向く。
「訓練通りやれば大丈夫だ」
「そうだな。次は俺がやろう」
ダミアンがやる気を見せる。
そうだな。主役は最後で良いだろう。
◇
「フン!」
ダミアンが戦槌を振ると、岩ゴーレムの頭が砕け散った。
岩ゴーレムは動きを停止し倒れる。
「ダミアンも討伐成功だな」
「訓練の甲斐があったな」
ダミアンが嬉しそうな顔で答える。
自分で倒した岩ゴーレムを見て、感慨深そうな顔をする。
「本当に倒せるようになるとはな」
「俺の言った通りだろ?」
「……そうだな」
ダミアンが微笑を浮かべる。
二ヶ月前に男子風呂で話をした時は、信じていなかったのだろうか。
「次は僕の番だね」
やや緊張の面持ちのコリー。
「訓練通りやれば大丈夫だ」
「さっき俺が言ったのと同じだな」
「事実だからな」
ダミアンは岩ゴーレムの討伐に成功し、余裕が出たようだ。
コリーは、俺とダミアンのやり取りに笑みをこぼす。
「次、来ましたよ」
トーマスさんの声を聞いて、道の先に目を向ける。
コリーが前に出て戦槌を構える。
コリーと岩ゴーレムを比べると、身長が倍近く違う。
コリーは自分の身体能力の低さを不安視していた。
俺達はまだ十三才で、成長期が始まったばかりだが、コリーは同学年の中でも小柄だ。
岩ゴーレム討伐に自信が持てなかったのも、仕方がないだろう。
でも、コリーは岩ゴーレム討伐を決めてからの二ヶ月間、本当に努力した。
体を鍛え、身体強化魔法の練習をした。
戦槌の扱いも上手くなった。
最初は振り回されていたが、今では自由自在に扱っている。
目の前では、コリーが岩ゴーレムの攻撃を回避したところだ。
コリーは戦槌を振る。
――ガツッ
戦槌は僅かにずれ、頭をかすめる。
コリーはすぐに離脱し戦槌を構える。
攻撃が当たっても、当たらなくても、一旦離脱する。
訓練通りだ。
隣ではトーマスさんが満足そうに頷いている。
コリーは再び岩ゴーレムに迫る。
攻撃を躱し、再度戦槌を振る。
戦槌が岩ゴーレムの頭に直撃し――動きを停止した。
「……倒した」
コリーが呆然とした顔で呟く。
「おめでとう」
「やったな」
「よく頑張りましたね」
俺、ダミアン、トーマスさんは、コリーを祝福する。
コリーがこちらを向く。
呆けていた顔が徐々に綻び、最後に最高の笑顔になった。
「やった……やったー!」
討伐成功だ。