第五話 実地訓練を終えて
岩ゴーレムを倒した後は順調に進み、訓練時間に多少余裕を持って森を出た。
広場には同級生達の姿が見える。
その中にはリアの姿もあった。
俺達の学年は三十人で、今日は六人ずつ五班編成だ。
戻っているのは、俺達を含めて四班のようだ。
班員から離れ、リアの元に向かう。
「リア、お疲れ」
「お疲れ様、アレク」
「本当に疲れているな」
「ええ。実戦って思ったより大変ね」
微笑を浮かべるリアの顔には、少しだけ疲労感が見える。
リアの班員を見ると、こちらはぐったりしている。
とりあえず怪我をした学生はいないようだ。
「ただいまー」
セラがやって来た。
いつの間にか、セラの班も戻って来ていたようだ。
これで全班戻って来たことになる。
「お帰り。セラは元気そうだな」
「私も疲れてるよ」
「そうは見えないわね」
セラは元気一杯に見える。
リアも俺と同じ感想のようだ。
二人と会話をしていると、男性教員が大きな声で指示を出す。
「全員無事に戻って来たな。疲れているだろうが、すぐに持ち物を確認して馬車に乗ってくれ。暗くならない内に帰るぞ」
今日は日帰りだ。
朝から移動して、早めの昼食後に訓練を開始。
訓練を終え戻ってきて、今は午後二時くらいだ。
全員、重い腰を上げる。
「続きは帰ってからだな」
「そうね」
リアが返事をし、セラは頷いて自分の班に戻って行った。
俺も自分の班に戻り、すぐに班ごとに馬車に乗り込んだ。
◇
「三人だけで岩ゴーレムですか?」
馬車の中で、トーマスさんに岩ゴーレム狩りのことを話した。
以前、男子風呂で会話した内容だ。
そのための訓練は続けていて、女性陣にも知られている。
「何でまた?」
「岩ゴーレムくらい簡単に倒せる男の方が、格好良いでしょう?」
俺がそう言うと、モニカが顔を赤くして少し俯く。
アンジェリカとレイチェルは、その様子をニマニマと笑みを浮かべて見ている。
ダミアンが微笑を浮かべてコリーを見ており、コリーは無言で視線を逸らす。
二人は最近、満更でもなさそうな雰囲気になっている。
「ああ……」
トーマスさんが頬を緩ませる。
モニカがアルハロ男爵令嬢であることは先程伝えているので、状況を察したようだ。
「まだ難しいのではないですか?」
「訓練は続けています。予定では一ヶ月半後くらいに挑戦しようかと」
「一ヶ月半後ですか……」
トーマスさんが顎を触りながら考える。
大丈夫だと思うけど……
「厳しいですかね?」
「装備は戦槌を使うのですよね?」
「はい」
また考え込む。
う~ん、そんなに難しいだろうか。
「宜しければ、私が訓練を見ましょうか?」
「トーマスさんがですか!?」
思わぬ申し出に驚く。
皆、目をまるくしている。
近衛騎士が訓練を見てくれるなんて、普通はあり得ない。
「ええ、休日だけですが。アレク様なら騎士団の訓練場にも普通に入れますし、戦槌も貸し出し出来ます」
「それは何というか……良いのですか?」
「アレク様なら問題ありません。王族ですから」
問題はあるだろう。
王族も色々だから……ベンジャミンとか。
「但し、条件があります」
「条件ですか?」
「当日は私も行きます」
「え!?」
まさかの同行依頼だ。
驚く俺を見て、トーマスさんが肩を竦める。
「実際は訓練を見る条件ではなく、狩りを認めるための条件です。アレク様は目を離すと一人で魔物領域に行きますが、本来は駄目ですから」
「法律上は禁止されていませんし……」
「立場を考えてください」
トーマスさんが小声で「特に今は……」と呟くのが聞こえた。
今、俺に何かあると、色々大変だからな。
皆にも聞こえたと思うが、何も聞かないでくれている。
「了解です。二人とも良いか?」
ダミアンとコリーに尋ねる。
「構わない……というより、ありがたい話だろう」
「勿論良いよ。僕らに不利益は何もないもの」
二人は了承してくれた。
その後、トーマスさんと話し合い、今後の予定が決まった。
明日の休日は休養を取る。
来週以降の休日は、朝から夕方まで、騎士訓練所場でトーマスさんの特訓を受ける。
平日の日は身体強化に注力して訓練する、と決まった。
◇
翌日の休日。
今日はリアと二人だけのお茶会だ。
他の皆は実地訓練の疲労があるので休養を取っている。
セラも用事があるらしく、王都のサザーランド伯爵邸に戻っている。
「騎士訓練場で近衛騎士相手に訓練ね」
「俺は王族だから構わないらしいぞ」
「権力の私物化よね、今更だけど」
リアがクスクスと笑う。
俺もリアもセラも、小さい頃からトーマスさん達に教わっていた。
確かに今更ではある。
「それで、コリーとモニカは上手くいきそうなの?」
リアが面白がるような視線を向けてくる。
そういえば、リアとこの話はしていなかった。
「岩ゴーレム狩りに成功さえすれば、多分上手くいくと思う」
「二人の気持ちはどうなの?」
「二人とも満更でもないように見えるけど……もしかして反対か?」
別の相手を見つけることには、同意してくれていたはずだが……
「賛成反対以前に、コリーのことをよく知らないからね」
リアは俺以外の男子とは、適当な距離を取っている。
コリーのことをよく知らないのも当然だ。
「良い奴だよ。真面目だし、才能もあるし」
「二人が嫌でなければ良いのだけどね」
「気になるのか?」
「自分の恋路のために他の男性を勧めるのだから……多少罪悪感はあるわ」
リアはそう言って視線を落とす。
その様子に顔が綻ぶ。
「大丈夫。コリーは自信を持って勧められる男だ。それに無理強いはしない」
「それなら良いけど」
「一緒に訓練するか? 人となりを知れば、安心出来るだろう?」
「止めておくわ。私がいたら、コリーもダミアンもやり辛いでしょう?」
確かにそうかも知れない。
少し考えて頷きを返す。
代わりに、女性陣の探知魔法の訓練を頼んでおいた。




