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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

元公爵夫人は冒険者になりたい。だってコレクターだもん!

作者: ここるく

読み専門でしたが、生まれて初めて書いてみました。

お手柔らかにお願いします。


「紹介しよう、男爵令嬢のマリア・デ・ウィードリスだ」


 そう、私に言い渡すのは、公爵家の当主ラインハルト・フォン・エクセライク。輝く銀髪を撫で付け、白いシャツにグレーのベスト、黒のトラウザーズとシンプルな装いなのにキラキラと輝かしい。神様に愛されたかのような整った顔に冴え冴えとしたサファイアブルーの瞳、目元の泣きぼくろが印象的。銀髪も伴い『爽涼の貴公子』と呼ばれ夜会に出ればたちまち女性の目線は釘付けだ。


 紹介された彼女は肩までのふわふわのピンクブロンドにくりっとした眼、小柄で庇護欲を唆られる可愛げな態度。ふと、ヒロインみたいな色合いだなと思う。


「はじめまして、ルティカ・フォン・エクセライクです」


 一般的に比べれば背が高く、女性らしいフォルムをしているがお世辞にも可愛いとは言い難い私。真っ直ぐなプラチナブロンドに深いコバルトブルーの瞳、どちらかと言えば綺麗な部類に入ると思われる。因みにラインハルトの妻で公爵夫人だ。


「はじめまして、マリア・デ・ウィードリスです。どうぞよろしくお願いします」


「今度マリアを第二夫人に迎える。そのつもりで準備してくれ」



 ーーはぁ?!



 ルティカは社交界で鍛えられた隙の無い完璧の微笑みを浮かべ、ラインハルトを見る。


「では、私とは離縁なさってくださいね。慰謝料として今まで私に頂いたものを貰っていきます。ドレスなどどうせ私以外には着れないでしょうし。ああ、何か書類等でサインが必要な時は冒険者ギルドに言付けてください」


 くるりと反転しそのまま足早に出口に向かうその途中でマリアに


「じゃあ公爵夫人頑張ってね」


 にこりと微笑み、出口の前で一旦振り返り


「ラインハルト様、今までお世話になりました」


 完璧なカーテシーを決めて退出。


 ラインハルトもマリアもぽかんとしたままルティカの去った扉を見つめるだけだった。



◇◇◇



 淑女としてはあるまじき速さで長い廊下駆け抜けて、自室に入りカチャリと鍵をかける。


「全くふじゃけんじゃ無いわよ!! 何が第二夫人よ! ただの浮気じゃんっ!!」


 ぷんすかと怒りながら、仕立ての良いドレスを脱ぎ捨てる。コルセットも一人で脱着出来る簡易式だから大丈夫。動きづらい服を脱ぎ、纏めた髪を下ろして軽く結び、大きな深呼吸をしながら伸びをする。


 このままベッドに転がりゴロゴロしたい所だが、ぐずぐずしてると面倒な事になりそうだ。さっさと動こう。


 アイテムBOXから愛用のチュニック型の上着とパンツ、革のブーツ、マント、いつものアイテムを取り出して身に付ける。


「久しぶり〜。やっぱり楽で良いわ」


 脱いだドレス等をアイテムBOXに入れてクローゼットに向かう。ラインハルトに貰ったドレスや装飾品を片っ端からBOXに詰め込む。これらを売ればしばらくのんびり出来るだろう。……贅沢はしたつもりはなかったが以外と量があるな……。


 そんな最中に激しく扉が叩かれ、鍵をガチャガチャされる。


「おい! 何をしている!? ここを開けろっ!」


 ちっ、忙しいのにうるさいな〜。でも鍵は家令のエドワードが予備を持っているからそのうち開いてしまうだろう。それまでに入れれるだけでいっか。


 せっせと慰謝料を貰っていると、バンッと大きな音を立てて扉が開いた。怒りと困惑の表情を浮かべてラインハルトが慌ただしくやってきた。淑女の部屋に勝手に入ってくるなよ〜。


「どういう事だ、ルティカ。離縁なんて何を言っているんだ!」


「ラインハルト様こそ何を仰っているのです? お義母様がどうしてもと言うから結婚しましたが、その際に私あなたに確認しましたよね? 浮気は許さないと。第二夫人? どうぞ勝手になさってください。公爵夫人もあの彼女がやってくれる事でしょう。今後私に関わらないでくださいね。それでは!」


 一気に言い切り詰め寄ってくるラインハルトをさらりと躱し、屋敷の入り口に向かう。ランクBの実力を甘く見るなよ。鍛えているラインハルト様よりも動けるんだからね!

 メイドや皆が心配そうに見るけど気にしない!軽く手を振って微笑んどく。


 公爵家は広くて大きい。屋敷からゲートまでも遠く、いつもは馬車で移動だ。

 でももう関係ない。軽く走って出て行く。疾風の腕輪を付けて私が走れば馬より速い。ビバ!有り難うチート!


 自由を満喫しつつ嬉しそうに出て行くルティカの後ろ姿をラインハルトはボー然と見送っているだけだった。



◇◇◇



「あら? 久しぶりね、ルカ。元気だった?」


 受付嬢のタチアナがギルドに入ってすぐに私を見付けて声を掛けてきた。ちなみにギルドではルカと名乗っている。


「久しぶり! 元気、元気。ねぇ、悪いんだけど連絡とかって預かって貰える?」

「良いわよ。それもギルドの仕事だし」

「……じゃあ『ルティカ・フォン・エクセライク』に連絡あったら教えてね」

「……ルカ……公爵夫人だったの?」

「あ、元ね、元。もうやめたから!」

「はぁ?! やめたって……ちょ……どういう?」

「じゃあ、よろしく〜」


 タチアナが騒いでいたが、聞こえないフリをしてギルドから出て行く。


 さてと今日は自由になったお祝いに贅沢して美味しいものでもいっぱい食べよう!

 もちろん公爵家での食事は美味しかったが、ドレスを着ての食事は疲れるし。

 あぁ、一応実家にも連絡しとかないとダメかも。ま、明日にでも一度帰ろうかな。


 そんな事を考えつつ冒険者時代の常宿に向かうルティカだった。



◇◇◇



 昨晩は久しぶりに伸び伸びとご飯を満喫出来て、大満足のルティカは機嫌良く実家であるサーバンド侯爵家を訪れた。


「お嬢様っ!? お帰りなさいませ!」


 家令のセバスが珍しく驚いた顔をして迎えてくれた。


「久しぶり、セバス。お父様はいらっしゃるかしら?」

「旦那様は先週より御領地に視察に行ってらっしゃいます。奥様は只今サロンにおいでです」

「わかったわ、有り難う」


 サロンには今日も麗しいお母様が寛いでいらっしゃった。

 お母様はエメラルドグリーンの瞳で私と同じプラチナブロンドだがふわふわで可愛らしい。


「お母様、お久しぶりです」

「あら〜るーちゃん、元気だった?」

「はい、元気です。お母様もお変わりなく?」

「ええ、元気よ〜。でもどうしたの?その格好も久しぶりに見たわ。何かあったの? 昨日ラインハルト様がいらっしゃったのよ?」

「えっ!? ……何か言ってましたか?」

「いいえ、るーちゃんがいないとわかったらすぐ帰られたわ。あんな焦ったあの方を見たのは初めてだったわ」


 ルティカは昨日あった事を説明し、侯爵家に迷惑がかかるから勘当してほしいと伝えた。


「まぁ……るーちゃんがいいならそれでも良いと思うけど、勘当まではしなくてもいいんじゃない?」

「これからは冒険者としてやっていきたいのです。こちらに戻るとやはりご迷惑をおかけしますので……」

「……わかったわ。一応そうセドルには伝えておきます。でも例え勘当したとしても私達の娘である事には変わらないからね。忘れないで。るーちゃんが楽しく生きてくれればそれで良いのよ」

「お母様……有り難うございます。お父様がお帰りになったらまた参りますわ」

「待ってるわ。でももう一度ちゃんとラインハルト様とお話しした方がいいと思うわよ。あの方がるーちゃんを手放すとは思えないから」

「……分かりました……」



◇◇◇



 私、ルティカは所謂転生者だ。

 前世は日本生まれの一般ピーポー。普通に生きて結婚し、子供はいなかったが平凡なパートのおばちゃんでラノベを読みまくっていたアラフィフだ。良い事もあれば悪い事もあったし、割と幸せだと思う人生を送っていたが、特に善行も積んでいた訳でもないので転生するとは思わなかった。

まあ、最期に子犬を抱いた少年を助けて死んだっぽいからそのおかげかな?


 気が付いたら赤ちゃんでびっくりしたが、ラノベのおかげで焦る事もなく状況を把握出来たのは良かった。のかなぁ?


 でも自分が侯爵令嬢だと気づいた時には、すわ!乙女ゲーかっ!?と焦ったが自分と同じ年代に王子がいなかったので違うと判断。特に誰からも何も頼まれていないので、折角だから楽しもうと色々やってみた。


 転生ボーナス的に、言語、ステータス、スキルポイントがあったのでそれらを使い、憧れの魔法を使える冒険者になろうと思った。侯爵家といっても、兄も姉もいて、国内は安定していて権力抗争もほぼないため末っ子の私には甘々で好きに生きても良いと言われていた。


 もちろん沢山の愛情を注いでくれた家族には感謝しているし、愛しているので侯爵家として恥ずかしくはないように、マナーや勉強などはちゃんと努力した。やった事のない事を勉強するのは面白かったし、楽しかった。

 それなりの教養を身につけてからは父親にも了承を得て、12歳で冒険者として活動し出した。スキルポイントで好きなスキルを得られるが、レベルを上げるのは地道な努力だったのでちまちま頑張った。

ゲームも若い頃はやっていたがMMOにはついていけなかった。でもファ◯コン世代を舐めんなよ!レベルは上げるもの!と思っている。


 最初の散策でゴールデンスライム的なモノを発見!それはレアアイテムを落とすと聞いていたので必死に討伐した。ひぃひぃ言いながらgetしたものは合成の腕輪。手首にじゃなく、二の腕用。昔漫画で見た時にこんな位置に止まっている訳ないじゃ〜んと思っていたが、ちゃんといる。なぜなら私にぶっ刺さっているからだ。

 

 合成、もしくは錬金のスキルを持っている者が使える腕輪。どんなものでも材料さえ揃えば即、合成出来る優れモノ。うきうきと付けてみたら、うっぎゃー!!

 内側から棘みたいなもの(見えないから予想)が出て来てぶっ刺さった。


 はい、呪われてました〜。

 

 鑑定のレベルを上げてから視てみると呪いと言っても、私にしか使えず、外せず、私の子孫になら譲れる感じ。まあ、痛みは一瞬だったし腕と一体化したようで邪魔にもならないので、よしとしている。


 性能は抜群だし、何よりコレクター魂を揺さ振る逸品。レアアイテムを合成してみたいじゃないですか!材料を集めるのも兼ねて、レベル上げに勤しんだ。ちまちまやった甲斐があって冒険者としてのランクもBまで上がりそこそこ活動出来るようになったと思う。


 ちなみに将来、もし太った時にこの腕輪がみちみちになったり、脇が擦れて炎症をおこさないかとひやひやしているのは内緒だ。


 そんな時に採取の最中で魔物に襲われている馬車を見かけたので、助けた。出来ない事はしないが自分に出来る事ならすべきだと思ったから。もちろん護衛も居たが色々事情があり人数が少なくなった時に襲われたので危なかったらしい。

 そこに乗っていたのがラインハルト様のお母様で大変感謝された。護衛も兼ねて一緒に王都に戻った際にお話ししていたら気に入られ、息子の嫁に、となった。


 自分も貴族だが、腹芸は出来ないし、夜会は苦手でデビュタントしか出た事がないし、何より冒険者としてやっていきたかったので、丁寧にお断りさせて頂いた。でも後日正式に公爵家から申込みがあり、一度顔合わせだけでも、と言われて流石にお断りも出来なかった。


 初めて見たラインハルト様は噂通りに美しく、綺麗な顔だなぁと感心してしまった。その色合いがとても好きだと思った。


 とりあえず、自分は貴族に向いていない、ラインハルト様ならお相手は選び放題だから私は遠慮します、という事をやんわりと伝えてみた。が、どこをどう思ったのかそのまま進めたいと強く言われた。

お父様もお母様も私が嫌なら断っても良いと仰ってくれたが、公爵家からの申し出を断る事も出来ず、それならばと条件を付けさせて貰った。浮気は許さないと。


 そ・れ・な・の・にぃ〜


 あからさまな愛情表現はなかったが、好かれていると思っていたのに……あれは、ない。


 思い出し怒りをしながらルティカは冒険者ギルドに向かった。



◇◇◇



 ギルドに入るとちょうどギルを見つけた。ギルは龍人で体力面で強く、ランクも高い。黒髪の美丈夫で龍人のため虹彩が縦だが整った顔をしている。私の合成の腕輪を見て依頼してきたのだ。合成する対価としてたまに材料を集めるために一緒にパーティを組んで行動していた。


「ギル! 久しぶり! こっちに来てたんだ」

「ルカか、3年振りだな。結構溜まったぞ。そろそろ渡そうと思っていたんだ。ちょうど良かった」


 ギルは私に依頼した合成して欲しいものの材料を集めて貰っている。本当は私も一緒に集めたかったのだが、結婚したため諦めていた。

 でもこれからは自由だ。行けなかった他国にも行ってみたい。ギルに一緒に行ってもらえないか頼んでみよう。


 ご飯に誘い、会えなかった間の話を聞いた。アイテムもだいぶん溜まったが、まだまだ必要なものがある。それを一緒に集めに行きたいと言えば、軽く了承してくれた。


 ギルはまだ依頼途中だったので、終わったら出発する事になった。それまでアイテム採取とリハビリを兼ねて依頼を受けようかと思いギルドを訪れた。

 久々に依頼ボードを見ようと思っていたが、タチアナに呼ばて受付に向かう。


「ルカ、連絡があったわよ」

「……何て?」

「エクセライク公爵から話があるので一度公爵家に来て欲しいって」

「……わかったわ。5日後伺うと連絡して貰っても大丈夫?」

「OK。じゃあ、そう連絡しとくね」

「よろしくね」


 面倒だがこのままって訳にもいかない事は分かっている。仕方ないか、まあ5日後なんだから今日は依頼だ〜。うきうきと依頼ボードに向かうルティカだった。



◇◇◇



 一週間振りの公爵家。

 エドワートに執務室に通された。ラインハルト様は机に向かい書類に目を通していた。勧められるままにソファーに座る。メイドがお茶を用意して、退出すればラインハルト様と二人きりだ。もちろん夫婦なのでなんら問題はない。


「それで、お話とは?」


 書類を片付け顔を上げたラインハルト様は苦々し気に呟いた。


「……離縁はしない」


「どうしてですか? 彼女を気に入ったのでしょう? 公爵家も彼女がいれば大丈夫じゃないんですか?」

「彼女を気に入った訳ではない」

「ではなぜ第二夫人に?」

「彼女に公爵夫人の仕事をして貰ったら、貴女は……その……冒険者をしても問題ないかと思ったんだが……」


 はぁ?


「それは、彼女に失礼ではありませんか!?」

「彼女は了承済みだ。あくまで契約で男爵家の援助の代わりにとの事だったのだ」


 ふーん。


「なぜそんな事を?」

「貴女が……貴族として生活するのを煩わしがってるのは分かっていた。段々元気が無くなってきたから……冒険者として生活すれば少しは気分が晴れるかと思ったのだ」


 あら?意外と気に掛けていたんですね。


「お気にして頂き有難うございます。それならば、そのまま離縁して貰えれば冒険者としてやっていけますので助かります」

「離縁はしない!」

「なぜです?」

「……」

「ラインハルト様は別に私じゃなくても良いのでしょう?」

「そんな訳あるかっ!」


 あれ?


「もしかして……ラインハルト様は私の事……気に入っていらっしゃる?」

「そうだっ! 何度もそう言ってただろう!?」

「……ゼロではないでしょうが貴族特有の社交辞令だと思ってましたわ……」

「!そうなのか!? ……まあ、いい。貴女が嫌なら第二夫人は娶らない。戻って来てくれ」

「それでは彼女が困るのではありませんか!?」

「……では援助の話だけは通そう」

「そうしてください。でも私は戻りませんよ? 離縁でお願いします」

「!!そんなに私の事が気に入らないのか!?」

「……そんな事はありませんわ。嫌いな貴族をやっていっても良いと思う位には貴方の事を思ってましたわ」

「ならば、なぜっ!?」


 こんなに焦っているラインハルトは初めて見た。レアだなぁ〜。


「久しぶりに冒険者として生活してみて思ったんです。やはり私に貴族は向いていないと。ラインハルト様の事は愛していますが、もう疲れました。申し訳ありませんが、離縁して自由にしてください」


「!! ……今……何と?」


「離縁してください」

「それではない! その前だ!」

「?疲れました?」

「違うっ! ……その……私を愛して……いると?」

「ええ、もちろんそうですわ。愛していない殿方と結婚するのはさすがに嫌ですもの」

「……そうだったのか……」

「私も……伝えてませんでしたか?」

「……伝わっていない」


 うーん、言ってなかったかなぁ?

 まあ、貴族とはこうあるべき!と、お淑やかに猫を被っていたのは認める。ラインハルトとの三年間は割と穏やかに過ぎていたし、嫌いではなかった。でも三年経っても子供の兆しが見られない私に対する周りの目が厳しくなってきたのも確かだった。


「私達の間に会話が少かったのは反省します。申し訳ありませんでした。でもやはりもう貴族は辛いのです。公爵夫人には戻りたくないです」

「冒険者としてやっていくのか?」

「はい、取り敢えずギルと世界樹の紅葉葉を採りに行こうと思っています」

「! ……その者が……好きなのか?」

「ギルは龍人です。龍人は番以外には好意を持ちません。ギルとは友人として親しくしているだけです。あと、契約的なものですね」

「そ、そうか……」


 そう聞いたラインハルトは少し落ち着いだようで、眉間にシワを寄せて何かを考えている。


「私の事は嫌いではないのだな?」

「はい」

「では、その採取から戻って来るまで猶予を貰えないか?」

「猶予とは?」

「離縁はしない。戻って来るまでに何とかする」

「何とか……とは?」

「何とかだ。これ以上は譲らん。嫌なら閉じ込めてでも行かさんぞ」


 まあ、行かせてくれるなら問題ないかと思い了承した。世界樹がある所はこの大陸の中央部にあるので国としては三ヶ国挟むし、戻って来るまでには二年くらいかかるだろう。


「分かりました。では二年後にまたお会いしましょう」

「ああ……気を付けてな」

「有難うございます。……ラインハルト様もお元気で」


 思ったよりもあっさりしてたな〜と思いつつ、公爵家を後にしたのだった。


 実家であるサーバンド侯爵家にも寄り、父であるセドリアルに報告した。その結果、勘当は帰って来てからまた考えるという事になり、旅行の安否を気遣われるだけで終わり、ギルの依頼が終わるのを待って、二人で世界樹のあるラルファ王国に向かった。



◇◇◇



 二年間で様々な新しいアイテムを採取し、ほくほくで帰って来たルティカ。

そんなルティカをギルドで待ち構えていたのは、以前よりも精悍な顔付きになって、剣士のような格好のラインハルト。


「ラインハルト様……お久し振りです。その格好はどうされたのですか?」

「何を言ってる、ルティカ。私も冒険者になっただけだ。ランクもAに上がったぞ」

「はぁ!? ランクA? 何で? どうやって? それより公爵家は?」

「まあ、こんな所でなんだ。場所を変えよう。ギルも良いかな?」


 柔かな笑顔を見せているが、目は笑っていないラインハルト。


「いや、俺は用事があるので……二人で行くと良い。では、また明日にでも。じゃあな、ルカ」


 に、逃げたなぁ〜。ズルイよ、ギルぅ〜。



◇◇◇



 ランハルトが泊まってる宿に連れてこられたルティカ。そこそこ上級ではあるがとても公爵様が使われる様な宿では無いなと思いつつも、雰囲気の変わったラインハルトを前にびくびくと様子を伺うしかない。

 自ら紅茶を入れて出してくれた。そんな姿は初めて見たので、びっくりだ。


「元気だったか?」

「はい、変わりなく。ラインハルト様も?」

「ああ、元気だ。もう公爵ではないし夫婦だろう?敬語も使わなくて良いし、ラルフと呼んでくれ。私もルティと呼んでも?」

「ええ……良いですよ。その……公爵ではないとは?」

「公爵は弟のツヴァルツに譲った。一年は引継ぎも兼ねてしていたが、去年からは本格的に活動してランクも上げた。これでルティと一緒に冒険出来るぞ」


 なんとも嬉しそうな顔をしてる。そんな顔も初めて見た。


「公爵家を譲るなんて何て事をっ! お義母様もそんな事を許されたのですか?」

「ああ。もちろん最初は良い顔をされなかったが、どうしてもルティと一緒に生きていきたいと言えば許してくれたよ。ツヴァルツも良いってさ」

「その……随分雰囲気が変わったのね。フランクというか、軽いというか……」

「私も学んだんだ。貴族のままではルティは逃げるからな。もう逃がさないよ。一緒に生きていこう。愛してるんだ、ルティ」


真っ直ぐに見つめられて、そんな整った顔で言われれば顔も赤くなる。大体そんな事など言われた事などなかった。もちろん嬉しいが、戸惑いの方が大きい。


「でも、私はこれから地道なアイテムを集めようと思っていたので……その……目立った活躍とかはしないと思うけど……」

「構わないよ。ルティと一緒に居られればそれで。金に困っている訳でもないし、君のやりたい事をすれば良いさ。手伝うよ」


「そんなに思ってくれてたのね。知らなかったわ」

「ああ、学んだと言っただろう? 気持ちは伝えなきゃ伝わらないと分かったし、遠慮はしない。ひと目見た時から好きだったんだ。貴族でも冒険者でもどんなルティでも構わない。もう離れないぞ」


 流れる様な動作で抱き締められて、頭にすりすりされる。


 誰だ、これ?ホントにラインハルトかな?別人?


 うーん。

 まあ、好きにさせてくれる様だし、元々ラインハルトは好きだったし、問題ないか。夫婦も継続中だし。


「分かりました。これからもよろしくお願いね、ラルフ」


 顔を見上げて、にっこりと笑って了承すると破顔された。

 そんなに思ってくれていると思うとじんわりと心が暖かくなり、その腕の中が安心出来る。背に腕を回してぎゅっと抱き締めるとラインハルトも強く抱き締めてくれた。


 しばらくお互いの体温を確かめ合っていたが、ふいに横抱きされた。

 ラインハルトの首に捕まりながら、目を見て疑問を投げ掛ける。


 柔らかな笑顔を浮かべながら、その目には熱が見える。


「ふふふ、ルティ。愛しているよ。もう離れないでね」


 そう言いながらベッドまで運ばれ、朝まで離してくれなかった。



◇◇◇



 次の日は起き上がれず、にこやかな笑顔で甲斐甲斐しくラインハルトに世話をされるがままになっていた。


 動けなくて暇なのと、会話が足りなかった経緯を思い出し、自分がどうして冒険者になりたいのか、何をしたいのかをラインハルトに話してみた。

 合成の腕輪を持っていて、それで色々なものを作ってみたい。出来ればコンプリートしたいと。

 

 ずっと付けていた腕輪がそうだったと知って驚いてはいたが、問題ないとの事。

 自分達が使えるスキルや魔法、戦い方など伝え合う。ラインハルトは所謂魔法剣士だった。私もオールラウンドに魔法を使う戦い方なので、二人でのパーティにも問題なさそうだった。

 じゃあ、明日から始動ね。

 なーんて言っていたが、当然その夜も寝かせてもらえなかった。



◇◇◇



 手加減してくれたのか、慣れたのか、次の朝には起きられたので、ギルドに行く。

 ギルと合流して、これからの事を話し合う。

 ギルはまた別の素材を探しがてら旅に出るそうだ。のんびりしてる様に見えるが仕方ないのだ。ギルの欲しい物は私の作れる物でも最高ランクの物。必要な素材が半端ない。世界樹の葉、世界樹の紅葉葉、世界樹の花、その他諸々。これだけでも時間が掛かる。去年落葉したので次に花が咲くのは、二十年後だ。取り敢えず、ギルには長生きしてくれと言われている。


 ギルと別れて、清々してるカンジのラインハルトを連れて、公爵家、実家と挨拶をしに行く。

 公爵家では、私を無事に捕まえた事を喜ばれ、実家では仲良さげだと喜ばれた。

 何の障害も無くなったので、心置きなく採取していこう!



「じゃあ、ハル。手始めにウォーウルフの尻尾を500集めるよ! 出来れば3000……ううん、6000欲しい所だけど、取り敢えずね」

「えっ!? 何? その数!? 聞いてないぞ!」

「今、言ったじゃん。前にも言ったけど地道に集めるって」

「それにしてもその数、可笑しくないか?」

「ないない、必要だもん。1個は使う用、もう1個はコレクション用に欲しいもん。それに欲しいものはまだまだあるよ。今度私の一覧表見せるね」

「是非……早目に見せてくれ。まあ、良いけどな。それがルティのやりたい事なんだろ?」


「そうだよ!だって私、コレクターだもん!」




 そんなこんなで夫婦二人でイチャイチャしながらアイテムを集めていき、様々なレアアイテムを作り出して人知れず有名になっていくのは、また後のお話。

  

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