結末
あれから指がどんどん痛くなってきた。鉛筆もどんどん短くなってきた。残り5センチぐらい。どこで売ってるのか山本が言ってた気がするが覚えてない。使えなくなってから考えればいい。
『……なべ……』
『……なべ……』
ん? 何か聞こえたか? まあいいや、寝よ。
『学べ学べ学べ学べ学べ学べ学べ学べ学べ学べ学べ学べ学べ学べ学べ学べ学べ学べ学べ学べ』
うわっ!
夢か……
何か怖い夢だった気がする。
痛っ!
ぼんやり鼻をほじったら血が出た。くそ、テッシュテッシュ……
え!?
何これ!?
ボクの人差し指が……鉛筆になってる……
夢だな。寝よう。
ふぁーあ、よく寝た。嫌な夢見たわりにスッキリしてる……な?
ボクの人差し指……右手の人差し指が……鉛筆になってる!? 残り5センチ?
くそっ! なんだよこれ? とりあえず手袋でもして……
くそ……朝飯が食いにくい……サンドイッチぐらい用意しろよな。
学校では相変わらず三島どもがボクに問題を解かせようとする。満点とったんだぞ? お前達みたいなばかとは住む世界が違うんだ。
くそ……分からん……数学に英語を使うな!
国語に古臭い文章なんか使うな! 今時いとわろしなんて言うやついねーよ!
理科に見えない物を持ってくるな! 原子ってなんだよ! そんなの見えるわけないだろ!
社会に大昔のカビが生えた出来事なんか持ってくるな! 日本以外の国なんかどうだっていいだろう!
くそどもが!
やればいいんだろ!
ボクの本気を見せてやるよ!
ボクは手袋を取り、人差し指の鉛筆で答えを書く。ふん、ボクが本気を出せばこんなものだ。
それっきり三島達はボクに話しかけてこなくなった。四本達もだ。葛原だけは心配そうに見てくるが、お前みたいなボクより成績の悪い奴に心配なんかされたくない。
そして10月。二学期の中間テストが始まった。
ボクの指は左手の小指以外……なくなった……
夜は寝ると変な夢を見るからあんまり寝てない。
ツインドラゴンも指がないからできない。だからまだクリアしてない。
別に構わない。指なんて一本あれば字は書ける。この中間テストでまた500点満点をとって、ばかどもを驚かせてやる。この、小指鉛筆で……
「ガリベンの奴さぁ……中間テスト0点だったらしいぜ。」
「全問間違いか?」
「いや、白紙って聞いたぜ? 隣の松島が見たってよ?」
「松島カンニングかよ!」
「いや、なんか左手の小指だけごそごそ動かしてたってよ。その動きがキモ過ぎて見てらんなかったって。」
「小指? 何それ?」
「意味分かんねーな。でもよぉ……」
「ああ、あいつもう完全にイッちまってんよな……」
「テストが終わった後なんてよぉ……ぶつぶつ言ってんだぜ? 500点……500点……ってよ?」
「うっわきっつ。頭の悪さが限界突破したか? よく親から文句言われないよな?」
「そりゃ言われんだろ? 明らかに親からも見捨てられてんじゃん。松島達が言ってたけどよ、あいつ『いただきます』も『ごちそうさま』も言わねぇんだとよ?」
「マジで!? 親に食わしてもらってるくせに!? マジイカれてんな?」
ベンジの指は本当になくなったのだろうか?
このような鉛筆は入試に使う者も後を絶たないのではないか?
一体何のために販売している鉛筆なのだろうか……
ただ言えることは、ベンジの生命はもう……風前の灯であるということだけ……