上
ボ、ボクは我利田 ベンジ。附属渡海中の2年。イケメンで頭もいい方だ。勉強しかできん奴らなんかよりよっぽど。
ボクのクラスばかばっかり。
成績だけいい野郎、海本カイ、岡本ガク、川本セン、山本ザン。
顔だけいい女、上村ウメ、中村タネ、下村ヨネ。
ハッタリばかヤンキー、松島ショウ、竹島バンジ、梅島バクオ。
成績トップのくせに胸のない女、葛原。
そしてモブども……
今日は一学期の期末テストが返る日。学校の勉強なんかでボクを判断しようとするなんてバカな学校だ。
クラスの奴らがワイワイ話をしている。
「ちえっ、今回は山本の勝ちかぁ。5点差かよぉ。」
「海本だっていい点じゃん?」
「そういう岡本こそ、山本にもう8点じゃん。」
「お前らにはギリギリ勝てたけどさぁ、また葛原に負けちまったよ。」
山本はチビのくせに483点だと。こんなテスト暗記すればだれだってそれぐらい取れるさ。こんなんで調子に乗るなんてばかな奴だ。
そんな四本達に顔がいいだけの女ども、三村達はきゃあきゃあ言いながら群がっている。あんなテストの点がいいだけのつまらん野郎なんかに。
「おーガリベンー、テスト見せてみろや。」
「言ったよなぁ? 100点とらんにゃあブチ殴るってよぉ?」
「オメー行く高校なくなんぞ?」
「…………はい……」
ド腐れヤンキー三島。松島、竹島、梅島だ。こいつらこうやってテストが返ってくるとボクに絡んでくる。こんなテストでボクの何が分かるってんだ。
「チッ、オメー78点じゃねーか! クソボケがぁ!」
「はーいリンチ決ってーい!」
「図書室行くべや!」
こうしてボクは図書室へ連れて行かれる。ばかの相手するのも大変だ。
「オラぁ! これ見ろや! □×4=8じゃあ!
□はなんぼか言ってみろや!」
「…………2……」
「じゃろうがぁ! やったら2x=8もおんなじやろうが! xはなんぼかぁ!?」
「おらぁ! こんなんも分からんほかぁ!」
「早よう答えぇや!」
「…………分かんない……」
クソが! 数学にエックスとか!
意味分かるかよ!
ボクはほっぺたを4回叩かれた。
「オメーみてぇなバカは体で覚えんにゃのぉ!」
「答えは4じゃあ!」
「8÷2もできんほかぁ!」
こうして地獄の放課後が過ぎていく。
「オメーみてぇはバカは中1からやりなおせや!」
「中1の教科書のこのページのぉ、明日までにやってこいや!」
「間違い一問につき一発殴るからのぉ!」
計算問題だ。
5ー9だって?
5人いた腐れヤンキーを9人殺しました。何人生き残りましたか。
0人に決まってる。この問題作った奴はばかだろ。
あーあ、ばかな奴らに合わせて答えを書かないといけんのか。ばからしい。
次の日、勉強しかできないばか4人、四本が集まって何か話してる。
「実はさぁ、俺が今回勝てたんは理由があってな。お前らに悪いから白状するわ。」
山本が何か言っている。どうせカンニングでもしたんだろ。
「なになに? 徹夜でもしたんか?」
海本も何か言ってる。
「実はこの鉛筆なんよ。ここ、よく見てみ。」
鉛筆だと? 中学生にもなって鉛筆とか。ボクなんかフランス製のシャーペンを使ってるのに。
「ん? いやいや、見ても分からんっちゃ。ただの防人府天満宮の鉛筆やん。」
「そう、防人府天満宮よ。分からんか? 学問の神様だぜ?」
「おおー! ミッチー!」
「マジかよ! 天神様かよ!」
「お前それ反則じゃろお!」
やっぱこいつらばかなんだな。そんなの効き目なんかあるわけない。
「じゃけぇお前らに悪いと思って3本ほど持ってきた。貰ってくれぇや。」
「おおー! マジで!?」
「サンキュー山本!」
「お前マジまんじ!」
「でも注意しろよ? これを使っていいのは定期テストだけな。習熟テストとか、模試とか、高校入試では使うなよ?」
「なんでよ?」
「俺も知らん。宮司さんからそう聞いたんよ。やけぇそうしちょる。」
「ふーん。宮司さんが言うならそうなんじゃろうな。」
「サンキュー山本!」
「山本マジまんじ!」
あいつらばかだな。自力でテストも受けれないんか。だせぇ奴ら。
「おうガリベン! きっちりやってきたんじゃろうのぉ?」
「あんな簡単な問題間違えたら聞きゃあせんぞ?」
「半分正解したら褒めちゃるけどな。」
朝からうるせぇよ。知るかぼけが。
そこに先生が来た。1時間目が始まる。奴らの宿題なんてもちろんやってない。あんなことして何の役に立つんだよ。ばかばっかりだ。
1時間目は英語。英語なんか意味ないだろ。ボクは日本から出ない。
いてっ、松島から何か投げられた。丸めた紙だ。読めって言いたそうな顔してる。
『オメー宿題やってねーんだろ? 昼休み中にやるんならタコ殴りは勘弁してやる』
クソが……ばかのくせに難しい漢字使いやがって。タコ……りは……してやる? そこまでして頭いいフリしたいのかよ。
ちっ、昼休みにやればいいんだろ? 3時間目は体育だし何とかなるだろ。
2時間目の理科が終わると着替えなければならない。クソ、面倒なことをさせやがって。メイドぐらい用意しとけよ。
「おらぁガリベン! 早ぉ着替ええや!」
「松っちゃんほっとけ! 先ぃ行こうぜ!」
「次ぁバドミントンやけぇ! 早ぉ行ってええラケットとらんにゃあ!」
そして教室にはボク一人。これでゆっくり着替えられる。
鉛筆か……
天神様の鉛筆か……
あんなばかにはもったいないな……
あれはボクが使うべき鉛筆だよな……
神様だってあんなばかが使うよりボクが使った方が喜ぶさ……
3時間目、体育。
4時間目、美術。
そして給食、昼休み。
さっそく使ってやるよ。
5ー9=-4
なっ!
勝手に手が動いた!
これ本物か!
そして10問終了。10分もかかっていない。
「おらぁガリベン! 見してみろや!」
松島は解答も見ずに答え合わせしている。こいつばかのくせに何カッコつけてんだ?
「やるじゃねーか。全問正解じゃあ!」
「マジかよガリベン!」
「やったのぉ!」
ふふ、ボクが本気出したらこんなもんだ。ちょうど5時間目は数学だ。ばかどもに見本でも見せてやろうか。
数学の先生は怖い。いつも「数学はケンカじゃあ! 相手より早く解いたもんが勝つけぇのぉ!」と意味の分からないことを言ってる。13×13を暗算しろとか6の3乗は答え覚えとけとか頭おかしい。
「あれっ!?」
いきなり山本が声を出す。授業中にうるさい奴だ。
「どうしたぁ? 何か分からん問題でもあるんかぁ?」
「いえ、あの、大事な鉛筆がなくて……2時間目が終わるまではあったんですが……」
「あぁん? 知るかぁボケ! 授業の邪魔してんじゃねぇぞ? 数学的に解決してみろや! どんな可能性があるんかぁ?」
「3時間目と4時間目は触っていません。昼休みも。つまり2時間目の理科が終わった時点以降で紛失の可能性があります。3、4時間目、この教室は無人ですから……」
「ほぉ……そんな状況かぁ。まあええ可能性を1つ、潰しといてやるか。だらだらやっても時間の無駄やけぇの。お前ら全員立て! そんで手ぇ上げとけ!」
何だこの教師? ばかなんじゃないか?
「先生! 海本と岡本と川本も同じ物を一本ずつ持ってます。見本にしてください。」
「どらどら……ほぉー、ええもん持ってんじゃねぇか。しっかり勉強せぇのぉ? オラお前ら! この鉛筆を見たモンはおらんか!?」
誰も返事をしない。ボクだって知ったことじゃない。
教室の右前から一人ずつ持ち物検査をしている。身体検査はしないのか、甘い教師め。いや、ピョンピョン跳ねろって言われてるな。
ボクの番だ。ばか教師はボクのフランス製筆箱を汚い手で開ける。
「ん? こいつぁどうした?」
「買いました。」
「どこで?」
「神社です。」
「どこの?」
「忘れました。」
こんなのどこの神社でも売ってるだろ。
「ほぉーう? 忘れたかぁ? ほぉん? まあええ。」
まわりはざわざわしているが、ボクの理論は完璧だ。論破できるもんならやってみろ。
そして持ち物検査は終わった。先生は山本に何か耳打ちをしている。
数学の時間が終わると山本が近寄ってきた。
「ようガリベン。いい鉛筆持ってるらしいな。見せてくれよ。」
「…………やだ……」
「そっか。それは残念。もし俺の知ってる鉛筆だったら危ねーからよ。注意しとこうと思ってな。」
「…………注意?……」
「おう。天神様ってな、不正が嫌いなんだよ。人の道に外れたこととか、ルール違反とかな。まあガリベンには関係ねーよな。」
そこになぜか葛原までやって来た。
「我利田君……正直に言った方がいいよ? 神様ってあんまり優しくないんだよ? 基本自分ルールで動く方ばかりだし……」
こいつ何言ってんだ? 神がどうとか、ヤバい宗教にでも入ってんのか?
「…………何のこと?……」
「よせよ葛原。放っておいてやれよ。俺は同級生が他人の持ち物を盗んだなんて思ってないからよ。なーガリベン?」
「…………知らない……」
この鉛筆はボクのものだ。初めからそうなる運命だったんだ。葛原は手遅れになる前に……とか言ってたが、やっぱ勉強しかできない奴って頭悪いんだな。
この日の放課後は三島達に図書室に連れて行かれることもなく、宿題を出されただけだった。だから数学にxとかyとか意味が分からん。考えた奴ってばかだ。