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祝福の鉛筆  作者: 暮伊豆
1/4

ボ、ボクは我利田(がりた) ベンジ。附属渡海中の2年。イケメンで頭もいい方だ。勉強しかできん奴らなんかよりよっぽど。


ボクのクラスばかばっかり。

成績だけいい野郎、海本カイ、岡本ガク、川本セン、山本ザン。

顔だけいい女、上村ウメ、中村タネ、下村ヨネ。

ハッタリばかヤンキー、松島ショウ、竹島バンジ、梅島バクオ。

成績トップのくせに胸のない女、葛原。

そしてモブども……


今日は一学期の期末テストが返る日。学校の勉強なんかでボクを判断しようとするなんてバカな学校だ。


クラスの奴らがワイワイ話をしている。


「ちえっ、今回は山本の勝ちかぁ。5点差かよぉ。」

「海本だっていい点じゃん?」

「そういう岡本こそ、山本にもう8点じゃん。」

「お前らにはギリギリ勝てたけどさぁ、また葛原に負けちまったよ。」


山本はチビのくせに483点だと。こんなテスト暗記すればだれだってそれぐらい取れるさ。こんなんで調子に乗るなんてばかな奴だ。


そんな四本(よんもと)達に顔がいいだけの女ども、三村(さんむら)達はきゃあきゃあ言いながら群がっている。あんなテストの点がいいだけのつまらん野郎なんかに。


「おーガリベンー、テスト見せてみろや。」

「言ったよなぁ? 100点とらんにゃあブチ殴るってよぉ?」

「オメー行く高校なくなんぞ?」


「…………はい……」


ド腐れヤンキー三島(さんしま)。松島、竹島、梅島だ。こいつらこうやってテストが返ってくるとボクに絡んでくる。こんなテストでボクの何が分かるってんだ。


「チッ、オメー78点じゃねーか! クソボケがぁ!」

「はーいリンチ決ってーい!」

「図書室行くべや!」


こうしてボクは図書室へ連れて行かれる。ばかの相手するのも大変だ。


「オラぁ! これ見ろや! □×4=8じゃあ!

□はなんぼか言ってみろや!」


「…………2……」


「じゃろうがぁ! やったら2x=8もおんなじやろうが! xはなんぼかぁ!?」

「おらぁ! こんなんも分からんほかぁ!」

「早よう答えぇや!」


「…………分かんない……」


クソが! 数学にエックスとか!

意味分かるかよ!


ボクはほっぺたを4回叩かれた。


「オメーみてぇなバカは体で覚えんにゃのぉ!」

「答えは4じゃあ!」

「8÷2もできんほかぁ!」


こうして地獄の放課後が過ぎていく。


「オメーみてぇはバカは中1からやりなおせや!」

「中1の教科書のこのページのぉ、明日までにやってこいや!」

「間違い一問につき一発殴るからのぉ!」


計算問題だ。

5ー9だって?

5人いた腐れヤンキーを9人殺しました。何人生き残りましたか。

0人に決まってる。この問題作った奴はばかだろ。

あーあ、ばかな奴らに合わせて答えを書かないといけんのか。ばからしい。





次の日、勉強しかできないばか4人、四本(よんもと)が集まって何か話してる。


「実はさぁ、俺が今回勝てたんは理由があってな。お前らに悪いから白状するわ。」


山本が何か言っている。どうせカンニングでもしたんだろ。


「なになに? 徹夜でもしたんか?」


海本も何か言ってる。


「実はこの鉛筆なんよ。ここ、よく見てみ。」


鉛筆だと? 中学生にもなって鉛筆とか。ボクなんかフランス製のシャーペンを使ってるのに。


「ん? いやいや、見ても分からんっちゃ。ただの防人府(さきもりのふ)天満宮の鉛筆やん。」


「そう、防人府天満宮よ。分からんか? 学問の神様だぜ?」


「おおー! ミッチー!」

「マジかよ! 天神様かよ!」

「お前それ反則じゃろお!」


やっぱこいつらばかなんだな。そんなの効き目なんかあるわけない。


「じゃけぇお前らに悪いと思って3本ほど持ってきた。貰ってくれぇや。」


「おおー! マジで!?」

「サンキュー山本!」

「お前マジまんじ!」


「でも注意しろよ? これを使っていいのは定期テストだけな。習熟テストとか、模試とか、高校入試では使うなよ?」


「なんでよ?」


「俺も知らん。宮司さんからそう聞いたんよ。やけぇそうしちょる。」


「ふーん。宮司さんが言うならそうなんじゃろうな。」

「サンキュー山本!」

「山本マジまんじ!」


あいつらばかだな。自力でテストも受けれないんか。だせぇ奴ら。


「おうガリベン! きっちりやってきたんじゃろうのぉ?」

「あんな簡単な問題間違えたら聞きゃあせんぞ?」

「半分正解したら褒めちゃるけどな。」


朝からうるせぇよ。知るかぼけが。

そこに先生が来た。1時間目が始まる。奴らの宿題なんてもちろんやってない。あんなことして何の役に立つんだよ。ばかばっかりだ。


1時間目は英語。英語なんか意味ないだろ。ボクは日本から出ない。


いてっ、松島から何か投げられた。丸めた紙だ。読めって言いたそうな顔してる。


『オメー宿題やってねーんだろ? 昼休み中にやるんならタコ殴りは勘弁してやる』


クソが……ばかのくせに難しい漢字使いやがって。タコ……りは……してやる? そこまでして頭いいフリしたいのかよ。


ちっ、昼休みにやればいいんだろ? 3時間目は体育だし何とかなるだろ。


2時間目の理科が終わると着替えなければならない。クソ、面倒なことをさせやがって。メイドぐらい用意しとけよ。


「おらぁガリベン! 早ぉ着替ええや!」

「松っちゃんほっとけ! 先ぃ行こうぜ!」

「次ぁバドミントンやけぇ! 早ぉ行ってええラケットとらんにゃあ!」


そして教室にはボク一人。これでゆっくり着替えられる。




鉛筆か……

天神様の鉛筆か……

あんなばかにはもったいないな……

あれはボクが使うべき鉛筆だよな……

神様だってあんなばかが使うよりボクが使った方が喜ぶさ……




3時間目、体育。

4時間目、美術。

そして給食、昼休み。


さっそく使ってやるよ。


5ー9=-4


なっ!

勝手に手が動いた!

これ本物か!


そして10問終了。10分もかかっていない。


「おらぁガリベン! 見してみろや!」


松島は解答も見ずに答え合わせしている。こいつばかのくせに何カッコつけてんだ?


「やるじゃねーか。全問正解じゃあ!」

「マジかよガリベン!」

「やったのぉ!」


ふふ、ボクが本気出したらこんなもんだ。ちょうど5時間目は数学だ。ばかどもに見本でも見せてやろうか。


数学の先生は怖い。いつも「数学はケンカじゃあ! 相手より早く解いたもんが勝つけぇのぉ!」と意味の分からないことを言ってる。13×13を暗算しろとか6の3乗は答え覚えとけとか頭おかしい。


「あれっ!?」


いきなり山本が声を出す。授業中にうるさい奴だ。


「どうしたぁ? 何か分からん問題でもあるんかぁ?」


「いえ、あの、大事な鉛筆がなくて……2時間目が終わるまではあったんですが……」


「あぁん? 知るかぁボケ! 授業の邪魔してんじゃねぇぞ? 数学的に解決してみろや! どんな可能性があるんかぁ?」


「3時間目と4時間目は触っていません。昼休みも。つまり2時間目の理科が終わった時点以降で紛失の可能性があります。3、4時間目、この教室は無人ですから……」


「ほぉ……そんな状況かぁ。まあええ可能性を1つ、潰しといてやるか。だらだらやっても時間の無駄やけぇの。お前ら全員立て! そんで手ぇ上げとけ!」


何だこの教師? ばかなんじゃないか?


「先生! 海本と岡本と川本も同じ物を一本ずつ持ってます。見本にしてください。」


「どらどら……ほぉー、ええもん持ってんじゃねぇか。しっかり勉強せぇのぉ? オラお前ら! この鉛筆を見たモンはおらんか!?」




誰も返事をしない。ボクだって知ったことじゃない。

教室の右前から一人ずつ持ち物検査をしている。身体検査はしないのか、甘い教師め。いや、ピョンピョン跳ねろって言われてるな。


ボクの番だ。ばか教師はボクのフランス製筆箱を汚い手で開ける。


「ん? こいつぁどうした?」


「買いました。」


「どこで?」


「神社です。」


「どこの?」


「忘れました。」


こんなのどこの神社でも売ってるだろ。


「ほぉーう? 忘れたかぁ? ほぉん? まあええ。」


まわりはざわざわしているが、ボクの理論は完璧だ。論破できるもんならやってみろ。


そして持ち物検査は終わった。先生は山本に何か耳打ちをしている。




数学の時間が終わると山本が近寄ってきた。


「ようガリベン。いい鉛筆持ってるらしいな。見せてくれよ。」


「…………やだ……」


「そっか。それは残念。もし俺の知ってる鉛筆だったら危ねーからよ。注意しとこうと思ってな。」


「…………注意?……」


「おう。天神様ってな、不正が嫌いなんだよ。人の道に外れたこととか、ルール違反とかな。まあガリベンには関係ねーよな。」


そこになぜか葛原までやって来た。


「我利田君……正直に言った方がいいよ? 神様ってあんまり優しくないんだよ? 基本自分ルールで動く方ばかりだし……」


こいつ何言ってんだ? 神がどうとか、ヤバい宗教にでも入ってんのか?


「…………何のこと?……」


「よせよ葛原。放っておいてやれよ。俺は同級生が他人の持ち物を盗んだなんて思ってないからよ。なーガリベン?」


「…………知らない……」


この鉛筆はボクのものだ。初めからそうなる運命だったんだ。葛原は手遅れになる前に……とか言ってたが、やっぱ勉強しかできない奴って頭悪いんだな。




この日の放課後は三島達に図書室に連れて行かれることもなく、宿題を出されただけだった。だから数学にxとかyとか意味が分からん。考えた奴ってばかだ。

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金が欲しい祓い屋と欲望に忠実な女子校生
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