第二話 覚醒・破
「見て分かる通り現在大規模な戦争中であり、君は一兵士だ。名前はクラリスタ・ウェルハート、東部大陸戦線における臨時援護小隊。その中の私が預かっている第八分隊の所属だ。そして超兵だ。」
「つまりあたしは、戦争に参加中の『ちょーへい』ってやつなのか?」
「端的に言えばそうだ。超兵というのは異能―――俗に言う超能力を扱う兵の事を指す。」
「あたしが超能力者って言われても・・・。ていうか超能力者の兵士がいるなら戦争なんて余裕じゃない?」
与太話でも聞くような態度のクラリスタに対し、マルクストは溜息を一つ漏らした。
「・・・よほど記憶に混乱があるようだな。超兵は万能ではない。能力には必ず得手不得手があり弱点もある。人間である以上、反応速度や出せる力には限界があり現代兵器を使えば殺すことなど容易い。故に超兵は条件が整えば大きなアドバンテージを得られるが基本的には一人の人間だ。人間一人ではどうこうできん。例外を除けばな。」
一呼吸置き、マルクストが言葉を続ける。
「ウェルハート一等兵。君の知りたい本題に入ろう。君の存在についてだが、君はある実験によって生まれた超兵だ。実験の後遺症のようなもので記憶が乱れるらしく君のもそれだろう。」
「人体実験ってやつか・・・。『らしく』ってことはあんた―――エルート曹長殿も詳しくは知らないってことだよな。」
「私は一軍人である以上作戦に必要な情報以外は渡されないからな。これ以上のことは本国の学者連中が知っているだろう。」
腑に落ちない。クラリスタの頭が最初に出した結論がそれだった。
先ほど記憶が混乱したときに巡った記憶の断片がどうしても繋がらない。
教練施設のような場で座学や肉体鍛錬をしている記憶と店を襲い銃口を突き付ける記憶が同じ時間のような感覚で存在した。どちらの記憶も主観的であるがどこか噛み合わない。
記憶の乱れという一言で表し切るには納得し切れずにいた。
「意味が分からない、という顔だな。大丈夫だ、本国に戻れば君を知る者も必ずいる。何か記憶にある物を見て自分の記憶と合致しはっきりする可能性もある。それを確かめるためにも一先ずは帰還を目的とし撤退をする。いいな?」
真っすぐクラリスタの目を見て語り掛ける。
「もう一点。異能についても疑問視しているようだが、君は既に一度使っているだろう。」
「・・・いつ?」
「この家屋への移動中、感想を一言述べていたな。」
「あ、ああ・・・。倒れていた場所、もう一度見てさ、あたしの育った町とはまた違った方向に酷いなと思って。」
「やはりな。ならばその時、君は『振り返って確認』をしたか?」
「ッ!!!」
あまりの驚きに驚嘆の言葉すら出なかった。
「いやでも、あたし記憶が混乱してるし―――。」
「私は逐次、後ろに付く君を確認していたが振り向く動作は見られなかった。可能性としては周りの風景見ての感想というのもあったが、視線が動いていなかったのを確認して、ほぼ確信した。だがなるべく使わない方がいい。どのようなものか分からない以上、頼るべきではないからな。」
「そう言われても使おうと思って何かした訳じゃねぇしなぁ・・・。」
温度差がある相手に悪態を付くクラリスタ。
「それもそうだな。後、その口調はどうにかならないのか?軍人として問題があると言わざるを得ないぞ。」
「そう言われても、あたしの育ったところではコレが普通だしなぁ。」
ん?とマルクストが今の言葉に疑問を持つ
「今、育ちについて言っていたが、君は軍の施設出身で一般からの志願では無いはずだが?」
また記憶違いか、やってられない。
意気が下がり、クラリスタは溜息を漏らす。
マルクストも察してか慌て様に言葉を続ける。
「まぁ、全て帰還すればはっきりするだろう。君の記憶や言動のズレも、その異能の詳細も。」
「また走るのか・・・?」
「勿論だ。西側にこのまま行き、東部戦線本部の近くへ―――!!」
言葉を〆る前にマルクストは左腰に手を掛け扉に向かい走る。クラリスタも違和感を感じ跳ねるように立ち上がり扉から距離をとった。
勢いを保ったまま跳び、ドアを蹴破る。
廊下に出ると左側にゴーグルをつけた男が二人。マルクストは視界にそれが入ったその一瞬で左腰から銃を抜く。男たちもアサルトライフルを構えるがマルクストが即座に放った2発の弾丸が首に当たり、朱を散らしながら倒れる。
マルクストが跳び、床に足を付けるまでの刹那の時間であった―――。
「やはりな、そろそろ斥候が来るとは思ったが二人か。」
死んだことを確認するべくゆっくりと近づく。
「アサルトライフルにガスマスクと透過ゴーグル、自動ライフル。―――――これは重装備過ぎる!斥候では無いッ!!」
「上ッ!!」
クラリスタの声と共に廊下の天井部が轟音を立てて崩れる。
ガラ・・・。カララ・・・。
瓦礫の残りが崩れる中で人が一人、跳び降りてくる。
「玄関から律義に入る馬鹿がどこにいるんだァ、まったく・・・。お前もそう思うだろ?」
男は瓦礫の塊から見下ろし語り掛ける。
クラリスタはこの男を見て妙な感覚を覚えた。親近感に近いような同族感を。
だが、その不吉な表情を見て、激しい嫌悪感をも抱いた―――――。