#5 旅立ちⅣ
続き
森へと入ったボクは見失ったふりをしつつ、逃げた相手を追う。
(さて、あの男が真っ先にここの森に逃げ込んだってことはこの森の何処かに拠点があるか、待ち伏せしてるか。でも入り口にはいなかったし襲ってくるような気配もない)
追いながらうろうろしていると少し離れた位置に洞窟があるのが目に入る。その方向は先程まで男が逃げていた方向とも合致する。
(お?いやまさかあんな分かりやすい所にあるわけ...)
追っていた男は茂みで隠れているつもりなのか動く気配はない。
まさかなぁと思いつつ見張りもない洞窟へと近づくと中から騒がしい音が外まで聞こえ漏れてくる。
会話の内容からするとどうやら中で酒盛りでもしているようだった。
(見張りも立てずに酒盛りって、本当の本当に盗賊なのかなぁ?)
ぶっちゃけここまで素人じみてくるとわざとな気もしてくるが、足音を消し中へと進む。
洞穴の中は一本道で壁に立てかけてある松明の明かりがほんのりと道を照らす。
途中で分かれ道があるが右の道から声がする。
そちらに近づくにつれ盗賊の仲間と思しき者達の声は徐々に大きくなり、後付けされたような木の扉が視界に入る。
(とりあえず様子見だね、そーっとそーっと)
ギィ、と小さく軋むような音が漏れるが彼らの声にかき消され、全く気付いている様子はなかった。
確認すれば中は小さな小部屋になっており、3人の男がテーブルで酒を飲んでいる姿が窺える。
(よし、一気に行くか。あれ相手なら抜かなくても良さそうだね)
バンッ!と勢いよく開け放たれた扉の音に驚愕する男達。それが敵襲だと気づいたのは一気に加速した少女が隣にいた男に飛び膝蹴りをかました後だった。
「な、なんだおまえは!?」
相手も武器を手に取り応戦しようとするが少女はすぐに態勢を立て直し、テーブルをまだ無事な男達に向けてひっくり返す。
「んなっ!?」
男達の意識がそちらに向かっている間にテーブルの影から飛び出し剣を鞘ごと男の脇腹に向かって一閃。悶絶している男の股間を蹴り上げ、蹲った瞬間に首元に手刀を叩き込み気絶させる。
「やろぉ、よくも仲間をっ!」
残った1人が剣を振りかぶり斬りかかってくるが、ナギはステップを踏むように一歩下がり、振り降ろされた得物を受け止めると剣を巻くように回転させ真上に弾き飛ばす。
いきなり自分の手から武器がなくなり茫然としている男の背後へと回り首筋へ剣を鞘ごと振りかぶると、ドゴッ!と重い鈍器にでも殴られたときのような鈍い音を出し男は意識を飛ばす。
「あ、やば。またやっちゃった。死んでないよね?」
一応脈を図ると生きてはいる。その事実にほっと安心するとその場にある適当な紐で男達を縛り上げ入口へと向かう。
すると外でさっきまで追っていた男が何やらブツブツと独り言を話しながらウロウロしている場面に遭遇。
此方に気づいてなさそうだったのでそっと近づき意識を断つことに成功。
だが意識を失う瞬間此方を見て"悪魔め"と言おうしてたのがわかってしまった。
「誰が悪魔だよ、失礼なっ」
男達を引きづりながら森から出て馬車へと向かうと馬車の方から野太い声が聞こえる。この声は間違いなく
「おーーーい!ナーギー!」
ウォーレンだ。
「やっほー、戻ったよー!」
駆けながら急いで戻る。するとウォーレンの他にも人影が見えた。
「お?そちらさんはもしかしてお弟子さん?」
見た感じボクよりは幼そう。14、15歳位かな?
「おぅ、そうだ。お前がさっき目が覚めてなほら、挨拶しろ」
背中を叩きながら挨拶を促すウォーレン。
「痛っいたいですよししょ~。怪我人を殴らないでくださいよっ。僕の名前はレクターって言います。助けて下さってありがとうございます!」
「あぁいやいやっ。此方こそ、気付くのが遅れちゃってごめんね。ボクは八桜薙。ナギって呼んで。それに最後にレクターに襲い掛かったのを殴ってたのはウォーレンだし気にしないで」
「そうだぞ、感謝しろよ。とはいえお前さんがいてくれて助かったのも事実だ。ありがとうよ。しかしなんだ、お前さん本当にあいつ等の拠点壊してきたのか?」
ウォーレンが呆れたような表情で僕と後ろの男共を交互に見る。
「そうだけど、すごい素人っぽかったよ?無警戒だったし」
「もしかしたら最近盗賊になったばかりだったのかもな。それにしても奴らの宝とかは持ち帰ってこなかったのか?」
(...え?)
「宝なんかあったっけ。見逃しちゃってたかも...で、でもそういうのって勝手に取ったらダメなんじゃないの?」
「あー、それはな。確かに冒険者組合とか、衛兵に渡せば別途に料金も貰えるし、持ち主が分かればその持ち主へと返されるが、一応規定では盗賊団を壊滅させた奴が貰っても悪いってことはねぇことになってる」
「(お、やっぱりギルドはあるんだ)えぇー!そうなんだ。じゃあもっとちゃんと探して貰って来ればよかったなぁ。ボク、今の所一文無しだし。今度からそうしよ」
実際にはインベントリの中に金はあるのだが、なんとAOのお金のまま。つまりこの世界の通貨はびた一文たりとも持っていないのだ。
「あー...あ、いやでもそいつ等を衛兵へと突き出せば賞金は貰えるぞ。指名手配もされてたら更にもらえるがそんだけ弱かったなら多分大した金額にはならないだろうが」
「ほんとに!?それはよかったぁ。それならやっと街に行けるのに外で野宿とか哀しいことにならずに済みそうだね!」
馬車に揺られること数十分。その間ボクはレクターにこの世界の通貨や日付に関して教えてもらっていた。
1日の時間は24時間で地球と同じだった。「なんでそうなったの?」と聞いたら
「大昔は細かく決まってなかったみたいですが、最初にこの世界に召喚された勇者が不便だ!とか言い出してそうなったそうです。僕にも詳しいことはわかりません」
との返答。昔来た勇者は地球の人だったのかな?ボクとしては違和感なくて助かるからいいばかりだけどね。
それとお金に関してはこの世界では単位を"リル"と呼ぶみたい。
銭貨1枚=1リル
銅貨1枚=10リル
大銅貨1枚=100リル
銀貨1枚=1000リル
大銀貨1枚=1万リル
金貨=10万リル
大金貨=100万リル
聞いた話を要約すると大体こんな感じだった。1リル=1円。それぞれ10枚で一回り大きいサイズの硬貨になるんだね。
「実際に市場などで一般的に出回っているのは金貨までですね。金貨は銀との合金で大金貨が純金。なのでこちらは市場などの取引とかよりも国や貴族が絡むような大きな取引で使われるか、もしくは金銭の保管時に手間がかからないようにする為だったりするかもしれません」
(ちょっと違うけど延べ棒みたいな感じかな?)
「更に大金貨の上に晶貨というものもあるのですが、これも大金貨以上に出回ることはないですね。普通の市民では見ることもまずないでしょう。晶貨はとても澄んだ結晶で生成されていてとっても綺麗らしいので僕も一度でいいから見てみたいんですよねぇ」
「それはすごいね!それはボクもいつか見てみたいなっ」
などと雑談していると御者をしていたウォーレンが「見えてきたぞ!」と声がかかる。
幌から顔を出し正面を見れば、段々と城壁のような物が見えてきた。
転移して3日。やっとボクは街に着いたのだった。
5話目にしてやっと街へ。うーんこの。
通貨の単位が少し複雑です。申し訳ない。