#6 始まりの街
「次の方どうぞ」
街へ入るための手続きのために順番を待っていると守衛から声がかかる。ボク達の番が来たみたいだ。
「ウォーレンさん。戻ったんですね、お帰りなさい。今回は如何でしたか?」
「まぁぼちぼちだったぜ」
ウォーレンと守衛さんはどうやら顔見知りのようだ。声が聞こえたのでボクも馬車から降りる。
「おや、出るときには見なかった顔がいますね。お知合いですか?」
「あぁ実はな...」とウォーレンが所々端折りながら出会った経緯などを話してくれてる。
「それは災難でしたねぇ。ようこそ、始まりの街プラムへ!」
「始まり?」
「えぇ。この街の周辺には危険な魔物が少なく、冒険者になったばかりの駆け出しにはいい練習場になるので、聖王都領の中でもこの街から冒険者を始める人が多く、この名が付いたのです。近場のグラス草原にもスライムが多かったでしょう?あのスライムは他の種と違って襲っても来ませんし、森も深部へと行かなければそうそう危ない目に会うこともないのですよ」
やっぱりあれはスライムだったのか、なるほど。と1人うなづいていると
「あ、そうだ。ラインさんよ。実は帰りに野良の盗賊に襲われてな」
「なんと!此処にいるということは無事だったのでしょうが被害などはございませんでしたか?」
「それは大丈夫だ。こいつが助けてくれたからな」
ウォーレンがボクの頭にぽすっと手を置いて事情を説明してくれる。
「おや、その子が?見かけによらずお強いのですね」
「相手も正直弱かったしそこまで大変でもなかったよ?」
聞いた直後は驚いた様子だったが、その後お礼まで言ってくれた。「拾ってくれた恩を返したまでだよ」と返答しつつ馬車の中から縛り上げていた盗賊を引っ張り出して守衛、ラインさんに渡す。
「ではこちらで預からせていただきます。ん?こいつ等は...」
ふと何かを思い出したかのようにラインさんは一度詰め所へと入っていき手に張り紙を持って戻ってくる。
「あぁ、やはり。こいつ等は"灰の子山羊"という盗賊団の残党かもしれません」
「残党...ってことはどっからか逃げてきたのか?」
「えぇ、聖王都付近で活動していたらしいのですが拠点が壊滅しこの街の近場に逃げ込んだとの情報が最近入ってきていたんです。この辺りで盗賊は珍しいですし恐らく間違いないでしょう。今、懸賞金をお持ちしますので少々お待ちください」
確認が取れて納得したのか盗賊を引きづりながらまた中へと戻っていく。
「ねぇウォーレン。彼、ラインさんだっけ。守衛のわりに随分と物腰柔らかいね?」
「ん、あぁ。あいつは元々騎士だったらしいからな。だからじゃないか?まぁそれでも騎士や兵士でああいうタイプは珍しいがいい奴には違わねぇよ」
(あぁ、でもやっぱり珍しいんだ。つまりレアケースってことね)
「お待たせいたしました。残党とはいえ中に副頭領もいたので規定額より多めになります」
とラインさんは硬貨と革袋を手渡してくる。
「ん?これボクが受け取っていいの?」
「お前が倒したんだから当たり前だろう。一文無しなんだから遠慮せず受け取っとけ」
何言ってるんだコイツ、みたいな目でボクを見るんじゃない、ウォーレンだって1人やったじゃないか。
とはいえ確かに先立つ物がないとどうしようもないしなぁ
「大銀貨3枚です。革袋はおまけですのでどうぞお使いください」
てことは、3万リル!?諭吉3人分じゃん...価値がまだいまいちわからないけど結構大金な気がする。
「そんなにいいの?さっきも言ったけどそんなに強くなかったし、人数も...」
「勿論です。残党とはいえ野良の盗賊がいるだけで脅威にはなります。被害が出る前に捕まえて頂いてますし、更に言えば死体ではなく生きているのもこちらとしては助かりましたから」
そういわれてしまっては受け取るしかない。
「よかったじゃねぇか。それだけありゃ当分の間は持つだろうよ」
「ついでに入市税も今回は免除しておきました。ナギさんはこれからどうなされる予定なのですか?」
「ボクは一応冒険者ギルドがあるなら登録しようかなーと」
「それがいいかもしれませんね。入市税はこの街の住人になるか冒険者カードがあれば免除されますので是非ご活用ください」
(お、それは助かる。毎回払うと費用もかさみそうだしやっぱり当初の目的通りギルドに行こうかな)
♢ ♢
街中へと入ると石畳の道に木製の骨組みに煉瓦や石材で作られた壁。赤煉瓦の三角屋根で出来た2階か3階建て以上の建物が立ち並ぶ。
ウォーレン達は「暇が出来たら店に来い」と言い残すとそのまま自分の鍛冶屋へと戻っていった。
実際にこうした街並みを見ながら歩いてるとファンタジーの世界に来たって実感がでてくる。
(あぁ、本当に異世界に来たんだ!周りの人も剣とか背負ってたり魔法使いっぽい人もいる!ちょっとAOの時の雰囲気とも似てて懐かしい感じもする。でもやっぱりウォーレンに道教えておいてもらってよかったぁ。知らなかったら完全に迷子になってるよこれ)
様々な賑わいを見せる街中を進みながらギルドへと向かっていると突如、路地裏から「離してっ!」という声が聞こえる。
(お?これはもしかして)
声の聞こえた方へ向かい物影から様子窺うと、暗がりで白いローブを着た少女が2人の男に絡まれていた。
「なぁいいじゃねぇか。この街に来てまだ日が浅いんだろ?俺らが色々と教えてやるからさぁ」
「い、いやっ離してください!」
うーん。あの男達の少女へと向ける辞めまわすような視線は完全にいやらしいことをしようとしている目だ、間違いない。
これは助けたら面倒毎に巻き込まれそうな気がするけど面白そうでもある...よし、助けようかなっ。
でも面倒なのも嫌だから速攻で叩きのめそう。
「ねぇ君達!」
道に出たボクは隣の可愛らしい少女へと問いを投げる。
「なんであんなのに捕まってたの?」
「あ、あの私、この街に来たばかりなんですが護衛の者とはぐれてしまいまして」
なるほど、それで道に迷っていたところに声をかけられて着いて行っちゃったのかな。純情そうだし。
(ん?さっきは気づかなかったけどこの子もしかして...)
「ねぇ君ってもしかしてエルフ?」
フートが外れている事に気が付いた少女は「あっ」と小声を発し被りなおす。
「すいません。此処までで大丈夫ですので、ありがとうございましたっ!」
あらら、行っちゃった。「もう変なのに捕まらないようにねー!」と一声かけ、ボクも当初の目的に戻る。
5分位歩くと2階建ての幅広い建造物があり盾に重なるように剣が二本交差しているマークと"冒険者組合"と書かれた看板が見えてくる。
「おぉここかなっ。それっぽい建物だし教えてもらったマークもあるし間違いなさそう!いやぁ長かった..ここに来るまでに3日もかかるなんて思わなかったよ」
1人愚痴りながらも期待に胸を膨らませてボクはギルドへの扉を開いた。
次回 【冒険者ギルド】