お嬢様の涙
二人で我が家に来た日から、霍従姪は度々訪問するようになった。
恐らくだけれど、気兼ねなく居られる空間が、外ではあまりないのだろうと思う。傍にいること自体は避難されることではない。けれど、二人の血筋による立場の違いは、それなりに心理的圧迫感を与えているようだ。
ふとした時、霍のお嬢さんとわたしだけになって、詰めていた息を吐いたあとで、「ごめんなさい」とわたしに詫びた。ある意味、我が家を逢引の場のように使っていることだろうと思い、そっと首を振ると、形の良い眉を歪めて、泣きそうな顔をしたお嬢さんの顔が目に入った。
「仕方ないことだとはわかっているのだけれど、どこへ行っても何をしていても理解して貰えないの。わたしは彼と居たいだけなのに」
その美しい瞳がゆらゆらと揺れるのを見て、霍のお嬢さんが涙を堪えていることに気づいた。きっと、限界を超えたら目尻からそっと流れ落ちてしまうのだろう。
「だから」
それでもぎりぎりを保って、淑女としての儀礼を守り抜いて見せたのは、お嬢さんの矜持だろう。
「ここが、とても居心地が良くて、嬉しいの。あなたの旦那さんもあなたも、容認はしないまでも、世間的には認められていないわたしたちをそっと受け入れてくれるから。間違っている、常識がないってずっと言われてきたけれど、母方の従姪だったら問題なく許されていたはずだわ。父系か母系かで差があるなんて馬鹿げている」
古代でなら、意味をなした同姓不婚だけれど、小さな一族の中でのみ婚姻をするならともかく、今の実情にはそぐわないものだとしか言えない。けれど、社会的な規則というものは余程の不都合がない限り改変されるのは極めて困難なのだ。いつかはこの不文律が変わるときがあるかも知れない。けれど、今この同姓の恋人たちを満足させることが出来るようには変わらないに違いない。
わたしはそこまで激しく深く思いつめたことがなかった。霍のお嬢さんのような恋は恐らく一般的とは言えないけれど、それほどの情熱を向けられる相手に出会えたことは少し羨ましい気がした。霍のお嬢さんの主張はすべてが正しいと言えるわけではないけれど、ずっと二人の仲睦まじさを見てきたわたしは、叶うなら、二人が問題なく居られるようになれれば、と思っていた。
「わたしには難しいことは良く判りませんけれど」
なるべくのんびりと聞こえるように前置きをすると、面白がるような光がその瞳の中に踊ったのが見えた。
「出来るだけ、多くの人が自らの望みを叶えて幸せに生きられるといいですね」
それは必ずしも大きな幸福である必要はない。自分を愛し守ってくれる家族が居て、他愛のない日々を一緒に過ごしていけることだったり、出かけた本屋で小躍りしてしまうほど素敵な本に出合うことだったり、そんなささやかな幸せを積み重ねていける、平穏な日常であればいいのではと思っている。いくら使っても減らない巨万の富があったところで毎日自分を苛むような夫であれば厭なだけではないか。わたしの夫は些か妻を溺愛するきらいがあるような気がするけれど、きっかけが親による結婚だとしても、折角縁で結ばれたのだ。相互理解を深め、相手を思いやって、互いに相手を尊重し合えるような関係になれると良い。わたしはそんなことを思っていた。
女同士の友情を深めるお嬢さん方。
そしてその頃の美少年。
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