冬
【秋】から1ヶ月半後くらいの話です
12月になった。東京で珍しく雪が降り積もっていた。
目覚ましの音に目が覚める。
「後5分……」
この言葉に返事してくれる人はもういない。
「…うまくねぇな」
半年間サボっていたせいか、二人で食べることになれていたせいかご飯は美味しく感じなかった。
ピンポーン
家の呼び鈴がなる。いるはずがないってわかってる。けど普通に帰ってくる気がして玄関まで走ってしまう。
「宅配便です」
「…はい。」
「おにーさん!メリークリスマス!」
「あ、メリークリスマス…」
宅配の人はそういうとニコッとしてお金を受けとると帰っていった。そういえば今日はクリスマスだった。
宅配で送られてきた箱は箱のわりには軽かった。
「誰からだろうな。」
恐る恐る箱を開けると中には色違いの手袋が二組入っていた。
片方はサイズが小さい。どうやら女物のようだ。
何となく答えはわかっていた。これは美咲からのプレゼントだろう。
クリスマスにお揃いのプレゼントを届くようにするなんて…
「死んでるくせに…無駄なことにお金使わせんなよ…」
手袋をはめる。すごく暖かく感じた。
家にいると彼女を思い出してしまうから最近はできるだけ出掛けるようにしていた。当てもなく買い物にいったり授業もないのに大学に行ったり。そのおかげか女の友達が少しだができた。
清二は美咲が成仏したからだという。そうなのかもしれないが俺は認めたくなかった。美咲のせいにはしたくなかった。
今日も俺は買い物に来ていた。でも今日は目的があった。
線香と花を買うと言う目的だ。
前に1度だけ美咲が家族の話をしたことがあった。気にもしていなかったがさっき届いた美咲の手袋をそのまま持ってるのも…と思い家族に会いに行こうと家をでた。
美咲の家はアパートの最寄駅から電車にのって2時間半かかる茨城県の田舎だった。
「あいつこんなとこに住んでたのか…なんもねーな」
見渡す限りの田んぼと木。おまけに雪まで積もっている。
呼び鈴もないような古い造りの家が美咲の家みたいだ。
「でっけぇな…すいません!ここは松山さんのお宅でしょうか」
「見たことないあんちゃんだね。そうだけどどうしたんだい?」
「えーと、話すと長くなるのですがこれを持ってきたんです…」
線香と自分がはめている手袋と色違いの手袋を見せる。それを見てか美咲のお母さんらしき人は顔色を変えた。
「…家に上がりなさい」
応接間の様なところでこの半年、美咲とあったことを話した。
「なるほどね…じゃ、あなたがはるきくんって訳か」
「そうですけど。なんで名前を?」
「美咲は死んでいないわ。」
「え。だって死んだって彼女が言ったんですよ?目の前で消えてくのも…見てました…」
「車のって」
「あ、はい…」
美咲は死んでいないとはどう言うことなのだろうか。どこにつれていかれるのかわからないまま車に乗り30分ぐらいたっただろうか。
「ここは…」
「美咲がいる病院よ。ついてきて」
103号室
松山美咲
ドアを開けるとそこには美咲がいた。意識はあるみたいだ。
「み、美咲…?」
「…き?はる…きなの?」
「そうだよ。俺だよ。はるきだよ」
「夢じゃなかった…」
俺が知っていた美咲とは少し違っていて弱々しかったが確かに美咲の声だった。
痩せてしまった手を握る。管だらけの腕に力はないけど握り返す力は強かった。
3年前あの部屋で腕を切り自殺をしようとした美咲は一命を取りとめたが植物状態になっていたようだ。意識は部屋に残ってしまい自分は死んだと思っていたらしい。
後で聞いたのだが、部屋が安かったのは自殺したからではなく自殺しようとしたときにでた血が残ってしまったからだった。
「私ね。御札で消えると思ったの。でも気づいたらこのベットで寝てて…」
「この子起きるなりさっきまで東京にいたとか、はるきに会わなきゃとか言い出すから夢だよって言い聞かせてたのに…本当にいるなんてね。」
「俺も…生きてるなんて思わなかった…会えてよかった…」
「わたしも…」
「どうやらお邪魔なようね。ゆっくりしてってね」
そういうと美咲のお母さんは病室を後にする。
「ねぇ。はるき…消える前に言ってくれたこと…嘘でも嬉しかったよ」
「あんまり喋るなよ。まだ本調子じゃないんだろ?これからもいくらでもいってやるから」
「私あの状態の時は…3年前と変わってなかったから同い年ぐらいだったけど…今年23だよ…年上嫌でしょ…?」
「そんな変わらないだろ。それに嘘じゃないよ。大好きだ美咲」
「私も好きだよ。はるき…」
美咲とのキスは薬の味がした。
「これ、美咲が頼んだんでしょ?お金払う前に消えるとか嫌がらせだからな。」
「あ、私が頼んだ手袋だ…サプライズしようと思ってずっと前に頼んでたの…ごめんね。お金はお母さんに…」
「お金はもういいよ。どっちみち俺が払うことにかわりはなかったし。それに…これのおかげでここに来ようって思えたから」
「そっか。」
「ほらつけてみろよ。」
「ここは暖かいからいらないよ…ww」
「確かになww」
その後、清二に二人で撮った写真を送り、状況を説明する。清二の驚きようは、それはそれはすごかった。
その日は美咲の家に泊まることになり、夜帰ってきた美咲のお父さんと妹にも挨拶をした。
二人とも快く俺を迎えてくれた。それからクリスマスパーティーをした。
疲れた俺はその後すぐ寝てしまった。
ーきっとまた美咲と同じ部屋で暮らせる日を楽しみにしてー
完結です。気分がのれば番外編とか書くと思います