秋
四部作三部目です。
11月になった。イチョウも色がつき始めすっかり秋だ。
美咲との共同生活も半年以上が過ぎ、いるのが当たり前になっていた。
「はるきー、起きなってー」
いつの間にか呼び方もはるきになっていた。
「後5分…」
「みそ汁冷めちゃうよ?」
時間には起こしてくれるし起きればご飯が用意されている。最初の頃、違和感を感じると共にあった感謝も言われれば薄れていたかも知れない。
「あー、もうわかったよ。お母さんかお前は!!」
「起こしてって言ったのはるきでしょ?」
「はいはい。」
前の日バイト先で嫌なことがあった俺は少しイライラしていた。
「なんで怒ってるの?」
「関係ないだろ?」
「関係あるよ。一緒にすんでるんだもん。」
「勝手にいるだけだろ。大きなお世話なんだよ」
「なにそれ!ひどい」
ケンカをしたのは初めてだった。
泣いて美咲がリビングから出ていってから冷静になった。…が自分から謝ることもできず、声もかけずに出掛けたのだった。
そもそもなんで美咲に起こしてもらったのかと言うと今日はバイトが朝の勤務だったからだ。
「悪いことしたな…帰りに花でも買って帰ろう…」
「おはようございます…」
「おはよう。はるきくん。今日もしっかり働いてもらうからね」
「はい…」
「なに?聞こえない。はっきりしゃべんなさい」
「はい。」
この人は店長の塚本さん。機嫌が悪くなった原因だ。
最初の頃はにこにこで優しい人だったのだが慣れてくると自分の仕事を俺に任せたり。ミスを押し付けたりと俗に言うパワハラが多くなったのだ。
昨日もクレーマーに謝るときに俺の名前を使い、あたかも自分も被害者だと言い張ったのだ。
そんなこともありイライラしていたのだが…それが美咲に当たっていい理由にはならない。いつも尽くしてくれる彼女を泣かせてしまったのだ。
自分は他の人と話すことができるが美咲には俺しかいない。
バイトもどうにか終わり、家に帰る前に綺麗な赤い花とケーキを買った。
部屋の前まで帰ってきたが入りずらい。意を決してドアを開ける。
「…ただい…。…ん」
ドアを開けると美咲が抱きついてきた。
「…帰ってこないかと思った…。…ごめんね。うっとおしくて…でもどこにも行かないで…」
「泣くなよ。バイト行ってただけだから。それに俺が悪かったよ。とりあえずドア開けっぱだし部屋行こう。」
「…うん。」
このあとしっかり謝り、花とケーキを渡すと美咲もすっかり笑顔になってくれた。
そんなときチャイムがなる。
「だれだろ。はーい」
ドアを開けるとそこにいたのは清二だった。
「おい。はるき。正直に答えろよ」
「なんだよ、連絡もしないで来て」
「いいから」
「わかったよ。なんだよ」
「この部屋におばけいるだろ?」
清二は真剣な顔で俺にいう。
「な、なにいってんだよそんなのいるわけないだろ?」
「前きたとき女物の下着があったから何となく気になってここの物件を調べたんだよ。それに…このアパートに前、親戚のねぇちゃんが住んでたからそこからも聞いた。結論に達するまで少し時間かかっちゃったけど。いるんだろ?」
「だからいないって。ちょ…」
清二は無理矢理に部屋に入る。
「ほら、だれもいないだろ…この下着は俺の趣味だよ。お前にどうこういわれる筋合いは…」
「嘘が下手かよ、コップだって箸だって二人分あるじゃないか。いいかよく聞け。ここにいる女の霊は悪霊だ。このままだとお前…」
「なにいってんだよ!美咲はそんなやつじゃない!知ったようなこといいやがって!」
「やっぱりいるんだな!考えても見ろご飯も食べれて服も着れるおばけが普通なわけないだろ。」
確かに言われてみればおかしいだが…
「そ、そうかもしれないけどあいつは俺になんもしなかったぞ!」
「害はお前にはないよ。周りにあるんだ。そいつは女の人に害を与えるおばけだ。おかしいと思わないか?入学してもう半年もたつのに女の友達ができないことに」
「それは俺がそうしているから…」
「違う。だっておかしいだろ?俺の友達の女子もお前にだけ話しかけないしお前のことわからないって言うんだぞ?いつも俺と一緒にいんのに」
「…違うよな。美咲」
「…」
「おい!なんか言えよ美咲!隠れてないで出てこいって」
「ごめんね。はるき…」
「嘘だろ…」
「行くぞはるき。とりあえずここ出よう」
「はるき…」
「…」
その日は自分のなかで整理がつかず。ただ清二が用意してくれたホテルにいることしかできなかった。
確かに大学で女子から話しかけられることもなかったしバイト先でもなかった。単純に自分のせいだと思っていたのだが6か月間1回も話しかけられないなんて変だ。
それが変なことにも気づかなかったのだ。でもどうしてそんなことを美咲が?
ピロン
メールだ。
〈はるき…ごめんね。信じてくれないかもしれないけど…私が故意にやってる訳じゃないの…。でも言わなかったのは悪かったと思ってる。どっかではるきを独り占めできててうれしかったんだ…。でもそれってはるきのためにならないよね。私おばけだから…はるきと…その付き合ったりとか…結婚とかできないもんね。はるきみたいな良い人が結婚できないなんてよくないもんね。この半年すごく楽しかったよ…。〉
〈なんでもう会えないみたいなこと言うんだよ。今から行くから待ってろよ。〉
いてもたってもいられず俺はホテルを出て家に走り出していた。
ピロン
「向かってくれてるのか…優しいなはるきは…」
清二が置いていった成仏する御札。美咲はそれを手にした。
体が足から消えていく。消えたさきは何となく冷たく感じた。
ドアが開く。汗だくのはるきが部屋に入ってくる
「早かったね。来てくれてありがとう…」
「なにしてんだよ…消えてんじゃねーかよ。俺がいつ他の女と仲良くしたいって言った!お前でいいんだよ。美咲がいいんだよ俺は!」
「もっと早く言ってよ…w」
「なぁ行くなよ…!」
「ばいばい…ん。」
気づくと俺は消えていく美咲を抱き寄せ。キスをしていた。
「いかないでくれよ…好きなんだよ俺は…」
「ずるいよ…ありがとう。わたしも…」
何か言っているが声は聞こえなかった。美咲は光になって消えていった。
「わたしもなんだって言うんだよ…」
月明りに照らされた赤い花が悲しそうに見えた。
つぎは結末&後日談です