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月光の下  作者: すや顔
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僕は母に連れられて行った病院で統合失調症と診断された。直ちに入院する必要があると医者は母に説明していたが、僕は精神病院になど入院するつもりはなかったのでそれを拒んだ。僕は入院したくないと何回も言ったが、執拗に医者が入院を勧めてきたので、大声を出して帰ると診察室で叫んだ。すると医者と看護師が僕の体を無理矢理押さえつけてさらに母まで僕を暴れさせないようにと僕の腕を掴み、看護師が僕の腕に注射の針を向け針を腕に刺すと中の液を僕の体内に注入した。しばらくし頭が朦朧としてきて、僕はその注射が睡眠薬だと知って間もなく眠りに落ちていた。

眼が覚めると仰向けになった僕は朦朧とした頭とだるい体でしばらく体を動かさないでいた。ここがどこなのか見当もつかなかった。薄暗い部屋の中で所々しみのある天井を眺めていた。10分くらいはそうしていたのだが、ひとまず起き上がろと体を起こそうとした。しかし起き上がるどころか身じろぎ一つできなかった。何かで僕の体を縛り付けている、足も腕も動けない。唯一首だけは寝たまま上下できるので、体がベルトのようなもので固定されているのが見て分かった。

その部屋に何日いたのかは正確には分からない。ただ日が経つに連れベルトが一つ、二つと看護師により外されていき腰のベルトが最後に外され、その数日後その薄暗い部屋から別の病棟に移された。移った先の病棟は造りは一般的な普通の病院と変わりが無かったが、廊下の1番端と窓が鉄格子で閉鎖されていて階段に続く扉も鍵が掛かっていた。呻き声や奇声があちらこちらから聞こえ、

「ここは刑務所病院、刑務所病院」

と悲痛に叫んでいる者もいた。

ここが精神病院の閉鎖病棟なのかと分かり、無理矢理入院させられた怒りはあったが、僕はここから永遠に出れないのではないかと絶望した。

入院中あの囁きは消えなかった。あれこれその正体を考えているうちに、僕の脳裏に自然とあらゆる非現実的な像が浮かびは消えまた浮かぶようになった。

西洋の悪魔のような像。細部まではっきりと見え絵画で見たことがあるようでまた初めて見たような悪魔があらゆる種類の像として消えては浮かんだ。それは見ようとして見ているわけではなく自然と頭の中で見えてしまう、そんな言い方が的確かもしれない。

女の像。雪原の中に女が立っている。真っ黒い瞳の女が真っ直ぐ僕を見つめている。その女は美しいが誰かに似ているという訳でもない。

神のルーレットが見えた時もあった。何人かの神がルーレットをしている。僕はそれが見えた時、僕やそれ以外の人間はこの神のルーレットによって運命を決められ支配されている、もしかしたらそうかもしれないと考えを巡らせた。この囁きが悪魔ならば、この悪魔だって神の使いでしかなく支配しているのは神なのだ。すべてはルーレットによって決められ操られている存在が人間なのだ。すべての自然科学的な原理も宗教もどこか本質的なところで共通する部分がありそれが何かははっきりとは分からないが、この神のルーレットで決められた事象からなる人間の運命の軌跡の集合と共通するものがあるのかもしれないと僕は考え、そして宇宙全体という大きなものへと僕は思いを馳せた。それは漠然とした考えでしかなくはっきりとした答えは見つからなかったが、僕は何か確信に近いものを得たような気になった。

それ以外にも多くの像を見た。それらを見るたびに快感を得ていた。見たこともない美しいものを見ているという気持ちで僕は胸が踊った。そこになにがしかの意味合いを僕なりに付ける。僕は何か芸術家にでもなったような気分だった。幻聴に対する怯えは消えなかったがその像を見ることが楽しかった。そしてあっという間に3ヶ月が過ぎ僕は退院することになった。

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