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5 部下の不始末

遅くなりました。

 勝手に異世界へと呼びつれるような魔法を作っておいてアフターケアは知りませんだとぉ!?意欲が湧かないなんて理由で、はい、そうですか、わかりました。なーんてとでもいうと思ったのか、こンの馬鹿(やろう)は!

 図体はデカくても、小心者でも、仕事はとことん熱心な奴ならどうにかしそうな奴だろうと思ったのに。っていうかしてもらわないとマジ困る。


 未知なる研究心を核に突き進んだ研究結果で迷惑を被ったのだとしても、直ぐに帰してもらえるならば今感じている怒りも多少は抑えられると思ったけれど。

 無理。絶対に無理。

 あっちは加害者、こっちは被害者。この怒りを爆発させたとしても文句なんて言わせない。


 馬鹿(ジェラルド)の言葉を聞き、怒りを露わにした萌音に、身近にある資料の山で八つ当たりしそうな雰囲気を感じ取ったバラディール室長は、慌てて立ち上がると人としても使えない部下のジェラルドの後ろへ周り、容赦なくスパーンと実に小気味いい音で頭を叩いた。続いて叩かれた勢いで机に顔面をぶつけた。


「っっ。痛った!」

(ざまあ)

 萌音の怒りメーターレベルは最高値から二つ減った。


 後ろから急に叩かれ痛みを堪える為に机に突っ伏したジェラルドのことは完全無視し、バラディール室長はその場で立ったまま、目には部下に対する怒りを込めたまま優美な笑みを浮かべ萌音に対して礼を取った。

「モエさん、申し訳ありません。お怒りはごもっともです。これ(・・)には直ぐに元の世界へ戻れる魔法構築を作らせます。勿論、私も全力を注ぎます。それまではこちらでゆっくりとお茶などをお飲みになってお待ちください。―――デヴィッド、暖かいお茶をモエさんに用意して」

「はい」

 上司命令を受けたデヴィッド次長は、その大きな体から想像できない程音も立てずに椅子から立ち上がると、スルリと部屋を出て行くために移動した。

「モエさん、申し訳ありません」

 デヴィッド次長の後姿を見送ることなく、今度は真面目顔になったバラディール室長に萌音は謝罪をされた。

  

「魔導士ジェラルド・ブルグスミューラーの独断で使用した魔法に気が付かなった私にも責任の一端があります。

謝って済む問題ではないのは重々承知していますが、もう一度謝罪をさせてください。本当に、申し訳ありませんでした」

 言い終わると深々と頭を下げたままバラディール室長は動かなくなってしまった。


 えええーっ!?ちょっ、ちょっと~!?


 怒りが完全には収まってはいない萌音だったが、自分より年上な美人さんに頭を下げさせたままというのは性に合わない。

 あわあわと声は出さずに萌音は慌てた。

 上司が部下の管理に不行き届きがあったのは事実だろう。潔く上司として責任を取ろうとしているその姿を目の当たりにして、萌音の高ぶっていた気持ちはゆっくりと凪いでいた。


「あ、あの・・・取り合えず、分かりましたから、頭を上げてください」

 萌音の言葉に、ゆっくりとした動きでバラディール室長は下げていた頭をもとの位置へと戻した。

「では、許して頂けると?」

「・・・いえ、流石に全部を今すぐ許せると言う訳じゃないですけど。―――まあ、今日中に元の世界へ帰してもらえるなら貴重な体験が出来たなぁっていう感想にはなるかなぁなんて・・・思わないこともないですケド」

 真っすぐ萌音を見つめる色香漂うバラディール室長を前に、同性にドキドキするわ~なんて感情を感じつつ、現状を打ち明ける。


「そう言っていただけるだけでも有難いです。では、直ぐにジェラルドに元の世界へ戻るための魔法構築に取り掛からせますので。―――こら、ジェラルド。いつまで机に伏せたままでいるつもりですか。さっさと魔法構築に取り掛かりなさい」

 前半はゆっくりと丁寧にしゃべっていたバラディール室長だったが、後半は痛む頭を抱えたまま机にうつぶせになったまま動かない不出来な部下に対して苛立っているらしくやや早口になっていた。

「ぐう」

 ぐう?なんか変な音が聞こえてきたけど・・・。

 萌音にはお腹が鳴った音にしては違うように聞こえた。


「―――まさか、寝てるんじゃないだろうな」

 バラディール室長は静かな部屋に実に低いトーンで呟いた。

「ええ!?」

 まさかこんな場面で!?ありえないでしょうと萌音は目を瞬いた。


 ガタリと椅子から立ち上がったバラディール室長は、むんずと濃紺の髪を引っ張りあげた。


「んあ?」


 ・・・そのまさかに、空いた口が塞がらない萌音だった。

 

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