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4 少しは反省しろーっ

「―――で、モエさんは、仕事帰りに飲み物を買って、その缶を引き当てた、と。それで何が当たったのか確かめようとしたら、いつの間にかここへ来ていた。間違いはないですか?」

 ここへとたどり着いた大体の説明をした萌音にバラデュール室長さんが確認してきた。

「はい」

「そうですか。やはりジェラルドの独断犯行ですか・・・」

 罪を明らかにされた張本人は、言い逃れが出来ないからか椅子に座ったまま肩身を狭くしている。大の男がだんまりとなって小さくなってるのは、なんだか可愛かもなんて思ったのに。


「お言葉ですがバラデュール室長。一応断っておくが、前もって缶に説明文は記載したのだから、同意を得てこちらの世界に来たことは間違いない」

 何を思ったのか元凶は急に強気に出やがった。

 

 ムカっ!


「はぁっ!?記載っていったって、あんな適当な説明文。あれだけで商品説明が完全だなんて言わせない。ふざけんな?あんな説明不足過ぎる不良品、誰も内容を把握出来るわけないじゃない。そんな理屈が通るわけないでしょーが!」 


 あっ。思わず本音がでちゃった。大声と共に睨んじゃったよ。ジェラルドさんを。

 決めた。心の中だけなら「さん」も付けなくていいか。ジェラルドめ、少しは反省してるのかと思ったのに、全然かよ。


 いきなり怒り出されたものだから年下相手にもちょっとびびったらしい。後ろに下がった椅子の音が鳴り響いた。バラデュールさんと、デヴィッドさんはというと、やや引きつっている。

 ・・・やっぱ声がデカすぎましたかね?すみませーん・・・。

 萌音は二人にへらりと愛想笑いを返しておいた。

 でも、今ので分かった。ジェラルドは図体はデカいが案外小心者だ。


「とにかくっ!連日の超過勤務で疲れてるんです。早く帰って休みたいんです。明後日にはオーダーリクエストのバースディケーキを作る大事な予定があるんです。一刻も早く元の世界へ返してくださいよ」


 今度はきちんと声のトーンも抑えて意見を言った。こんなところで貴重な時間を潰すなんて勿体ないなくてしょうがない。

 ああもう早く布団に横になりたいのにっ!

 久しぶりに自宅へ帰れると浮かれすぎていたのがいけないのか。職場ではほんの少ししか仮眠を取ることが出来なかったから、マジでマイ布団で時間を気にすることなく、まったり、ぐっすり、どっぷりと今すぐにでも寝たいのだ。

 うっかり気を抜けば今すぐにでもこの場で眠れてしまいそうだけど、こんな訳の分からない異世界でうっかりと寝てしまおうものなら後が怖い。何をされるのかと考えただけで震えが走りそうだ。

 目が覚めたら全部が夢オチでもなさそうだし。


 それに大事な仕事が入っていることもある。

 先日お母さんと一緒に来てくれた五才の女の子のバースディケーキを作るという仕事。

 レンタルで見たのか、ケーブルで再放送されていたのかまでは分からないが、その女の子が最近大好きになったというアニメにハマったキャラものをケーキに描くことになっているのだ。

 小さな子が一生懸命こんなケーキが食べたいのっ!ときらっきらな目をして注文を受けた時の感動ったら。もー、その姿が可愛くて可愛くて。

 お姉ーさん、頑張って作るからね!と、女の子と約束をしたのだ。


 病欠や不意の怪我などで仕事が出来ない時は、同僚たちがフォローしてくれることは分かっているが、自分が女の子との約束を守りたいのだ。


 仕事をうけてから、そのアニメの事を萌音は調べなおした。アニメ自体は知っていたし、見たこともあった。

 ただ、家に参考となるイラストが無かったので、ネットでも調べつつ、友達から本を数冊借りた。

 実はアニメの原作者が専門学校の頃のからの友達である橘奈々(たちばななな)ちゃんの旦那さんだというのを知っていたから、彼女に連絡をして本家本元から本を借りたのだ。お陰で予習はバッチリだ。

 ケーキの予約をしに来てくれた時の女の子のキラキラと輝かせていた目を涙で曇らせたくない。きっと楽しみにしてくれている筈だから。

 ケーキを見て笑顔を見せてくれることろを想像して、絶対自分が作りたいと改めて強く思う。

 こんな異世界へ飛ばされてました。なんて理由で仕事が出来ませんでしたなんて、絶対にしたくない。


 ―――それなのに。


「無理だ。異世界からこの世界へと移転する方法は考えていたから成功出来たが、帰すことは全く考えてなかったから分からない。君を帰さなくてはならないことは分かってはいるんだが。異世界への興味がないわけじゃないが、こうして呼べたことに満足してしまって、今は魔法構築の意欲が湧かない」


 ジェラルドは、・・・もう名前も言わなくていいか。馬鹿は飄々と言いやがった。


 ぶっちーん!


 全員に何かが切れた音が聞こえた。


「ふっざけるなぁーっっっっっ!」


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