表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

005./ 蝶のように舞い、蜂の様にさせたらいいな~


 『ピピン ピピン ピピン』


 今後の予定をハヤテが考えている時、シュヴァインにコールがあった。


 「ハーイ! 皆のシュヴァインですよ! ……え? マジでっ!?」


 シュヴァインはハイテンションで電話に出ると、何度かの応答の後、驚いたようなリアクションをとり、コールを切った。


 「すまんハヤテ! ちょっと急用ができた!」

 「急用って、どうしたんだ?」

 「昨日から沸き待ちしてたレアエネミーが現れたらしい! 俺は直ぐにフレの所に行かなきゃいけなくなった! って事で、アディオス! ハヤテ!」

 「ちょ、お前!」

 「埋め合わせは今度な!(パチン!)」


 そう言って、シュヴァインは魔法陣を起動し、一瞬でどこかへと消えてしまった。


 「マジかよアイツ。ありえねぇ……」


 呆れて物も言えなくなった俺は、消えて行く魔方陣を見ながらため息を吐く。


 「はぁ……まぁ、いつもの事か」


 ハヤテはそう思い気を取り直すと、縄で拘束され地面に転がされたピッグに目をやった。


 『ブヒッ!?』


 ハヤテの視線を受け、ビクリと体を震わすピッグ。


 「まずは、こいつを片付けとくか……」


 腰に装備した【短剣:泣雀】を取り出し、まるでどこかの悪役の様なセリフを吐きながら、ゆっくりとピッグに近づくハヤテ。


 『ブヒー! ブヒィィ!』


 危機感を感じ、暴れだすピッグだったが、拘束している紐は一向に緩まず、とうとうピッグの目の前まで、ハヤテが迫っていた。


 「よいしょっと!(グサッ!)」

 『ブギ!』


 そして、ハヤテは躊躇いなくピッグの頭部に短剣を何度も刺し始めた。

 辺りには、ピッグの途切れ途切れの悲鳴が響き渡る。


 「終わりっと!」

 ――ザグッ!

 『プギィ………』


 ピッグに対し、最後の一刀を入れ青い粒子となって消えて行くピッグを見ながら、手で汗を拭う仕草をするハヤテ。


 「しんどいなぁ……これでどれ位、経験値入ったんだろ?」


 ハヤテはステータスを開きながら、経験値の入り具合を確認するが、しかしそこには、ハヤテが目を疑う数値が表示されていた。


 「は? これだけ苦労してたった1%? なんで……」


 NEXTLVと表示されている項目には、たった1%としか表示されておらず、LV3のピッグを倒したにしては、割に合わない数値だとハヤテは考えたが、しかし、直ぐにその原因を思いついたハヤテ。


 「まさか……あいつが捕まえて来たからか?」


 貢献度はRPGにはよくある設定で、どれだけその人物が対象を倒すのに貢献したかによって、経験値の入り具合が変動するという物だった。

 例えば、100LVの敵をある人物が最後の一刀まで追い込んだとする。その最後の一刀を、他のプレイヤーが放ち、そのモンスターを倒した場合、貢献度判定によって、最後の一刀まで追い込んだプレイヤーに、多くの経験値が入るという物だ。

 この事から考えるに、ピッグの状態は、シュヴァインが拘束し、煮るにも焼くにも好きなように出来る状態にしてから、ハヤテに倒させたことになる。

 すると、貢献度判定によって、例え対象のHPが減っていなくとも、追い込んだのはシュヴァインであり、最後の一刀はハヤテという事になってしまう。

 このWORLDワールド LINKリンク ONLINEオンラインでは、高度なAIが搭載されており、判定は公平であると言われている。


 「これじゃ、ただの骨折り損じゃん……」


 ピッグを倒した時よりも大きな疲労感を感じながら、ハヤテはその場に座り込む。

 その時、ズボンの尻ポケットに、妙な異物感があった。


 「ん?」


 ハヤテは、ポケットからそれを取り出すと、空にかざす。


 「あ~、忘れてた。せっかく貰ったんだから、装備しとかないと!」


 それは、親切なお姉さんから貰った、赤い宝石の嵌った指輪だった。

 直ぐにハヤテは、それをアイテムに移動し、指輪の説目をタップする。


 ------------------------

 【アクセサリ:紅の指輪】RANK:1

 装備LV:1 

 特殊効果

 [???]

 スロット:●

 ------------------------


 「何だこの、[???]って? もしかして、鑑定とか必要な奴か? スロットも埋まっちゃってるし……」


 ハヤテは一応、メニュー内で鑑定が出来るか探したが、見つからなかった。

 しかし、ハヤテはこのゲームを始めたばかりであり、アクセサリを一つも装備していなかったので、せっかく貰ったのだからと、ハヤテは指輪を装備した。


 「まぁ、後で街に行って、この[???]の見方を誰かに聞いてみるか。後、また会ったらあの人にお礼を……」


 と、そこまで考え、ハヤテは大切な事を聞くことを忘れていた。


 「しくじった……名前聞いてないじゃん、俺!」


 ハヤテは、今更ながらに自分の失態に気づく。

 そして、自分の名前さえも教えずに別れてしまった事を後悔した。


 「あぁ~。今度またあそこに行けば会えるかなぁ……あのお姉さん」


 しかし、今からまたあの場所に戻り、お礼だけを言うのも恥ずかしかしく思ったハヤテは、せめて、少しはLVを上げた後、街に行ってみようと思うのだった。



 ◇◇◇◇◇



 始まりの街ファルネラ。

 その路地裏で、クスクスと笑う一人の女が居た。

 黒髪に赤いメッシュが特徴的な、危ない色気のある女だった。

 するとその女に、直剣を下げた女が近づき話しかる。


 「あら、ローズ。どうしたの? すごく機嫌がよさそうじゃない?」

 「フフフ、分かる?」

 「分かるわよ~。その笑い方見たら、誰でも……」


 ローズと呼ばれた女の口は、三日月の様な形に上がっており、初めてそれを見た者がいたのならば、直ぐ様その場から逃げ出すであろう狂気が感じられた。


 「それで? あなたの茨に引っかかった可哀そうな子は誰なの?」

 「可愛くて、面白い子よ? メニューとマップの開き方を教えてあげたの」

 「え? そんな常識的な事も知らない子だったの? いるのね~、未だにそんな化石みたいな子」


 自分の知らない所で、化石呼ばわりされている可哀そうな人物の話を二人はしながら、ニヤニヤと笑う。


 「それで? 渡したんでしょ? ゆ・び・わ」

 「えぇ、素直に受け取ってくれたわ」

 「いつ摘みに行くのかしら? その時は、私達も呼んでくれると嬉しいんだけど。その子、見てみたいし」

 「いいわよ? 呼んであげる。そうね、明日位に摘みに行きましょう? きっと楽しくなるわ」


 二人は明日を楽しみにしながら、静かに笑う。

 路地裏には、クスクスと二人の笑う声だけが反響していた。



 ◇◇◇◇◇



 「お、スライム発見! やっぱ定番だよな、コイツは」


 草原を歩いていると、5m先の方に、地面から緑の何かが沸き出してきた。

 赤い核の様な物が緑の念液体に包まれており、ズルズルと液体を引きずりながら、此方に向かって来ていた。


 「弱点は……絶対あの赤い核だよな」


 ハヤテは、ズルズルとこちらに近づくスライムに対し、ある程度弱点を予想しながら、短剣を引き抜いた。

 スライムの速さはそこまで早くなく、人の歩行速度のその半分と言った所だった。

 ハヤテはスライムに対し、早歩きで近づくと、赤い核目掛けて短剣を突き立てる。


 「お、意外と減った」


 しかし減ったと言っても、五分の1程度である。

 すると、ハヤテが攻撃したすぐあと、スライムの体がボールの様に変化し始める。


 「ん?」


 そして、ハヤテが気付いた時には、先程よりもコンパクトになったスライムの姿があった。

 ハヤテは、先程のスライムの動きの遅さを考慮しながら、一歩後ろに下がったのだが……


 『ビュン!』

 「ゴフゥゥゥ!」


 急にスライムが加速し、ハヤテの腹へとタックルした。

 ハヤテはスライムに油断していたため、その攻撃をまともに食らい、勢いよく吹き飛ばされる。

 草原を転がりながら、ハヤテは急いで体制を立て直す。


 「び、ビックリしたぁ~! 驚きすぎて変な声でちゃったよ……」


 スライムの攻撃によって、5メートル以上吹き飛ばされたハヤテ。

 攻撃してきたスライムは、ボールの様な形になって、ハヤテから遠くに転がっていく。


 「てか、スライムの攻撃って、あんなに早いのか……あ~でも、RPGでスライムってタックルしてくるような描写あるけど、体験するとこんなに早く迫ってくんのね……」


 ハヤテは、転がった時に付いた草や土を払いながら、立ち上がる。


 「どれくらいダメージ受けたんだろ。まぁ、1か2程度かな? 所詮スライム……」


 しかし、ハヤテの目に飛び込んできたのは、その程度のダメージでは無かった。

 視界の右上にある自分のHPゲージは、残り1/5程度しか残されておらず、残りHPが赤く点滅しながら、自分が今、危機的状況なのだと知らせていた。


 「嘘だろ……」


 驚愕するハヤテに、スライムはボールの様に撥ねながら、ハヤテの方に近づいてくる。

 スライムの最初とは違う動きに、ハヤテは冷や汗を流し戦慄する。


 「嘘だろぉぉぉぉ!」

 『ポヨン! ポヨン! ビュン!』

 「うお!!」

 『ポヨン! ビュン!』

 「アブ! ちょ、タイム! タイム!」

 『ポヨン! ポヨン!』

 「うおぉぉぉぉ」


 ハヤテvsスライム。

 ハヤテは脱兎の如く逃げ出した。

 ハヤテの苦難は、まだ始まったばかりだ。


スライム LV5

ボールの様に移動しながらタックルしてくる。

防御力は低いが、攻撃力が高い。


ハヤテはまだ、敵の情報を知るすべを知らない為、スライムを雑魚と侮りました! 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ