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003./ 超絶美男子! 紅のシュヴァイン!


 「まずは噴水を探さないとな」


 ハヤテはまず、匠との待ち合わせ場所である噴水を見つける為、当ても無しに歩き始めた。

 現在ハヤテが居る場所は、大きな広場の様な場所であり、目印になる物と言えば、ハヤテの後ろにある5メートルはある美しい女神の銅像だけである。

 ハヤテの周りでは、地面にシーツを轢き、その上に商品を並べて物を売るプレイヤーや、ベンチや壁に寄りかかり、雑談をするプレイヤーなどである。

 

 「人が多いいな。どこなんだろ、ここ? フリマ(フリーマーケット)かな?」


 辺りを見回しながら、地図等が掲示板に貼ってないかを探しながら進むハヤテ。

 しかし、そのような物は何も無く、噴水も見当たらない。

 十分程辺りを散策し、待ち合わせの時間まで残り少なくなった時、ハヤテは病院での匠の言葉を思い出した。


 「そういえばアイツたくみ、フレンドID登録してるから、それで連絡しろ見たいな事言ってたな……」


 しかし思い出したはいいが、どうやって匠に連絡すればいいのかが、ハヤテには分からなかった。

 草原では、キャラメイク位しか記憶になく、チュートリアルの様なものは無かったからだ。


 「もしかして、メニューとかそういうの無い感じ? どっか行かなきゃ連絡とれないとか? いやいや、そんな事ないだろ。何かキーワードがあるはず……」


 ハヤテは街の壁に背を付け、辺りのプレイヤーをよく見てみる事にした。

 すると、雑談をしている腰に剣を下げた三人組が、何やら何もない空間で、指を仕切りに動かしていたのだ。

 それはまるで、そこに何かしらの画面が在るかのようであった。


 「やっぱり、思った通り。だけど問題は、どうやってその画面を出すかなんだよなぁ」


 しかし、あるという事は朧気ながら分かったハヤテであったが、それを出す方法が分からない。

 匠との待ち合わせの時間は刻々と迫っており、このまま当ても無しに彷徨い歩いたとしても、噴水に辿り着くことが出来そうもなかった。


 「……はぁ、人に聞くしかないか。人に物を訪ねるなんて、小学生以来だな……」


 ハヤテは、壁際から離れながら、人の良さそうで優しそうな人が居ないか辺りを見回し探し始める。


 「あの人は……蜥蜴人? 顔が怖いからパスだな。あそこの人達に……いや、楽しそうに話してるし、空気読まず聞いたら嫌な顔されそう……」


 ハヤテは、なるべく一人で居り、暇そうで、優しそうな人物と、居そうで居ないそんな人物を探しながら歩いてく。

 すると、広場から少し離れた道の先に、垂れ目で黒髪に赤いメッシュを入れたスレンダーな女性が、壁に腕を組んで腰掛けていた。

 腰には、薔薇のような装飾をした二本の短剣を挿しており、暇そうに髪を弄りながら、道行く人を眺めている。


 「時間ないし、あの人でいいかな」


 待ち合わせまで時間が無く、ハヤテの条件に当てはまっていたその女性に、ハヤテは勇気を出して声を掛ける事にした。


 「あ、あの。少し聞きたいことがあるんですが……」

 「あら、何かしら?」


 ハヤテよりも背が少し高く、髪をかき上げるその仕草に、少々ドキリとしたハヤテだったが、ここで逃げては男でないと、勇気を出して質問した。


 「噴水まで行きたいんですが、道を教えてもらってもよろしいでしょうか?」


 見た目からして年上であろうその女性に一応敬語を使い、なるべく丁寧に質問するハヤテ。

 しかし、女性はその質問に首を傾げた。


 「マップを見ればいいじゃない?」

 「いえ、その、VRMMOは初めてで、このゲームも初めてプレイしてて……ですね。その、チュートリアルも無くて、マップもどうやって見たらいいか、分からないんです」


 ハヤテは下を俯いたまま顔を真っ赤にして、言い訳めいた自分の現状を女性に話した。

 しかし、顔を真っ赤にしている理由は、別に恥ずかしいからではない。

 女性が動きやすいためか、ショートパンツの様な物を履いており、太ももが露わになっていたからである。

 服も胸元を大きく空けた服装をしており、胸の谷間を直視しないよう下を向いたにもかかわらず、下には色気のある白い太もも。

 ハヤテの脳内は現在、大変な事になっており、思春期のハヤテには、どうやら刺激が強かったようだ。


 「へ~……そうなんだ~」


 俯いて顔を赤くしたその少年に対し、女性は何かを感じるところがあったのか、一瞬舌なめずりをすると、口を三日月の様に歪ませ笑い、緊張で硬くなったハヤテの肩に、優しく手を置いた。


 「じゃあ、お姉さんが教えてあげる」

 「あ、ありがとうございます!」


 しかしその表情をハヤテが見ることは無く、ハヤテが顔を上げた時には、優しい年上のお姉さんの様な、優しい笑みがあるだけだった。


 「メニューを出すには、メニューオープンて意識しないといけないの。声と脳内、どっちでもいいから意識して言ってみて」


 ハヤテは、教えてもらった通りに、声に出して「メニューオープン」と言ってみる。

 すると、ハヤテの目の前に、30センチ四方のデジタル画面が現れた。


 「あ、メニュー出ました!」

 「それがメニューよ。自分以外の人には見えないから気をつけてね。右下辺りにマップの項目があるから、それをタップしてみて」


 ハヤテは、マップという項目をタップする。

 すると、現在いる街の全体マップが現れ、自分が居る場所が青く点滅していることが分かった。

 右上には、街の名前が表示されており、街の名前は【ファルネラ】という事が、今更になってハヤテは知った。

 こう事は、色々なゲームをしてきたハヤテであったため、マップ以外の項目も、何となくだが用途が予想が出来た。


 ハヤテは、マップを指先でピンチインしながら、こっから徒歩5分の辺りに噴水がある事を確認し、ギリギリ間に合いそうな事に安堵する。


 「マップオープンって意識してもマップが出るから、今度からそっちの方が早いかもね」

 「色々とありがとうございます! おかげで助かりました!」

 「いいわよ、困った時はお互い様だしね」


 そう言って、ニコリと微笑むお姉さん。

 ハヤテは、その笑顔に心臓がドキリとするが、心の中で(これはゲームこれはゲームこれはゲーム)と念仏のように唱える事で、何とか平常心を取り戻す。


 「本当にありがとうございました!」


 そして、ハヤテは親切なお姉さんに対しお礼の言葉を言ったあと、噴水の方角へと歩いて行こうとした時だった。


 「あっ、そうだ」

 「?」


 しかし、噴水へ向かおうとするハヤテを、急にお姉さんが楽し気な声を上げながらハヤテを呼び止める。


 「お知り合いの印に、コレ・・、上げるわ」


 そう言って、掌に一つの指輪を出現させた。

 その指輪は、赤色の小さな宝石が嵌っており、見た目もシンプルな物だった。


 「いえ、そんな、悪いですよ」


 ハヤテは一応、貰える物なら貰っておきたがったが、道やメニューの開き方まで親切に教わっており、そこまでしてもらうのは悪いと感じていた。


 「いいのいいの。初心者なんだから遠慮しなくていいのよ? 大切にしてね?」


 そう言ってお姉さんは、ハヤテの右手を優しく取り、その手に指輪を握らせた。

 ハヤテは申し訳ないと思いながらも、お姉さんの手の感触にドキドキしていた。


 「……ありがとうございます。レベルを上げて、いつか何かお返しします!」

 「ふふふ、楽しみにしてるわ」


 ハヤテはもう一度、頭を下げてお礼を言った後、噴水へと走っていった。

 その後ろ姿を、妖艶な笑みを見せながら手を振ってハヤテを見送ったお姉さんは、一瞬、あの三日月の様な笑みで口元を歪めると、その口を「あらいけない」といった様子で手で隠す。


 「本当に……楽しみね。ハヤテくん♡」


不吉にハヤテの名前を呼びながら、親切なお姉さんは人ごみの中へと姿を消すのだった。


 ◇◇◇◇◇


 「時間ギリギリ! 危ねぇ~」


 メニューの時計で、丁度15時を回った頃、ハヤテは噴水広場の前に来ていた。


 「まだたくみの奴、来てねぇのかな?」


 近くにあったベンチに座り、額の汗を拭きながら、ハヤテは辺りを見回すが、匠の姿は何処にもない。

 匠は人ゴミの中にいたとしても、直ぐに分かる体型をしている。

 身長は颯とそう変わらないが、体重が100キロを超えており、横を無駄に取る体型をしているため、一発で分ってしまうのだ。

 しかし、ここはゲームの世界。顔や体など幾らでも弄る事が出来る為、最早本人を容姿で判断するには難しく、周りは美男美女ばかり。亜人も獣人も溢れている。

 その為、匠の様な人物は、一向に見つかる気配が無かった。


 「あ、そうだった!」


 しかし、ハヤテはここで、大切な事を思い出した。

 親切なお姉さんとのお喋りに緊張してしまい、頭からすっぽ抜けてしまっていた。

 ハヤテ頭には、病室での匠の言葉が思い出される。


『んじゃ、キャラメイク終わったら、最初の街の噴水近くで待っててくれ。メニューを開けばコールボタンあるから、それで呼んでくれれば直ぐに行く。もう俺のフレンドIDは登録済みだからな!』


 「連絡しなきゃいけないんだった……」


 ハヤテは急いでメニューを開くと、フレンドという項目をタップする。


 「……これか?」


 すると、フレンドの項目に一人だけ、【シュヴァイン】という人物の名前があった。


 「これしか無いよなぁ……」


 無駄に響きのカッコいいその名前に、ハヤテはジト目になりながらも、【シュヴァイン】という人物をタップし、【コール】のボタンを押す。

 すると、『ピピン ピピン ピピン』と、規則正しい音を立てながら、シュヴァインをコールする音が、耳元から聞こえだす。

 数秒のコール音の後、『ピコン!』と音を立て、シュバインがコールに出た。


 『ハーイ! シュバインDESU☆』


 ――ブツン!


 イラっと来たので切ってしまったハヤテは、これは確実に匠だなと確信し、一安心する。

 すると、直ぐにシュバインからのコール音が、耳元で鳴り出した。

 ハヤテは、シュバインからのコールに、渋々といった表情で出ると、ハイテンションな匠の声が、耳元で聞こえだした。


 『ひどいじゃーん! ハーヤーテー! 別に切る事ないっしょ~』

 「お前の声が耳に障ったから切った。だからお前が悪い」

 『冷たいねぇ! ハヤテくん! てか、名前本名じゃん? 俺みたいにカッコイイ名前付けとけよなー! せっかく颯のネーミングセンスが分かると思ったのによ~』

 「そんなのどうでもいいだろ。で、どこいんの?」

 『噴水前に居るぞ!』


 ハヤテは匠からそう言われ、メニューから目を離し、噴水前に意識を向ける。

 しかし、どれだけ探しても、匠の姿は見当たらない。


 「いないじゃん。どこだよ」

 『っふ、俺はもうお前の事見つけたぞ! 今お前、ベンチに座っているな!!』

 「え、マジでどこにいんの? 分かんねぇんだけど」


 噴水広場は多くのプレイヤーが居り、一体どこに匠が居るのかが分からない。

 ハヤテは、噴水の近くで、コールしている人物を重点的に探してみるが、噴水前だけでも複数人がコールらしき行動をしており、匠を特定できずにいた。


 『てかハヤテwお前、アバターがリアルと同じじゃんww瞳の色だけ変わってるけどwww』

 「このままが一番落ち着くんだよ!」

 『クソっ! これだからイケメンは! 顔に自信があって羨ましい事だな! しかし、この世界では俺の方がイケメン! 超絶美男子! 紅のシュヴァインである! この姿、とくと見るがよい!』


 ――ブツン!


 匠とのコールが切れたあと、噴水の方から、ハヤテの座るベンチまで、一人の青年が近づいてきた。

 赤いルビーの様なロングの髪形をした、身長180センチはある美男子である。

 その美男子は、ゆっくりとハヤテの前まで来ると、手を自らの顔の前にやり、まるでV系の様なカッコイイポーズをしただした。

 そして、イケメンな声で。


 「オ・レ・ダ!」

 「………………誰だって?」

 「オッ・レッ・ダッ!」

 「…………………………あ? 誰だって?」


 ハヤテが眉間に皺をよせ、目の疲れを癒すが如く指で皺を解し、もう一度、もう一度お前は誰かと再確認する。

 すると、赤髪の美男子は、一度背を向けた後、ハヤテに勢いよく振り向き、謎のキラキラエフェクトを全身で垂れ流しながら、白い歯でキラリと笑って見せた。


 「シュヴァインだ!」

 「リアルと全然違うじゃねぇか!」

 「あっっっったり前だろハヤテく~ん! リアルの俺は仮初の姿! これが俺の本来の自分! そう、紅のシュバインとは俺の事!」


 効果音が『バーン!!!』とかなりそうなポーズを取りながら、キラキラと光る匠ことシュヴァイン。


 「その鬱陶しいエフェクト止めろ! てか、俺から距離を取れ! 恥ずかしいだろ!」


 周りでは、シュヴァインの無駄にキラキラ輝くエフェクトに人の視線が集まっており、その視線は、シュヴァインの目の前にいるハヤテにも突き刺さっていた。


 「恥ずかしがり屋だなぁ~ハヤテくんは~」


 そんな、某国民的アニメの青狸の様な声真似をするシュヴァインに、ハヤテの羞恥心と殺意が爆発しそうになった瞬間。


 ――パチン!


 と、シュヴァインが無駄にカッコつけながら指を鳴らす。

 すると、足元に光る魔法陣が現れ光を放った瞬間、いつの間にかハヤテは、草原のような場所に立って居た。

 一キロほど先には、先程いた街であろう場所が小さく見え、目の前のシュヴァインが転送したのだとすぐに気づいた。


 「どこでもパッチン〜。どや? これでじっくり話せるだろ?」


 腕を組んで、ニヤリと笑うシュヴァインに、ハヤテは無言でローキックを浴びせるが、怯む様子もなく、平然と立って居るシュヴァイン。


 「っふ、その程度では効かんよ。君とはLVが違うのだ! LVが!」


 誇ったように口元に笑みを浮かべたシュヴァイン。


 「……まぁ、知ってたけどな。リアルで脚が治ったら覚えとけよ……」


 ハヤテからそう言われ、口元が引きつるシュヴァイン。

 しかし、このまま喧嘩をしていても話が進まないと思ったハヤテは、一度話をここで切り上げ、本題を話すようシュヴァインに問いかける。


 「んで? お前から誘われて、一応このゲーム始めて、噴水で集まった訳だけど……俺は何すればいいの?」

 「あ~、そうだったそうだった! ちょっと待ってな」

 「そうだったって……お前……」


 ハヤテからそう問われ、そうだったと言わんばかりにメニューを弄り始めるシュヴァイン。

 しかし、何かを思い出したように、突然その作業を一時中断した。


 「……そういえば、ハヤテは職業なににした?」

 「冒険者だけど?」

 「ステータスはどんな感じ?」

 「あぁ、それならSPDに極振りした」


 何気ない質問をシュヴァインはしたはずだったが、最後のハヤテの言葉に絶句するシュヴァイン。イケメンな顔も台無しである。


 「……SPDに……極振りした……だって?」

 「そうだけど? 何かマズった?」

 「マズったも何もお前……」


 シュヴァインは、突然わなわなと震え始めると、大声で叫び始めた。


 「それじゃお前! STRにも1も降ってないの!?」

 「お、おう」

 「VITは!」

 「0だな」

 「MND!」

 「0だな」

 「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 馬鹿野郎おぉぉぉぉぉ!!!」


 ハヤテの説明を聞き、膝から崩れ落ちるシュヴァイン。


 「武器補正しか攻撃力ないじゃん!」

 「戦う事あまり考えてないしな」

 「モンスターと戦わなくて何が冒険者だハヤテ氏!」

 「モンスター倒すだけが冒険者の道じゃないでしょ! ……たぶん」

 「ちくしょー! これならハヤテにちゃんとステータスの事説明するんだった!」

 「そうだな、お前の責任だな」

 「俺の馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉぉ!」


 いつの間にかシュヴァインに責任転嫁したハヤテは、シュヴァインの絶叫の中、草原に流れる風を頬に感じながら、これから行く見た事もない世界の姿に思いを馳せるのだった。


シュヴァインはドイツ語でブタを意味します。(´・∞・`)ブヒー

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