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001./ 始まりは病院で

のんびり更新です。


 「……ん、んん?」


 少年が目を覚ますと、自分の知らない白色の天井があり、白いベットの上に寝ていた。


 「……どこだ、ここ?」


 少々混乱しつつも、ベットから上体を起こすのだが、眠っていたせいか、重い倦怠感が体を襲い、気分が悪くなってくる。


 「気分悪りぃ……」


 胸元を摩りながら、少年が辺りを見回すと、どうやらここは個室らしく、自分以外の人間は居ないことが分かった。

 そして、少年の鼻に、消毒液の様な独特な匂いが漂ってくる。

 少年は、この匂いを何度か嗅いだ事があり、どこだったかと思考を巡らせ、ある場所を思い出した。


 「もしかして、病院? なんで病院にいるんだ俺?」


 少年は、少々混乱しながらも、辺りを見回しながら、自分の体を見回していく。

 左手には、点滴チューブが刺されており、体の至る所には、細かなかすり傷があった。

 そして、極めつけは、右脚を固定するギプスである。

 天井から紐の様な物で固定されており、簡単には動かせないようになっていた。


 「ギプス……」


 少年は、試しにギプスの中にある自分の右足を動かしてみたのだが……


 「い゛い゛ってぇぇぇ!!」


 鈍器で殴れたような鈍痛が右脚を襲い、少年を悶絶させる。

 その少年の悲鳴を聞いてか、それともはたまた偶然か、通りがかった看護婦が、丁度よく部屋の扉を開けて入って来た。


 「どうされました? 大丈夫ですか?」


 少年の元まで小走りで駆けてる看護婦に、「だ、大丈夫です」と、強がってみせた少年は、しかし、額には大粒の脂汗が浮き出ていた。

 ナースは、少年の額の汗をガーゼでふき取ると、「すぐに先生を呼んできますので、安静にお願いしますね」とだけ言って、部屋から去っていった。


 数分後、白衣を着た初老の医者と共に、先程の看護婦が帰って来た。


 「あの、俺に一体何が起こったんですか?」


 少年は、初老の医者に直接、自分に何が起こったのかを聞こうとしたが。


 「意識はしっかりしているみたいだね。私は君の担当医の柴田だ。君の質問に答える前に、先にちょっと検診をさせてもらっていいかな?」


 少年は、渋々「分りました」といって頷くと、柴田と名乗った医者は、眼球にライトを当てたり、心音を聞いた入りと、軽い検診をした後、軽い意識の確認、そして、脚や頭部以外に痛む箇所は無いかなど、事細かく聞いてきた。

 それが終わると、医者は何かをメモしたボードを看護婦に渡し、一息ついた後、壮年に何があったのかを語り出した。


 「さて、君に起こった事だが、君は交通事故に遭ったんだ」

 「交通事故?」

 「そうだ。君は信号無視した大型トラックに正面衝突したんだよ。幸い、トラックの運転手が、激突前に急ブレーキを踏んで、衝突の威力が和らいだみたいでね。それでも、右足の骨折と、頭部を三針縫うという大怪我だ」

 「トラック……信号無視……」


 少年は、医者から自分がトラックに撥ねられたと言われた瞬間、脳裏に、その時の記憶が思い出せてきた。

 あの日は確か、自転車で友人の家へと遊びに行こうとしていた時だった。信号が青に変わり、渡っている途中、突如、信号を無視して突っ込んできたトラックが、自分の目の前まで迫っていたな、と。

 しかし、そこからの記憶がぶっつりと途切れており、結果として、今病院のベットに寝るような事態になったのだろう。

 よくトラックに跳ねられて助かった物だと、骨折した右足を見て思いながら、医者の話に耳を傾ける。


 「……どうだい? 何か思い出せてきたかい?」

 「えっと、トラックに跳ねられる直前までは……」

 「ほかに何か忘れてしまったことは無いかい? 親の顔や、自分の名前。交通事故などに遭った人には多いいんだよ。記憶が少しの間、飛んでしまう事がね。試しに、自分の名前と年齢を言ってみてくれないかい?」

 「名前は、幸田こうだ  颯 はやて。歳は16です。両親の事もちゃんと覚えてます」

 「ふぅ。よかった。記憶は大丈夫そうだね」


 医者は、よかったよかったと言いながら、颯の肩を軽く叩いた。

 少年の名は、幸田こうだ  颯 はやて。黒髪黒目で、身長は170cmと、スラリとした体形をしている。一般的な高校生だ。

 現在夏休みの最中であり、颯は家でダラダラとしていたはずだった。

 故に、ふと、颯は肩を叩かれながら、一つ気になった事があった。


 「俺、どれくらい寝てたんですか?」

 「君がトラックに跳ねられて、病院ここに運ばれてから丸1日位かな、脳や体も検査して、右足の骨折以外は以上は見つからなかったから、君はかなり運がいいよ。体もすごく丈夫だ!」

 (よかった、眠ってたのは一日だけか……)


 そう言って医者は笑いながら、颯の肩を先程よりも強く叩いてくる。


 (痛い痛い! もう少し病人を気遣え!)


 と颯は思ったが、口には出さず、肩を叩く手を避ける事で意思表示する。


 「っと、済まない。すこし力を入れ過ぎたみたいだね。そうそう、君のご両親には先程連絡しておいたから、直ぐに此方に来ると思うよ。ご両親もすごく心配してたから、安心させてあげると良い」

 「あ、ありがとうございます」


 ニコリと微笑む医者に、ぺこりと頭を下げ、親に心配させてしまった事に、何とも言えない申し訳なさが、颯の心を満たしていく。

 医者は、カルテに何事かを書き写すと、思案顔の颯に目を向ける。


 「右足の骨折は、3か月ほど様子を見る事になる。最低2か月は入院して貰う事になるから、ご両親が来た時に、服や病室で暇を潰せる物を頼んで置くといいよ」

 「え? 三ヵ月も?」

 「あぁ確か、今は夏休み中何だっけ? 運が良かったと言っていいのか分からないけど、学校への登校は、9月以降になるね。少しばかり勉強が遅れてしまうかも知れないけど、大丈夫。数日ならすぐに取り返せるさ! いやぁ、夏休み。羨ましいなぁ。先生は――」

 「…………俺の………夏休みが…………」

 

 世界が、目の前が白く染まっていく。颯の夏休み期間の計画が、全て白く染まっていく。


 (夏休み期間中は、速攻で宿題を終わらて、海に、山に、ゲームに、海に、ゲームに………)

 「それじゃぁ、何かあったらそこにあるボタンを押してくれ。すぐに誰かが来るはずだから」


 そんな思考が、颯の頭の中をグルグルと周り、放心する颯を尻目に、医者は病室から出ていった。残ったのは、白く燃え尽きた颯だけだった。


 颯が燃え尽き2時間後、トラックの運転手に怨嗟の感情を芽生えさせていた颯の病室に、両親が見舞いやって来た。

 やはり色々と心配を掛けていたようで、颯の両親は「よかったよかった」と、何度も言いながら、学校や今後の事を話し、入院期間中に、何か持ってくる物は無いかと聞く。

 颯はそれに、必要な服や暇な時に読みたい漫画、夏の間の宿題等、色々と持ってきてほしい物を両親に頼み、1時間ほど喋った後、颯の両親は帰っていった。


 そのすぐ1時間後、颯をこの状態にした、トラックの運転手が病室にやって来た。

 颯が驚いたのは、トラックの運転手は、病室に入ってくるなり、ベットの前で土下座をしだした事だ。

 不安と後悔で綯交ぜになった顔で、何度も頭を下げるその姿に、颯は一瞬で毒気が抜けてしまい、慌てて土下座を止めるよう説得した。

 やっとの事で、どうにか土下座をすることを止めてもらった颯は、何度かの謝罪の後、あの時、何故自分を撥ねてしまう事態になったのかを、颯は教えてもらった。

 そして、色々と話した結果、簡潔に纏めてしまうと、睡眠不足での居眠り運転だった事が分かった。

 急ブレーキが間に合ったのは、本当に偶然だったと聞かされた颯の背中には冷や汗が流れたが、色々と話してみると、どうにも悪い人では無いようだと、颯は思うようになっていた。

 その後は、入院期間中の治療費や、保険金など、色々と難しい話は両親との間で終わっている様で、最後には、お菓子がどっさりと入った袋を置いて、深く腰を折り謝った運転手は、病室から去っていった。


 「なんか、すごい拍子抜けした気分だ……」


 貰ったお菓子をポリポリ食べながら、その日はもう、来訪者が訪れる事は無かった。

 夕方の18時を過ぎ、やる事も無くベットの上で寝転がっていると、先程から尿意が少しづつ押し寄せて来るのを颯は感じていた。


 「……トイレはどうすんだろ。この脚じゃ歩けないしなぁ……」


 そろそろ膀胱が限界に近い事を感じ、何か乗り物が無いかと颯が辺りを見回すと、ベットの横に、自分が乗る為であろう車椅子が置いてあった。

 別に一人で頑張って移動し、この車椅子に乗ってもいいのだろうが、ここは一応、看護婦を呼んだ方がいいと感じた颯は、備え付けのナースコールを押す事に決めた。


 「ナースコール押すの、生涯初だな。何かこれ、どっから見ても爆弾のスイッチだよなぁ……」


 そんな馬鹿な独り言を言いながら、颯はナースコールのスイッチを押す。

 すると、しばらくして、先程とは違った看護婦が、病室へとやって来た。


 「どうされました? 幸田さん」

 「いえ、あの……トイレ行きたいんですけど」

 「分りました。車椅子をご用意しますね」


 看護婦は、手際よくベットの横へと車椅子を設置し、颯の腰に手をまわすと、颯は折れていない方の脚で移動しながら、ゆっくりと車椅子に座った。


 (慣れるまでは、車椅子に座るのも大変だなこれは……)


 その後、病室から出てトイレまで行き、颯のダムが決壊するような事態は避けられた。


 「ありがとうございました」

 「ここに尿瓶をセットしておきますので、移動がお辛い際はお使いください」


 看護婦はその後、尿瓶を足元のベットに設置し、病室から出て行った。


 「尿瓶かぁ、あまり使いたくないなぁ……」


 思春期の年頃である颯は、こういう事は何かと気にかかり、どうにか自分一人でトイレに行けるようになろうと、車椅子にのる練習を始める。とは言っても、トイレに行きたい時だけだが。

 しかし、トイレの度に、颯は思う事があった。一人で何とか車椅子に乗り、トイレへと行ったが、脚が使えないというのは、これ程までに不便な事だったのかと。


 「早く直さないとなぁ。まさか足の骨折が、こんなに面倒だとは……」


 颯は元来、アウトドアな人間であり、家であまりじっとしては居られない性分である。

 家で友人とゲームもするし、漫画も読むが、外に出て海や山などで遊んだ方が、自分には合っていると、颯は思っていた。

 それもそのはずで、家は田舎にあり、自然に囲まれて育った颯は、直接的に風を感じ、自分で物を触り、泳いで水の感触を楽しむ等、幼少の頃から自然で遊んでいる為、そういう思考になるのは半ば自然である訳だが……


 「それにしても、どうすっかなぁ。病室でやる事っつても、マンガかゲーム位しか思いつかないし……」


 颯は、明日両親が持ってくる物以外で、どうやって暇を潰そうかと考えていると、いつの間にか夕方を過ぎ、初の病院食を食べた後、身体が怪我を治したいのか、それとも緊張のせいなのか、強い眠気が襲ってきた。


 「何かすごい眠いし、もう寝るか……」


 颯はベットに横になりながら、深い眠り付いた。

 だが、颯は一つ。大切な事を忘れていた。

 なぜあの日、トラックに撥ねられる事になったのか。

 それを思い出すのは、次の日、病室にやって来た来訪者によってだった。

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