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073 ヒョードルと公衆浴場と国家機密

「ほう。思ったよりもずっと豊かなようじゃ」


北門をくぐったヒョードルは、酒場に腰を落ち着けて、道行く人や店内の様子を見ながらそう言った。


「旦那、今でこそこうですがね、数日前、スーパーができるまでは、そりゃあ酷かったもんでさ」


と、酒を運んできた恰幅の良い女性がそう言った。ここの女将だろうか。


「ほう。食料はそうでも、街の雰囲気はそのスーパーではどうにもならんじゃろう。(すさ)んだものが少ないようだが」

「いや、それもね」


と女将が語ったところによると、魔物の大発生以降、つい半月ほど前までは、南街区は壊滅状態で、住民はみな廃墟に暮らし、ぼろぼろで飢えていたそうだ。

領主館が食糧を放出して炊き出しをやってくれていたが、その食糧も最後には底をついたらしく、行われなくなって皆が絶望していたとか。


「それがたった半月でどうしてこうなったのじゃ?」


と聞くと、新しく来た代官様が、あれよあれよというまに南街区の住民をまとめ、街区を整地し、病人やけが人を治して、炊き出しなども行いながら、次々と街を再建していったのだとか。


「なんじゃそいつは? 超人かなにかなのかね?」

「代官様ご本人は、お子様なんですがね」


周りに従えている人たちが凄いんでしょうかねぇ、と言って女将は笑いながら厨房へと戻っていった。


カールがのう。

半月で街を再建など、何をどうしたらそんなことが可能なんじゃ? しかも、疲弊した住人を使って?

普通の領主が兵100人を連れてきたとしても、そんなことは不可能に思える。


エールを飲みながらそう考えていた。


  ◇ ---------------- ◇


「んじゃ、この辺でお願い」


俺は木の枝で、だーっと地面に線を引いていた。

その線を目安にして、ノエリアが土魔法で建物の外枠を一気に作り上げていくと、おおーっと歓声があがる。


「土魔法のレベル8呪文、城作成(シタデル)まで使えるとは凄いですね!」


俺は、興奮して目を輝かせてるファルコに、いやこれlv.2 土魔法(モールド)だから、なんて、言い出せるわけもなく、ニコニコしていた。

部屋の区分け設定に応じて、次々と壁と屋根を作っていくノエリアとは違って、リーナには外壁の表面加工をお願いしている。


初めは大理石なんかも考えたのだが、あんまり立派になっちゃうと、普通の人が来にくくなるような気がして、地味にレンガ模様にしてみたのだ。

こちらもベベベベっと壁に模様が刻まれていく。


細かな内装や、上下水道への接続は、ファルコ達職人の仕事だ。


「これはなんじゃね?」


と、見知らぬおっさんが話しかけてきた。


「これはお風呂ですよ」

「風呂?」


見知らぬオッサンは驚いたようにそう言った。


「ええ、誰でも利用できる、公衆浴場です」


なんだろう、このおっさん。フランクそうなのに妙に鋭い目つきをしているし、それにさりげなく周りに控えている男達は、このおっさんの護衛っぽいポジションをキープしている。


 --------

 ヒョードル=トルゾー (52) lv.48 (人族)

 HP:925/925

 MP:738/738

 

 直感 隠蔽

 

 計算術 ■■■■■ ■■■□□ 隠蔽

 交渉術 ■■■■■ ■■■□□ 隠蔽

 氷魔法 ■■■■■ ■■□□□ 隠蔽

 

 アル・デラミス王国伯爵

 財務長官

 セントハウンド

 --------


うぉい! なんでこんなところに財務長官が!!


「なぜ、国の(いしずえ)たる農地を後回しにして、浴場などを作っておるのじゃ?」

「農地はつくったところで、結果が出るのは半年以上先ですけど、浴場ならすぐ公衆衛生や住民の癒しに効果が見込めるからですよ。食料は幸い商会が運んでくれますし、税はどうせ今年の分には間に合いません」


財務長官は、しばらく作業を眺めた後で、どこかに立ち去っていった。

領主の館に触れが来てないってことは、お忍びなのかね?


  ◇ ---------------- ◇


なんじゃ、あのでたらめな建築方法は!


あんな巨大な建造物を、魔法でほいほい形成しておるとは、いったいどんな魔力をしとるのじゃ? しかもみな歓声を上げるばかりで、だれもそれを不思議だと思っておらん。一体なにがどうなっとるのか。

南街区のこの街並みが、ここ半月で作られたという信じられん話も、あれがあるなら可能かもしれん。


しかし問題はそこではない。


サリナが意味深なことを言うので、ここへ来る途中に調べさせたカールの資料にあった奴隷の所有魔法に、土魔法の記述はなかった。なかったのじゃ。

つまり、バウンドギルドの資料が間違っていないとすると、わずか一月(ひとつき)に満たない期間で土魔法を覚え、あそこまでになったということじゃ。しかも、二人とも。


これが一人なら、才能という言葉で片付けることもできるかも知れぬが、偶然出会ったに過ぎぬ二人では無理がありすぎる。


つまり、これは、あっという間に魔法使いを育て上げる方法があるという可能性を秘めているわけじゃ。そんなものが本当にあるとしたら、確実に国家機密じゃ。もしその秘密がどこかに知られたりすれば、軍事を始めとして、現在の世界のバランスが一瞬で崩壊しかねんぞ?

これは、どうしたもんかのう。


藪はそっとしておくべきだったかのう……


  ◇ ---------------- ◇


公衆浴場は、お湯に浸かると疲れがとれると評判になり、住民もこぎれいになって、概ね好評だった。


概ねというのは、しばらくの間、洗い場で洗濯をする人が激増したらしい。なぜ?と思ったら、暖かいお湯がふんだんに使えることと、石鹸が置いてあることが原因だったようだ。

石鹸は高級品で、普通の家では使えないのだとか。それがただで置かれていたら、そりゃ使いたくなるに決まってるだろと、ハロルドさんにセッキョウされた。


そんなの先に教えてくださいよ、ハロルドさんが、ハイムで普通に使ってたから、別に珍しくもないのかと思っていたよ……


後日、お風呂の使い方を書いた石盤を脱衣場に設置、さらに、共同の洗濯用の洗い場を併設した。風呂屋にコインランドリーをくっつけたようなものか。


  ◇ ---------------- ◇


「ふ、あはは、あははははは」

「どうされました? サリナ様」


手紙を開いて、突然笑い出した私を見て、侍女のローレリアが驚いたように聞いてきた。


「あ、いえ、なんでもないの」


カールが4億セルスをベンローズ家に都合した?


ダイバからの手紙には、確かにそう書かれていました。

意味は全く分かりませんが、コートロゼは活気を取り戻し、ベンローズは救われるそうです。


あの子と神に感謝を。


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