068 倉庫襲撃と某侍とダイカーン3じゃなくて5
おいおい、アプリコート。あんたとうとう一線を越えるつもりかい?
通りの影から覗いてたハーゲンは、なんとも柄の悪そうな4人と連れだって、こんな夜更けにどこかへ行こうとするアプリコート司祭を見てそう考えた。
今すぐサヴォイ様にお知らせして指示を仰ぎたいところだが、実際にアプリコートがどうするのかは、まだわからないわけだしな。もしかしたら柄の悪い友達と一緒に夜遊びという線も……まあ、あるわきゃないだろうが、もう少し様子を見るか。
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なんだ、あのいかにもチンピラな連中は?
新しく来たらしい代官の話をもう少し詳しく聞こうと思って教会に足を運んだベイルマンは、丁度司祭が4人の男を連れてどこかに出かけようとしている場面にでくわした。
声をかけようか迷ったが、連れの様子があまりにおかしい。教会の司祭たるもの表の顔はちゃんとしていただきたいものだが。
しかも紐が付いているじゃないか。
こいつは何者だ? 素人ではなさそうだが、諜報の専門の訓練を受けているようには見えんな。かといって、司祭一行を襲おうとしている感じでもない。まあ、雑魚には違いないが、面倒だな。
ベイルマンは、闇に溶けて司祭一行とハーゲンの後ろを付いていった。
夜の闇に紛れて、南街区の中央通りを5つの影が、人の目を憚るように移動してる。
空気はやや湿り気を帯び、南の風が吹き込んでいる。空は厚い雲に覆われ、星も見えず、もうしばらくしたら雨になりそうな雰囲気だ。
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いやー、赤い、赤いわ。真っ赤だわ。
流通拠点の屋根の上に、5人で座って司祭を待っていると、マップの上でヤバい人マークが赤くせわしなく点滅しはじめた。
何事かと思い、ポップアップで表示させると……
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ベイルマン (39) lv.32 (人族)
HP:525/525
MP:532/532
暗殺術 ■■■■■ ■□□□□
投擲術 ■■■■■ ■□□□□
暗器術 ■■■■□ □□□□□
拷問術 ■■■■■ ■□□□□
特別異端調査官
特別異端尋問官
狂信者
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うぉい! 狂信者ってなんだよ! それ肩書きなのかよ。教会のヤバイ人だよ。
大体コイツ、会ったこともないのになんで真っ赤なんだよ?
手前の司祭を含む5人より、遥かに危険な人物だが、さてどうしたものかな。
「なあ、カール様よ」
「なんです?」
「俺たちゃ、なんで屋根の上なんかに座って、やつらを待ってるんだ?」
「いや、ほら、上から悪をなそうとする人の前に登場するって、なんか格好いいじゃないですか。ほら、お見通しだぞ、みたいな」
リーナが目を閉じ腕組みをして、コクコクうなずいている。リーナは最近、フィクションに毒されているからな、こういうのをよく分かってくれるんだ。
「それだけかよ!」
「凄い重要なことじゃないですか」
「大体、こんなところから飛び降りたら怪我を……いや、怪我しそうなのは俺だけだな」
ハロルドさんがリーナとノエリアとクロを見て、ため息をついた。
いや、最近のハロルドさんも大丈夫じゃないかと思うんですけど……
「ご主人様。あっちの方が気持ち悪い、です」
リーナが近づいてきて、ベイルマンのいる方を指さした。
さすが銀狼族、気がついたか。でも、あんまりそっちを見るんじゃありません。しらんぷりしてなさい。
問題は誰が本命のターゲットかってことだけど、司祭やハーゲンってことはないよな。リーナやノエリアやクロやハロルドさんは、教会から疎まれる理由がないし、後は、結果として大主教とやらの邪魔をしまくっている俺か、謎の肩書きを持つサヴィールだろうなぁ。
そう、マップによると、サヴィールも司祭の後をつけてきていた。あの子は最近きれいな水色なので、ポップアップさせなくても分かるのだ。
千客万来だね。
まあ、考えていても仕方がない。ベイルマンが介入してくるようなら排除するだけだし、それまではシナリオ通りに司祭達の行為を妨害しよう。
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あの忌々しいスーパーカリフから500m程南へ下ったどん詰まりに建っている大きな建物。あの代官が真っ先に建設したこの建物が、すべての元凶なのです。
この建物さえなくなれば、人々はまた私にひざまずき、食料は教会を中心に流れ始め、皆が救いを教会に求めるようになるはずです。
「あれです。任せましたよ」
「ああ、こいつを燃やしちまえばいいんだろ?」
「そうです。料金分の仕事はしていただきますよ」
「わかってる」
4人の男達は、嫌な笑みを浮かべながら、松明を持って散っていった。
「くっくっくっく、これで何もかもが正常に戻るでしょう」
「司祭様! なにをなさろうとしているのですか!」
そこにサヴィールが飛び出してきた。
「サヴィール? 何故あなたがここに……あなたには関係ありません。すぐに教会へ戻りなさい」
「あの人達は一体なんです!? まさか神の教えに背くような真似を……」
うるさい、うるさい、うるさい! 今年の予算は全て食料に消えました! あれがある限り、あなたも教会も路頭に迷うと、なぜ分からないのですか!
アプリコート司祭は、血走った目でサヴィールをにらみ、近づいていく。
サヴィールは、その様子にひるんで、後ずさった。
「サヴィール。それ以上私の邪魔をするようでしたら……」
「ひとぉつ、人の世の、生き血をすすり」
「ぐぉ」
一人が去った方向で、うめき声が聞こえ、どさりと人の倒れる音がした。
上から声がしたような。なんです? いったい?
「案ずるな、峰打ちじゃ、です」
「だ、誰です?!」
「ふたぁつ、不埒な……不埒な、あー、なんだっけ?」
「何を言い出したのかと思ったが、締まらねぇ、なっ」
「げふ」
別の方向でも、どすっと殴られるような音と共に、松明が落ちて地面に転がり消えそうになっている。
「みっつ、みんなで戦おう。……なんか違うな」
空気を切るような音と共に、残っていた男の松明を持つ腕を矢が貫き、男の悲鳴が聞こえる。
「ぐああああ」
「退治てくれよう、カール……いや、まて。ボクだけ何もしてないしな、ダイカーン3いや、5にしとくか」
最後の男の足をノエリアのシャドウランスが縫いつけた。
「あ、足が、俺の足がっ!」
そして俺は、建物の影から代官の前に姿を現し、彼に向かってこう言った。
「教会を預かる司祭様が、焼き討ちなさろうとは穏やかじゃないね」