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056 人目を忍ぶ行為と空飛ぶサンタクロースとダブルでセッキョウ

「では、これから、コートロゼ下水道作成プロジェクトを始めたいと思います。はい、拍手ー」


リーナとノエリアが、ぱちぱちぱちと手を叩く。


あの後ゾンガルの武器を受け取ったクロは、そのままスコヴィルと弓の練習を兼ねた狩りに行って疲れたのか、ぐーぐー寝ていたので不参加だ。


さて、コートロゼは幸い少し小高い位置にある。バラの丘だからね。下流の淀んでない位置までの距離は直線で大体2500mくらいだが、勾配は50m以上あるから1/100以上は確保できそうだ。

近いところに沈殿槽を作って、そこまではちょっと急峻に。沈殿槽と浄化槽できれいにした水は、緩やかな1/100くらいの勾配で川へと流す感じで行こう。


問題は低い位置から水を持って来なきゃいけない上水道なんだが……それはまた後で検討かな。


「あのなぁ、カール様。今何時だと思ってやがんだよ」


拍手が終わったとたんに、ハロルドさんが突っ込んできた。


「えー? みんなが寝静まったくらいの時間? かな?」


「ほー。それで、我々はなんでこんなところで起きてるわけですかね?」

「穴をほるため?」


「昼間、人手が多いときに掘らせればいいだろうが」

「だめだめ、そんなんじゃ。ハロルドさんは分かってないなぁ」

「ぐっ、なにをだよ?」


「人目を忍ばなきゃダメな作業は、やはり夜中が基本だと思うわけですよ」

「やっぱり、しのぶのかよ……」


ハロルドさんはあきらめたようにそう言った。


◇ ---------------- ◇


まーた、なんだか訳の分からんことを始めやがった。


今俺たちは、北門の側の街壁の内側にある、ちょっとした空き地の隅に立っている。

多くの馬車が到着したときなどに、一時的に止めて手続きを行うためのエリアだ。

カールのやつに言わせると、この位置から、南門の脇を通してまっすぐ掘ると下水管の幹線として丁度良いそうだが、なんのことやら。

大体、道具もなしで、どうやって穴を……


「はあああ?!」


ノエリアの嬢ちゃんが、何かをぶつぶつ唱えたかと思ったら、突然直径2mちょっとありそうな穴が突然目の前に現れた。


「なんだそれは?! 土の高位魔法か?」

「え? いえ、生活魔法の掘削(フーィエ)ですよ?」


と、カール。


はぁ……あのな、それは半メトルくらいのゴミを捨てたりする穴を掘る魔法であってだな、決して一瞬で直径2メトル以上で深さは……4メトルくらいか。の穴を掘る魔法じゃねぇよ!

大体、掘った土は何処に行ったんだ?


「アイテムボックスの中です。ほら、とりあえず降りましょう」


ご丁寧に、ステップラダーまで付いてやがる。



そこから先は、カールがあっちと指さす方向に、ノエリア嬢ちゃんが一瞬で直径2メトルちょっとくらいの穴を掘り、てくてく歩きながらリーナ嬢ちゃんが壁を強化したり、なめらかにしたりしていた。

てかさ、これ俺いらなくね?


「何言ってるんですか、護衛ですよ、護衛」


こんな穴の中で誰に襲われるっていうんだよ。


「それは分かりませんよ。地底を自在に掘り進む大地の妖蛆のごとき魔物がいないとも限りませんし」


そんなやつがいるのか?


「いや、知りません。それにほら、こんな凄い工事は、やはり誰かに見て驚いて貰わないと、なにかこうモチベーションとかあるでしょ?」


知らないって……、あるでしょってな……


「でもなんだか歩くの大変だし、おこちゃまだから眠くなってきたし。ちょっと飽きましたね」


こ、このやろう……


「そうだ!」


なんだ? また、何を思いつきやがった?


カールはリーナ嬢ちゃんに身振り手振りでなにかを説明していた。

しばらく後に完成したのは――


「ぱんぱかぱーん、そりー!」


もうなんだか変なテンションになってるぞ、お前。


「さあさあ乗って下さい。下水管は緩やかな下り勾配なんです。だからリーナにつるつるにして貰った床を滑りながら、壁にぶつかる前にノエリアが穴を掘る! これで完璧です! ハロルドさん、最初はちょっと押して下さいね」


まあいいけどよ。うりゃー!


「お、おお! なんだか結構スピードが!!」


押した後、そのソリに飛び乗った俺は、思った以上に速度が出始めたことで、少々不安になった。

このまま壁にぶつかったらどうするんだ?


そんな不安をよそに、ノエリア嬢ちゃんは次々と穴を開けていき、リーナ嬢ちゃんがソリの前方の壁の強化とすべすべ化を同時に行っている。

速度はどんどん上がっていき、作業もどんどん早回しになっていく。なんだこりゃ? ヤバくないか?? カールは――


「あははははははは! 行けー! 行けー! あははははははは!」


ダメだこいつ……舞い上がってやがる。しかしこれ、もはや馬が全力で走るより速い気が……一体、最後はどうなるんだよ?!


◇ ---------------- ◇


その頃、南門の付近を、鮮やかな青いシャツと深い紺のズボンに身を包んだ男がふたり、棒のようなものを持って歩いていた。

男達の胸元には、鷲の足元に剣と盾があしらわれた紋章が縫いつけられている。紋章の下部、いわゆるモットーの部分には「ザンジバラード警備保障」と書かれていた。


「今日も静かな夜だな」

「ああ。何事もなさそうだし、さっさとひとまわりして、詰め所で茶でも飲もうぜ」


最初は夜勤なんてきつそうだから嫌だなと思っていたが、トラブルを起こすやつもいやしないし、勤務時間は交代制だからずっと夜勤ってわけでもないし、なんでも深夜労働手当とかいうのがついて、払いが25%増しになるそうだし、そう悪くもないよな。


「平和な、よ……」


夜だねぇと、そう言かけたとたん、遠くから、ずががががーーーん!!という凄い音が響いてきた。


「おい、今の? 何かの爆発か?」

「ああ、街の南側だ」


うなずきあった俺たちは、訓練通り、一人は詰め所へと、もう一人はサイラスさんのところへと急いでかけだした。


◇ ---------------- ◇


うはー、ぺっぺっぺ。酷い目にあったぜ。


「おおーい、みんな無事か?」


ノエリアにかばわれながら、立ち上がって、いまだに上がる土煙を透かしながら全員の安否を確認する。


「大丈夫なの、です」


さすがはニャンジャ、くるくる回って、無事に着地したらしい。


「ば、バカ野郎。無事なほうがどうかしてるだろ!」


とののしりながら、向こうの盛り上がった土の中からハロルドさんが立ち上がる。無事じゃん。


いや、穴ほり自体は順調だったんだよ。ただね、穴が貫通したら、もう掘るものがないってことを忘れていただけなんだ。

ソリは見事に空を舞い、トナカイのいないサンタクロース状態の俺たちは、人間大砲さながら、凄い速度で地面に激突したってわけ。


もちろん俺は、ノエリアが重力魔法で保護してくれたから無事なのさ! HAHAHAHA!


と笑っていたら、ハロルドさんにげんこつを落とされた。(いて)ぇ……すみません調子に乗りました。


ともあれ、下水道の幹線は完成だ。浄化槽とか沈殿槽とかそういう細かいことはまた今度だな。何しろ眠い。疲れたよ。


ハロルドさんに、散々セッキョウされながら、とぼとぼと歩く帰り道。ううう。おかしいよ、ボク上司じゃなかったっけ?


次々と襲ってくる魔物は、リーナとノエリアが危なげなく始末していた。

ああ、もうすぐ南門だ。これでセッキョウ地獄から脱出……あれ? あれは――


◇ ---------------- ◇


「サイラスさん! 出動準備、整いました!」

「よし、これはあくまでも調査行動です。 危険だと思ったらすぐに撤退! 無理はしないように」

「はっ」


総勢40人弱の部隊ですし、夜でもあります。そうやばいことはさせられませんね。

しかし、爆発音ですか。スタンピードが起こってからそれほど間がないわけですし、気味が悪いですね。単発なのが幸いですが……


「サイラスさん!」


あわてて、カンプが走り寄ってくる。なんでしょう?


「あ、あれ。あれ!」


なにか、南の方を指さしていますが……人影?

集まった 灯籠(ロンテーヌ)(生活魔法・光)に照らされた、その人影は――


「カール様?!」


「や、やあ……サイラス。どうしたのこんな時間に」


その後、事情を知ったサイラスとハロルドさんがタッグを組んで、朝日が昇るまで俺にセッキョウをし続けるであろうことは、想像に難くなかった。


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