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049 持ち株会社を作ってみた

「馬鹿が迷惑をかけたそうだが、それで、代官様が、俺になんの用だい?」


あのベルランドって男が気がついたのか。魔法屋のばーちゃんといい、中々情報通の多い街だな。


通された部屋の奧には、立派な椅子が置かれていて、護衛だろうか、数人の男達が並んで立っていた。

マップだと、微かにオレンジがかった白をしている。敵意というよりは警戒だな、これは。


椅子には山のような体躯のごつい男が座っていた。しかし――


 --------

 デング (31) lv.32 (人族)

 HP:570/570

 MP:435/435

 

 戦斧術  ■■■■■ □□□□□

 体力強化 ■■□□□ □□□□□

 --------


「特にあなたに用はありませんね。ザルバルさんに会いに来たつもりですので」

「そ、それはどういう意味だ」


影武者なら、そこで動揺しちゃだめだろ。


「どうもこうも言葉通りの意味ですよ。あなたは組織をまとめるタイプじゃない」

「な、なんだと?」


デングが声を荒らげようとしたとき、


「なかなか見る目があるようですね」


と、横のドアが開いて小柄で冷たい目をした男が入ってきた。


 --------

 サイラス (27) lv.23 (人族)

 HP:278/278

 MP:354/354

 

 暗器術  ■■■□□ □□□□□

 気配検知 ■■■□□ □□□□□

 --------


暗器術ってなんだよ。物騒だな。

それにしても、2度にわたって人をはめようとするなんて、どんだけ用心深いんだ。でも認識先生の前に影武者は無力ですよ。


はぁーっとため息をついて、後ろに立っていた男の中にいた、中背だがごつい体つきの男に向かって、


「時間もあまりないでしょうし、茶番はこの辺にしておきませんか?」


と言ってみた。


 --------

 ザルバル=ザンジバラード (24) lv.31 (人族)

 HP:610/610

 MP:377/377


 剣術   ■■■■■ ■□□□□

 体術   ■■■■□ □□□□□

 --------


ふーん、なかなかの実力者だな。


「それは、どういう意味ですかな?」


とサイラスが声のトーンを下げる。


「一度見破られた振りをしながら、タイプの違う影武者で種明かしをするのは悪い手ではないと思いますよ。しかし、いくら興味があったとは言っても、本人が護衛の中に並んでいるのは相手にヒントを与えすぎて頂けない」


「ほう。なんで俺が?」


ごつい体つきの男が進み出てきて、そう言った。


「まず、護衛にしては隣の男が気を遣いすぎてますね」


ザルバルは斜め後ろを振り返り、隣にいた男を確認した。その男は気の毒なくらいに固まって、汗を流している。


「そしてこの中でただ一人、高価なシガの香りがする。訪問がいきなりでしたからね」


と、机の上のシガケースを指さしながらそう指摘した。


 --------

 シガ

 

 シガの葉を蒸してから捲いて作る嗜好品。火をつけて煙を味わう。

 --------


つまりはシガーだね。


「かっ。そんなことか! しかたねぇ、今度からは気をつけるぜ」


と言い放って、どかっと正面の椅子に腰掛けながら、俺たちに椅子を勧めた。がははオヤジタイプが地なのか。


「しかし、ほとんどのやつは、そこのサイラスで納得するんだがなぁ。なんだか切れ者っぽいだろ?」

「ポイとは失礼ですね。私は切れ者のつもりですが」

「がはははは、わかったわかった、そう怒るな。それで、一体どんな用なんだ?」


と切り出してきた。


「いえ、大したことではないんですが、ザルバルさんに警備会社を作っていただこうと思いまして」


「はぁ?」

と声を上げたのはハロルドさんだった。うるさい、ちょっと黙ってて。


「警備会社だ? なんだそれは?」

「注文に応じて、街の治安や人を守る組織ですね」


それを聞いたザルバルは、目を白黒させてこう言った。


「おい、お前。俺たちの生業(なりわい)を知ってて言ってるんだな?」

「反社会的勢力なんてものは、社会がなければ成り立たない脆弱な組織ですよ」

「なんだと?」


「現在コートロゼの治安は余りいいとは言えないようです」


俺は足を組み替え、居住まいを正して語り始めた。


「…………」

「もしこのままだと、あなたたち、一掃されてしまいますよ?」

「一掃だ? 誰にそんなことができるって言うんだ?」


ザルバルが少しトーンを下げた凄みのある声で答える。


「私に」


ザルバルたちは、何の冗談だとばかりに顔を見合わせている。


「おいおい、そんなことを言って無事に帰れると思ってるのか?」

「もちろんです。夕飯も食べたいですしね」

「すっとぼけたガキだな。ここで、あんたを暗殺することだって……」

「できるならやってみるのも良いかもしれませんが、無理だと思いますよ?」


そういった瞬間、部屋中が触れるほどの密度で放たれた殺気で満たされた。それはメガラプトルと同じ檻に入れられたほうが、まだずっとましだと思えるくらいで、それに晒されたものは皆、指ひとつ動かすことができなかった。


「な、こ……」

「ご主人様に仇をなそうとする方に、明日が訪れることはないでしょう。ご注意を」


その中心にいたノエリアが、殺気をとくと同時に、まわりの男達が皆くずおれて、荒い息をついている。


「つまり俺たちに……選択肢はないってことか?」

「いや、あるんじゃないですか? 裏社会のまま滅びるか、表社会で頑張るか、みたいな?」

「そういうのを選択肢が無いって言うんだよ! くそ、わかったよ。それでどうすりゃいいんだ?」


「まず、表通りの空き店舗をひとつ借りて、看板を上げましょう。そうですね、『ザンジバラード警備保障』なんてどうでしょう」

「な、なんでその名前を……」


ザルバルは驚いたような目で俺を見つめている。認識先生によると、ザンジバラードは20年ちょっと前になくなった騎士爵家らしい。何があったのかはしらないが、ま、これくらいのハッタリはね。


「重要なことは明るい人あたりと明朗会計です。守って貰っても、守代(もりだい)にいくら請求されるのか分からなければ、怖くて頼めないですからね。ちゃんと料金表をつくって……サイラス、たたき台を作っていただけますか?」

「は? ……はぁ」


間の抜けた返事でザルバルの方を伺うが、ザルバルがうなずくと作業を請け負った。


「そして宣伝も重要です。残念ながらマスメディアが発達していないので、主要な宣伝手段は口コミですか?」

「マスメディア? が何かしらんが、宣伝ならギルドの掲示板とかだな」

「はい、それ採用。そんな感じで仕事の内容を世の中に周知していきましょう。脅しちゃだめですよ?」


「しかしな。こんな仕事は冒険者ギルドに頼めば良いんじゃないのか」


ザルバルは不思議そうに、そういった。


「冒険者は、主に対魔物とか盗賊とかに力を発揮する人たちですから、酒場の警備とかには向かないんですよ。相手を殺しちゃったらマズイでしょう?」

「ああ、それはそうだな」

「それにコートロゼに集まっているのは、一線級が多いですからね。魔物を狩っていたほうがずっと儲かるはずで、そんな仕事を引き受けてくれる酔狂な人は少ないでしょう」

「なるほど」


「ああ、それから」

「なんだ?」

「ザルバルさんの生業には、普通の商売って含まれてないんですか? 飲み屋だとか娼館だとか」

「いや、あることはあるが」

「ではそれもまとめて会社にしましょう」

「なんだと?!」


「そうですねー、まず現在のザルバル一家みたいなのを、ザルバル持ち株会社にしてしまいましょう」

「なんだ? その持ち株会社ってのは……」


そうして数時間のお話し合いの結果――


ザルバルと俺が金を出し合って、ザルバル持ち株会社を設立する。株券というか会社の権利は、俺が51%で、ザルバルが49%だ。

この持ち株会社の下に、ベルランドサービス(飲食や娼館を経営する会社)とザンジバラード警備保障を設立し、持ち株会社の社長はザルバル。サービス会社の社長はベルランド。そして警備保障の社長はサイラスにやらせることにした。


恰好がバラバラだし、見た目が怖い従業員も多いので、警備保障に勤務する連中には制服を支給する予定だ。


また固定費算出のために、急いで社員名簿の作成と、現在の後ろ暗い仕事を整理して、コートロゼの法に従った仕事に転換する作業を行うように言っておいた。

なお、どう考えても法がおかしい場合や、転換が難しい場合は、俺の所まで言ってくるように伝えた。何しろこちとら法を作る側ですからな、はっはっは。


「じゃ、とりあえずの軍資金です」


と言って、金貨100枚を取り出してザルバルに渡し、預かりをもらう。


「あ、ああ。それでこの後はどうすればいい?」

「名簿が出来たら領主の館まで、持ってきて下さい」


「ああ、そういえばあんた、代官様だったっけ」

「なんですか、いまさら」

「いや、どっかの大悪党の親分と話をしてたような気分でな」


ちょっと待て、と突っ込もうとしたら、どっちも大差ないから心配すんな、ってハロルドさんに先に突っ込まれた。失礼な。


  ◇ ---------------- ◇


夕食には揚げ物が登場していた。

揚げ物を初めて食べる、コートロゼ3人組にも大変好評で、ダイバは、これで酒があればなぁなんてこぼしてた。


「それで、街はいかがでしたか?」


とダイバが聞いてきたので、買い物の後ザルバルと会った話をした。


「大丈夫でしたか? あの男は力もあるのですが、なかなか用心深く、簡単には悪事の尻尾を掴ませない危険な男なのです」

「そうですね、このまま治安が悪化すると、一掃されちゃうから悪いことするのやめなよと説得してきました」

「は?」


ダイバの唐揚げを食べようとしていた手が口元でとまる。

ハロルドさんはあきれたような顔をして首を振っている。そこ! あれが説得ねぇ、みたいな顔しない!


「そ、それで?」

「ええ、快諾していただけましたので、ついでに、警備会社も作ってきました」

「は?」


もはや何が何だかわからないといった顔で、ダイバとダルハーンがこちらを見ている。


「ほら、治安が徐々に悪化していると仰っていたでしょう?」

「え、ええ」

「で、実際、街に出てみると、全くその通りだったわけですよ」


赤服にも絡まれたしな。


「だけど衛兵組織はスタンピードで損なわれてますし、すぐに元の水準に戻すのは難しそうじゃないですか」

「そうですね、今の衛兵に払う給料ですら、事欠く状況ですし……」


とダイバ。


「ですから民間で警察機構を補って貰おうと思いまして」


米軍占領下の日本の治安維持にいわゆるヤクザが一役買っていたのは歴史的事実だし、暴力装置のそういった利用はうまく行えばとても効果的だ。


「み、民間ですか?」

「冒険者に護衛を任せるのだって、民間の警備みたいなものですからね」

「それはそうなのですが……しかし、冒険者ギルドが文句を言いませんか?」

「街の中での飲食店の用心棒なんて仕事を、冒険者が引き受けるとは思えませんけどね。どっちかというと、喧嘩する側だし」

「た、確かに。しかし、カール様は、とんでもないことを考えられますなぁ……」


「そうだ、ダルハーン。近日中に、ザルバルの組織のものが社員名簿を持ってくるはずですので、そのときは通すか受け取っておいて下さい」

「かしこまりました」


そうして、コートロゼ初の会社というものが発足した夜は静かに更けていくのであった。


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