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029 62x62x62メトルと1/7200と、てくてくさくさく

2017/01/23 記述間違いの訂正。62立方->238,328立方ですが、見づらいので62x62x62 に変更

「「「おはようございます(です)」」」

「おう。おはよう」


今朝も宿の食堂で、ハロルドさんにあった。そうだ。


「ハロルドさん。お世話になったお礼なんですけど」

「なんだよ改まって」

「これ、使いませんか。試作品なので性能はいまいちなんですが」

「試作品?」


件の小物入れを取り出して、ハロルドさんに渡した。


「これは? 試作品って言うからには、ただのショボイ革袋ってわけじゃなさそうだが」


俺は近づいて、声を潜めていった。


「アイテムボックスです」

「な、なんだと~?!」


がたんと立ち上がったハロルドさんに、食事中の他の客からの視線が集中した。リーナが静かにしろポーズで、アピールしている。


「しーしーしー!」

「あ、ああ、すまん」


落ち着いて座り直したハロルドさんに、簡単に説明した。


「試作品なので、性能はホント大したことないですから。しかも、ボクらが無知だったので、袋に付与する始末ですよ」

「まあ普通は身につけるアイテムに付与するよな」

「らしいですね」

「容量は、4メトルx4メトルx4メトルで、内部の時間は1/60です」

「時間遅延が付いてるのか?!」

「ええまあ。気持ち程度ですが」

「気持ち? 1/60なら、超高性能だぞ」

「へ?」

「1時間で1分しかたたないんだろ? つまり、1日経っても、24分しか経過しない」

「まあ」

「容量だって、全然悪くないだろ。こんなサイズの荷物を背負えるわけ無いし」

「それはそうですが」


「いいか、これを買ったら、いや、買えたらだな。最低でも3000万セルスはするぞ。いや、時間遅延が1/60だから、5000万をこえるかもな」

「まぢですか?」

「なんだそれ。もちろん本当だ。エンポロスにでも聞いてみろよ。そもそもものが無くて、5000万出しても手に入らないけどな」

「はぁ」

「……で、これ、本当に貰って良いんだな?」

「あ、はい、どうぞ。ただし出所は内密に」

「分かってる。ありがとうよ」

「所有者は未登録ですから、魔力を登録してから使ってください」


「あ、それからちょっと聞きたいのですが」

「なんだ?」

「魔法って、普通の人はどうやって覚えるんですか?」

「普通の人ね……まあ、家庭教師を雇うとか?」

「いえ、どんな訓練をすれば、スキルとして覚えるのかな、と」

「火なら、指の先から魔素を放出するような練習とか、火を強くイメージして、指先に火をともそうとする練習とか、そんなんじゃなかったかな」

「なんですか、それ」

「なんですかといわれても、そういうものなんだよ。初級の教習書なら、バウンドの魔法屋にも売ってるんじゃないか?」

「分かりました。あとで寄ってみます」

「俺は、普通じゃないやり方の方に興味があるね、まったく」


ハロルドさんと別れて表へ出る。ん~、今日も良い天気っぽいな。

とりあえず指輪を鑑定して貰いに、エンポロス商会に向かった。


  ◇ ---------------- ◇


「お待ちしておりました、カール様」

「え?」

「アイテムボックスの件でしょう?」

「あ、その前に、この指輪を鑑定していただこうと思いまして」

「ほほう。拝見しま……はああああ?!」


カリフさんは、指輪を見たまま固まっている。


「あのー」

「かっ! はっ……」


と空気を吐いて、カリフさんは再起動した。


「か、カール様。ランドニール様が作られたアイテムボックスのうち、軍用以外の最大容量をご存じですか?」

「いえ?」

「大商人向けに作られた、12m x 12m x 12m です」

「はあ」

「また、最高の時間遅延倍率をご存じですか」

「すみません、知りません」

「こちらは軍用ですが、国威発揚のために公開されました。1/200です」


そこで、なにかを振り払うように目をつぶり、しばらくして、ゆっくりと目を開けて言った。


「この指輪の性能を?」

「いえ、しりません」


カリフさんは、黙って鑑定書類に書き出した。


アイテム名:アイテムボックス(ルーンリング)

 容量 62mx62mx62m時間遅延 1/3600。

制作者:タルワース=サイクル

所有者:ヴォルリーナ


アイテム名:アイテムボックス(トリニティリング)

 容量 61mx61mx61m時間遅延 1/7200。

制作者:タルワース=サイクル

所有者:ノエリア


「62x62x62メトル? 軍用にもこんな桁外れのサイズはありません。それに、遅延1/7200? なんですかこれは? いいですか、魔法先進国のアル・デラミスが国家の威信を賭けて制作したアイテムの時間遅延が、1/200ですよ? 低い方でもその18倍って……こんなこと、誰にいっても信じてもらえませんよ」


どさりと椅子の背にもたれかかりながら、深い息を吐きながら、こういった。


「おめでとうございます。どちらか1つ手放されるだけで、100億セルスは堅いですな」


「100億セルスで自由を売り払うつもりはありません」


俺は静かにそう言った。


「くっくっくっ。確かに、あなたはそういう人でしたな」


「販売するものに関しては、ランドニール製よりもやや劣るものを考えています。10mx10mx10m以下で、1/60程度が妥当なのではないかと思うのですが、いかがでしょうか」


「そうですな、本件の需要は、裕福な冒険者や商人にあります。特に商人にとっては、時間遅延が重要なのです。1/60ですと、1日で24分が経過します。10日で4時間。1ヶ月掛けて運んでも、内部では12時間しか経過しません。傷みやすい魚でも、十分内陸まで輸送できます」


「細かいところはお任せしますよ。指定を頂ければその容量と遅延時間になるように、できるだけ調整してみましょう」


「シリアルと紋章はどうしますか?」

「シリアルは入れるなら入れてください。紋章は、エンポロス商会のマークでも入れられれば?」

「いえ、流石にそれは……」

「ではもみの木のマークでも入れておいてください」

「もみの木?」


ノエリア製だから、ノエルで、もみの木。クリスマスだ。

世の中へのプレゼントっぽいし、それでどうかな。


「そうです。古の習慣でもみの木の下にプレゼントを置くというのがあるのです。世界へのプレゼントって意味ですよ」

「ふむ。いいですな。適当な意匠を作成しておきましょう」

「よろしくお願いします。あ、それと……」

「?」

「その指輪級は難しいのですが、世界最大クラス以上のものが欲しいという方がいらっしゃれば、一応検討はさせていただきますよ、内密に」


にっこり笑って、そう追加しておいた。


  ◇ ---------------- ◇


しかし、謎のマスクマンねぇ。俳優でも雇うかな。なんて馬鹿なことを考えながら、魔法屋でリーナの教習本と、火・水・土の初級魔法書を買った。


興味本位で空間魔法の魔法書があるかどうか聞いてみたら、なんとあるそうだ。使い手がいないにも関わらず、年に数冊は売れるそうだ。どんな魔法があるのかを知っておきたい研究者や、もしかしたら使えるようになっちゃうかも知れないと、試しに買っていく(かぶ)いた人たちがいるんだとか。まあ、魔法が失われてしまっても困るんでしょうとは、魔法屋主人の弁。

とりあえず1冊買ってみたが、失われる方が怖いってのはアイテムボックスの製法と同じなわけか。


今は、南門に向かっている。

常時討伐依頼をこなしながら、スキルが取れるかどうか試してみる予定だ。


指輪をふたりに渡すとき、ご主人様につけて欲しいですと、そろって左手の薬指を差し出してきた。この世界でもつける指に意味があるのかもしれないが、まあ、別にこだわることもないかと、つけてあげた。なんで真っ赤になるかなふたりとも。

大事なものを入れておくと良いよと言うと、早速ギルドカードと名前入りの巾着を収納していた。


歩きながらノエリアは、収納した武器を両手に出し入れして、感触を確かめている。

リーナも太刀にしたり、エンペラーからゲットした普通の剣と盾にしてみたりして、出し入れを練習しているようだ。


南門を過ぎて、黒の峡谷の入り口でお昼ご飯を食べた後、マップを開いて敵のいそうな方向に移動していった。入り口付近なのに、結構いるんだな、魔物。


早速リーナから報告が上がってくる。


「その先、木の陰にゴブリンが2匹、です」


うん、手頃だ。


「じゃあ、リーナが剣と盾で倒してみて。危なくなったら得意な武器にして良いから」

「はい、です」


目にもとまらぬスピードで、2匹のゴブリンに近づくと、一匹を剣で切りつけながら、もう一匹を盾で突き飛ばした。突き飛ばした方に一足飛びに近づくと、そのまま倒れているゴブリンに剣を突き刺し、それで終わりだった。その瞬間2匹の体が消えていた。収納したのか。


「前に、死体を置いておくと良くないってご主人様が。あとでまとめて埋める、です」


ああ、ゴブ村で埋めたときの話か。うん、まあその方が良いよね。


「良い判断だが、他の人が見てるところでは回収しない方が良いな。できるだけその指輪のことは内緒で」

「ナイショ、なのです」


元気に返事してるけど、ホントにわかってるのかな、ちょっと不安だ。


さて、スキルは


 --------

 体術   ■■■■■ ■■■■■

 短剣術  ■■■■■ ■■■■■

 刀剣術  ■■■■■ ■■■■■

 剣術   ■□□□□ □□□□□ New

 盾術   ■□□□□ □□□□□ New

 魔力検知 ■■■■■ ■■■■■

 気配検知 ■■■■■ ■■■■■

 聖魔法  ■■■■■ □□□□□

 --------


おう。たった2匹の実戦でOKっすか。さすが加護持ち。


その後は言葉通りにパトロール。

てくてく歩いて、リーナが見つけて、ノエリア魔法でさくさく退治。

てくてく歩いて、リーナが見つけて、ノエリア魔法でさくさく退治。

てくてく歩いて、リーナが見つけて、ノエリア魔法でさくさく退治。


……自重はした。一応。


  ◇ ---------------- ◇


スキル取得の実験もできたし、バウンドに戻ってギルドの扉を……


「カール!」


開けたとたん、ドレス姿の女性に、勢いよく抱きつかれた。

えー、えー、誰? 誰?


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