025 ハロルドさんへの報酬とプレゼントとアイテムボックス
2017/01/29 改稿
「うぉ、ホント、こりゃうめーな」
香ばしく焼けたリンドブルムのステーキを皆でほおばりながら、ハイムの中でくつろいでいた。
「どのくらいいります? あと2tくらいあるんですが」
「は? 2tって?」
ああ、そうか、こっちの単位だと――
「大体、2000カーデグですね」
「……そりゃ凄い。が、一度に大量に貰ってもな。アイテムボックスでもないと保存しきれないだろ」
アイテムボックスか。
「アイテムボックスってどうやって作るんですかね? 何かの秘伝みたいになってるんでしょうか」
「いや、作り方は知られているはずだぜ? なにしろ空間魔法の使い手が一人しかいないわけだから、製法を隠しても意味がないんだと。逆に隠して、それが失われる方が怖いってところだな」
なるほどそりゃそうだ。
「で、作り方だが、定着させたいアイテムに、魔法付与で、空間魔法のアイテムボックスを定着させるだけだったはずだ」
「もしかしたら、それ、作れるかも知れません」
「……なんだと?」
「しかし、作っても売ったら拙いですよね」
「どうかな。まあ、ランドニール様製のものには、全てにシリアルが入っていて、顧客も厳重に管理されていると言うが……レリックでもないのにシリアルなしを売っていれば、ランドニール様以外に空間魔法の使い手がいるって、すぐバレるわな」
「空間魔法の使い手って、どうしてそんなに少ないんですかね」
「あのな、お前、スキルってのはどうやって覚える?」
スキルポイントを割り振って、じゃ、だめだよね。
「さあ。行為を何度か繰り返す、とかですか?」
「そうだ。剣なら、何度も振ることで、剣術のスキルを取得することが出来る。つまりスキルってのは、我々のがんばりに対する神様からのご褒美みたいなものだってことだ」
まてよ、それなら10ポイントも使ってスキルを取得しなくても、取得だけは訓練で取らせるほうがいいのか。
「それでな、空間魔法ってのは、なにすりゃいいわけ?」
「繰り返し行うべき行為が、なんだか分からないってわけですか」
「そうだ。だから生まれたときからギフトのように持っていなければ、それを使うことができないってことさ。レアなのもわかるだろ?」
「ですね」
「だからあの嬢ちゃんのどちらかが『どうやってそれを覚えたのか』を解明すれば、ライアル=マナス賞はまず間違いないところだな」
「覚えたとは言ってませんよ。ところで、なんです、そのナントカ賞ってのは?」
「ライアル=マナス賞だ。3年に一度、魔法関係で大きな貢献があったものに与えられる、魔法関係では、アル・デラミスにかかわらず周辺国まで入れても最も名誉な賞だよ」
「へー」
言ってみれば、ノーベル魔法賞みたいなものなのか。
「ま、お前んところは、どこを向いても、ライアル=マナス賞級の怪しげなものに溢れてるからな。ナルドールが目の色を変えるのもわかるだろ?」
周りを見回しながら、ハロルドさんが手を広げて言った。
「まあ、それはほどほどにしておいて欲しいですね。お肉の方は、とりあえず、月陰亭の女将さんに100カーデグほどハロルドさん用だって言って、渡しておきますよ」
「ああ、それでいい」
「それとですね、これもさしあげます」
リンドブルムの鱗852枚をいれた袋を、どんと置いた。
「なんだそれ?」
「リンドブルムの鱗、852枚です。防具を作るのもよし、売り飛ばすのもよし。好きに使ってください」
「いいのかよ。どんなに安く見積もっても、1枚で金貨1枚じゃきかないぜ?」
「こちらの分はちゃんと取ってありますから」
「じゃ、ありがたく。しかしほとぼりが冷めるまでは売れないしな……自分の防具でも作りに行くかな」
「行くって、どこへです?」
「ダグっていう、腕の良いクソじじいが、コートロゼにいるんだよ」
「コートロゼっていうと、ずっと南の」
「そう、辺境の開拓の街だ。あそこは大魔の樹海の縁にある開発地だから、魔物討伐の最前線なんだよ。一流の冒険者も多数在籍していて、その関係で鍛冶屋なんかも超一流があつまるってわけさ」
「先日大規模な魔物の侵攻があったとか、結構被害が出たとか言う噂もあったが、何も続報がないから割と平気だったのかもな」
「で、そのダグっていうお爺さんが」
「ナンバーワンってこったな」
「へー、引く手あまたなんでしょうね」
「それが偏屈でどうしようもないっての。仕事しねー、しねー」
「面白そうですね。いつか行ってみたいな」
「おう、お前なら良い稼ぎになるぜ、きっと」
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ハロルドさんが帰るのを見送って、宿の女将さんにハロルド肉100Kgを渡した後、3人で主寝室の大きなベッドで戯れながら、さっき買った小さな柔らかい皮の巾着を取り出した。
「寝る前に、ふたりにプレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」
「はいこれ」
さっき買った、柔らかい皮の小さな巾着に、金貨を1枚ずついれて、それぞれに渡してあげた。
「お小遣いはこれに入れるんだよ。それに、お小遣いは自分のお金だから、お釣りをかえさなくてもいいからね」
「自分のお金、です?」
「そう、名前が書いてあるだろ?」
「ほんとう、です。リーナって、リーナって書いてあります!」
「奴隷の持ち物は、ご主人様のものでは?」
「名前が書いてあるのは、その人の持ち物ってことにするさ」
「ノエリアって書いてあります。じゃ、ご主人様のために、何か買ったり出来るんですね」
「好きなものを自由に買ってください」
「金貨が入ってます、です」
「それは、今日頑張ってくれたご褒美」
「リーナのお金……」
リーナがぽーっとした顔でそれを見つめている。
「そう」
「ありがとうございます。ご主人様。なんだか夢のようです」
「大げさだな。なくさないようにポーチに入れておくと良いよ」
あとは、ノエリアにアイテムボックス制作ができるかどうか確かめないとな。
うつぶせに寝転がって、尻尾をフリフリさせながら、目の前の巾着を幸せそうに眺めているリーナを見ながら、ノエリアに声を掛けた。
「ノエリア」
「はい」
「ノエリアは、アイテムボックスの呪文が使えるよね?」
アイテムボックスの呪文は、空間魔法レベル1の呪文だから、スキルを取得した時点で使用できるはずだ。
「はい」
「これから魔法付与を利用できるようにするから、アイテムボックスをこの袋に付与できるかな?」
巾着と一緒に買った、粗末な感じの革の小物袋を1つ取り出して、リーナに渡し、リーナのステータス画面を操作した。
念のために空間魔法も魔法付与もmaxにしておくか。
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ノエリア (17) lv.26 (人族)
HP:4,878/4,878
MP:10,968/10,968
所有者:カール=リフトハウス
SP:4 + 100(used)
料理 ■■■■■ ■■■■■
無詠唱 ■□□□□ □□□□□ 隠蔽
生活魔法 ■■■■■ ■■■■■
重力魔法 ■■■■■ ■■■■■
聖魔法 ■■■■■ ■■■■■
闇魔法 ■■■■■ ■■■■■
空間魔法 ■■■■■ ■■■■■ 隠蔽 lv.1-> max
魔法付与 ■■■■■ ■■■■■ New -> max
カール=リフトハウスの加護
ノエリア=シエラ=ラップランド
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「魔法付与は隠蔽しておいてね」
「わかりました」
そういって、ノエリアは、真剣な顔つきで小物袋を見つめながら、なにやら試行錯誤しているようだ。
「……むむむっ。アイテムボックス」
しばらくした後、ノエリアが小さく呪文をつぶやくと、バッグが微かに発光した気がした。
「できました?」
「なぜ、疑問系」
渡されたふくろを眺めてみる。が、ただの袋だな。
早速枕を入れて……入らんな。失敗したのか?
使い方もよくわからないし、認識じゃ細かいことはわからないしなぁ……
まてよ? カリフさんが、アイテム鑑定のスキルを持ってなかったっけ?
機会があったら聞いてみるか。
そうだ、お金も手に入ったことだし、馬車を買って、ドルムに行かなきゃ……って、俺の家族って、俺のこと心配してないのかな?