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一度くらいは転生するのも悪くない  作者: 之 貫紀
王都

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112/128

112 合流と脱出と春の終わり(後編)

さっきから、どうなっているのでしょう?

ちょっと進む毎にかちかちかちかち。穴が空いたり矢が振ってきたり、毒の雲や、大きな爆発まで、もー面倒なのです。

ご主人様はもうすぐそこにいらっしゃるはずなのに。


  ◇ ---------------- ◇


「お、だんだん近づいてきてやがるな」


ハロルドさんが顔を上げて音のする方を眺めている。罠が発動する音がどんどん近づいてきてるから、マップなんか見なくてもはっきり分かるところが凄いな。

しかし、あの大騒ぎ。魔物も呼び寄せてるんじゃないだろうな。


さて、そろそろ……お、いたいた。


「ハロルドさん、あれ」

「ん? ありゃ、一緒に巻き込まれた騎士団のやつか?」

「だと思います」

「まてまてまて。なんか動かねーけど、生きてんのか? あれ」


駆け寄ろうとした俺を押しとどめると、注意深く近づいていく。

酷い言われようだけど、マップの点はまだ白だから生きてるはずだ。


 --------

 シンドール (28) lv.29

 

 HP: 52/498

 MP: 41/407

 

 迷宮騎士団員 シンドール隊隊長

 --------


見ている間にHPが少しづつ減ってるけれど、まだしばらくは大丈夫だろう。


「いや、嫌らしい罠にあるんだよ。仲間の死体を使って、近づいたらボーン、ってやつが」


慎重に、慎重に近づいて、まわりを調べて、仰向けに……

ごろんと転がした瞬間、鉄砲玉みたいな何かが突然飛びついてきた。


「う、うわっ!」


「ご・しゅ・じ・ん・さまー! です!」


かけ声と共に、ムササビのように飛んできたリーナが俺の頭に、ぺちょんと張り付いた。

はぁ……と力を抜いたハロルドさんは、俺の頭のてっぺんにお腹を乗せて、ぐでーっと張り付いているリーナの背中をぺしぺし叩きながら、


「なにもんだ、こいつ。スライムか?」


と言った。


「でろーんなの、です」


調子に乗ったリーナが、さらに力を抜いて、人の頭の上ででろーんとなった。


「それよりリーナ。彼にヒールを頼めるかな」


まだ意識を回復しないシンドールを指さしてお願いする。


「おまかせ――」


頭の上からぽんと飛び降りると、その場でくるんと一回転して、


「――なの、です」


とポーズを決めている。


いや、ポーズはいいから。早くしてあげないと死んじゃうから。


「こいつが生きてりゃ、さっきの件も証言してくれるだろうしな」


ですよね。


「騎士と言えば、後ふたりくらいいただろ。そいつらはどうなったんだ?」

「あ――」


一人はさっき赤点に襲われて黒点になったあと、マップからも消えた。つまり食われて?死体どころか個人が識別できる遺品も無くなったってことだ。

何かが残されていれば、しばらく黒点のまま残っている。もう一人も、点自体が近くに見あたらない


「一人は魔物に襲われたようです。もう一人は――」


近くには見あたらないようだ。マップの範囲を思いっきり広げてみた。

しばらく行った先の短い行き止まりの通路の奧に、白い点がある。近くには赤い点がわらわらしてるから、これはうまく隠れているってことか。


「向こうの方で、うまく隠れているようですね」

「そうか。後はノエリア嬢ちゃんだな」


ノエリアも来てたのか。まあ、来てるか。でも、近くにそれっぽい点はないんだよな。


「……わかりませんね」


さっきの魔物の強さを見る限り、ノエリアがやられるなんてことがあるとは思えないし、加護のリストにノエリアがいる以上生きてるはずだけど、落ちてきたショックで気絶してるとか……うわ、急に心配になってきたぞ。


「まあ、重力魔法があるからそれもなさそうだけどな」


そりゃそうか。


「ともかく、先に居所が分かってる騎士を助けに行くか。魔物も一杯いるんだろ?」

「ええ、かなり」

「じゃ、罠も少なそうだしな」


迷宮では、魔物にも罠が発動するから、魔物はあまり罠に近づかないんだそうだ。

高位冒険者死亡の原因として、戦闘中に魔物によって致命的な罠が発動して巻き込まれるっていうのが、結構上位に位置してるんだとか。


そちらへ移動しながらマップを注意していると、魔物の赤い点は、騎士が隠れているらしい通路を素通りして、一定の方向へ進んでいるようだった。


  ◇ ---------------- ◇


「ここは……」


そこは狭い通路というより、まるでひび割れてできた大きな隙間が通路になったような場所で、少し先に部屋への入り口が見える。

反対側にも通路は続いていたが、ノエリアはとりあえずその部屋を覗いてみることにした。


ご主人様を追いかけて来たものの、まわりにそれらしい気配はないようですね。

もっとも、あの方が()()()()()()()()()()()()()()から、それは心配していないのですが……


なぜか随分魔力や体力を消耗している感じだったので、以前ご主人様に頂いた、ギンギン24(エナジードリンク)とやらをいただきます。

1日1本だけど3本くらいは大丈夫なんじゃないかなーなどと仰っていましたっけ。あっという間に全回復する不思議な飲み物です。


部屋の入り口からそっと覗くと、直径が7メトルくらいの誰もいない空間がそこにあった。


部屋の中央には白く輝く石が据え付けられ、壁に沿って置かれている机には、本や羊皮紙が積み上げられているのが、石の光でぼんやりと浮かび上がっていた。

机の上にあった羊皮紙の一枚をそっと埃を払いながら取り上げる。しばらく何枚かの羊皮紙を読み進めたあと、目を上げて中央にある白く輝く石を見た。


そして、その白く輝く石――どうやらダンジョンコアらしい――をどうするべきか考えていた。


  ◇ ---------------- ◇


「カール様が言ってたほど、魔物、いないな」

「なんだかボクたちと同じ方向に移動してるっぽいんですよ」

「ふーん。確かに床にはそれっぽいひづめの後が、たくさん残ってるが……いったい何処へ向かってるんだ?」


何処へ……うーん、これは考えてもわからないな。


「ここが皆さんの仰っていたとおり、プリマヴェーラの最下層だとしたら――」


突然シンドール隊長が話し始めた。

彼によると、プリマヴェーラは例年、最下層のボス部屋が開くと同時に、そのフロアのモンスターが全てボス部屋に向かう行動をするそうだ。

ボスの命令なのか、自発的なものなのかはわからないが、そういう行動をとることだけは確認されているらしい。


「じゃあ、誰かがボス部屋を開いた可能性が高いんだ」

「誰かって……この状況じゃノエリア嬢ちゃん以外いないだろ」

「ん」

「じゃあ、急ぎませんと!」


シンドール隊長が慌ててそう言う。


ダンジョンボスとはいえ、初心者用イベントダンジョンでミーノース級が出てくるとは思えないし、イーデジェスナー級なら多分大丈夫だろう。

でもネソタウロスが大量に移動していたから、あいつらに囲まれたら……って、囲まれる前に全員穴だらけになる未来しか見えないな。


それでも、MP共有が使えないからMPに不安があるか。MPがなくなったら……やべ、なんか心配になってきたぞ。


  ◇ ---------------- ◇


いくつかの本と羊皮紙を腕輪に仕舞うと、その部屋から出るための転送陣の前に立った。

設置されている転送陣は3つ。

説明書によると、ひとつは地上に戻るもので、ひとつは外(つまり最下層だ)への移動用。もう一つはよくわからない。


ご主人様達を追いかけるなら、外へ出るものでしょうか。


ノエリアは振り返って部屋を見回すと、外行きの転送陣に足を踏み入れた。


  ◇ ---------------- ◇


「この向こうみたいですね」


最後の騎士が隠れているらしい場所は、あるのか無いのか分からないような分岐の奥だ。こんなところによく入れたな。

そう考えながら角を曲がると、開けたすり鉢状のホールと、その奧に高さが10mくらいありそうな巨大な扉が現れた。

しかもそこには――


「げぇ……なんだありゃ」


フロア中のネソタウロスがそこに集まって、お互いをむさぼり合い、虚空に向かって、その触手を神に祈るかのごとく(うごめ)かしていた。

ボス部屋に誰かが侵入したため、全フロアの魔物がボス部屋へ呼び出されたにもかかわらず、扉が閉じていたため部屋に入れず、扉の前で狂乱の宴を繰り広げている、といったところか。


「きもちわるいの、です」

「ん」


リーナとクロが震えながら、俺の後ろに隠れようとする。


「あれが一度にこちらに向かってきたらと考えると死にそうだな。しかし奧の扉、いかにもボス部屋なのはわかるけどよ。あれ、どうやって開けるんだ?」


頭をガリガリかきながら、ハロルドさんが途方に暮れたようにそう言った。


「例年ですと、近づけば開いたということのようですが……」

「なるほどな。だが、どうやって、あそこに近づくよ?」


手前のくぼみにはうじゃうじゃわらわら、どこの邪神の信徒だよと言わんばかりの触手の群れ。うーん、こりゃ詰んでる……んんっ?

扉の向こうのマップに突然緑の輝点が現れた。ノエリア……か?

それが、その部屋の中央にあった一際輝く赤い点と交わったかと思うと、赤い点が扉の方に移動してくる。


「なにか出てくるの、です!」


巨大な扉が重苦しい音を立てて、ゆっくりと開き、巨大な戦斧を握った右手が隙間からのぞく。


「ありゃ、ミーノータウロスか!? しかもバカみたいにでかいぞ!!」


一歩歩く毎に地面が揺れる。てか、コイツが出てくるってことは、ノエリアはどうなったんだ?


姿を現したミーノータウロスが、のけぞりながら吠えると、窪地で争っていたネソタウロスの動きが一斉に止まる。


「くっそ、あんなのが斬れるとはとても思えないけどな」


ハロルドさんが剣を構え、リーナがムラマサブレードに強烈な魔力を流し込み、クロが弓を引き絞る。

さらに一歩をゆっくりと踏み出したミーノータウロスの足の下で何匹かのネソタウロスがつぶされる。なんだか様子が……


もう一度のけぞりながら叫び声を上げたかと思うと、ミーノータウロスの巨体が、ゆっくりと窪地に向かって倒れていった。


「な、なんだぁ?!」


魔物の巨体が、ものすごい土煙と地響きを立てて窪地の上に倒れ込む。

そこに集まっていた魔物が次々とその体に押しつぶされて、体液をまき散らしていった。かろうじてつぶされなかった魔物も、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。


土煙が収まったとき、ミーノータウロスの角を掴んで、その頭の上に乗っているのは……


「ノエリア!」


巨大な魔物の上で、凛とたたずんでいる彼女は、なんだかやたら格好良かった。


「おいおい、カール様。俺はちょっと嬢ちゃんのことを魔王様って呼びそうになっちゃったぜ」


確かに。

美貌の魔王。うん、そそるな。と、思った瞬間、かくんと膝が折れて、ノエリアが頭の上でくずおれた。


  ◇ ---------------- ◇


「いつもご主人様が共有して下さっているのと同じつもりで力を使ったら、魔力がなくなっちゃったみたいです」


本日2本目だけど、といいながらギンギン24を飲んで復帰したノエリアがそう言った。


どうやら彼女はダンジョンをコントロールする部屋?へ続く通路に転移したらしい。

そこにあった資料によると、プリマヴェーラは、(いにしえ)の修練場なんだそうだ。魔力を供給する者がいないので、本来停止しているはずなのだが、丁度この場所に大量の魔力が集まっているため、少しずつチャージされて、1年に一度起動しているのだとか。


魔力が集まっている? って、こないだ地下で見た、あの脈動する流れみたいなやつのことだろうか……


「それが本当だとして、コアを破壊したのですか?」


シンドール隊長が慌てたように聞いてきた。


「いいえ。毎年恒例のイベントが無くなってしまってはガルドの街もお困りでしょうから、そのままにしてあります」


それを聞いてほっとしたような顔をするシンドール隊長。

ガルドの良い収入だし、なにより初心者を鍛えるためにとても都合の良いダンジョンだもんな。なくなると困るのだろう。


「ただ、この話は上にはあげられない方が良いと思います」


そう言われてシンドール隊長は、嫌な顔をした。


騎士の立場としては、全てを上司に報告する必要があるし、そうしなければならないというのが常識だからだろう。

しかし、上げてしまえば、この情報がどう使われるのかをコントロールすることはできない。

こんな噂が広まれば、プリマヴェーラの度に、ガリバルディの種みたいなアイテムを使って、一攫千金目当てにダンジョンコアを目指すやつがでることは確実だ。


「まあまあ、そんなに難しく考える必要はないって」


ハロルドさんが、なれなれしくシンドール隊長と肩を組んで、耳打ちしている。


「あんたの仕事は、俺たちの探索だろ?」

「……ああ」

「じゃあ、探索に関係ないことは、仕事とも関係ないよな? 俺たちの探索中に、食った串焼きの味までは報告しないだろ?」

「職務中にそんなものは食わんが、まあ、そうだな」

「つまりこの話を報告する必要はないってことだよ。あんたが直接見たわけでもないし、ホラみたいなうわさ話まで報告するやつはいないって」

「……」

「もし、このホラ話を上層部に報告したりするとな、来年はあんたのお仲間が噂の確認に行かされて、いきなりあれと対峙することになるかもしれないぜ?」


ハロルドさんが、巨大なミーノータウロスを親指で指さしながらそう言うと、シンドール隊長は青くなって頷いた。


「確かに根も葉もあるかどうか分からない噂を、検証なしで上にあげるわけにはいかんな」

「そうそう」


ハロルドさん、それはもはや脅迫なのでは……

あきれながら二人のやりとりを聞いていると、突然ダンジョンの中が光り始めた。


「ああ、そろそろ終わりの時間ですね」


とシンドール隊長。

プリマヴェーラはボスが倒されると、自動的に消滅し、その際ダンジョン内にいるものは全員地上へと返されるんだそうだ。

俺は慌ててミーノータウロスと、損傷の少ないネソタウロスを数匹収納した。


そして俺たちは光に包まれた。


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