011 ゆうべはおたのしみでしたねと、ダラクと、絶賛繁殖中
2017/01/29 改稿
む。苦しい。顔の上に何かがのって……なんだこのもふもふは。
ぴろっとそれを持ち上げると、持ち上げたものの付け根に、可愛らしい双丘が……
「ぶっ」
仰向けで気絶していた俺の上に、なんというか70ー1的な、23x3的な恰好でリーナが寝ていた。
慌てて横を向いたら、こちらにもなんだか良い匂いのする頂のある丘が2つ。
その向こう側に、静かに寝息を立てているノエリアの顔があった。
なんすか、この、リア充爆発しろ的な構図は。
目を回していると、ノックの音がしてドアが開いた。
「おい、いい加減起き……」
起こしに来たハロルドが、そのまま一瞬固まった。
が、すぐにニヤニヤして、
「お前ら、乱れてんなー」
と良いながら、静かに退場していった。
「いや、まって、ハロルドさん、誤解、誤解だから!」
と上半身を起こすと、体の上のリーナがずるずると落ちていった。
「むにゅー。なんだか頭が痛いのです」
頭をすりすりしながら、リーナが起き上がる。
「おはようございます。ご主人様」
ノエリアがシーツを胸元によせながら挨拶してくる。お願いだから何か着てください。鼻血出ちゃうから。
あ、そうだ。
「け、契約は? 大丈夫だったの?」
ノエリアはにっこり笑って、俺の耳元に顔を近づけると、楽しそうにささやいた。
「いつか、私の全部をご主人様のものにしてくださいね」
身支度を調えて、リビングにおりていくと、ハロルドさんがニヤニヤしながら言った。
「ゆうべはおたのしみでしたね」
ちぇ、宿の主人は俺だっての。しかし万世界共通なの、それ。
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少し遅い朝食に夕べのパンの残りを食べたら、今日こそダンジョンから脱出だ。
ノエリアとリーナのレベルが結構あがった上に、回復魔法が使えるようになったから、かなりスムーズに探索が進むようになった。
魔物が登場する度に、リーナが嬉しそうにさくさく首をはねてるし。
時々調子に乗ってやられてるけど、怪我をする度に、後ろからノエリアの回復魔法が飛んでいた。
「これなら、なんとか進んでいけそうですね」
「いや、だからな。たった1日で……一体、あいつらは、どうなってやがんだ……って、昨日も言ったなこれ」
素材のことなんかも教えて貰ったから、倒した魔物はさくさく腕輪に吸い上げちゃうよー。
「しかも解体もせずに、どんどん死体は回収されちまうし。普通の冒険者がこんなのを見せつけられたら、みんな発狂しちまうぞ。楽は楽でも、ダラクしそうだ」
「討伐した魔物については、後でちゃんと分けますから」
「いや、そういう話じゃないんだが」
そういえば、最初に魔物の死体を腕輪に収納したとき、こんなのが出た。
(魔物を解体して収納しますか? Y/N)
え? もしかして解体して素材化までやってくれちゃうの? そんな便利なの、もちろんYだよ!
すると、ぴろっと、次の情報が表示された。
(解体の具体的な知識がありません。具体的な知識は、実際の解体を見るか、本などの解説書を腕輪に収納することによって得ることが出来ます。試行錯誤で解体を行いますか? Y/N)
ハロルドさんに聞くと、下手な解体をすると買い取り価格がだだ下がりになるそうだ。Nだな、N。
後で図書館的な場所で知識をゲットしよう。
◇ ---------------- ◇
何時間くらいたっただろうか。
つい先ほどから、せわしなく周りをきょろきょろ見ていたハロルドさんが、正面の分岐点を見ながら声を上げた。
「お、ここは」
「どうしました?」
「ほら、そこのちょっと開けた場所を見てみろ」
そこは、ちょうど5本の道が交わる円形の空間で、いわゆるラウンドアバウトな交差点っぽくなっていた。
「ここは黒の峡谷ダンジョンの有名な場所なんだよ」
「じゃあ」
「ああ、出口の場所が分かったぞ。あと2時間ってところだな」
はー、なんとか助かったか。
ダンジョンから脱出したら、当面のお金を稼がなきゃな。
いやまて『脱出したら』なんて、まさかフラグじゃないよね?
「ご主人様……すごく臭い、です」
ラウンドアバウトを過ぎて、少し行ったところで、突然リーナがそう言った。
「ええ?! 昨日ちゃんとお風呂に入った「あ、いえちがうです」」
「あっちから、お肉が腐ったような、すごく嫌な匂いがするです」
リーナが進行方向を指さす。
そういわれれば、微かに嫌な臭いが漂っているような。腐肉とドブが混じったような臭いだ。
「それになんだか落ち着かないような、わさわさわらわらなのです」
なんだそれ? マップをその先へスクロールさせていくと……
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
あわててハロルドさんを引き留める。角を曲がった先の、少し広めの部屋が、赤、赤、赤、赤……真っ赤なんですけど。
「その先の少し広めの部屋に、なにかが、ものすごく沢山うごめいているっぽいんですが」
「なんだと? 黒の峡谷ダンジョンの出口はこのすぐ先だぞ? そんな入り口付近に、大量の魔物が沸くか? 腐臭?……ゾンビか? いや、しかしそんな大量の死体がどこから」
ハロルドさんがぶつぶつ言っている。
しかし、これだけ大量にいると、そう簡単に手は出せない。偵察と言っても、入り口は大きく開かれていて、のぞき見するのに隠れるような場所はないし……マップ上で相手が分かればな。
そう考えたとたんに、赤い点の上にポップアップが拡がっていく。おおー? なにこれ、なにこれ?
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プロパティ表示
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マップ上に表示されている対象のプロパティを表示する。
マップ上に表示されていれば鑑定可能。
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なんだよ、こんな便利なものがあるんなら、最初から有効にしておけば……と思ったが、輝点全部にポップアップが表示されたら、画面がごちゃーっとして、前が見えない。
平時ならともかく、戦闘中は致命的だな、これ。
それはともかくあの赤い点は……
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アーチャグ lv.15
HP:10,082/10,408
MP: 2,082/ 2,082
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アートラーヴァ lv.2
HP:125/125
MP: 25/ 25
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大量に素早くうごめいているのがアートラーヴァ、それに比べれば少数でゆっくり動いているのがアーチャグらしい。なんぞそれ。
「ハロルドさん、どうやらアーチャグという魔物のようですが、何かご存じですか?」
「アーチャグだぁ? 何で分かるんだよ」
「え、いやー、まあ……なんとなく?」
マップ機能だとか言えるわけないでしょ。仕方ないから、首をかしげながら可愛く言ってみた。子供の特権だよね。ボク小学4年生~。
ハロルドさんは、うさんくさそうにこちらを見ていたが、ため息をついて、こう説明してくれた。
「アーチャグはランクDの魔物で、地下の掃除屋だ。6本の触手を持った腐肉あさりで、何でもかんでも腐らせて取り込んじまう。頭の上にある2本が目の役割をしていて、他の4本は手足だ。まあ言ってみればでっかい触手突きのナメクジみたいなのを想像すれば大体あってる。大量にいると言ったな? 他に何かいないか?」
「アートラーヴァというのが、凄く沢山いますね」
「――繁殖か!」
アートラーヴァというのは、アーチャグの幼生らしい。なるほど、ラーヴァなのか。
「迂回できませんかね」
「いや、ここから出口までは、1本道で分岐はないな」
え、分岐がない?
でもマップによるとアーチャグの部屋には3本の穴が繋がってる。こちらから入る穴と、出口に繋がる穴。そうして横から……結構大きな穴だぞ? これ。
しかし、そのことを話すと、なんで分かると言われるよな。
魔物は気配で察したとしても、道はなぁ……どうせ、大きな穴の方に迂回できたとしても部屋に入らなきゃいけないことは同じだし、黙っておきましょう、そうしましょう。
「ギョームが落ちたことは明らかなのに、救助隊が来なかったのは、奴の日頃の行いが悪かったせいじゃなかったのか」
さりげなく酷いこと言ってますよ、この人。
「でもそれなら、部屋の出口側の穴の所には救助隊が来てるんじゃないですか? 救助隊と協力してどうにかなりませんかね」
「来てはいるかもな。だけどどうやって協力するんだ?」
うーん。部屋に突っ込んでいけば、その騒動が救助隊にも伝わるかも知れないけれど、その前に腐らされて終了しそうだしなぁ。
「なにかこう、すんごい範囲魔法とかで、ささーっとケリをつけられませんか?」
「アーチャグは意外と体力があるから、範囲魔法一発で殲滅しようと思ったら、王国軍の魔導師でもトップクラスのヤツを5人ばかし連れてこないと無理だろうよ」
倒せないって言うなら、寄せ付けない方向で。ハイムにはアンチモンスターがあるから、設置しながら移動すれば、うまいこと避けてくれないかな。
アンチモンスターの強度は所有者のレベルに依存して、lv.20でDランクを完全に排除できるんだったな。俺のレベルは……
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カール=リフトハウス (10) lv.18 (人族)
HP: 4,104/ 4,104
MP:230,675/231,343
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おお、なんかMPが人類を辞めたみたいに増えてるぞ。問題は魔法を何一つ覚えてないっぽいところなわけだが orz...
ま、まあそれはともかく、lv.18なんだからDの結構上級まで……いけませんかね?
「実は昨日使ったハイムにアンチモンスターって結界があるんですが、今ならランクDの結構上級まで排除できそうなんですよ」
俺は作戦をハロルドさんに説明してみた。
「アンチモンスターは、攻撃したり、されたりした魔物には通用しないぞ。それに結界の範囲がどれくらいなのかも分からないし。最悪、俺たち4人をギリギリ覆える程度だったりしたら、歩くことすら難しいんじゃないか?」
範囲か。それは考えてなかったな。
隠れる場所すらない今回は、少しずつおびき寄せる手は使えないし、かといって、腕輪の中にある岩くらいでは、たたきつぶすことも容易ではない。
4人でフォーメーションを作って突っ込むとかいう脳筋プランは最後の砦として、とりあえず入り口にハイムを設置して、魔物の様子を見てみるとするか。
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というわけで、現在こそこそ入り口に向かって移動しております。
あらかじめ、メニュー設定して、置いたら即実行できる感じで、最後の10mは猛然とダッシュで部屋の中に設置&実行!
うわっ、近くにいた素早い方が、わらわらと集まって……来ません! 引き返していきます!! やった、やりました!!
思わず一人感動ストーリーで、ガッツポーズですよ。
結界の範囲だけど、魔物が影響を受け始めるのは6mくらいだが、入ってこないのは4m弱ってところか。
全員で、結界の縁まで進んで、ハイムを拾い上げる→ダッシュで4m以上進む→速攻で結界の設置→魔物が離れるまで少し待つ、を繰り返したら、意外と簡単に、出口に繋がる道まで移動できるんじゃね?
「それ、1回でも失敗したら、周り全部魔物で、即地獄行きだぞ」
ハロルドさんが冷静に突っ込みを入れてくる。
まあ確かにそうですよね……
「それより、攻撃すると結界が無効化されるわけだからな」
結界の中から、遠距離攻撃とか、結界の外で1匹殴って結界に飛び込むとか、そんな風に、一匹ずつ倒すのはどうかって提案が。
「なるほど。いざとなったら、ドアに飛び込んで逃げればいいし」
「いや、それは止めとけ」
え、なんで?
「空間系の魔道具が壊れると、大抵は中身が放出されるんだ」
「はぁ」
「つまり、もしアンチモンスターで凌げないアーチャグにハイムが食われて壊れたとすると、中にいる俺たちは、アーチャグの中で実体化することになるんだよ」
「げっ」
ランクDを完全に排せない以上、あり得る話なのか。
「結局地道に倒すしかないってことですか?」
「そうだな。せめて、囲まれてボコられない手段があることに感謝しようぜ」
あきらめた顔つきでハロルドさんが立ち上がる。短剣を手にしたリーナとノエリアが、意を決したように、それに続いた。