109 プリマヴェーラへの侵入
「草木も眠る丑三つ時。怪しげな5つの影が、森の中をさまよい歩いていた」
「なに、自分のことを怪しいとか言ってんだよ。まあ、怪しいんだけどな」
「いやぁ、人目を忍ぶのは良かったんですけどね、ここ、街の外で、しかも魔物が徘徊する森の中だったんですよね」
今も森狼の群れを薙ぎ倒しながら進んでいるんだが、こいつら集団で襲ってきて結構やかましいので、異常を察知した冒険者の見張りがやってくると非常に拙い。
「今更何言ってんだ、よ!」
後ろから襲いかかってきた森狼を一刀両断しながら、ハロルドさんが突っ込んでくる。
「それで、目的地はまだなのか?」
俺はマップを展開して、プリマヴェーラの入り口から南西に800mくらい離れた位置を目指していた。
しっかし、赤点多いな。あと入り口付近の冒険者っぽい人たちの白点がせわしなく動いていて、やな感じだ。
「あと100メトルくらいですね」
しかし森の中だけに直進するのがとても面倒くさい。リーナに道を作ってもらう……てのも考えたが、露骨に跡が残るのもダメだろう。
いまさらだが、空を飛んでピンポイントで飛び降りりゃ良かったかも。
苦労に苦労を重ねてやっとたどり着いた頃には、結構な数の魔物がみんなの腕輪の中に収納されていた。いや、死体が残りまくっても目立つしね。
森の異変を感じ取ったのか、階段の周辺にいた冒険者達が、いくつかのグループに分かれて哨戒を始めている。森の中の800m先まで哨戒するやつはいないと思うけど、念のためにマップは常に監視しておこう。
「この辺でいいかな」
しばらく歩いた後、目的の場所に到達した。
「じゃ、ノエリア、よろしく。リーナは周辺の警備を頼むよ」
「「はい」です」
下水道の時と同じように、ノエリアが掘削を唱えると、直径2mくらいの穴が現れた。もちろんステップラダー付きだが……あれ? 深さが2mくらいしかないような。
「おお。相変わらず非常識な魔法だな。ん? 前と違ってちょっと浅いか?」
ハロルドさんが穴をのぞき込みながら、そう言って穴に飛び込んだ。
「なんだか底が土っぽくないぞ?」
金属と土の中間みたいなその地面は、その後もまるで掘削を受け付けなかった。なるほどここからがダンジョンなのか。ダンジョンの壁が魔法で掘れたら苦労はないしな。
念のため鍛冶屋に作ってもらった、大きなスコップで穴を掘ってみると、少しだけ掘れるが、すぐに元に戻っていく。見た目はまわりの土が崩れて穴を埋めているように見えるが、どう考えても体積的におかしい。
「こりゃ、なにか破壊系の強力な魔法でも使わないと無理っぽいぜ」
「エルダーリッチが使ってたヘルフレイムみたいな?」
「そうだが……あんなのを街の近くで使って、夜中に炎の柱をたてたりしたら、やっぱ拙いだろう。別の騒動になることは間違いないな」
「リンドブルムの捜索隊的な?」
「そういうことだ」
しかもそれで穴が空くとは限らないしなぁ……
「結局、なんとか入り口から入るしか無いってことですか?」
「うーん、いまのところそうだな」
「いっそのこと森狼をトレインして、出入り口付近に突っ込んで、騒ぎのどさくさに紛れて階段を下りるとか」
「まあ、人死にを気にしないんなら、それでもいいぜ?」
「気にします」
「だよな」
ニュービー向けとか言ってたし、テントで寝てる冒険者にも新人がいるかもしれないしなぁ……
悩んでいるとノエリアが、そっと耳打ちしてきた。
「ご主人様。ショートジャンプで入り口の奧へ移動してはいかがでしょう」
ショートジャンプか……
空間魔法lv.3のショートジャンプは、見えている範囲へ瞬間移動する呪文だ。命を削る量は1回につき-1であることが以前の実験の時に分かっている。
リンクドアを持たせておけば、全員中へ移動できるだろうが、問題点がふたつある。
ひとつは片方のリンクドアをどこかに放置することになること。
もうひとつは、見える場所にしかジャンプできないため、そこを入り口の衛兵などに見られる可能性があることだ。
「ご主人様。ここはリーナにおまかせなの、です」
妙に自信満々な顔で、リーナが胸を張っている。
「お役に立つの、です。ニャンジャの面目躍如なの、です!」
確かにリーナの本気の動きはなかなか捕らえられないだろうし、隠密系のスキルでもあれば……
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ヴォルリーナ (13) lv.47 (銀狼族)
HP:270,759/270,759
MP: 4,950/4,950
所有者:カール=リフトハウス
SP:97 + 91(used)
体術 ■■■■■ ■■■■■
短剣術 ■■■■■ ■■■■■
刀剣術 ■■■■■ ■■■■■
魔力検知 ■■■■■ ■■■■■
気配検知 ■■■■■ ■■■■■
敏捷加速 ■■■■□ □□□□□
無詠唱 ■■■■■ ■□□□□
火魔法 ■■■■■ ■■■■■
土魔法 ■■■■■ ■■■■■
聖魔法 ■■■■■ □□□□□
カール=リフトハウスの加護
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お、敏捷系のスキルが生えてら。隠密系は……あった。「認識阻害」か。気配を消すと言うより見えてても認識できなくなるタイプのスキルなのか。
ううむ。悪戯度合いが増えそうな……ま、いいか。
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ヴォルリーナ (13) lv.47 (銀狼族)
HP:270,759/270,759
MP: 4,950/4,950
所有者:カール=リフトハウス
SP:72 + 116(used)
体術 ■■■■■ ■■■■■
短剣術 ■■■■■ ■■■■■
刀剣術 ■■■■■ ■■■■■
魔力検知 ■■■■■ ■■■■■
気配検知 ■■■■■ ■■■■■
敏捷加速 ■■■■■ ■■■■■ lv.4 -> Max
認識阻害 ■■■■■ ■■■■■ New -> Max
無詠唱 ■■■■■ ■□□□□
火魔法 ■■■■■ ■■■■■
土魔法 ■■■■■ ■■■■■
聖魔法 ■■■■■ □□□□□
カール=リフトハウスの加護
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「よし、リーナに頼もう」
そうして俺たちは、作戦を打ち合わせた。
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作戦ね。まずは俺が監視の目を一瞬盗めばいいわけだな。
カール様は意外と気が回るからな。森狼の毛で変なヒゲを作って付けてくれたり、気を引く用の酒瓶まで支給して貰ったから、少しくらいならどうとでもなるだろ。
「よう。ご苦労さん」
「……なんだお前は?」
「いや、プリマヴェーラに潜りに来たんだけどな、到着が遅くなっちまってよ」
「これから潜ろうってのか?」
「まさか。明日の朝になれば安全に入れるってのに、わざわざ夜中に潜るやつはいないだろ?」
ここで、ちらっと酒瓶を見せる。よしよし、気がついたな。
「……まあ、そうだな」
ニュービー用ダンジョンに夜中の入り口なんか、真剣に見張って無くても、夜中に出入りするやつは普通いない。
「ま、それで、ちっとばかし今年のプリマヴェーラについて聞かせて貰えたらありがてぇと思ってよ」
「ふむ。……まあいいだろ。冒険者の安全を確保するのも仕事のうちといえば、言えるしな」
「お、話が分かるねぇ。まだ朝は遠いし、軽くなら大丈夫だろ?」
と酒瓶を差し出す。
「勤務中だ」
お?
「だが、春とはいえ夜は冷える。少しくらいなら問題ないだろう」
入り口の見張り番は、そういいながら、椀を2つ取り出した。
俺はそこになみなみと酒を注いだ。こいつは美味いぜ? なにしろカール様のハイム謹製だからな。
「ふむ。良い香りだな。これはブドの酒か?」
「ああ、ただし、普通のブドじゃねぇぜ?」
にやりとしながら、椀をあわせ、ごくりと飲み込む。
「うぉ?! こいつは!!」
「な?」
よし、食いついて来やがった。
ほれ、リーナ嬢ちゃん、今のうちに影に隠れながら、いけ。いけ。
後ろ手をひらひらさせて合図する。
「もう少し行くか?」
「お、おお。こいつはどこで買えるんだ?」
「いや、自家製なんだよ」
「自家製だぁ? お前、冒険者なんか止めて、酒を作った方がいいんじゃないのか?」
「はは。まあ、それも考えてみるよ。で、今年のプリマヴェーラはなんだか変なんだって?」
「ああ、2Fから3Fへ下りる階段がな……」
酒を注ぎつつ、話に適当に相づちを打っている。入り口の反対から近づいたから見張りの視線はこっちを向いているわけだ。つまり俺の視線は入り口の方を向いている。
なにか黒い影のようなものが一瞬入り口付近を横切ったような気がしたが、ほとんど意識にのぼらなかった。すげぇな嬢ちゃん。知っててもこれかよ。
行方不明の貴族の話も聞けたことだし、そろそろ移動するかな。
「おお。大体の所は分かったよ。ありがとうな。お礼にこれは置いていこう。仕事がはねたら飲んでくれ」
と言って、果実酒の瓶を手渡した。
「お、そいつは嬉しいね。まあ、酒造りを始めるまで死ぬんじゃねーぞ」
「ああ、そうする」
と俺はひらひら手を振りながら、遠ざかっていった。
「あ、ハロルドさん!こっちです」
しばらく行くと、少し開けた場所で、カール様が馬車を用意して待っていた。
これから塀を跳び越えて、エンポロスの拠点のカリフの部屋にリンクドアを設置して、プリマヴェーラに入るわけだ。
ここまでは無事に済んで良かったと言えるわけだが……
「カール様の捜索は、なかなか大変なことになってるみたいだぞ」
「ええ~?!」
いや、そんな嫌そうな顔をしてもダメだろ。




