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103 抹殺指令と春のお祭りと始めてのダンジョン

「ガルドに現れただと?」

「はっ。ダンジョンに潜った者のリストに、カール=リフトハウス一行の名前があるそうです」


王都北教区にあるノーザン・シュテファン聖堂で、大主教ドミノ=ロエロ=デルファンタリオーレが報告を受けていた。


なんと、千載一遇のチャンスではありませんか。


「すぐにガルドに特別異端調査官を派遣します。一足先に向こうの組織に使い魔便を送って指示をしておきましょう」

「つ、使い魔便ですか?」

「そうです。ことは一刻を争うのです」

「はっ!」


あの女だけは生かしておいてはいけません。それにガルドとは丁度良い。ベイルマンでも始末できない者達は、古の遺跡に抱かれて冷たくなっていただきましょう。


  ◇ ---------------- ◇


「ねえハロルドさん。ここはカリーナの森の結構深い場所で、しかもダンジョンの入り口なんですよね?」


そこでは森の一部が開かれていて、冒険者のテントが林立していた。バザーが行われていたり、多くの冒険者が行き来していて、なんとも大盛況なありさまだ。


「毎年プリマヴェーラは攻略されるまでお祭り騒ぎだからな。最近じゃダンジョン以外のイベントもいろいろ行われていて、ますます祭り的要素が濃くなってるらしいぜ?」


なにしろダンジョンで生計を立てている街だからな、言ってみれば五月祭みたいなものなのかな。


「ダンジョンの入り口を降りたところはもっとすげぇぜ?」


ハロルドさんが笑いながら、クロを肩車して入り口に向かった。クロ、そのまま入って大丈夫なのか?

俺たちは入り口の列に並んで、最初の階段を下りていった。



なんだこりゃ。平日朝8時台の中央快速かよ!


「どうだ、すげぇだろ?」

「いや、凄いとか凄くないとか言う問題じゃ……剣どころか、短剣すら危なくて振れませんよ? これで、どうやって魔物と戦うんです」

「こんな状態なのはここだけだから心配するな。大体どうやってここに魔物が入ってくるんだよ」


毎年プリマヴェーラは入り口から同心円状に拡がるダンジョンで、何処かに階下に降りる階段があるそうだ。

今までと同じなら、階段を下りた先も階段を中心にした同心円になっていて、それが20層まで続いているらしい。

4層ごとに階層主がいて、入り口への転移陣があるとのこと。なお、入り口から到達したことのある転移陣に飛ぶことはできるらしいが、これは有料で、ガルドの税収になるのだとか。


「転移陣なんかあるんですね。空間魔法はあれほど稀少なのに。研究しないんですかね?」

「しないわけないだろ。転移陣を写しとって実験するやつは枚挙にいとまがないぞ」

「……それでもリンクドアみたいなものが普及してないってことは」

「誰も起動させることができなかったって話だな。もっとも何らかの目的で成功が秘匿されているという可能性もないとは言えないけどな」


絶対無いだろうという顔つきでそんなことを言われてもなぁ。


「ダンジョンの中でだけ利用できる何かがあるんですかね?」

「さあな。聞いた話じゃ、ダンジョンの1Fで実験してもダメだったそうだから、その辺もよくわからないようだな」


ふむ。本当はリンクドアを用意しようかとも思ったんだけど、ダンジョンの中から外へ直接飛ぶのは何があるか分からない上、片方をダンジョンの中に置いたまま帰るのは危険だな。

ハイムの入り口登録にコートロゼが登録してあるから、いざとなったらハイム経由で戻ってくればいいか。


「そう言えば。今年はなんだかおかしな現象も確認されているらしいぞ」

「おかしな現象?」

「ああ、現在3Fまで探索が進んでいるということだが、2Fから3Fに降りる階段が2つ見つかってるんだと」

「? それのどこがおかしいんです?」

「例年だと、下に降りる階段は1層にひとつなんだよ」


制覇されると消えて無くなるという特徴から、特に下層において、階段がみつかるとそのフロアの探索が行われなくなる傾向があるため、絶対おかしいとまでは言えないが、そんな浅い層で2つ見つかったことはないらしい。


「浅い層はニュービーの連中が訓練をかねてまわるから、階段が発見されても、全マップを塗りつぶされるまで探索が行われるんだ」


なるほどね。

まあ謎解きはベテラン冒険者達にまかせて、俺たちはダンジョンを楽しめばいいよね。


「1Fは混雑してそうですから、さっさと2Fに行きましょう」

「そうだな。例年通りなら、2Fからは罠が現れ始めるから練習にもいいか。それで、どっちを目指す?」


3Fへの入り口か。でも俺たち一応ニュービーだしな。


「とりあえず練習をかねて2Fの探索されていないところをうろついてみましょう。未知の領域の方が冒険っぽいですし」

「冒険はいいものなの、です!」


というわけで、2Fへの階段を目指したのだが、当然下層を目指す大勢の冒険者はそのルートを通るわけで、最短コースは休日のホコテンみたいなものだ。

魔物など、仮に現れたとしても、他の誰かが狩って終了。大部分は一度も戦闘を行わず2Fへと到着した。


階段を下りた場所は大抵安全地帯っぽくなっているらしい。

そうでなくても降りたての場所は人が多いから、魔物に対してなら比較的安全と言えるだろうが、人が一番怖いという場合もあるから、特に下層では気をつけるようにとハロルドさんに注意された。


ここでも多くの人は3Fへの階段を目指すようだ。

何しろ階段が2つあるから、その先が繋がっているのか完全に別ルートなのか、ちゃんと調べておかないと後で困ると言うことで、例年と違って2Fが捨て置かれているようだ。


「じゃあ俺たちは、人が全然いない北側を目指しましょう」

「いくです!」

「クロは人目のないところで大サイズになっておけよ」

「ん」


「じゃ、いつものようにリーナが先頭で――」

「いや、2Fからは罠があるから、俺が先頭の方が良くないか?」

「2Fじゃそれほど凶悪な罠もないんでしょう? 練習ですからいいじゃないですか」

「そうか? じゃあそうするか」

「おまかせ、なのです!」


  ◇ ---------------- ◇


「あひゃー! です!」


横の壁から飛び出してきた槍衾(やりぶすま)を、数本切り飛ばすことで隙間を作ってやり過ごす。


「嬢ちゃん、おまかせとか言ってなかったか?」

「おかしいのです。こんなはずでは」


あれから1時間。リーナはことごとく罠を踏み抜いていた。

もっとも全ての罠を発動させて歩くので、後ろは安全と言えば安全だ。


毒矢が放たれても迎撃し、槍衾(やりぶすま)が飛び出しても軽く(かわ)してしまう上に、落とし穴が開いても落ちる前に回避するというニャンジャ風の離れ業で被害がゼロなので、まるで真剣味が足りないうえに、察知しても本人はテーマパークに遊びに来たような気軽さで踏み抜いて楽しんでいる。


「なあ、カール様。これ、転移の罠とか広範囲に拡がる毒のクラウドの罠とか踏んだらどうするんだ?」

「避けられないものですか?」

「避けたやつを見たことがないから何とも言えないが、魔法でロックされていたりしたら逃げても無駄だろうな」


うーん、もっと下に降りたり、罠が凶悪な別のダンジョンに潜るときは、何か考えないとダメかもなぁ。


「それにしても、2Fとは思えないくらい罠が多いな」

「それに魔物も結構いるようですよ?」


基本魔物は、察知するのと同時に、視界が開けていればクロが弓で、複雑に入り組んだ通路ではノエリアが魔法でしとめていた。

ボクの役割? 素材拾いデスよ。


それにしてもこのあたりは視界が悪い。同心円状に拡がる通路の所々に内側に通れる穴が空いている感じだ。

マップによるとこの構造の中央には大きな柱というか岩というかがあって、非常に細いまくような通路の先に開けた空間があった。


どん詰まりまで行ってみると、その細い通路は岩にできた単なるヒビにしか見えなかった。


「この先に何かがあるって言うのか?」

「そうなんですよ」


しかしあまりに細いため、子供の俺か、(ちい)サイズのクロくらいしか通れそうにない。

俺はリンクドアをひとつ出して設置した。


「ちょっと見てきます。何かあったら中に(つがい)のリンクドアを設置しますから」

「わかった。だが、気をつけろよ? まんなかに罠があったら洒落にならんぞ」

「大丈夫ですよ。何かあっても最悪そのリンクドアで戻ってこれるはずですし」


「うう。とおれません~です」


リーナがヒビに頭を突っ込んでじたじたしている。

防具を脱いで準備した俺は、リーナを引っ張り出して隙間に体を入れた。


「じゃ、行ってきます」


そう言って、俺はヒビに体を滑り込ませた。

むぅ、結構ギリギリだな。途中でつっかえたらどっちにも移動できなくて死にそうな気が……いかんちょっと閉所恐怖症な感じになりそうだ。


げげっ、あとちょっとなのにつっかえそうだ。息を吐け、吐くんだジョー。

ふぅーっとできるだけ息を吐いて力を抜くと、ずるっとすべって、向こう側の空間に飛び出せた。


ノエリアの灯籠(ロンテーヌ)の光も回り込んでいるのでほとんど届かないが、うっすらと光るコケのような植物の光に照らされて、暗く口をあけた(うろ)が見える。あれは?


俺はリンクドアを設置して、皆を入れると、外側のリンクドアを回収して、もう一度ごそごそと通路を進んで戻ってきた。


「なんてこった。まさかまさかの三つ目ってことか?」


灯籠(ロンテーヌ)に照らされた(うろ)は、どう見ても下層へと続く穴のように見えた。


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