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番外編・銃とタバコと漢たち(前編)

 鉄が打合う甲高い銀色の音が指先で弾ける。


 オイルライターの燃焼臭が鼻腔をつくと、無害無臭煙タバコから白い煙が立ち上がった。


 曇天の空であった。


 下水が漏れて常に路地を濡らしている。そんな辺境惑星の中でもトップクラスに腐れた場所だった。


 立ち並ぶビルはどれも5〜6階の低層。築年数は100年を下るまい。実際に傾いて隣のビルに寄り掛かっている建物すらあるのだ。


 こんな場所に誰が好き好んでくると言うのだろう。


 今、紫煙をくゆらせながらやる気無く、水たまりに波紋を並べていく二人がまさにそれだった。


「……ディード。場所は?」


「座標ではこの辺りだ」


「聞き方を間違えたな、目標は?」


「それを探すのが私たちの仕事だ」


 質問している、やや細身の男をカイと言う。日系の流れで黒髪に黒目と、今時に珍しい容姿をしている。


 方や長身にして筋肉質な男をディードリヒと言う。独系の血を持ちいかにもゲルマン巨漢という出で立ちだ。


「全く……一体何を好んでこんな場所に住んで(・・・)やがるのか」


「人様に言えない秘密がある奴の末路など同じようなものだ」


「俺は胸を張って生きて……来たわけじゃあ無いが、ガキの頃に住んでたのは似たような場所だったぜ?」


「よく知っている」


 お互い腹の内まで知り合っている仲だ、軽口はただの暇つぶしだった。


 黒髪の男が肩の高さで両手を開き、苦笑いしつつ顔を横に振った。


 短髪の金髪男が、手に持っていた光沢のあるバナナを近くの建物に向けた。


「センサーに感あり、おそらくここだな」


 どうやら巨漢の持っていたバナナは何かの探知機だったようで、彼が腕に巻いているモバイルが小さくアラートを表示していた。男がモバイルを操作すると、腕の上に半円球の詳細レーダーが立体的に浮かび上がった。


「どうだ?」


「間違いない」


「わかった」


 東洋系の男、カイがつまらなそうにビルの入り口に足を踏み入れる。


「少しは警戒しろ」


「はっ! そこの罠があるのを分かっていて黙っていたお前には言われたくないセリフだな!」


「ふん。その程度気がつかないような阿呆を相棒に持った覚えはない」


「俺も自分の仕事をしない人間はゴメンだがな」


 二人は軽口を叩き合いながらも、細い階段を上がっていく。エレベーターに乗るような愚を犯す人間ではない。


 散発的に設置された罠を全て無視して最上階の扉前に立つ。おそらく1フロアぶち抜きの部屋でもあるのだろう。


 カイが無造作にその豪奢なドアをノックする。


「ヘーイ、ピザの配達だぜ。ヴァンドさんはご在宅かい?」


 投げやりにも程がある。


 もちろん彼らは派手なロゴをぶら下げた制服を着ているわけでも、無駄にカロリーの高い円盤を持っているわけでもない。ただ巨漢の男がその身体に見合う巨大な楽器ケース的な何かを担いでいるが、間違っても彼らをピザ屋と思う人間はいないだろう。


「おーいヴァンドさん、宅配だぜ」


 3度激しいノック音が廊下に響くが、中の住人が出てくる気配は無い。そもそも人が住んでいるかも疑わしい。


 カイはディードリヒに身体を向けると、先ほどと同じように両手を開いて肩をすくめた。


「遊びすぎだカイ」


「へいへい……ヴァンドさん! 俺らは安全局の方(・・)からやってきたんだが……っ!」


 野生の勘で何かを感じ取ったカイが右の壁へ身体を貼り付ける。それにコンマゼロ2秒遅れてディードリヒも左の壁へ身を隠した。


 同時に木製のドアが爆音と共に穴だらけになった。間違いなくショットガンだろう。


 アクションスライドが軽快なリズムを刻む度、爆音と散弾がまき散らされる。幸い建物はコンクリ製であり、カイとディードリヒが身を隠す壁を貫通することはないようだったが、硝煙と木っ端みじんに砕かれた木片が空中を飛び踊る。


「クソ賞金稼ぎが! こんな所まで追って来やがって! たかが3人殺したくらいでなんでここまで追われなきゃなんねーんだよ! ふざけるなよ!」


 弾が尽きたのか、撃つのに飽きたのか、発砲を止めて男が怒鳴りだした。カイは部屋の中をそっとのぞき込む。


 頬骨が浮き出て目の周りが窪んだ、隈の濃い男が手に持っていたショットガンを床に投げ捨て、新しいショットガンを構えてこちらに向ける。残念ながら用心深い性格だったらしい。


 ありゃあよろしくない薬をやってやがるな……。


 カイが頭を抱える。彼らの所にやってくる仕事は大抵そういう仕事だった。


「あー、ヴァンドさん、誤解があるようだが、俺たちは賞金稼ぎでもあんたを殺りに来たヒットマンでも、カウボーイ気取りのポリスメンでもねーよ」


「ああ?! じゃあ借金取りだろ! 金なんて1エピオンもありゃしねぇ!!」


 口角泡を飛ばしてヴァンドが近くの机を蹴っ飛ばす。


「だったら安心してくれ、俺らは借金取りでもねぇ。今日はただの市役所の代理人だ」


「ああ?! 意味がわかんねぇよ!」


「ヴァンドさん、あんた何度もこの地域からの立ち退きを迫られてたろ? ここらあたりは危険地域として居住はおろか、立ち入りも禁止されてるらしいぜ?」


 カイは短くなったタバコを足で踏み消し、新しいタバコに火を入れる。


「てめーらだって入り込んでんじゃねぇか!」


「もちろん安全局経由で許可を取ってるからな。場合によっては強制退去させてもいいと言われている」


「ああ?! 安全局だぁ? てめぇらいったいなんなんだ!」


 肺一杯に吸い込んだ沈静物質をカイは吐き出して答えた。


「ただのしがないJOATだよ」


「なっ……じょ……ジョートだと?! クソが! ハンターよりも質が悪いじゃねぇか!」


 叫びと共に響き渡る轟音。カイはやれやれと肩をすくめた。


「ヴァンドさーん、抵抗されると俺たちは正当防衛で……」


「ごちゃごちゃ言ってねぇで、死ねぇえええ!」


 連発される火薬式の散弾銃。カイ達と同じ穴の狢という事だ。このご時世にコイルガンを使っていない時点で生き方がしれると言うものだ。


「ディード、ちゃんと動画撮れてるだろうな?」


「大丈夫だ、量子録画されている」


「OK、踊るぞ」


「了解」


 二人は懐からハンドガンを取り出すと、合図も無しにまったく同時に部屋の中に鉛玉をばらまいた。


 ドブネズミが潰れて悲鳴を上げると、散弾の攻撃もやんだ。カイはもう一度部屋の中をのぞき込むと、見事に腹から血と臓物を垂れ流したヴァンドが転がっていた。


 カイは銃をくるりと回してベルトに差すと、ヴァンドの隣にヤンキー座りで腰を落とした。銃を突きつけるような恥ずかしいマネはしない。


「生きてるかい? ヴァンドさん。立ち退きを約束してくれるんなら救急車を呼んでやるぜ?」


「がふ……けっ……こんな場所に……来るわけねぇだろ……」


「俺としてはあんたが死んでても生きてても立ち退きさえしてくれりゃかまわないんだよ。どうせJOATにゃ賞金を受け取る権利なんて無いからな」


「本当に……助けて……くれんのか……?」


「その傷だと、薬を飲んでも助かるかは五分だろうけどな。一応ナノマシンカプセルくらいなら持ってる。ただしこっちは有料だ。安い薬でもないんでな」


「クソが……そこの……植木鉢の中に……金が……」


 ディードリヒが枯れた観葉植物を土ごと引っこ抜くと、植木鉢の底にビニールに包まれた札束(・・)が表れた。


 慎重にビニールをつまみあげてヴァンドに視線を投げる。


「……随分と羽振りがいいな?」


「う……うるせえ……一束ありゃ十分足りんだろ……」


 ディードリヒが片眉を上げて、まじまじと札束を観察する。100エピオン札が100枚で1束になっている。それだけでも大金だ。今のカイたちにとって喉から手が出るほど欲しい金額である。だが、その束が15以上も詰まっているとなれば、素直に手を出すほどアホな二人ではない。


「殺人罪で逃亡中の割には、随分と溜め込んでいるな」


「……関係ねぇだろ、それより薬と救急車を……」


「お前が真っ当に稼いだ金ならありがたく受け取るんだがな、危ない橋を渡る気はねぇんだ。今日は余計な事に首を突っ込む気分でもないしな」


 カイが札束をビニールの外から睨み付ける。彼の見た感じでは偽札では無さそうだった。


「こんな人もいない僻地で商売ってこたぁねぇよな……ヤク中が儲けられる仕事があるなら教えて欲しいもんだぜ」


 カイは血だまりで蠢く薬物中毒特有の顔つきに変貌したヴァンドをつまらなそうに見下ろした。安全局から回ってきた最新映像と比べて見る影もなかった。


 わざわざ監視カメラや移動チェックの無いど田舎の惑星まで逃げてきたというのに、間抜けなことだ。もっとも田舎だからこそ、薬くらいにしか精神の逃げ場所がなかったのかも知れない。


「治療ナノマシンはくれてやってもいい、正直に話してみろ、厄介ごとはゴメンだ」


「……くっ」


 その反応を見てため息をつくカイ。これは間違いなく厄介ごとに巻き込まれたなと、そういうため息だった。


 そしてそれを証明するするように、カイの脳髄に電撃が走った。反射的にZONEに強制突入して世界の速度がモノクロームに減速する。カイは横にいるディードリヒを思いっきり蹴飛ばして、さらにその反動で自分も逆方向へと飛んだ。


 カイの強制ZONEが終了すると共に甲高い音と、鈍いコンクリを打ち付ける音がほぼ同時に部屋へと充満した。


 何が起こったのか?


 狙撃されたのだ。


 銃弾がガラスに当たった瞬間、野生の動物に匹敵するカイの危険察知能力が悲鳴を上げて、普段は手順を踏まなければ突入出来ないZONEが強制発動したのだ。


 カイはハッキリとガラスに蜘蛛の巣を刻み砕いて飛来する弾丸を目視していた。弾道は目の前のゴミへ向っていたが、弾種まではわからない。


 ディードリヒは蹴飛ばしてやれば、あとは全てを察して動ける人間だ。その反動を使って自分も逆方向へ隠れたのが一連の流れである。


 ヴァンドが細かな肉片に変わり、窓の死角になる場所へと二人が転がり込む。


「ぐっ!」


 カイが咄嗟に腹を押さえる。大量の血が溢れていた。砕けたコンクリか跳弾で腹を抉られたらしい。幸い内臓までは届いていなそうだが、治療ポッドによる手当が必要なレベルの重傷だった。


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